お節介   作:送検

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第3話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイトで生活費を稼ぐ。

それは、俺───南宮(みなみや)枯太郎(こたろう)が東京の大学に通うに当たって親に突きつけられた条件であった。

今日に至るまで大学に2年間通っている俺な訳だが、何も家庭が裕福なわけでもないし、仕送りにも限度がある。

そのために、俺は普段の学業と同時並行しバイトをすることで仕送りだけでは足りない生活費を賄っている。

最初は辛かったが、今では環境にも恵まれ楽しくバイトができている。これが噂のワーカホリックって奴かね、知らんけど。

 

 

因みに麗花は確りと金を貰っている。おかげでバイトをする必要もなければ、金稼ぎに苦心する必要も無いのだ。

具体的に言うなら、個人的な金でロボット掃除機通販で買えるくらいの金銭的余裕である。

引っ越して間もない頃に通帳を持って俺にクスリと笑いかけた麗花の顔を俺は忘れないからな。

 

 

 

 

 

とはいえ、麗花も何もしてくれないわけじゃない。

俺が疲れてぐでーっとしてたら頭撫でたりマッサージしてくれたりするし、俺がバイトで不在の間は風呂掃除したりといった家事をしてくれる。

まあ、先程までワーカホリックとか宣ってた俺だがこうして俺が今の生活に適応出来たのは何気に麗花のおかげでもあるのだ。

帰る場所に、明かりがついていて出迎えてくれる見知った顔があるだけで心は暖かくなる。

 

今日も麗花はせっせと家事をしてくれているのであろう。

ありがたや、ありがたや。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥という話を息抜きがてらにした訳だが、これ息抜きになってんのか?」

 

「うん!バッチリだよ!」

 

そりゃ良かった。

いや、まあ「息抜きに何か話してみてよ!」とか言われた時は何を話せば良いのか悩んだものだが、こうして喜んでくれたのなら話した甲斐もあったものよ。

 

「それにしても、コタローセンセにそんな人がいたなんてねぇ‥‥‥?もう付き合っちゃいなよ〜」

 

「あ゛ぁん?センセーに軽口を言えるその口は何処だ?」

 

「にゃはは、出たよその重低音!コタローセンセっていつも煽られたりするとそうなるよね!」

 

360度回転する上等な椅子に腰掛けた女の子は、俺の話を聞くと、『にゃはは』と独特な笑い声を上げて、俺を見据える。

何なのかね、この瞳は。まさに期待に染まったかのような、キラキラした顔付きは。

 

「‥‥‥センセ」

 

「あん?」

 

「結婚式には呼んでよねっ」

 

「ないから。そういうの本当にないから」

 

サムズアップしても無駄だから。

 

「あちゃー‥‥‥まあ、流石に今すぐ結婚なんてしないよね。コタローセンセは大学生だし、何より甲斐性なしだし!」

 

「‥‥‥ったく、ちょっと良い成績を取ったらこれだよ。はーっ、やだやだ。ちょこーっと全教科教えただけなのに良い成績とって、こんなに軽口言い合えちゃうんだから」

 

「それは、あれだよ。センセーの教え方とコミュニケーションの取り方がとっても上手かったからなんじゃないかな?」

 

「‥‥‥はっ、んなワケあるかよ。ここまで勉強してきたのはお前の実力だ。だから胸張れ、今どき高一から家庭教師雇ってお勉強───なんてなかなかいないんだからな」

 

本音である。

この女、見た目茶髪のキラキラギャルで読者モデルにも出るようなギャルだが、この歳で学業も頑張ろうとしている。

曰く、勉強出来ないのはカッコ悪いかららしい。

これがプライドって奴なのかね。

 

「なあ、所さんよ」

 

「ん、なーに?」

 

なんでもない。

ただの独り言だ。

 

「まあ、兎に角勉強は程々にしてお前もしたいこと見つけたらそれに没頭するんだな。高校生活は1度きり‥‥‥後で後悔しても俺は責任を取れんからな」

 

「大丈夫だって!今が1番楽しいし‥‥‥コタローセンセのおかげで勉強もちょっぴり楽しくなってきたしね!」

 

「ほう、なら最初あれだけ苦手にしてた数学は?」

 

「大っ嫌い!」

 

だろうな。

大体分かってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、南宮枯太郎は家庭教師をしている。

学業に差し支えない範囲で家庭教師───まあ、ほぼほぼとある家の専属なのだが───を週三日で行うことで、生活費を賄えてしまえているこの現状。

俺はそれに満足していることもあり、このバイトは1年間という長い期間続いている。

 

