お節介   作:送検

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第17話

あれから車に乗り込み、数分後には家に辿り着いた。

北上家へと向かっていく麗花を見送りつつ、自分と母の荷物を下ろしていると母さんがニヤニヤしながらこちらを見ていることに気が付いた。

 

何だ、俺に何か付いているのか。

 

「麗花ちゃん可愛くなったねー」

 

同意する。

が、天然っぷりもそれと比例するように増幅してきていることを母さんは知った方が良い。

 

「同居生活はどうよー、楽しい?」

 

「まあ、それなりに」

 

不都合はないな。

特に良いのは家事交代制だ。

様々な家事を体験しながら、かつ休む時は休める。

生活が自堕落にならずに済んだのはこの制度のお陰だろう。

 

「というか最初は幾ら旧知の仲とはいえ同居することに抵抗があったんだがな」

 

「それは枯太郎位よ?別に私も北上さん家も心配してなかったし」

 

そりゃ北上家は放任主義みたいなところあるからな。

北上家の家にお世話になったことも幾つかあるが、始めてきた時はのびのびとした生活感というか、空気が滲み出ていて逆に馴染みにくかった。

 

が、母さんと麗花の母さんが親友同士ということもあり良くしてもらった結果、のびのびとした環境に時間はかかったが馴染むことが出来た。

1人でも孤独感を感じることのなかったのは、間違いなく北上家の影響が大きい。

 

本当に、麗花含め北上家には感謝しかないのだ。

 

「‥‥‥でも、良かったな。枯太郎が元気に生活できてて」

 

ぽつりと母さんが呟く。

この前にも言ったように、母さんは家に居ないことの方が多い。

俺が大学に行く為に東京へ行ったこともあり、ただでさえ会えないのが更に機会を失った。

今では1年に1回、それもその期間は1日のみという少ない時間でしか会うことが出来ない。

かなりの心配をかけているであろうことは、察していた。

 

「‥‥‥その、すまん」

 

「え、何が?」

 

いや、だから。

 

「仕事で忙しいのに気遣ってくれた。どうせ、母さんのことだ。俺の考えてた我儘なんてお見通しだったんだろ。そのせいで迷惑もかけた。だから、すまん」

 

迷惑を何度もかけた。

心配もかけた。

我儘も言ったこともある。

 

殊更息子がするべきではない3つの行為のフルコースを母さんに送ってしまったからこそ、俺はこのタイミングで謝らなければいけないと感じていた。

しかし、そんな俺の心配を他所に母さんは俺の肩をポンと叩く。

その行為に下げた頭を上げると、母さんはニコリと笑みを見せて笑ったのだ。

 

「‥‥‥なぁに言ってんのよ。母さんが唯一無二の最愛の息子に気遣うのは当たり前でしょ?寧ろ、謝んなきゃいけないのはこっちの方。色々侘しい思いしてきたでしょ?大事な時期に、一緒に居れなくてごめんなさい」

 

「そんなこと」

 

反抗しようと開けた口を、指で抑えられる。

人差し指を唇に突きつけられ、言葉を発せない。

 

「あるの。だから、枯太郎が謝る必要なんて全くないから。傲慢でいて、もっと枯太郎は驕り高ぶる必要があると思うの」

 

驕り高ぶる必要はないと思うんですがね。

しかし、その言葉は何処か俺の心につっかえていたものを取り除くような言葉だった。

最初は何処か気安さみたいなものがあった。

仕事で忙しいのは分かっているのにも関わらず、俺は愛情を求めた。

けれど、それが大人になるに連れて事情を知って。

罪悪感からか、母さんに何かを求めることは自然と少なくなっていた。

 

けれど、その罪悪感はその一言で大分楽になった。

母は強し───そんな言葉を聴いたことがあるが、それを体験した位の衝撃である。

 

 

「‥‥‥ありがとう」

 

今も昔も大切な人だと言う感情は変わることがない。

そして、この人が南宮の家で1番強い人ということも俺が知っている。

俺は、母さんを心から尊敬しているんだ。

 

「‥‥‥いつか、その引き攣った笑みも直せるといいね」

 

そりゃ自覚してる。

けど、なかなか治らん。

 

「あは、無理しなくていいからね。今の枯太郎の笑みも可愛いし」

 

「それは褒めてんのかね‥‥‥」

 

半ば皮肉のような口ぶりで、俺がそう言うと母さんはクスリと笑った後に軽くドヤ顔を見せ、一言。

 

「勿論、褒めてるに決まってるわよ」

 

そう言って、荷物を降ろしに家へと向かっていった。

その背中には、母親としての確かな威厳がある。

そして、俺はその背中にずっと守られてきた。

 

 

「───ありがとう」

 

 

感謝しか、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長野、南宮家での1日は割と恙無く過ぎていった。

実家に帰った時特有のリラックスモード。

長らく食べていなかった母の手料理。

忙しくしているので手伝おうと行ったのだが『枯太郎はそこでテレビでも見てて』と言われてしまったので、特に訳もなくテレビを見ることになった。

 

が、それも次第に飽きがくる。

結局普段家事、読書等をしていた俺がまったりテレビ等性に合うはずもなく結局2階の自室。ベランダのある部屋へと向かっていった。

 

窓から月が一望できるこの景色は俺のお気に入りであり、長野に帰ると毎度毎度月をぼーっと見るのが日課となっている。

そして、今日も俺は例に漏れることはなかった。

パブロフの犬の法則ってのが、俺にも染み付いてしまっているのか。

半ば反射的に窓を開けて置かれていたサンダルを履き、ベランダの手すりに肘を置いた。

 

