お節介   作:送検

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第12話

 

 

 

 

 

 

 

 

2月。

 

この時期になると大体の講義は終了を迎える。講義は前年の後期から冬休みの期間まで行い、冬休みを挟み残りの講義を消化───後にテストを行い、単位を取得するのが殆どの大学生のお約束事のようなものだ。

当然、俺と麗花もその例に漏れず単位を取得し無事後期の日程を消化することに成功している。

麗花は元々地頭は良いからな。惰眠を貪らず、しっかりノートを取れればそう単位を落とすことは無い。

出席に関しては俺が叩き起こす。そうすれば単位の取れる北上麗花の完成だ。

 

‥‥‥大学に入りたては滅茶苦茶苦労したがな。

新生活に馴染めず、寝坊、バイト、講義中のダブル居眠りと兎に角この生活に馴染めなかった。

しかし、それも今では気にしない程馴染めてしまっている。

これに関しては、家事を分担したり、一緒に馬鹿やって笑いあってくれた麗花のお陰である。

 

 

 

 

 

そして、今日はそんな麗花に叩き起されることから始まる。

いつの間にか俺の部屋に侵入した麗花。

布団をゆさゆさと揺らされ目を覚ますと、そこには和服に白いエプロン。大正浪漫溢れる給仕服を着用した女が居た。

 

さて。

俺はこの状況にどう反応すべきなのかな。

 

「‥‥‥あの、なんの冗談ですか」

 

「給仕服!」

 

「‥‥‥また通販か」

 

「最近は給仕服の時代だって何処かのサイトに載っててね〜」

 

「その下りはこの前も聴いた!!」

 

何故この時代に貴様は大正浪漫にあやかろうとする。

時代は変わったんだ。

このご時世、給仕服なんて買っても意味がないだろう!何のために使うんだそのコスプレ!!

 

「クッソこのプルジョワジーめ‥‥‥」

 

恨み節を呟きながら俺は寝起きの身体を無理矢理起こす。

どうせその給仕服も1日が終われば麗花の魔窟にほっぽり出されるのだろう。

南無、ハイカラさん。

 

「‥‥‥で、お前は何をしたいんだ。そんな服着て」

 

さて、合掌も程々に麗花にハイカラ衣装の真意を問うと麗花は右手に持ったいた泡立て器を掲げ、高らかに宣言。

 

「チョコを作ろ〜!」

 

「1人でやって、どうぞ」

 

全く、人騒がせな奴だ。

大体な、そういうのは1人で作るもんだろ。

彼チョコだろうが友チョコだろうが1人で丹精込めて作ることに意味があるんだ。

母さんがそう言ってた。

 

「よし!じゃあこっくんはオーブンの準備をして欲しいな。そしたら早くチョコを作れるよ!」

 

「あの、話聞いてましたか?」

 

「?」

 

訳が分からないとでも言いたげに首を傾げる麗花。

俺はしっかりと天然な麗花にも分かるように振舞った筈なんだが、俺の伝え方が悪かったのだろうか。

 

「俺は、お前に1人でやれと言ったんだが」

 

「うん、1人でやるよ?」

 

なら1人でやれよ、と俺が続けようとするとその言葉を遮るように麗花が言葉を畳み掛ける。

 

「チョコ本体を作ることは!」

 

「ファッ!?」

 

「だからね、こっくんはオーブンとか調理器具の準備をして欲しいな〜」

 

マジかよ。

 

どうやら俺は麗花に1本取られてしまったらしい。

ハイカラ麗花さんはどうしても俺をチョコ作りに巻き込みたいらしく、そこから逃れられる術は今現在を持って完全に閉ざされてしまった。

なら、どうするべきか───

そんなことを考える程選択肢に恵まれている状況ではなかった。

両手を上げて、降伏の意思を示す。

悔しいが、今の麗花に口で勝てる程俺のボキャブラリーは裕福ではないのだ。

 

「お手上げだ。全く‥‥‥で、俺はオーブンの準備だけでいいのか?」

 

「後は、まな板に、さいばしに〜‥‥‥あ、後はゴムベラも!」

 

「少しは手前で準備しろよ」

 

下準備くらい出来んだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、麗花と俺の奇妙なチョコケーキ作りが始まった。

麗花は流石に自分でチョコを作ると言った手前、それなりに手際良くチョコケーキを作っていく。

流石、2年間家事を分担してやってきただけのことはある。以前の悲惨っぷりとは段違いだ。

 

「うわぁ〜チョコ美味しそう!!」

 

「へいへい‥‥‥さいですか」

 

既に使い終わった調理器具を洗いながら、俺はオーブンで調理している最中のチョコケーキをじーっと見てる麗花にそう返す。

全く、世話のかかる女である。

尤も、それはお互い様ではあるが少しくらい苦言を呈したってバチは当たらない筈だろう。

目が覚めたら大正浪漫に身を包んだ幼馴染がいたら、誰だってビックリするだろうてからに。

 

