終わらせたい彼の箱庭狂騒曲 作:マスカレード・マスタード
(まじもんの、化物じゃねぇか)
ヤダヤダ、と首を振り空胡は距離を取ると雪原へと腰掛けた。
彼としては、自分の呪いの原因を知れるならばそれでいい。だが、死ぬなどは真っ平御免であった。
要するに、彼は最初から白夜叉と事を構える気はない。例え、この返答で彼女の興味が失せようともそれはそれ、やりようは幾らでもある。
気に入られようとも、何だろうとも、自分を知られればそれで―――――
「―――――それで?おんしはどうする、眼帯の童」
「ッ!?」
思わぬ声が座っていた背中の方から聞こえ、空胡の背中が跳ねあがる。
錆び付いたブリキの人形の様に振り返れば、そこには腰に手を当ててニヤリと自身を見下ろす真っ白な魔王の姿があった。
「あの童たちは、私に
「…………そいつは何とも、豪胆なこった」
「ふふ、正にその通り。実に豪胆で、大胆不敵。まだまだ青いが、原石というには十分だろう。さて、返答がまだだったな。私と“決闘”するのか、それとも私に“挑戦”するのか。どうする。前者ならば、魔王としての全てをもって相対そう。だが後者ならば手慰み程度に遊んでやろうではないか」
「…………」
どうする?と問うてくる白夜叉に、しかし空胡は眉を顰めた。
「アンタ、魔王って言ったか?」
「さよう、私は“白き夜の魔王”。太陽と白夜の星霊・白夜叉」
「白夜叉…………アンタ、仏教に帰依でもしたか?」
空胡の問いに、白夜叉の眉が動く。
「ほう、何故そう思った?」
「アンタ、太陽の星霊なんだろ?神霊、龍の純血、そして星霊。箱庭の最強種ってのがこの三種で。頂点が星霊、そこに一歩譲るのが神霊と龍らしいな。で、だ。アンタは、多分信仰の中でも最古に近い太陽の星霊だ。そんなアンタがどうして、“夜叉”を名乗ってる?鬼神って言っても夜叉は八部衆の一角で、その実態は釈迦如来の眷属だぞ。一宗教の眷属と太陽の星霊。格が違い過ぎると思ったんだが」
どうよ、と空胡は首を傾げる。
彼の言葉にハッとするのは、十六夜。
「成る程な…………違和感はそれだったか」
「どういう事かしら?彼、何を言ってるの?」
「…………説明求む」
「あ?ああ…………白夜叉は言っただろ?太陽の星霊だって。それなら最強の魔王だって名乗っても不思議じゃない。古代エジプトが顕著だが、太陽信仰は古いからな。けど、白夜叉は“白夜”であると同時に“夜叉”でもある。時任が言ったように、夜叉は仏教に取り込まれた釈迦の眷属の一体。元はインド神話の方なんだが…………そこまで話を広げるとキリがない。ま、要するに。今の白夜叉は弱体化、ないしは力の大部分を封じ込めてるって訳だな」
「それでも、あの威圧感なのよね。ちょっと自信無くすわ」
「…………次は負けないから」
「ヤハハ、まあそれは認める。けど、俺はそれ以上に時任の圏境を見破った方法を知りたいけどな」
「え?時任君消えていたかしら?」
「ならお嬢様は、アイツがあそこ迄移動してることに気づいたか?」
「……………………いいえ、気づかなかったわ」
「俺も気が付かなかった。つまり、そう言う事だろ」
少なくとも、今の彼らに空胡の圏境を見破る方法は無い。強いて挙げるならば、消える直前ならば止められるかもしれないが、その為には彼に対して常に気を配る必要があった。
しかし今、白夜叉は見失う事無く圏境状態の空胡を見つけて、声を掛けた。その事実に変わりはない。だが、今は、
「―――――ふふ、面白い童達だの。十六夜のみならず…………おんしは何と言ったか?」
「時任空胡」
「ふむ、空胡か…………では、空胡よ。おんしはどうする」
「…………俺としては、呪いの解除か、それが出来なくても手掛かりが得られたらいいんだが―――――」
「恩恵の鑑定か?むぅ…………私としては専門外だが…………ゲームをクリアすれば、してやろう」
「んじゃ、挑戦だ。俺は、十六夜みたいな馬鹿怪力何て持ってないし」
「存外アッサリだの」
「俺、自分の事を強いとか思ってねぇもの」
これは本当。少なくとも、彼自身の体は強靭無比とか不老不死とか特殊性を有してはいない。いや、一定の条件下では、異常なほどに“速く”なるのだが、少なくとも今の彼は一般人に毛が生えたレベル。
「ふむ、ではおんしらのゲームはこれにしようか。丁度、あやつも来たところだからの」
白夜叉がそう言えば、遠く山脈より鳴き声が響いてくる。
それは幻獣の中でも“空”においては強者に位置する存在。
鷲の翼に、獅子の下半身。その大翼に風を受け、空を踏みしめる空の王者。
「グリフォン…………うそ、本物!?」
興奮した様子で珍しく声を上げた耀。その瞳は興奮によってキラキラと輝いていた。
「その通り、こやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇樹”の全てを兼ね備えた、ギフトゲームを代表する幻獣だ」
そう言って、白夜叉はグリフォンを自身の元へと招くとその傍らに一枚の羊皮紙を呼び出した。
『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
