終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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『それでは選手に入場していただきましょう!第一ゲームプレイヤー・“ノーネーム”春日部耀!対するは、“ウィル・オ・ウィスプ”アーシャ=イグニスファトゥスです!』

 

 舞台の真ん中でウサミミを揺らした黒ウサギが、入場口から迎え入れるようにして片手を広げて宣言する。

 その言葉に反応し、最初に耀がその後を少し遅れて空胡が出てくる。

 二人が観客の前に姿を現した――――――――その瞬間、耀の眼前を火の玉が高速で駆け抜けた。

 

「YAFUFUUUUUUuuuuuuuu!!」

「わっ…………!」

 

 反射的に身を引いてしまった耀は、そのまま後ろへと倒れそうになり、その前に空胡が彼女の背中を受け止めた。後ろを歩いていたことが功を奏した。

 

「狙ってやがったな………大丈夫か、春日部」

「うん。空胡のお陰」

 

 礼を言いながら立ち上がった耀と彼女が何ともないことを確認した空胡は、揃ってそらをみあげた。

 そこに浮かぶのは大きな火の玉。そしてその上に腰掛ける青髪ツインテールのゴスロリ少女。

 

「あっははははは!見て見て見たぁ、ジャック?ノーネームの女が無様にすっころんでる!ふふふ、さあ、素的に不敵に面白おかしく笑ってやろうぜ!」

「YAFUFFUFUUUUUUUuuuuuuu!!!!」

 

 彼女、アーシャ=イグニスファトゥスの言葉に会場が湧き上がる。

 当然と言うべきか、その他大勢でしかないノーネームが舞台に上がる事に対して不満を持つ者は少なからずいるのが現状だ。正直なところ、同じコミュニティの面々と白夜叉位しか味方はいないのではなかろうか。

 だが、当の嘲笑の対象となっている二人はと言うと、

 

「お、見ろよ春日部。あのバルコニーに久遠たちが居るぞ」

「本当だ。なんだか、盛り上がってる」

「白夜叉と十六夜の組み合わせの時点で内容が想像つくがな」

「そう?」

 

 全く気にした素振りも無い。むしろ、ガン無視である。

 この反応には、アーシャじゃなくとも苛立つというもの。

 

「ッ!こんの…………!」

「?あ、空胡。あの火の玉って…………」

「あん?…………多分、見た目的にそうじゃないか?」

 

 怒鳴ろうとしたところで、漸く二人の目がアーシャに。正確には、彼女の座る火の玉へと向けられた。

 

「ハンッ!アーシャ様の作品が単なる火の玉な訳が無いだろ!コイツは我らがウィル・オ・ウィスプの名物幽鬼、ジャック・オー・ランタンだ!」

「YAFUFFUFUuuuUUUUuuuuuuuu!!!!」

 

 アーシャが腰かける火の玉に合図が送られ、炎が不自然に揺らめき離れていく。

 現れたるは、黒い外灯に囂々と燃えるランタンを手にする異形。何より目を引くのは、その巨大なカボチャ頭だろうか。

 憧れの存在の出現に、戦後間もない世界よりやって来た令嬢が興奮しているのだが、相対する二人はと言うと楽観できるような状態ではなかった。

 

「あの炎、厄介だね」

「だな。何より、人形ならゴーレムに近いのか、あるいは付喪神か。流石に簡単に壊れる代物じゃなさそうだ」

 

 とはいえ、脅威として見ているのがジャックだけであり、やはりアーシャに対しては警戒のけの字も持ち合わせていない事には変わりが無いのだが。

 その事に気付いているのかいないのか、見る目が変わった事に満足してしまったのかアーシャは鼻高々に胸を張る。

 

「ふふ~ん♪ノーネーム風情が、私達ウィル・オ・ウィスプよりも先に紹介されるとか生意気だっつの。私の晴れ舞台を相手させてもらえるだけ感謝しろよ、この名無し」

「YAHOHOHO!YAFUFUUUUUUUuuuuuu!」

 

 笑い転げるジャックとアーシャの二人。

 もしもこの場に飛鳥がいたならば、憧れもかなぐり捨てて顔を真っ赤にして激怒していた可能性もあるのだが、今回は距離があって助かった。

 ただ、審判役として至近距離に居る黒ウサギは見た目はどうあれ、内心穏やかではいられない。

 それこそ、問題児の脱退騒動の時やレティシアの件で事を構えたペルセウスなどに対する怒りのオーラが溢れ出ようとしていた。

 だが、

 

「ん?おい春日部、あれ見ろよ。久遠が興奮してるぜ」

「本当だ。十六夜が振り回されてる」

「パワフルだな、アイツら」

 

 当人たちが柳に風と受け流しているのだから、怒る訳にもいかない。

 そんな二人の様子に、ギリギリとアーシャの歯が鳴る。強者感を出そうとしてるのだが、相手にされていない現状が合わさるとどうしても哀れに見えてならない不思議。

 

「オォケェェェ…………!オマエらがアタシを舐め腐ってることは、よぉぉぉく分かった!ぜってぇ試合でほえ面書かせてやるから覚悟しとけよ!精々子犬みてぇにプルプル震えて怯えてやがれ!」

「ねえ聞いた、空胡?子犬だって」

「存外、可愛らしいものに当てはめた表現だよな」

「馬鹿にしてんのか!?してるんだな!オマエら本当に容赦しねぇからな!ギッタンギッタンのボッコボコにして泣いて謝っても許してやらねぇからな!」

「「え、何か言った?」」

「ぬがーーーーーーー!!!!」

 

 頭を抱えて絶叫するアーシャは、地団太を踏む。

 ここまで手玉に取れれば、溜飲も下がるというもの。黒ウサギは入場口を示した時のように大きな動作でバルコニーを示した。

 