「で、お前は何時までその給仕服を着てるつもりだ?」

 

「ん〜‥‥‥後もう少しかな」

 

「因みにそのコスプレ、幾らしたんだ?」

 

「1万円!」

 

やっぱりプルジョワジーだったじゃないか。

特にコスプレ趣味もない奴が1万円の給仕服を着てチョコだけを作るとか、どんな散財の仕方だよ。

勿論、金の使い方は自由だが麗花の金遣いに対しては少々心配を禁じ得ないんだが。

 

「ねえねえ、こっくん」

 

「あ?」

 

「似合うかな〜」

 

そう言って、裾をつまんでお辞儀をする麗花。普段のツインテールとは違い、髪をポニテで束ね後ろで纏めている調理用のヘアスタイルは新鮮で可愛い。

そして、何より───

 

 

「何着たって似合うよ、お前は」

 

素材が良いんだ。

これで余っ程奇特なものを着ない限り麗花は何でも似合うと思う。

全く、美人も罪なものだ。

そう考えてたら、何故か麗花のハイカラがとても可愛く思えてきてしまう。しまった、俺は大正浪漫に萌えるタイプだったのか───

 

「えへへ、ありがと〜♪」

 

「ちょ、待て抱きつくな馬鹿!エプロンにチョコレートが‥‥‥あああああ!?」

 

トリップしてたら抱き着かれて愛用していたエプロンにチョコレートがべっとりと張り付く。

洗わねばならない、晩飯までに間に合うのかコレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここでこっくんにクイズで〜す!」

 

抱き着かれたまま、麗花は俺に質問をする。

そんなことより離して欲しいってのは俺の考えであるのだが‥‥‥どうしてかな、ホールドされた腕を離すことが出来ません。

誰か助けて。

 

「今日は何の日でしょうか!」

 

「‥‥‥ほら、あれだろ。あれ」

 

相撲取りが取るやつ。

 

「そう‥‥‥ふんどしの日!」

 

「ぶっぶー!確かに今日はふんどしの日だけど私が求めてるのはその答えじゃありませ〜ん!」

 

そうですか。

で、答えを教えてくれたら離してくれますかね?

チョコの匂いが充満する前に色々洗っときたいんですけど。

 

「‥‥‥お前がチョコレートケーキを作るってことは、あれだろ」

 

バレンタインデー。

そう言うと、麗花は漸く俺の拘束を解いて───

 

「大正解〜、こっくん偉い偉い♪」

 

また抱き着かれた。

しかも、今度はあやすように頭を撫でられています。

バブみとか感じないので辞めてくれませんかね。

 

「そう、今日はバレンタインだよ。だから今日はチョコを作ったんだ。けど、何でケーキなのかは〜‥‥‥分かるかな」

 

そう言うと、麗花は冷蔵庫を開きチョコレートケーキを取り出す───

いや、ちょっと待て。

今、チョコレートケーキは作ったよな?

何で、もう冷やしてあるチョコレートケーキがあるんだ?

 

「今焼いてるのはお友達とこっくんにバレンタインデーとして渡すもの。で、これは〜‥‥‥」

 

そう言うと、麗花は笑顔を見せる。

両手に抱えたのはホール状のケーキ。チョコレートケーキだ。

 

「何時もバイトに学業に、色々お疲れ様!」

 

「え」

 

「ホワイトデーは、激オチ掃除まるがいいな♪」

 

最後にそう言い切ると、もう一度俺の元にまで近付いてきてお皿に乗っかっているホールケーキをそのまま俺に押し付けた。

 

「はい!」

 

「お前‥‥‥これ」

 

「バレンタインデーとお誕生日おめでとう、こっくん♪」

 

「ケーキ‥‥‥」

 

「こっくん自分の誕生日忘れてたでしょ。ダメだよ〜忘れちゃ!記念日は何時だって盛大に、ハッピーにしなくちゃ!」

 

すっかり忘れてた。

麗花は誕生日を迎えた奴にはケーキを振舞ってプレゼントをする。

つまり、これは今日誕生日の奴に送るわけであって。

2月14日という日に生まれた俺にとっては───

 

 

 

 

 

「‥‥‥

 

 

 

 

やばい。

顔の火照りが止まらない。

なんだよ、それ。

 

「こっくん?」

 

「ちょっと待って。チョコケーキはちゃんと食べるから、今はもうちょい‥‥‥このままで、頼む」

 

馬鹿野郎。

不意打ちとかマジで止めろよ。

 

 

 

 

嬉しくて泣きそうになるだろうが。

 

 

 

 

 

 

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