終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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 石畳によって舗装されたペリベッド通りを行く一団。

 

「しっかし、何でまたそんな事する。俺なら、金詰まれても嫌だがね」

「私達の心の問題よ。それから、時任君も出させないわよ?」

「出ねぇよ。流石に俺もそこまで野暮じゃない。まあ、下手な傷は作らないこったな。年頃の娘っ子が顔に傷作るなんざやるもんじゃねえよ」

「…………お爺さんみたいね、時任君って」

「落ち着いてるって言えよ。爺臭いみてぇじゃあねぇか」

 

 並木道を行きながら、空胡は明日に行われるギフトゲームのいきさつについて飛鳥に尋ねている所であった。

 もっとも、彼としては知ったとしてもそこまで動けるか微妙なところ。触らぬ神に祟りなしとも言うように、無駄に触れれば厄を振り撒かれる事もあるのだから。

 ヤダヤダ、と首を振る空後に、隣を歩いている飛鳥は測りかねるモノを感じていた。

 技術と称した圏境を目の前で見せられた時には、らしくもなく驚愕した。だが、今話してみればのらりくらりとした掴みどころのない面倒くさがりの人物像しか見えてこない。

 事実、彼は自分の呪いだと思っている事をどうにかすること以外には、興味が無い。だからこそ、飛鳥の様に誰かの為に動こうとは基本的にやらない。それが自分の事でも危なくなければ最小限だ。

 

「―――――おっ?」

「どうしたの?って、桜の花びら?いや、違うわよね。今は夏のはずだもの」

「あん?まあ、六月ごろなら散ってるか」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

「…………?今は秋だったと思うけど?」

 

 空胡が摘まんだ花びらを見て、四人そろって首を傾げた。

 噛み合わないそれぞれの主張に、黒ウサギが笑って解説を挟む。

 

「皆様それぞれ違う世界から召喚されているのデス。歴史や文化、生態系等々細かな部分に違いがあるかと」

「パラレルワールドって奴か?」

「近しいですね。正確には。立体交差並行世界論と呼ばれるものでして。といってもこの場で簡単に話せるものではありませんね。説明はまたの機会とさせていただきましょう」

 

 それだけ言って、黒ウサギが振り返った。どうやら、目当ての店についたらしい。

 向かい合う双女神の旗を揺らしたその商店は、今まさに割烹着姿の従業員が暖簾を下ろそうとしている所であった。

 

「待っ―――――」

「待ったなしですお客様。本日の営業は終了いしました。ウチは時間外営業は致しませんので」

 

 下ろされた暖簾に、黒ウサギは恨みがましい目を向ける事しかできない。

 ただ、相手は超大手の商業系コミュニティ。押し入りなど出来るはずもないし、やってしまえば横の繋がりで不利益をこうむるのは自分たちだ。

 

「なんて商売っ気のない店のなのかしら」

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すだなんて!」

「文句があるなら、どうぞ他所へと行かれるとよろしいかと。貴方がたは、今後一切出入り禁止とさせていただきますが」

「出禁!?こんなことで出禁だなんて、お客様なめているのですか!?」

 

 キャンキャン騒ぐ黒ウサギ。

 そんな彼女より少し離れた空胡としては、店員の言い分も分からないでもない。

 

「分からなくもないって面だぜ、時任」

「ん?まあ、な。あの店員が言ってることも分からないでもない」

「ほう。それじゃあ、その根拠聞かせてくれるか?」

「まあ、店側の事情だな。店だって閉店時間になったらさっさと店員が帰れるわけじゃない。掃除や翌日の準備があるだろうし、その日の売り上げに関して試算しなきゃいけない。プラマイゼロなら問題ないが、そうじゃないなら下手すりゃクレームの元だ。何より、閉店時間五分前の客とか、相手にしてたら絶対に閉店時間過ぎるだろ。明日の事を考えれば、その分だけ店員は居残りしなきゃいけない。その分の人件費もかかるし、下手すれば売り上げの一部を削る結果にもなりかねない。まあ、単純なところならこの程度か?」

「結構語るじゃねぇか。バイトでもしてたか?」

「まあ、ちょっとした社会経験だよ。ついでに言うと、俺はお客様は神様、って考え方が嫌いなんだ」

「あん?」

「アレって、誤植だろ?実際のところは、お客様は神様みたいに自分を見通してくるから常日頃から手を抜くなって話だったはず。断じて、客が偉いって話じゃないぞ」

「成る程な。それなら、お前から見てアイツらはあまり良い客じゃないわけだ」

「まあ、店としては舌打ちの一つもしたくなるな。というか、お客様至上主義は日本独自じゃないか?海外なら店が気に入らない客は締め出したりするし」

 

 思いのほか、ペラペラと回った空胡の口に、十六夜は相槌を返しながら内心で面白いと頬を歪めていた。

 存外、彼の口はよく回る。見た目こそ、ジャージに眼帯という人から避けられそうな見た目をした彼だがその実考えは確りしているし、思想もしっかりしている。

 一番気になるのは、右目だが十六夜の考えとしては圏境以外にもいろいろ隠しているだろうというのもあった。

 だが、この場では聞けないだろう。

 

「いぃぃぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉおおおおお!久しぶりだ黒ウサギぃぃぃぃぃぃいいい!」

「きゃぁああああああ―――――!?」

 

 ドップラー効果を起こしながら、白髪頭の和装少女が黒ウサギへと文字通り飛び込んで、そのままの勢いを殺すことなく近くの水路へと飛び込んで行ってしまったのだから。

 その光景に、十六夜は目を丸くして、直後に従業員へと詰め寄っていた。

 

「…………おい、店員。この店ではドッキリサービスとか取り扱って―――――」

「―――――おりません」

「何なら有料でも―――――」

「いたしません」

 

 マジな顔の十六夜と、こらまたマジの従業員。二人そろって真面目な表情で対面していたが、今回は後者に軍配が挙がった。

 ついでに、面倒な気配を感じ空胡は気配を薄め始めていたのだが、その前に離れていた耀と飛鳥に上着の裾を握られて止められる。

 

「…………放してくんね?」

「ダメよ。そのまま逃げられたら、貴方の秘密を知れないじゃない」

「…………同じく」

「いやいや、だってアレだよ?公衆の面前で躊躇せずに女に飛び込むようなアレだぞ?関わりたくないって」

 

 アレ、と空胡の指差す先では今まさに白髪の和装少女が黒ウサギにぶん投げられて、十六夜に足で受け止められている所であった。

 もう逃げない、と約束して二人を送り出した空胡はため息をついた。

 何故だか、彼の嫌な予感が警鐘を鳴らして仕方が無かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サウザンドアイズ、幹部の一人である和服少女、白夜叉に案内され五人と一匹はとある和室にまでやって来ていた。

 因みに、その際に従業員からぶつくさ文句を言われたがそこはそれ、白夜叉がもみ消していた。

 

「それじゃあ、改めて。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”の幹部、白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな?コミュニティ崩壊後も、ちょくちょくこうして交流を持っておったのだ」

「はいはい、お世話になっておりますよー」

 

 投げやりに返す黒ウサギだが、そこに彼女らの気安さが感じられた。

 彼女の隣で、耀が首を傾げ口を開く。

 

「…………外門って?」

「箱庭の階層を区切る壁に設けられた門の事ですよ。数字が若くなるほどに中心へと近づいて、より強大な力を持った者達が住んでいるのデス」

 

 説明しながら、黒ウサギは部屋にあったボードに上空から箱庭を見たような図を描いた。

 

「七つに分かれてるってのか」

「…………超巨大玉ねぎ?」

「いえ、超巨大バウムクーヘンではないかしら?」

「確かに、バウムクーヘンの方がしっくりくるな」

 

 うん、と頷く緊張感のない四人。

 その様子に、黒ウサギはガクリと頭を倒すが、白夜叉はカラカラと楽し気に笑みを浮かべた。

 

「ふふ、上手いこと例える。そう考えれば、この七桁の外門は、バウムクーヘンの一番外側の皮に当たるな。更に言うならば、ここは東西南北の四つに区切られた地区の内、東に当たる。ここより外へと出れば、コミュニティには所属していないが、強力な恩恵を持つ者たちが跋扈している箱庭の外となる訳だ」

 

 その水樹の主の様にな、と白夜叉は黒ウサギの持ち込んだ水樹の苗を見やる。

 

「して、誰がどのように手に入れたのだ?知恵か、はたまた勇気を試したか?」

「いえ、この水樹はここに来る前に十六夜さんが、素手で蛇神を叩きのめして勝ち取ったものです!」

「なんと!?ゲームのクリアではなく、腕力で屈服させたというのか!?では、その童は神格持ちの神童か?」

「いいえ。神格持っているならばすぐにでもわかる筈です。今回はその件で伺ったのですが…………」

 

 黒ウサギが話す中で、空胡は隣の十六夜に話を振っていた。

 

「蛇神って何だ?蛇の神様で殴ったのか、アンタ」

「俺を試してやるとか抜かしやがったからな。俺を試せるか(・・・・)試してやっただけさ」

「スゲェな、おい。神様殴って屈服させるとか、ゴリラかよ」

 

 少なくとも、空胡にはできない芸当だ。彼の腕力は、人並みよりも上程度。山河を砕く様な怪力は有していない。

 

 このまま穏やかに話は終わるかと思われた。

 だが、

 

「あの蛇神に神格を与えたのは私だからな。まあ、何百年も前の話だがの」

 

 白夜叉のこの言葉が呼び水となった。

 十六夜が喰いつき、飛鳥が迫り、耀が詰め寄る。そして、嫌な予感が強くなった空胡は、しかし約束だからとその場で影を薄くして空間へと溶け込む。

 

 瞬間世界が変貌した

 

 黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線の覗く丘。森林の湖畔。

 

 白い雪原と凍る湖畔―――――水平に(・・・)廻る太陽が(・・・・・)照らす世界(・・・・・)

 

 そんな世界の中心で、子供たちを前に白き魔王は両手を開く。

 

「おんしらが望むのは、全てを懸けた“決闘”か?それとも“挑戦”か?」

 

 箱庭でも屈指の存在が目の前に顕現する。

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