『それでは、第一ゲームの開幕前に白夜叉様より舞台に関するお話がございます!ギャラリーの皆様、どうかご清聴のほどを』

 

 彼女が言い終わるとほぼ同時に、会場から音が消える。

 皆の視線が真っ直ぐにバルコニーへと向けられ、今か今かと白夜叉の言葉を待っていた。

 

「―――――うむ、協力を感謝するぞ皆の衆。私は何分、このような(なり)をしておるのでな。大きな声を出すというのは苦手なのだ。さて、長ったらしい前置きも必要無いであろう?まずは、手元の招待状へと目を落としてほしい。そこにナンバーが書かれてはおらんか?」

 

 観客たちは一斉に自身の招待状へと視線を走らせる。中には、カバンの中に収めていたり、宿などに置いてきてしまった者も居たのだが、彼らは運が無かったのだろう。

 白夜叉は、一喜一憂する観客たちの様子を暫く観察し、間を開けて再び口を開いた。

 

「ではそこに書かれているナンバーが、我々ホストの出身外門サウザンドアイズ三三四五番となっているものは居るかの?居たならば招待状を掲げ、コミュニティの名を叫んでおくれ」

 

 ざわめく観客席。

 やがて、バルコニーの丁度対面である席より樹霊の少年が招待状を掲げた。

 

「こ、ここにあります!アンダーウッドのコミュニティが、三三四五番の招待状を持っています!」

 

 少年の周りから歓声が上がった。

 その姿を確認し、白夜叉は霞の様にバルコニーより消え失せて―――――瞬きの間に、少年の前へと現れていた。

 

「ふふっ、おめでとうアンダーウッドの樹霊の童よ。のちに記念品でも届けさせようではないか。さて、良ければおんしの旗印を拝見させてもらってもよろしいかな?」

 

 コクコクと頷く少年。彼が差し出した腕輪には、巨大な大樹に囲まれた街が描かれていた。

 少しの間、旗印を見つめていた白夜叉は微笑んで腕輪を少年へと返すと、先程と同じように、バルコニーへと戻ってくる。

 

「今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆の者、お手を拝借」

 

 白夜叉が両手を前に出し、それに倣って観客たちも両手を前に出す。

 会場一致による柏手がパンッ!と響き渡った。

 その瞬間、たったそれだけの事ではあったが世界は一変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やっぱ、マジものの化物じゃねぇか」

 

 闇の中を落ちながら、空胡は頬を引きつらせてそう呟く。

 彼らが落ちていく虚無の中には数多の世界が浮かんでいた。その中には、初対面の折りに投げ出された雪原と山脈、湖の湖畔が広がる世界もあった。

 何が起きているのか。そこでふと、彼は白夜叉が複数のゲーム盤を持っている事を思い出す。

 であるならば、これから向かう先もその中の一つであると理解できた。

 

 やがて、三人と一体は暗い空間へと投げ出された。

 

「ここは…………木か、これ?」

「えっと…………うん、多分そう。木の根に囲まれた場所、かな」

「って事は、地面の中なのか?何でもありだな、あの元魔王」

 

 ガリガリと頭を掻く相方を見つつ、耀は鼻を鳴らす。

 彼女のギフトによる強力な嗅覚が土の匂いと木の匂いをそれぞれ嗅ぎ取り、この場が木の根に囲まれているのだという事を看破したのだ。

 そんな二人の会話が聞こえていたのか、アーシャが小馬鹿にしたような笑みを向けてくる。

 

「ふーん、そりゃあどうも教えてくれてありがとよ。ここは木の根の中なのかー」

「斬り過ぎには注意しなきゃならねぇか」

「斬れる?」

「斬ったら盛り上がらねぇだろ?冷めた演出は、俺も好きじゃない。それにこれはゲームだ。見世物なら見世物らしくするべきだろ?」

「…………そうかな?」

「だ・か・ら!無視するんじゃねぇええええええええええ!!!!」

 

 喚くアーシャ。マウントを取ろうとするのだが、実に哀れなものだ。

 堪忍袋の緒が切れたのか、彼女は傍らに浮かぶジャック・オー・ランタンと共に臨戦態勢を取るとキツイ眼差しで自身を小馬鹿にする二人を睨んだ。

 だが、当の二人はと言うと構えようともしない。

 

「どうしたよ。今更戦意喪失降参しても許さねぇからな!」

「いや、まだ開始の合図どころかルールも発表されて無いだろ。ちょっとは落ち着けよセッカチ娘」

「ぐっ……フンッ!」

 

 頭に血が上り過ぎていた彼女も、ここまで小馬鹿にして失格負けなどしたいはずもない。目を逸らして鼻を鳴らすにとどめるが、その内心は沸々敵対心が燃えている事だろう。

 話の矛が一旦治まったところで、両者の丁度中心辺りでピシりと空間が裂けて、その中より光り輝く羊皮紙を携えた黒ウサギが飛び出してきた。

 主催者権限によって製作された契約書類。そのルールは絶対であり、彼女はそれを振りかざすとその中身を淡々と読み上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “アンダーウッドの迷路”

 

 

 

 ・勝利条件

 

   1、プレイヤーが大樹の迷路より野外に出る

 

   2、対戦プレイヤーのギフトを破壊

 

   3、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

 

 ・敗北条件

 

   1、対戦プレイヤーが勝利条件の1つを満たした場合

 

   2、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合』

 

 

 

 

 

 

 

 

「審判権限の名の下に、以上が両者不可侵であることを、御旗の下に契ります。お二人とも、どうか誇りある戦いを。ここにゲームの開始を宣言いたします」

 

 黒ウサギの宣言が終わる。

 ここにゲームの幕は開かれた。

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