俺が情報屋を辞めるときアルゴから最後に買った情報が、今までに起こったわかる範囲内でのPK事件の詳細だ。
そのデータを元に、俺は新たな仲間を求めてアインクラッド内を駆け回った。
俺が求める人材は、PKプレイヤーを憎む者。復讐したいと望む者だ。
俺や俺の集めた仲間達は、いずれPoHが率いる「笑う棺桶」と全面的に戦う事になるだろう。その時、ただ犠牲者を出したくないだの言う使命感や正義感だけでは、自らや味方の死までも招いてしまう。
ならば、命を投げ打ってまで戦うという純粋な意志を持つ者が必要だ。時に殺意や憎悪は、正義を遥かに上回る強烈な力を引き出す事もある。
その意志を強く持つのはPK事件の被害者達だと目星を付けて、1人、また1人とアルゴ直伝の話術や一対一のデュエルによって仲間に引き入れていった。
こうして半月後集まったのは26名。俺はもっと多く集まることを期待していたが、身近な友達や家族の死によって完全に心が折れたプレイヤーも数多くいたため仕方がない。
俺はこのプレイヤー達を、俺が誓いを立てた地、黒鉄宮に集めた。
現実でも前に立って喋るのがあまり得意ではない俺だが、今はやるしかない。
なぜか思い出されるのは、第一層攻略会議でのディアベルの姿。彼のカリスマ的な雰囲気を借りて話そう。
「よく集まってくれた。この中の全員が、PKプレイヤーに強い怒りを持っているだろう。その意志の力を俺に貸して欲しい。そして、共に戦って欲しい。殺されていった大切な者達のためにも」
俺の言葉に、同士達はアインクラッドが震えているような錯覚すら覚える雄叫びをあげた。
その叫び声には、怒りや悲しみが混ざっているのをここにいる誰もが感じ取っただろう。
「最大の敵はPoHが率いる殺人ギルド『笑う棺桶』! 死んでいった友の命に誓って、己のHPが尽きようとも奴らの凶行を阻止し、息の根を止める!」
俺の握りしめた拳は、少し震えていた。それは仲間達も同じようで、言いようのない感情に身を震わせる。
「俺達のギルドの名は『新月自警団』。悪を討つため、闇に堕ちる覚悟をしろ!」
新月は昼にも夜にも地球上からは見ることはできない。誰かに認知される事もなく、俺達は目的を遂げるべく行動を開始する。
「さぁ、俺達の正義を貫くぞ」
再び轟く咆哮に思わず鳥肌が立つ。俺が集めた仲間とはいえ、これほどの想いを持っているとは思わなかった。頼もしく思うし、俺が死んでも意志を受け継いでくれるという希望になる。
「行こうぜ、団長」
「ああ」
俺を呼ぶのは「新月自警団」の名付け親、副団長のライズ。俺とデュエルをして最後まで仲間になるのに抵抗した男だ。今ではすっかり頼りになるギルドの兄気分になってくれているが。
俺を先頭にギルドメンバー達は黒鉄宮を出る。
時刻は深夜2時。すっかり寝静まったはじまりの街にいるプレイヤー達に知られる事もなく、新しく設立された「新月自警団」のメンバー達は、それぞれのパーティーごとに各層へと散らばっていった。
「やっと始まるのか……」
「団長……。アンタがいなけりゃ、オレはいつまで経っても過去に縛られていたんだ」
俺とライズはメンバーが去った後も残っていた。
「ありがとよ。オレにチャンスをくれて」
「俺が与えたわけじゃないよ、ライズ。お前は自分の力でまた立ち上がったんだ」
「それでも、きっかけになったのはアンタだ。だからさ……」
妙にライズは兄に似ている節がある。今俺に笑いかけてくる優しい顔や、思いやりがそうだ。
「アンタはこのゲームで死なないでほしい」
「ごめん、それは保証できない」
少し悲しそうな表情を見せるライズだったが、その顔もすぐに元に戻る。
「そっか。そうだよな。アンタもちゃんと覚悟決めてやってるんだもんな」
そう言うと、ライズはおもむろに腰の片手剣を抜き取って前に掲げた。
俺も促され、剣を抜き同じように掲げた。
「オレ達はみんな、アンタを慕ってる。それは忘れないでくれよ、団長」
「それを言うならお前もだぞ、副団長」
笑い合った俺達は互いの剣を打ち合わせる。軽い衝撃と心地良い金属音が新たな門出を祝福するかのように響いていた。
新月自警団——New Moon Vigilante