終わらせたい彼の箱庭狂騒曲   作:マスカレード・マスタード

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――――――――――自分が化物であると自覚したのは何時だったか。

 

 ふと、暗がりの書庫の中で空胡はそんな事を思った。

 本から顔を上げ、頬杖をついてランプの炎を眺めながら記憶を遡っていく。

 そして、十年を遡ったところで、ああ、と思い至った。

 

「爺さんが、死んだときか」

 

 それは、十年以上前の事。その光景を見たときに、彼は悟った。

 

――――――――――ああ、この家は呪われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆廻十六夜は考える。その明晰な頭にあるのは、昨晩に見たモノについて。

 

「どうされたのです?十六夜さん」

「…………ん?いや、な」

「空胡さんの事ですか?」

「まあな。呼ばなくてよかったのか?」

「それが、書庫にもいらっしゃらなかったのですよ。圏境を使われてしまえば、私も追えませんし…………いったいどこに行かれたのか」

 

 ため息をつき、心配そうに眉を顰める黒ウサギを横目に、十六夜は更に思考を回す。

 今日は、“フォレス・ガロ”の存続を掛けたギフトゲームの日であり、多くの野次馬が会場周りに集まっているような状況だ。

 当然と言えばいいのか、黒ウサギと十六夜も同じコミュニティという事もあって現場に足を運んでいる。だが、そこには空胡の姿は無かった。

 昨晩、右目の下を十六夜に見せてから今朝にかけて、彼は姿を消していた。

 最初は、彼も逃げたのかと考えたが、昨晩の会話を思い出しその可能性は自身の中で消したところ。

 

「ま、その内帰ってくるだろ」

「そう、でしょうか?」

「多分な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォレス・ガロ本拠地、改めゲームの会場を遠くに見ながら、空胡は赤レンガの屋根の上へと登り煙突に腰掛けていた。

 十六夜に右目を見せてから、彼としては何時黒ウサギ達にこの事を伝えようかと考えている所。

 空胡本人としては、後腐れなく助力を得るために自分の抱える問題を腹を割って伝えなければならない事を理解している。理解しているが、この世界に来るまで自分の力を知っているのは家の人間だけだったのだ。

 そんな力を他人に晒す。それも、使い勝手は最悪と言っていいレベルの代物を自身に宿していると喧伝するなど、どうしたって二の足を踏んでしまう。

 

「はぁ…………」

 

 遠く、獣の咆哮を聞きながら空胡は考える。

 彼は、自身の目的に邁進する盲目さと、その解決に全てを懸けるひたむきさ。そして、好き好んで周りを巻き込むような事はしない甘さがあった。

 何より、口では飛鳥や耀に頼る様なことを言っていたが、その本心では―――――

 

「こんな(モノ)なければな…………」

 

 この世界に来なかったかもしれないが、それでも空胡としては良かったのかもしれない。

 普通に生まれて、育って、結婚して、子供作って、老いて、死ぬ。そんな生活を夢に見なかったと言ってしまえば嘘になる。

 だが、現実は無常だ。十年以上を棒に振る様な浪費をしてしまい、つい先日には正規の手順でなければ解除も出来ないと言われてしまう始末。

 誰だって死ぬことは嫌だろう。当然、空胡だって嫌だ。だからこそ、今の自分の現状を相手に伝えなければいけない―――――のだが、

 

「…………あー…………マジで、どうしよう」

 

 ウジウジ、ウジウジ、煮え切らない男だ。自分の事であったならば即断即決する癖に、誰かを巻き込む羽目になるならばこの体たらく。

 十六夜にはあっさり明かしたようにも見えるが、仮にあの場で見せなければ彼の眼帯は毟り取られていた事だろう。

 風が吹く中、新調した眼帯に触れ空胡は空を見る。

 

「天幕って話だが、ガッツリ空だな」

 

 雲の流れる穏やかな空。見ているだけでも、心洗われるような青空はそれだけでも十二分に晴れやかな気持ちへと―――――

 

「…………どうしようか」

 

 なれなかった。

 この男の優柔不断っぷりは目に余るものがある。

 

 結局、離れたゲームの会場を包んだ吸血植物が解けて消えても、彼は何も思いつかないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何の答えも出せないまま、空も暗くなり仕方なくノーネームの本拠地へと戻ってきた空胡は、そこであんまりな光景を見る事になる。

 屋根を跳んで(・・・・・・)帰ってきた彼は、そのまま唯一使える屋敷の上階の部屋より中に入ろうと考えていた。

 圏境とパルクールの技術があれば、現代の忍者になる事など容易い。しかし、

 

(何だ?決闘か?)

