ソードアート・オンライン 〜赤狩の月牙〜   作:瀬戸 暁斗

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ビーター

 第一層がクリアされた。この報告を受けたのは、戻ってきた42人の攻略隊からだ。

 1人、攻略隊のリーダー、青髪の騎士ディアベルはベータテスト時と異なるボスの武器、スキルによって命を落とした。

 1人、元ベータテスター、いや『ビーター』キリトはLAを取り、独りで第二層へ向かったそうだ。

 

「なぁ、アルゴ」

 

 すぐ横で、件のキリトとメッセージのやりとりをしているアルゴに静かに話す。

 

「俺、強くなりたいよ」

 

 プレイヤーをまとめ、中心となったディアベルは死んだ。キリトは元ベータテスター達への敵意を、自身が汚い『ビーター』となる事で、一身に集めた。

 彼らはステータスだけじゃなく、心が強い。すぐに折れてしまう俺の心とは違って。

 

「そうカ……。なら、良いクエを紹介してやるヨ。でも、絶対にオレっちを恨まないって約束してくれヨナ」

 

 強い心を持つことはすぐにはできないかもしれない。でも、今の俺にだって何か出来ることがあるはずだ。それを探すためにも、強くならないと。

 

「その情報って、いくら?」

 

「タダでイーヨ。昨日の働きの給料だと思ってくレ」

 

「そうか、悪いな」

 

 やけに気前の良いアルゴを不気味に感じながらも、強くなるチャンスを逃すわけにもいかず、俺はクエストNPCの居場所を聞いて、先程アクティベートされた転移門で第二層に一歩踏み出した。

 

 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 

 

「……おいおいマジかよ」

 

 早速だが、俺はアルゴからこのクエスト、「体術スキル」の情報をもらい、チャレンジしようとしたことを心底後悔していた。

 俺の目の前にあるのは巨大な岩。これを素手で割れだって? 無茶言うぜ。

 おまけに、顔にペイントときたもんだ。街に出るにも恥ずかしくなる。まぁ、これでアルゴのおヒゲペイントの理由には察しがついたが。

 もう一度言うが、俺がこのクエストを受けた事を猛烈に後悔していると、聞き覚えのある話し声が近づいてきた。

 今顔を見られると恥ずかしすぎて死んでしまいそうなので、何個も置いてある岩の後ろで隠れた。

 

「お、おわああ!?」

 

 しばらく待っていると、気の抜けた、聞いていると笑ってしまいそうな叫び声が響いた。

 どうやらアルゴの連れてきた、もう1人の被害者も顔に俺と同じペイントをされたらしい。なら、そろそろ出て行ってもいい頃合いだろう。

 

「おいアルゴ。こんなの塗られるんなら、先に言っといてくれよ」

 

「でも、言ったらこのクエ受けなかったダロ?」

 

「いや、それはどうだろ。うーん、ちょっと考えるかも。で、この人は?」

 

 俺は、近くでうなだれる黒尽くめの少年に目を向けて尋ねた。

 

「ルナも知ってるはずだゾ。例の『ビーター』さん改め、『キリえもん』ダ」

 

 そこでアルゴは俺達の顔を交互に見ると、地面に突っ伏して大爆笑し続けた。

 

「にゃハハハ!! にゃーハハハハハ!!」

 

 転げ回るアルゴを無視して、俺はキリトの横に座り込んだ。

 

「どうも、災難ですね。キリトさん」

 

「いやぁ、こんなことになるとは……。えっと、君がアルゴの助手の……」

 

「ルナって言います。キリトさん、すみません」

 

 急に謝った俺に、キリトは困惑の表情を見せる。

 

「ボス攻略戦の時のことは聞きました。キリトさんに、元ベータテスターを庇わせるようなことをしてしまって……」

 

「気にすることはないよ。誰かかしないといけない役割なら、俺がするさ」

 

 頭を下げた俺に、キリトはそう言った。

 

「俺には俺の、ルナにはルナの役割がある。対等にいこうぜ。話し方も含めてな」

 

「俺には俺の役割、か……。OK、キリト。なら、俺の役割はお前やフロントランナーを支えることにする。もちろん情報でさ」

 

 俺達はそこでガッチリと握手をした。

 ヒゲのペイントや、笑いすぎてVRでなるはずのない過呼吸になっているアルゴがいるのはなんだか締まらないが、俺はこの「SAO」ではじめての友人を得た。

 

 キリトや、一緒にパーティーを組んでいたアスナとはその後クエストを手伝ったり、情報屋として会ったりしていたが、彼らとの関係性が変わったのはそれから3ヶ月ほど経った頃だった。

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