お節介   作:送検

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第1話

妹。

 

 

 

 

それは、血の繋がった年下の女の子の事でありそのカテゴリには様々な属性が存在する。

例えるなら、反抗期。

今にも凍りつくような目付きを浮かべ、兄を兄と思わない程の冷酷さで兄を罵る妹。

創作物でも書かれるが、これはリアルでも多い。

創作物のデレは現実の妹に対するアンチテーゼの1種なのではないかと、俺は思うね。

 

またまた例えるのであれば、守ってあげたくなるような妹。

創作物でもかなり多い兄に甘える妹は、殊更その手のユーザーの間では人気を博しており、何を隠そう‥‥‥俺も守ってあげたくなる系の創作物は好きであった。良いよね、ゆるふわ系。滾らないわけないよね、そんなカテゴリ。

 

 

まあ、半ば自慢気に己の持論を振りかざした俺氏ではあるのだが、何も俺は今、まさにそういう系統が好きと申している訳では無い。

寧ろ、その手のものは現実を直視するに連れて虚しくなってくる。現実で妹が仮にいたとしても創作物のように『お兄ちゃんしゅき』みたいにデレる訳がない。

あったとしても、落胆するのみ。それ程までに創作物のデレというものは効果的な、人の琴線に触れる何かを持っているのだ。

 

 

 

 

そう、現実は違う。

リアルと妄想の区別を適切に付けられるようになるのが、大人としての第1歩を踏み出すきっかけになるとするならば、俺は既に大人になっているのだろう。

少し、安堵する。

俺はもう大学生。就職も控えているこのご時世に気分転換の為に作られたコンテンツにどっぷり浸かり込むなんてこたぁ御免だね。

やるなら適度に、何事もそれが肝要である。

 

 

 

 

何事も無難に、普通に、しっかりと石橋を叩いて渡ることが大切なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

 

 

そう、俺とて普通の人間であり大学生だ。

夜になれば睡眠を摂る為に目を瞑るし、意識を落とせば朝を迎える。

規則正しい生活を1人で送れるようになるまでには時間もかかったが、今ではこの一人暮らしのワンルームマンションでこうして朝早く起きることが出来ている。

一人暮らしを始めるまではてんでダメだった炊事も今や人並みに出来るようになったんだ。

褒めて欲しいものだぜ。

 

 

 

 

 

「朝飯は昨日の残りのカレーにするとして‥‥‥後は、今のうちに顔洗っとくか」

 

ワンルームマンションに住んでいる俺だが、朝は早く起きている。何せ、朝のこの部屋は戦場だ。

通っている大学は比較的近くにある為、30分前にでも起きられるが、その時は講義に遅れるのを覚悟している。その理由は、『俺が1人でこの部屋に住んでいない故』である。

 

大学に行くためにはもう1人、脳を正常に機能させねばならない奴がいる。

それも、まともに起こすまでに時間がかかる。

それこそ、『眠い眠い』と駄々を捏ねる、4歳のガキみたいにな。

 

 

本来なら、ほっといて大学に1人で通っていることだろう。

しかし、これも自業自得‥‥‥というよりかは運命って奴なのかな。

生まれて物心ついてから20年。成人を迎えても尚のこと世話をかけさせられるこの女の子の面倒を見ると奴さんの親に約束してしまったのだから仕方ない。

あの時は進んで、自らが望んで世話をすると言った。

 

ほなら、最後まで面倒を見る───奴が一端の人間になり、普通の人と普通の恋をして、独り立ちするまでは、しゃんとさせるのは筋ってものだ。

 

 

「‥‥‥そろそろ、か」

 

6時半を周り、部屋の一室のドアを3回ノックした後にドアを乱暴に開ける。

 

すると、そこには乱雑に散らばった物、物、物!

