ゲーム開始から二週間が経過し、俺はモンスターに向けて剣を振り続けていた。
ベータテスト時代の知識を総動員して、クエストで手に入る武器、『アニールブレード』を使って、効率の良い狩場で寝る間も惜しんで戦った。それはもう、ブラック会社の社員さん達も驚くほどの時間を費やして。
襲いかかってくるのは、モンスターだけではない。現実では体は眠っているというのにも関わらず、眠気や空腹感が生じた。
そんな欲求に負けじと、フレンジーボアやリトルペネントを狩り、アイテムストレージが満タンになれば街へ戻るといった生活を送っていた。
そういう今日もアイテムストレージが満タンになり、連日の不眠不休で戦った精神的な疲労もあったので、一度『はじまりの街』でゆっくり休もうと街へ戻った。
ドロップした素材を売却し、宿へ向かう前にポーションの買い足しをしようと道具屋に立ち寄った。
道具屋の店頭に並んでいたのは、この世界で初めて見る『本』だった。
「なんだ、これ?」
思わずその1つを手に取り見てみると、表紙にはネズミをモチーフにしたであろうマークが描いてある。
ペラリとページめくるとそこに書かれていたのは、第一層の攻略情報だった。
(なぜこんな量の情報が出ているんだ? ベータテスターくらいしか知らないものまであるぞ。一体誰がこの本を……)
俺が声に出さずに思ったこの疑問は、よくよく見れば表紙の下の方に書かれてある文章によって答えられた。
『大丈夫。アルゴの攻略本だよ』
「アルゴ……。どこかで聞いた名前のような……」
懸命に記憶を辿ること数秒。俺は、その答えに行き着いた。
「あっ、あいつか! ベータにいた、『鼠のアルゴ』!」
そう、俺は会って話した事もある。あのヒゲのペイントがトレードマークの鼠のアルゴに。
とりあえず、記憶違いやベータテストとは違うところがあってはいけないので、攻略本を貰い、俺は新しく目的を持って動き出した。
(アルゴに会って、情報を集めよう。まずはそこからだ)
感じていた眠気、空腹感はどこかへと消えていた。
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探し始めて数時間。やっとアルゴを見つけた。というより見つけられた。
「オレっちの事を探してるっていうプレイヤーは君カ?」
不意に後ろからかけられた声に振り向くと、フードを被った背の低い女の子が俺を見上げていた。
顔の作りは記憶の中のアルゴとは違うが、忘れようのない頰のペイントが本人で間違いないと物語る。
「ああ。あんたが『鼠のアルゴ』で間違いないんだな」
「オレっちに何か用カ? 欲しい情報があるなら、売ってやるゾ」
「情報が欲しくないと言えば嘘になるが、俺は別に情報を得るために探していた訳じゃない。1つあんたに提案があるんだが」
情報屋の元へ情報を買いに来た訳じゃないと聞いて訝しげな表情の彼女に俺は続けて言う。
「俺はあんたと同じベータテスターなんだが、あんたの情報収集の手伝いをさせて欲しい」
ゲーム終了まで生き残る為に何よりも重要なものは情報だと思う。なら、その情報がアインクラッド中で一番集めることができるのは、このアルゴをおいて他にいないだろう。
「手伝いカ……。まぁ、オレっち1人で聞き込みや裏付けに行くのも限界が来るだろうしナ。わかっタ。攻略のために頑張ろうナ、助手クン」
彼女は少し悩んだようだったが、すぐに顔を上げてニカッと笑いながら手を差し伸べてきた。
「よろしく。俺はルナだ」
握手を交わし、自己紹介がてらプレイヤー名を言うと、彼女は考え込むかのように首を傾げた。
「ルナ……。そんなプレイヤー、ベータにいたカ?」
「あ、あの時はこのアバターじゃなかったから……」
「そうカ。ベータとこっちでプレイヤーネームを変える奴らも少なくないからナ」
どうやら、アルゴは納得してくれたようだ。
「この層の情報はほとんど出尽くしてるンダ。だからあんまり仕事はないけド、もう少ししたら面白いものが見れるゾ」
「面白いものって?」
「それは秘密ダ。はじまりそうだったらメッセージを送るヨ」
フレンド登録を済ませると、彼女は去っていった。今から情報の売買でもするんだろうか。
とりあえずアルゴと接触できたことだし、まずは宿を探さないと。俺は再び襲ってきた睡魔と格闘しながら、街を彷徨った。
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「……ったく、こんな量よく調べたな」
宿をモンスターを狩りまくり、溜まりに溜まったコルで借り、道具屋で貰った攻略本を読んだ感想がこれだ。
確かによく調べられているし、これならベータテストを知らない人でもわかりやすい。俺を含めたベータテスター達も、買っておいて損はない代物だと思う。
「これ作るのを手伝うのか……。責任重大だろ……」
そう、攻略本の情報が間違っていれば、それは死の可能性を引き上げることになるだろう。
「しかも、六層以降は行ったことないしよ……」
ベータテストでも攻略できたのは第六層まで。それ以降は例えベータテスターでも知らない。つまり、誰も知らないフィールドで誰も知らない情報を得る為に、挑まなくてはならない日がすぐにくるのだ。
「考えてる暇がもったいないなぁ!」
情報屋の助手となった俺には、もうそんな余裕はない。とにかくレベルを上げねば、死んでしまう。
——その後、恐ろしい顔で剣を振り回しモンスターを虐殺する、悪魔のようなプレイヤーが現れたとさ。
さて、誰のことだろうね。