お節介   作:送検

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第11話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人にだってそれぞれの持ち味がある。

その人なりの武器があり、その人なりの道がある。

人によって未来は多種多様。

それは、俺の交友関係とて例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2者面談の結果は俺には分からぬ。

あれから外に出て、買い物して、甘口カレーライスを麗花に振る舞うと、相も変わらずのニコニコスマイルでカレーライスをぱくつく麗花。

美味しそうに食べる様は見ているこちらからしても和まされるものだが、今の俺にはひとつの懸案事項があった。

 

「で、アイドルはやるのか?」

 

不意に尋ねると、麗花はカレーライスを食べる手を止める。

食べながら話すことはしないらしい。

麗花は非常にその手のマナーが出来上がっている。

 

「う〜ん。取り敢えずオーディションは受けることにしたよ」

 

ほうほう。

なら、お前は目指す目標とやらを言えた訳だ。

素晴らしいではないか。お前はそれを言ったことで第一関門とも取れるプロデューサーのテストをパスすることが出来たんだ。

書類審査に受かったのと変わらねえぜ。

 

 

「でね、オーディションに行く前に色々やっとかないといけないことがあるんだ」

 

「なんだ?エントリーシートか?面接練習か?出来ることなら手伝うぞ」

 

「和三盆♪」

 

「は?」

 

なんだそりゃ。

そんな感情を抱きつつ、そう言うと麗花は身を乗り出して顔を近付ける。

 

「面接会場の皆を幸せにする為に歌を考えたんだ〜。こっくんも聴いて聴いて!」

 

ジーザス。

俺は麗花の歌を聴きながら、天井を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

といった風に、北上麗花には北上麗花のアイドルのなり方というものがあり、彼女は現在色々な支度をしている最中だ。

これから家族にも説明しなければならないし、場合によっちゃ俺との同居も考えねばならない。

幸い、マンションには空きがある。

大掛かりな引越しにはならんと思うがね。

 

 

まあ、それは良いんだ。

麗花はなんだかんだ前に進んでいる。

俺も、進路はアイドルではないが目指すものを見つけるため日々歩いている。

それに対して思考を巡らせる程、その事態に関しては困窮していない。

 

 

俺は、石嶺プロデューサーの一言を忘れちゃいなかった。

アイドルをスカウトしたという自慢。

そして、その内の1人に自分の生徒が含まれているってことにな。

 

 

「ごめんなさい、今日はお呼び立てしてしまって」

 

いつも通りなら今回は授業の筈だが、今回は違う。

俺が机を挟んで会話しているのは、恵美の母さんである。

恵美とはまた違った落ち着いた雰囲気───と思えば何処かノリや笑顔が似ていてやはり家族なんだなと思わせる何かが恵美の母さんにはある。

 

「いえ、仕事なんで」

 

「ふふっ、もう少し気軽に構えてくれて構わないのよ?確かにこれはお仕事の一環だけど、枯太郎くんのことは恵美からも良く聞いてるから」

 

え。

恵美から?

そりゃどういうことですかい。

 

「恵美とコミュニケーションを取るために、色々してくれたのでしょう?お陰で恵美は枯太郎くんに勉強を教えてもらうことが楽しみになったーって言ってたから」

 

「えー、なんのことでしょうか。僕は何かやった覚えはないんですがね‥‥‥」

 

慌てて弁解を目論むものの、恵美の母さんには通用せず。軽くくすくすと笑われ、受け流された。

影の努力で大の大人がファッション雑誌読み漁ってたとか親にバレたら恥ずかしいに決まってんだろ。

クッソマジで恥ずかしい。

 

「そう、枯太郎くんには2年間恵美に勉強を教えて貰った。お陰様で恵美は志望校にも受かったし、今も無理ないペースで勉強が出来てる‥‥‥恵美の努力もあるけど、それは貴方のお陰でもあるのよ?」

 

「‥‥‥あざす」

 

「ふふっ、可愛い所もあるのね」

 

死にたい。

今すぐ穴掘って埋葬されて生き埋めになってしまいたい。

しかし、悲しいかな。目の前にはスコップもなければ土もない。

穴掘りマスターでもない俺には到底叶わない話だ。

 

 

 

「‥‥‥で、ここに呼び出したのは娘さんの課外活動のことですかね」

 

話を変えよう。

こうしてスーツ着て真面目な格好している以上、俺が恵美の母さんに羞恥プレイのようなことをされる謂れは全くない。

真面目な話に如何に早く誘導するか。

それが俺にとっての最優先事項だ。

 

「あれれ、バレてた?」

 

「すんません、風の噂で。アイドルのスカウトを受けて、それを了承したという話を聞いたので」

 

言おうとしていたことが、予め知られている。

それは俺からしたら気味悪いことこの上なく、実際に俺はその愚行を犯してしまった訳なのだが、恵美の母さんは気にすることなく、話を続ける。

 