そして、沢山の物に囲まれ安堵したかのように眠っているロングヘアーの女。

他人の部屋すらも魔窟にしてしまう4歳児は、今日も健在で、ぐーすかぐーすか夢の中。

はったおしたくなる位に、苛立たせてくれる。

 

 

「‥‥‥おい、北上」

 

「くー、くー」

 

「起きろ、北上麗花」

 

2度声をかけるも、タイミングを合わせるかのように女───北上麗花はくーくーと寝息を立てている。

しかし、俺は見逃していない。

奴の身体にかかっている毛布が、一瞬だけピクリと動いたことを。

つまり、コイツは起きてはいるがまだまだ眠る───寝たいということを俺に示したのだ。

しかし、以前にも言ったようにそろそろ起きなければ奴の支度スピードでは悠然と遅刻することになるだろう。そうしたら俺まで巻き添えだ───

 

 

「起きてるんだよなぁ‥‥‥」

 

「くー、くー」

 

「家主の命令だ、起きろ‥‥‥麗花!!」

 

「むにゃ‥‥‥ああ〜、折角暖かくしたお布団が〜」

 

言うが否や、布団を引っ剥がす。

この寒いのにも関わらず紫色のネグリジェを着て眠っている麗花。

ほう、こうして見ると綺麗である。

すらりと伸びた手足、乱雑に散らばってはいるものの絹のように綺麗な髪、端正な顔立ち、豊かな胸の膨らみに、寝間着姿───この状況に置かれている人物が何処ぞのラノベやエロゲの主人公なら、動揺した挙句ゲームによっちゃあんなことやこんなこと(本題)へと突き進むことであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ」

 

心底思う。

そんな展開クソくらえってな。

いいか、嫌でもそういう状況に何度も置かれちまえば何れにしても『慣れ』というものが当人の身体を蝕む。

そうすれば、いつかこんなドキがムネムネの展開が来ても、こうして鼻で笑えるようになるぜ。

 

下着姿?

ベランダにかけられた女性物の下着を洗っているのは俺だ。

 

スラリと伸びた手足に、端正な顔立ち?

何度も見たよ、なまじ貞操観念の欠如している此奴に何度も何度も急接近された。

結果として理性が負けたことなんて1度もない。他人な上に、あの顔立ちだ。次第に他の奴にも欲情しなくなったさ。

 

胸!

身体の1部だ!!

以上!!!

 

「あー!またこっくんが変なこと考えてる!!」

 

「邪推は止めろ。なんでお前を居候させたのか真面目に考えてたところなんだ」

 

尤もそれは半分嘘で半分本当なのだが。

目付きは寝ぼけ眼の癖して、頭が冴えるのは速い。

北上麗花は、侮れない程に鋭い時がある。

 

「またそうやって誤魔化して‥‥‥あ、こっくん♪」

 

「あ?」

 

「だーいすき!」

 

「死んでしまえ」

 

ニコニコ笑顔でそう宣う麗花。

前言撤回だ。

やはりコイツはまだ寝惚けてる。

もしくはただのアホだ。

間違いない。

 

「良いから早く支度しろってんだよ」

 

「えへへ、そうやって突き放すの変わらないね」

 

布団を片付け、枕の皺を伸ばしかけた時麗花は己の抱き枕を未だに抱え込みながら、ベッドに座った状態で俺に言う。

 

「突き放す?違うね、矯正してんだよ」

 

「矯正!私歯医者さんがするようにこっくんに矯正されちゃうのかな?」

 

誰が手前の歯の矯正なんかするか。

というか、会話の要点さえ理解したら、俺がお前の何を矯正するのか位分かるでしょ?

