お節介   作:送検

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第5.5話 麗花の日記

 

 

 

 

明くる日の朝、私はこっくんが土曜日の講義に出ているあいだ自分のお部屋のお片付けをしていた。

こんな早朝からするものではないのだろうけど、ここはこっくんのお家。家の主の言うことはちゃんと聞きなさい、というこっくんの忠告通りに私は部屋をロボット掃除機と『激オチそうじ丸』をお供に掃除していた。

 

 

私が部屋の掃除を始めるようになったのは本当に唐突。

こっくん印の朝ご飯を食べながら、今日は何処に行こうかなーと考えていると、先に朝食を食べ終わったこっくんが私を見て、一言。

 

 

『お願いだから部屋を片付けて下さい!や、俺講義なんでたまには自分でお掃除してつかーさい!!』

 

 

唐突にそう切り出した言葉と同時に土下座するこっくん。

そこまで言うなら掃除するしかないよね。

なんだか了承した後に土下座した格好のまま、こっくんふるふる震えてたけどどうしたんだろう。私にはちょっと分からない。

 

 

 

閑話休題───

 

 

 

 

「‥‥‥あれ?」

 

ロボット掃除機をまともに機能させるために、まずは床の下に散らばったものをお掃除をしていると、不意にダンボール箱の中から1冊のノートが落ちてくる。

 

それは、少し薄めで表紙にはお花の写真が付いているノート。

私がそういったノートをこっくんのお家に持っていったものと言えば。

 

 

「わぁ、これって───」

 

言わずもがな、高校時代の日記帳である。

日記を書くことがほぼほぼ日課になっている私にとって、この日記帳は思い出の詰まった大切なもの。

特に、高校時代は文化祭に体育祭!色んなイベントやこっくんと過ごした沢山の日常を記した思い出が綴られている。

 

そんな日記帳に魅せられた私は、少しだけお掃除を休憩して床に膝を着いた状態でノートを見つめた。

ページを捲ると、そこに現れたのは簡単な絵と文字を交えた体育祭の記録───

 

「‥‥‥あはは!体育祭でこっくんコケたんだっけ!!」

 

思い出して見ればそうだった!

やけに短距離走に張り切っていた高校1年生のこっくん。

かなりの数を走って、自信も付けた状態で『さあ行くぞ!』って張り切って100メートル走に挑んだらスタート地点で見事にズッコケたんだ。

 

でも、その後も頑張って走ってて偉かったな〜。

他の人なら諦めて力を抜く人も居ると思うのに、こっくんは決して諦めないで戦った。

うん、ものすごい偉いと思う!

 

 

「後はー、後はー‥‥‥」

 

 

ページを捲っていく。

高2の思い出。こっくんとお蕎麦を食べた思い出───お蕎麦美味しかった!

サッカー観戦しに行った思い出───まさか地元のクラブの声援がここまで大きいとは思わなかった!

 

ページをめくる手は止まらない。

尚も秋、冬、新年と日記帳はどんどん消化されて、高校2年生の卒業式が終わって────

 

 

 

 

 

 

そこからの日記帳に、少しだけ空白が出来ていた。

 

 

 

 

「‥‥‥あー」

 

ここの空白のこと、覚えてる。

確か、ここの空白期間───何をしても楽しくなくてネタ切れみたいな感じになっちゃったんだっけかな。

でも、今ではそれも良い思い出!

この数ページ後には夏の思い出がぎっしり書かれてる。

書こうと思えば、空白期間の所から書けたけど、それはなんとなく嫌だった。

人並みにうんと悩んだ思い出が、その空白期間には記されている気がしたから。

 

 

この空白を見れば、あの時に抱いた大切な気持ちを何度だって思い出せそうな気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むかーし、むかし。ある所に男の子と女の子がいました。

男の子は、とっても無愛想でいつも女の子を突き放します。

だけど、そんな男の子が時々見せる笑みが女の子にとっては、とっても嬉しいのです。

私が色んなことをした時に、本当に時々見せる呆れつつもちゃんと私を見て笑ってくれる、そんな男の子の笑顔が、女の子は大好きなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっとずっと、この時が続けばいいのに───なんて思う日があった。

慣れ親しんだ故郷で、こっくんや友達の皆といつまでも笑顔になれる日々を作っていければいい───それさえあれば良いと思う時があった。

 