 

 

 

「こんばんは、麗花さんよ」

 

「あ、こっくんこんばんはー」

 

何処か、確信めいたものがあった。

麗花なら、ここに居るのではないかという確信。

それは、故郷にいた時に良く一緒に月を眺めていた経験からか。

 

「早くもお月見気分か?」

 

「うん!」

 

何度も何度も、この月を幼馴染と眺めた。

そして、仲を深め親友とも呼べる仲になった。

だからかな、この月は俺が思っている以上に俺という人間を形成する為には大切な景色なんだ。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうしてこっくんとベランダでお話するの」

 

「まあ、久しいな」

 

最近、長野には帰っていなかった。

それ故に、この月を見ることもあまり無かったからな。

ベランダで話すことも無く、自然と時が過ぎていき、気が付けば俺達はもう大人だ。

けれど、原点に帰るべき場所はある。

それが、俺達がこうして見ている月の下なのだろう。

 

「アイドルのこと、話したか?」

 

話題転換する為に、麗花目的だった筈の親への了承について尋ねる。

すると麗花は迷うことなく即答。

 

「うん、話したよ〜」

 

「部屋は?」

 

「こっくんの隣が空いてるでしょ。そこに住むって話をしたよ。後はー‥‥‥好きにしろって言ってた!」

 

「放任だなー」

 

流石、ほのぼのファミリー長女の麗花だ。

両親の愛と天然を一心に受け継いだ割とジーニアスな女の子。

髪を2箇所結んでお団子ツインテールにしている独特なヘアスタイルも、麗花考案のもの。

それすらも似合ってしまうのが、割と憎たらしい。

 

ふと、上空を見上げる。

するとそこには曇りひとつない空と、綺麗な月が浮かんでいる。

 

「綺麗だねー」

 

「‥‥‥ああ、確かに綺麗だな」

 

そんなことを言い合いながら、月を見つめる。

そんな時間が何分か続いた後か。

不意に麗花がこちらを見つめた。

 

「なんだ?」

 

在り来りな言葉で、そう尋ねる。

すると、麗花は少しだけ微笑んでまた月を見つめた。

 

「私、覚えてるかな」

 

「あ?」

 

「これから大人になって歳を重ねても、こんな綺麗なお月様のこと、これをこっくんと見たこと、覚えてるのかな」

 

その時、麗花は何時ものような明朗快活な笑顔ではなかった。

笑ってはいるが、その笑顔には覇気がない。

クスリと笑った程度だ。

それは、麗花の笑みではない。

 

そんなことを察してしまえるほど、俺は心底この幼馴染が気に入っている。

人と関わることを良しとしない俺が、コイツとなら深く関わってもいいと思っちまってる。

もっと、一緒に居たいと心が叫んでる。

そんな想いが心を巡り、結論が頭の中に纏まる。

結局、子どもの頃と根本は何も変わってないんだな、南宮枯太郎って人間は。

 

 

 

手を伸ばせば、届く。

だから俺は手を伸ばした。

あの時、勇気を振り絞って大学行こうと誘った時と同じように。

 

麗花の頭を撫でた。

 

「安心しろ。お前が仮にこのお月様を忘れようが、俺が覚えててやる。てめーが忘れたって言うのなら、俺が一生覚えていられるようにこの日常を叩き込んでやるさ」

 

「こっくん」

 

「ノスタルジーはお前の役目じゃないだろ。らしくねーぞ、しゃんとしろ麗花」

 

お前はそうやってうじうじ考えるような人間じゃない。

お前が物事に関して必要以上に深く考えたところで、それは大して意味の無いことだ。

お前は、動くだけで周りを魅了出来る。

天然が1周回った天才的な発想に。

皆を置いていくような前向きが過ぎる気持ちに。

そして、物怖じすらしないその行動っぷりに。

俺を含め、関わった奴等全てがお前の存在に引っ張られるんだ。

 

「覚えたいなら、覚えとけ。けど、それを気に病む必要なんてない。俺が居るから、お前はお前らしく前向きでいろよ。そして、新しい景色に胸を弾ませろ。もっと楽しいものを、ハッピーになるものを見つけやがれ」

 

ノスタルジックな麗花よりもエキセントリックな麗花の方が見ていて飽きない。

そりゃ迷惑を被る時もあるが、どちらも心配かけんなら俺はエキセントリックな麗花の面倒を見たい。

勿論、慣れてるからってのもある。

けれど、1番の理由は───

 

 

 

 

「やっぱ、優しいなぁ」

 

ニコリと笑った麗花の方が良いからに決まってる。

 

「当たり前だ、じゃなきゃ俺はお前と一緒に生活なんてしてないだろうよ」

 

「確かに!」

 

「いやそこ認めるんかーい」

 

恥も外聞もないな‥‥‥と呟きながら大きくため息を吐く。

すると、麗花が向こうのベランダから俺の方を振り向いた。

それぞれがベランダの柵にもたれ掛かってた時とは違い、月に照らされた麗花が何処か幻想的で、高貴なオーラを放つ。

 

「ねえ、こっくん?」

 

麗花が、笑みを見せる。

そして、いつも通りの希望に満ちた笑みで一言。

 

「だーいすき!」

 

「何度も聴いたよ」

 

そして、この気持ちが揺らいだことはない。

俺が、何時も元気溌剌でちょっと天然な所もある北上麗花という女の子に抱いている感情。

麗花が抱いている気持ちと、少しだけ似てて非なるもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も『だいすき』だ」

 

 

たった一言のその気持ちは、本心で発したものだってハッキリ分かる。

 

嘘偽りない、今の俺の気持ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

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