心の広い御方である。

人を弄れるだけのボキャブラリーに溢れていれば、真面目な話とそうでない時のメリハリも付ける。

初対面でこの方が恵美の母と言われても、当然違和感を感じることはなかろう。そんな人だ。

 

「ああ───怒ってないから大丈夫。それなら話は速いから」

 

恵美の母さんは更に続ける。

その笑みに、少しだけシリアスを交えて。

 

「恵美のこと、どう思う?」

 

「恵美が、ですか?」

 

「あの子は、アイドルになっても勉強を続けられるだけの学力があるかな。見た感じ、私はあると思ってる‥‥‥というか、信じてる」

 

「娘さんのこと、信頼なさっているんですね」

 

「それは当たり前。親が娘を信じないで誰が信じてあげるの‥‥‥あの娘が『やる』って言ったものは出来るだけ尊重してあげたい。それが親心ってものだから」

 

「けど、信頼と不安は違う‥‥‥そういうことでしょう?俺を呼び出したことってのは」

 

「あはは‥‥‥枯太郎くんにはバレバレだね」

 

そりゃあな。

俺も今現在保護者紛いのことをしているから何となく分かる。

俺は北上麗花という女の子の存在に信頼をしている。明朗快活で、元気溌剌。時に突飛なアイデアを見せたかと思えば、さりげなく人を気遣う面もある。

トラブルメーカーなのだって、麗花に人脈がある証拠だ。人と関わらなければ、そもそもトラブルが起きることも少ないんだからな。

 

けれどそれと同時に不安もある。

当たり前さ、麗花がトラブルを起こせば他人に迷惑がかかる可能性だってある。

たった1人の幼馴染だ。

不安にもなるし、心配するなんて当たり前のことだ。

 

信頼しているからこそ、その存在を大切にするが故に不安を抱く。

信頼と不安はセットみたいなものなんだろう。

そういうことが分かるから、俺は何となく恵美の母さんの言っていることに合点がいったのさ。

 

「なら、直近の成績を見てみましょうか」

 

資料を机に広げ、ここ2年の恵美の成績を確認する。

 

「所恵美さん。中学3年から早2年。あの時の俺は大学に入り立ての新米ホヤホヤ家庭教師でしたが、そんな俺から見ても、彼女の成績は飛躍的に上がっています」

 

「指導と努力の二人三脚の結果ね」

 

「ええ‥‥‥ですが、思うんですよ。家庭教師が新米の中で、ここまで成績が伸びたってのは殆どが恵美さんの実力なんだって」

 

「え」

 

「恵美さん、見えないところでちゃんと努力してると思うんです。間違えた所は、しっかり直すし態度も悪くない。宿題はしっかりこなす等々、やるべきことをしっかりやったからこそのこの成績だと自分は思うんです」

 

家庭教師の時間以外にも家では間違えた所を律儀に直してく自慢の生徒だ。

だからかな。俺がこんな事言うのもなんだが、1人の目上の立場として俺は彼女のやりたいことを応援したい。

やりたいと思ったことを、学生時代にちゃんとやって欲しいワケだ。

 

「確かに困難な道だと思います。アイドル活動に、勉強。そもそもの話、人が2つのことを両立するのには相当の努力が必要です。少なくともそれは俺には無理だった、これをやりきるってだけの『プライド』がなかったから」

 

嘘ではない。

俺には特定のものに関しての明確な執念やプライドが学生時代なかった。

だからこそ、現状が大学生活をしつつ就職することを一定の目標にしている男になっている。

それは光り輝く夢なんかじゃないさ。

半ば惰性の義務感だ。決して褒められたもんじゃあない。

 

けど、俺は俺。

俺が突入したそのルートに、恵美が入るとは限らない。否、する訳がない。

 

何せ奴には───

 

 

 

 

「けれど、恵美さんには正しく、誠実なプライドがちゃんと宿ってます。だから、大丈夫です。二兎目を目指そうってなっても、成績を落とさない‥‥‥彼女なら、文武両道を出来ると2年間見てきて、そう思わせられました」

 

時に恵美は他者に気を遣いすぎるきらいがある。

けれども、それ以上に恵美は周りに心配をかけまいと努力をする。

そんな彼女が自分の意思でやりたいと決めた。

そしたら、俺がそれを邪魔するようなことはせまい。

成功だって、できると信じている。

 

「‥‥‥そうですか、ええ分かりました。貴方が来てから恵美の成績は飛躍的に上がりましたからね、そんな貴方が言うのなら私は信じます」

 

「過度な期待を俺にかけんといてください。俺はいつも通り、彼女に勉強を教えるだけですから」

 

ま、色々お節介垂れた訳だが結局のところ、俺が変わる必要はない。

何処までも普通に彼女に勉強を教えれば良いのさ。

それこそ、アイドルのことなんて知らないって体でな。

そう言うと、恵美の母さんはまたしても笑みを見せ頭を下げたのだった。

 

 

「今後とも、恵美をよろしくお願いします」

 

 

 

 

よろしくなのは、こっちな訳なんですがね。

 

 

 

 

 

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