 

 夜闇に浮かぶ金髪の少女と、彼女が見下ろす先には不敵に笑う十六夜。そして彼らの中間あたりに立ちながらオロオロとこの場をどうする事も出来ない涙目の黒ウサギの姿があった。

 どうしてこんなことになっているのか、外野である空胡には欠片も理解できない。

 その間にも事態は進んでおり、少女がその手に黄金の槍を呼び出していた。

 背に負った黒翼が大きく羽ばたき、押し出された空気が円の軌道でに広がる。

 

「―――――ハァア!!!」

 

 乾坤一擲。全力をもって、肉体のしなりも加えられた投擲は、容易に空気の壁を突き破って十六夜へと突き進んでいく。

 しかし、

 

「ハッ―――――しゃらくせぇ!」

 

 問題児筆頭にして、最高の快楽主義者の彼は違った。

 殴りつけた(・・・・・)

 たったそれだけだが、迫り来る槍の穂先はグシャグシャのスクラップへとその姿を変え、それは長い柄なども例外ではなく、全てが圧潰され即席の散弾銃の様にして少女へと跳ね返っていた。

 

 予想外の光景に、少女は動けない。その細い体に、鉄塊が―――――

 

「バッカ!避けろよ!?」

 

 当たる直前に横合いからの乱入者によって紙一重で、スプラッタな未来は回避されることとなった。

 

「なっ!?だ、誰だ?!」

「ちょ、待って!ヤバい!高い!何も考え無しに飛ぶんじゃなかった!?」

 

 ただ、締まらない。宙に浮かぶ少女に抱き着くジャージ少年の図であるのだから。

 

「く、空胡さん!?い、いったい何処から…………」

「いや、んなことより助けてやれよ」

 

 実に締まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――本ッ当に申し訳ない!」

 

 地に足付いた空胡が最初にやったのは、日本人の骨身に刻まれた謝罪方法。すなわち、土下座であった。

 彼の前では、困惑したように金髪の少女が眉を顰めているばかり。

 

「とりあえず、顔を上げてはくれないか?」

「いや、でもな…………」

「お前のお陰で助かった事も事実なんだ。もしも飛びついてこなければ、私は今頃血まみれで血に伏していた」

「というか、お前はどこから来てんだよ。また圏境か?」

「えっと、まあ、な…………ほら、ギフトゲームだったろ?ちょっとばかし、気まずくてな。窓の開いたところから侵入して、小腹満たしたらしょこにいこうとおもってたんだが…………」

「俺とその吸血鬼との勝負を見た、と」

「そういうこった。いや、マジで驚いた。というか、大砲みたいな槍を殴って無傷とか、マジで何者だよ十六夜」

「ヤハハ、俺としてはあの一瞬で飛びついたお前の方がびっくりだぜ?見えてた(・・・・)だろ?」

「まあ、副産物でな。というか、何であんな事になってたんだ?下手しなくても、死んでただろ」

「ああ、それは―――――」

 

 三者説明中

 

「―――――へぇ、つまりレティシアは、このコミュニティに所属してたのか」

「ああ。だがそれも、三年前までの事だがな。今はペルセウスの所持物として私は置かれている」

「ペルセウス…………アレだろ、ゴーゴン狩りのペルセウス。マジでなんでも有りだな箱庭」

 

 胡坐をかいて座った空胡は、ウンウンと頷き頭を掻いた。

 納得する彼だが、そんな事よりも気になる事が黒ウサギにはあった。

 

「それはそうと、空胡さん。貴方一体どこに行っていたのですか?」

「ちょっと自分探しの旅に」

「自分探し?」

「まあ、踏ん切りをつけるために回って来たんだが…………」

「ついたのか?」

「…………意気地なしでスマン」

 

 バツが悪そうに目を逸らした空胡に、十六夜は露骨な溜息を返してくる。

 彼としては、分からないでもない。だが、グジグジ悩まれ続けるのも見ていて気分が悪いというもの。

 

 その後、黒ウサギが促して中でお茶を飲むことになった――――――――――のだが。

 

「ゴーゴンの威光!?まずい!見つかった」

 

 突如、空から降ってくる褐色の光。

 突然の事態に一瞬固まった、黒ウサギ達三人は動けない。そこを、レティシアが庇うようにして彼らの前に立つことで一身に褐色の光を浴びる事になった。

 直後には、出来上がるのは石像と化したレティシア。

 

「レティシア様!?」

「ッ…………!」

 

 黒ウサギが叫び、空胡は目の前の光景に目を見開く。

 しかし、助ける暇はない。空には百にも及び軍勢が現れていたのだから。

 派手な緊迫した状況だ。だからこそ、誰も気づかない。

 

 空へと一筋の稲妻が駆け抜けて、天幕を刺し貫かんとしたその時と同じくして。

 

「―――――逃がさねぇよ」

「カッ…………!?」

 

 優柔不断の眼帯男が動いていた。

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