何で歯医者に話が飛躍しちゃうのさ。

 

「もう‥‥‥それでいい。そうしてみせる、歯医者の如く、俺がお前の生活リズムをバッチリ矯正してみせるからな!!」

 

「と、言いつつ2年が経ちました〜♪」

 

「喧嘩を売っているんですか?」

 

「いーっ♪」

 

己の歯を見せ、悪戯っぽい笑みを送りながら何処ぞのショッカーの鳴き真似擬きをする麗花。似てないし、妙なアレンジが加わっていて拙い。

俺は特撮物にハマっているわけではないので尽くを知っているわけではないが、少なくともショッカーがそんな女の子のような綺麗な声出すわけがない。

そして、恐らく麗花もショッカーなんて知らないだろう。即ち、ショッカー云々は俺の世迷言である。一刻も早く記憶から消そうと思っている。

 

 

 

 

「こっくん」

 

掃除を終え、そろそろ朝食を摂らなければならない時間となった為、朝から一息つこうとした所気分屋で飄々としている所の北上麗花さんが俺に声をかける。

 

振り向けば、以前として麗花は着替えを済ませてなく抱き枕を抱きしめたままニコニコスマイルで俺を見据えている。

飽きないの、それ?

 

「なんだ、言っとくが朝食はカレーだぞ」

 

「こっくんのカレーは美味しいから大丈夫♪」

 

それは何よりだ。

こっくん嬉しいから今度は激辛カレーを麗花に食べさせようと思うんだ。

甘口が好き?

知ったこっちゃねえや。

 

「そんなことより、座って座って!」

 

「え、そんな時間ないのでマジで止めてください」

 

「良いから、それこそ早く!」

 

解せぬ。

てか、立ち上がって何する気ですか?

あ、ちょっと。

ダイビングは不味いですって!!

 

 

「そーれっ!」

 

 

 

ぼふっ。

そんな音と同時に、俺の身体は麗花のベッドに沈みそれと同時に感じる暖かく、柔らかな感触。

おう、なんだ。

抱きつかれてるな。

押し倒されているな。

 

「ぎゅー♪」

 

そして、親の顔より見たこの光景。

部屋の天井に、暖かく柔らかな感触。

以前はちょっとばかしドギマギしたが、今は劣情など微塵も感じなくなった。

 本来なら、出るとこが出ている麗花のスタイルには魅力的なものがあるだろう。それこそ、そこら辺の男ならイチコロ出来てしまうほどの悩殺ボディだ。

そこは認めよう。

ただ、今の俺に───長年幼馴染みやってきた俺にはそんなことで狼狽える程のメンタルを身に付けてはいない。

 

それこそ、俺は北上麗花という女の子を何処か妹のように見てしまっているのだから。

 

「こうしてしまえばこっくんは突き放さないから」

 

突き放さない。

突き放せる訳がない。

余程のことがない限り、武力行使に出ることが出来ない俺を知っている、狡猾な女である。

 

「‥‥‥慣れって怖いなぁ」

 

「こうして抱き合えばみんな幸せだね♪」

 

「え、すいません謎の宗教的なの辞めてくれませんか?」

 

「あはは、出たよこっくんの照れ隠し」

 

「あ、そういうのいいんで離してください」

 

「こっくんが素直になるまで離しませーん」

 

 

ああ、どうしてかな。

こんなにどうしようもない奴なのに何故か憎めなくて。

最終的には怒るどころかこうして甘やかしてしまう俺は、本当に『慣れ』に支配されちまったんだなと、心底思う。

ただ、それは麗花がいつまでも自立出来ない免罪符にゃならん。

俺の目の届く内に、1人で生活出来るように仕込むのが俺のやるべきことであり、ミッションだ。

 

 ただ───

 

「ほら、早く行くぞ。俺は外に出てるからな、着替えを済ませてとっとと飯食え」

 

「着替えさせて欲しいな〜」

 

「手前でやれ」

 

着替えすらも、なあなあにされた後に手伝うこともある時点で進行度はお察しという所だろう。

 

 




「はい!これ!着て!!」

「はーい」

「カレー!!食べろ!!」

「おかわり〜♪」

「戸締りはしたか!?よし、行くぞ!!」

「部屋の窓閉めるの忘れちゃった♪」

「な゛ん゛で゛だ゛よ゛ぉ゛!゙」
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