その中で、特に家庭教師をすることが多いのがこの女の子───所恵美である。

大学1年の冬からカテキョを始めて早1年。最初はお互い始めての体験であった為、距離感を測りきれずぎこちない節があったが試行錯誤の末に今ではフレンドリーに接することができている。

 

割と大変だったんだぞ。

読モやってることを恵美のお母さんに聴いてからお洒落について勉強したりとか、今どきの香水とか何やらの流行りに聡くなったりとか、頑張って話題を作ったりしたんだからな。

まあ、それも今では良い思い出だ。

何せ、その頑張りと引き換えに出来たのは確かな信頼関係。

『南宮先生』が『コタローセンセ』という呼び方に変わった瞬間は、本当に嬉しかったことを覚えている。

 

「コタローセンセは結婚観とかないの?」

 

さて、時刻は少しだけ進んで1時間後。

お勉強を終わらせて、一息ついていた所に───親切なご両親からお茶までご馳走してしまい申し訳ありませんと恵美に土下座して、それを見た恵美が苦笑いするといういつも通りの流れでお話をしていると、不意に恵美がそのようなことを尋ねる。

 

「結婚観?」

 

「んー‥‥‥例えばさ、どういう人と結婚したいとかー、どういう人がタイプだとか!」

 

ニシシと笑みを見せる恵美に、俺は少し困惑。

そんなこと聞かれるとは思ってもいなかったし、回答に対しての準備もしてなかった。

ううむ、困ったぞ。

 

「‥‥‥俺はまだ結婚とかは考えていないが」

 

当然だ。

まだまだバイトしかできない俺の経済力では誰かを養えないことくらい分かってる。

そして、就職したとしても直ぐには誰かを養えないことも分かっている。

ただ、その先───未来のことを考えたとして。

その未来に一緒に居て欲しい人が居るとするならば。

 

「温かいご飯と、暖かい家庭を一緒に作ってくれる人‥‥‥とか?」

 

これまた、本音だ。

結婚できるかどうかは先程も言ったように知らん。

だが、結婚するなら結婚して良かったと思える家庭を作りたい。

俺にとって、そんな家庭が暖かいご飯と家庭を一緒に作ってくれる家庭なのだ。

 

「へぇー‥‥‥じゃあさ!さっき言ってた麗花さんって人はコタローセンセの結婚観にピッタリ合うんじゃないの?」

 

「何故?」

 

「コタローセンセ、言ってたでしょ?都会暮らしに適応出来たのは麗花さんってヒトが家事をしてくれてるからって!」

 

またも目をキラキラさせる恵美。

彼女は高校1年生。順当に行けば恋やら愛に敏感な年齢故か、俺に対して良くこういう話をせがむことがある。

これが俗に言う恋バナって奴なのかね。

 

だが───

 

 

 

「いやぁ、麗花はないっすよ」

 

「ええっ!?」

 

「恵美は分かってない。奴がどれだけ生活力のない女なのかってのがな」

 

奴がもっときっちりとした生活が出来てれば、そもそも奴が俺の部屋にいることもないだろうし、麗花のお父さんもお母さんも幾ら幼馴染とはいえ俺の部屋に滞在させることもなかったろう。

割と苦渋の決断だったと思いやすぜ。

 

「まだまだ青いな、恵美。観察眼を鍛えて出直してこい」

 

俺が鼻高々とそう言うと、恵美は顔を膨らませてこちらを睨む。

その視線はジト目、ここに極まれりといった所か。

 

「むー‥‥‥そう言うならもっと教えてよ、麗花さんのコト!」

 

「聞くか?聞いちゃうか?よし、聞け」

 

「ん!いーよ‥‥‥ドンと来い!!」

 

 

 

 

そうして話を始めた俺と恵美。

話が終わった頃には、淹れられたお茶は既になくなっていた。

相対性理論とはこのことを言うのか。

どうでもいいがな。

 

 

 

 




「麗花さんってヒト可愛いじゃん!!これで家事もできるなら惚れない男はいないっしょ!」

「最初は風呂場を泡まみれにしてたけどな」

「え」

「白米を空焚きしたり、水々しいカレーを作ったり、野菜炒めの野菜を丸ごと炒めたり、隠し味に色んな材料入れて隠し味同士で喧嘩させたりとかしてたけどな」

「ええっ!?」

「恵美はそうならないように、家事できるようにしとけよ?」

「普通しないよ!!」

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