けど、高校生になって皆がそれぞれの進路を決めて。

その流れの中で私は自分も変わらなくちゃいけないって思って。

けど、今の生活が好きな私との間で一種のジレンマみたいなものに嵌っちゃって、一時期元気がなくなっちゃった時があったんだ。

 

楽しい筈の日常が、楽しくない。

嬉しさよりもお別れの寂しさばかりが頭を過ぎる。

だからかな、一時期はこっくんと一緒に登校してる時もあんまりお話することがなくなっちゃっていた。

 

そんな日が何度も続いていて、今までの朝のこっくんはずっと無口でいたんだけど、夏休みの前。

丁度6月が終わろうとしてた頃に、唐突に登校中のこっくんが私の顔を覗き込み、自分から話しかけてきた。

 

今の今まで、朝に弱いこっくんが自発的に話すことなんて見たことのなかった私は、こっくんのその姿にびっくりする。

そんな私の表情が滑稽だったのかな、こっくんは少しだけ呆れ笑いを浮かべつつ私に話しかけてきた。

 

『なあ』

 

『ん?』

 

『お前さ、やりたいこととかあるか?』

 

『えっ、やりたいこと‥‥‥?』

 

『もし、行きたいところがないなら俺と一緒にキャンパスライフでも送ってみないか?』

 

 

あまりに意外なこっくんのその一言に、最初は更にビックリしたけど、それ以上に私は嬉しくなった。

何が嬉しかったのかって、今まで私に付いてきてくれたこっくんが初めて私に道を示してくれて。

こんな私でも、まだ誰かと離れ離れにならなくて済む。それも、こっくんと一緒に大学へ行ける。

 

とっても嬉しかった。

けど、少し不安にもなった。

 

ここ最近、浮かない顔つきをしていた私は何度もこっくんに心配されていた。

 

例えば、何時もの私がぽけーっとしてた時。こっくんは私をアイアンクローで目覚めさせてくれるのだけど、最近のこっくんはしっかりと私の肩を揺すって目覚めさせてくれる。

 

それは、私にとっては大きな違い。

普段武力行使を厭わないこっくんがそうしてくれたときは、本当に真面目な気持ちで私に向き合ってくれてる時。

 

最近、ぽけーっとしてた時が何度も続いてた。

こっくんもその分私を心配してくれていた。

だからこそ、思った。

 

 

 

 

こっくん、私のこと考えて無理してないのかな───と。

 

今まで何度も回答をはぐらかしてきたけど、もしかしたらこっくんに悟られちゃったかも。

だから、普段あんまり提案なんかしないこっくんが今の私に、提案してくれたのかな。

 

その旨を伝える。

すると、こっくんはまるで有り得ないものを見るかのような引き攣った顔付きで私を見た。

何か変なこと言っちゃったのかな───なんて思ってたら案の定、こっくんにとって私の言ったことは変なことだったらしい。

 

 

『あ?何言ってんだ。別にテメエの人生なんだし、行きたくなきゃ行かなきゃいい。けどな、いっそ選ぶなら、お前の後悔しない道を選べよ。その後悔したくない道ってのがまだ見つからねえなら‥‥‥俺が見つかるまで傍に居てやる』

 

その声は、いつもの尖った声じゃなかった。

何処か優しい声色で、何時ものイケイケドンドンなこっくんじゃなかった。

ツンとデレを数値化したのなら間違いなくツンの比率が高いこっくんが、デレと取ってもおかしくない態度で私のことを考えてくれた。

 

嬉しかった。

だからかな、私もその誘いに2つ返事で了承したんだ。

 

『‥‥‥えへへ』

 

『あ?』

 

『私、こっくんと同じ大学に行く!』

 

そんな決意表明とも取れる言葉を残して。

 

それから、私の選択は早かった。

とんとん拍子に勉強、合格、引越しと進み一足先に東京へと赴いたこっくんに会いに、新幹線へ向かう。

友達は、私の東京行きを悲しんでくれていた。

また今度、こっくんも連れて帰ってくるって行ったらやや苦い顔をされて『爆発しろ』とか言われた。

どういう意味だろ?