時任 空胡
・クリア条件
グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。
・クリア方法
“力”“知恵”“勇気”のいずれかで
グリフォンに認められる。
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を
満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホスト
マスターの名の下、ギフトゲームを
開催します。
“サウザンドアイズ”印』
以上がその内容だった。
「さて、誰が挑戦する?」
*
ゲームは、問題児たちの勝利に終わった。耀が見事にグリフォンを乗りこなした形で、しかも新たな力を得ていた。
「系統樹、ねぇ…………」
座ったままゲームの流れを見ていた空胡は、その後耀の首から下げた恩恵に集まる彼らを見ながら、聞こえた言葉を頭の中で吟味していた。
(恩恵は誰かからの貰い物だ。なら、俺の中に、
無意識のうちに、眼帯の上から右手で右目へと触れながら空胡は考えていた。
彼にしてみれば至上の命題だ。それが例えこの世界では簡単に外せるかもしれない代物であろうとも。否、そんな代物であるからこそ、誰が与えたのか知りたくなっていた。
恩恵は与えれるからこそ、恩恵だ。そこに上も下もないが、兎にも角にも与えられる。
であるならば、疎む
(ああ、恩恵なら一体どんな酔狂な奴が植え付けたのやら)
内心で確認すれば、疑問が鎌首をもたげてくる。
向こうの世界では、この身に巣食う呪いの解除の為に過去の記録にも目を通してきた。その中で知れたのは、どうやっても事務的な感情を廃したものばかり。
空胡には、分からない。こんな
だって自分には過ぎた
「…………わっかんねぇなぁ――――――――――ん?」
呟いた直後、彼の元に一枚のカードが落ちてきた。
そしてそれは、他の三人も同じくだ。
コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム“
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”
エメラルドグリーンのカードに春日部耀・ギフトネーム“
アッシュグレーのカードに時任空胡・ギフトネーム“
それぞれの名とギフトが書かれたカード。声を上げたのは、黒ウサギ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「おい、バグってんぞコレ」
「おふざけ厳禁です三人様!というか、空胡さんに至ってはバグってるだなんて!?それはギフトカードという超高価なものなんです!これさえあれば、一発でその人が有しているギフトを確認することが出来るどころか、耀さんの生命の目録などを収納する事も出来るのですよ!」
「つまり、超素敵アイテムでオッケー?」
「どうしてそう簡単に流すんです!?ええそうですよ!超素敵アイテムでオッケーです!」
キャンキャン叱ってくる黒ウサギ。だが、そんな物で問題児が悔い改めるようならそもそも問題児だなんて呼ばれていない。
そもそも、
「解析“不可”って何だ、“不可”って。不能とかならまだしも、解析できませんってか?―――――ザッケンナヨ!何でここまで来て新たな謎が出ちまってんの!?馬鹿なの?!死ぬの?!名前ぐらい素直に明かせバカヤロー!」
ぺしっ!と雪原にギフトカードを叩きつけて立ち上がった空胡は騒いで聞いていなかった。
だが、彼が騒ぐのも無理はない。今まで呪いとしか呼称してこなかった己の中身が、今まさに知れるかもしれなかったのだ。
その結果が“解析不可”。キレるのも無理は無かった。
「―――――むぅ、“ラプラスの紙片”が二度もエラーを吐き出すだと?一体どうなっている?」
雪原に半ば沈むギフトカードを拾い上げ、白夜叉は首を傾げる。
空胡含めて、十六夜のギフトカードもエラーを吐き出したのだ。穏やかでいられるはずもない。
何より、
「おい、空胡」
「…………何だよ」
「おんし、このギフトをどうにかしたいと言っておったな?」
「ああ。ギフトゲームとやらで取り除け―――――」
「忠告だが、止めておけ」
「………………………………は?」
時間が止まった。世界が死んだ。
降り積もる雪に音が吸われて、その場には無音だけが佇んでいる。
固まった空胡。その瞳は、真っ直ぐに白夜叉を見ているが、動揺している事は明らかだった。
「酷な事を言っている事は、私にも分かっている。その上で、おんしはこのギフトを手放さない方が良い、そう私が思っただけだ」
「………な、なんでだ?」
「おんしのギフトは、ギフトカードにエラーを吐き出させた。何より、そのギフトはおんしの
「………………………………」
「ギフトを手放すというならば、キチンと契約した相手を見つけよ。そして、綺麗さっぱり契約解除したうえで返還する、若しくはギフトゲームで手放すように。さもなくば、おんしは死ぬぞ?」
最後の一言が止めになったのか、空胡は菩薩の様な笑みを浮かべて―――――仰向けにぶっ倒れた。