ちょっと分からなかったな。

悲しんでくれる友達と、少し生暖かい目付きを浮かべている友達を背に、私は故郷に別れを告げた。

 

 

 

離れそうになっても、離れない。

いつも近くにいてくれる。

そんなこっくんは、私にとって大切な存在。

日記には、沢山のこっくんとの思い出が記されている。

これからも、こっくんと一緒に思い出を増やしていきたかったから、私は故郷を飛び出したんだ。

 

 

そして、いつかこっくんに胸を張って伝えられる夢を見つけたい───なんて、少し思ったりしながら私はホームでキョロキョロしてるこっくんに手を振る。

 

『おーい!!こっくーん!!』

 

『ああ、そこに居たか麗花。全く、何して‥‥‥え、ちょっと待って?その大量の荷物は何?』

 

驚いて、目を見開いているこっくん。

口角は少しだけ上がっていて、顔が引きつっているのが目に見えた。

その中で、私はニコリと笑みを見せる。

これからの暮らしに想いを馳せて。

未来への展望に胸を弾ませて。

そして───いつか、こっくんを頼らなくてもいいように、ちゃんとした『夢』を見つけるために。

 

 

『よろしくね♪』

 

 

『枯太郎』くん。

しばらく、お世話になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥懐かしいなぁ」

 

 

 

まあ、あれだよ。あれ。

何だかんだ今の暮らしは上手くいってると思うんだ。

最初は仕送りでいっぱいになった通帳を持ってこっくんに笑いかけたらアイアンクローされたり、お風呂をあわあわまみれにして、こっくんに頬を引っ張られたり色々あったけど、最近はちゃんと家事ができるようになった。

 

こっくん、私が初めてまともな料理を作った時凄い驚いてなぁ。失礼しちゃうよ、全く。

 

 

 

それでも、そんなこっくんが私は好き。

ちょっと失礼だけど、いつも一緒に居てくれるこっくんも、無愛想なくせに、たまに笑いかけてくれるこっくんも、私が同じヘマした時でもなんだかんだ許してくれるこっくんも、全部好き。

 

なんとなーく、ずっと一緒にいたいって思わせてくれるこっくんが大好きなんだ。

 

 

 

「せいり、せいとん、とんとーん♬︎っと‥‥‥?」

 

こっくんに言われたお片付けをしていると、不意に見つけたもう1つの日記。

わぁ、私が小学生の頃の日記だ!

 

これまた懐かしいなぁ〜

確か、随分前に書いたっきりそのままどこかに放っといちゃったんだろう。

ホコリ被ってて、少し煙い。

 

音楽会、運動会♪

 

この頃はこっくんもちっこくて可愛かったな。ちゃんと人並みに笑えてたし、ニッコリと笑みも見せてくれた。

けど、今は無愛想でなかなかニコリと笑ってくれない───ま、優しいこっくんでいることには変わりないんだけどー‥‥‥

 

やっぱり、こっくんには笑ってて欲しいな。

何時か、小学生みたいに声高に笑えたら良いな。

そしたら、嘘抜きでみんながハッピーになれると思うんだ。

 

 

だって、こっくんの笑みは────

 

 

 

 

 

「あ!これも懐かしい!!」

 

バレンタインデーとホワイトデーは家族間でよくやり取りをしてた。お母さんと一緒に作ったチョコをこっくんに渡して、その後こっくんがホワイトデーで色んなものを買ってくれたんだ。

例えば、登山用のシューズ!

後は激オチそうじ丸!

勿論、お菓子とかも貰ったけど激オチそうじ丸を貰った時は嬉しかったなー。

 

 

 

 

ページを捲る。

すると、案の定ホワイトデーのことが書かれてて、似顔絵と共に綴られた日記帳に。

 

 

 

 

3月14日

ホワイトデー!

こっくんが私の頼んだものを全部買ってくれてとっても幸せ♪

嬉しくて、嬉しくてキスしちゃった!

気絶したこっくん、かわいいなぁ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の思考回路は、ショートした。

 

 

「‥‥‥キス?」

 

それって、カードとかに付いていると値段が下がるとかそういうものじゃなくて?キズじゃなくて、キス?

 

 

 

きす、キス‥‥‥キッ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜!?!?!?」

 

 

 

キス!?

 

 

 

キスなんてしてたっけ!?

いやいやいや、ちょっと待って‥‥‥!!

キスって‥‥‥お魚の方じゃなくて?

こっくんと、私が‥‥‥キ、キキ‥‥‥

 

 

 

 

 

「〜〜〜!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥いや、お前なにしてんの?」

 

今日1日、こっくんの顔を直視できないかもしれない。

そんな想いを抱きつつ、いつの間に帰ってきたこっくんに変な目で見られながら、私の思い出巡りは終わりました。

 

 

 

 

 

 




恋愛感情?
そんなの2人の間にあるわけないだろいい加減にしろ!
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