お節介   作:送検

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第7話

 

 

 

 

 

 

 

「コタローちゃんはさ、もっと感情を表に出しても良いと思うんだよ」

 

時刻は3時過ぎ。

未だに家に持ち帰れていないプリンを片手に、俺と俺を助けてくれたアカネチャンとやらはプリンパフェを食べながら談笑をしていた。

 

最近流行りらしいカフェ。

そこにはたくさんのカップルがそれぞれの青春を慈しんでおり、そこら中に甘い空気が蔓延している。

確かに1人では敷居が高いな‥‥‥なんて思いながらアカネチャンの話を聴いていると、不意にそんなことを言われたものだから思わず目線を自分の頼んだコーヒーからアカネチャンの顔面へと向けた。

 

「感情?」

 

「あのね、ヤンキーは人畜無害そうな相手を狙うワケ。即ちヤツらはハイエナなんだよ。その気になれば茜ちゃんをも襲いかねないハイエナなんだよ!!」

 

「あの、そういうの自分で言ってて恥ずかしくないんすか?」

 

「何で?だって茜ちゃんはカワイイじゃん」

 

そりゃそうだが。

そんなこと大っぴらに自負できる奴なんてそうそういねーぞ。

果たして何を飲めばそんな自信家になれるんだ。

オシャンティーなカフェか?

爪の垢か?

 

「兎に角!コタローちゃんはもっと感情を表に出すプロフェッサーになるべきなのだ!自信が付けば未来が見える!未来が見えれば世界が変わる!!」

 

「へぇー、あれだな。まるで何処ぞの宗教団体みたいな殺し文句だな」

 

「‥‥‥コタローちゃんってさ、かなりハードな人生生きてない?」

 

「何でさ」

 

「さっきから茜ちゃんのありがたーいお言葉を!!皮肉で返してばっかじゃん!!フツーそんな皮肉ポンポン出ないからね!?割と傷付いて茜ちゃん泣くよ!?」

 

いや、逆に泣かれたらこっちが困るわ。

俺はいつも通り、俺でいるわけであってこの話し方を変えることはできない。

皮肉に関しては勘弁してくれ、思ったことをポンポン躊躇いなく言う悪癖が幼馴染のせいで身についてしまったんだ。

 

「ほら、そんなこと言ってないで食えよパフェ。美味いだろ?」

 

「なんだかはぐらかされた気もするけど‥‥‥ま、いっか」

 

ため息を吐きつつもプリンパフェを食べる為にスプーンをせっせと動かすアカネチャン。

プリンパフェの甘さは彼女の趣味嗜好に合致したのだろうか、頬を緩めて笑みを見せる。

そういう顔をしてくれるのなら、こちらとしても奢った甲斐があるってものだろうか。

 

 

 

「感情‥‥‥ね」

 

まあ、思い当たる節はある。

元々表情をコロコロ変えるのは不得手な男だ。

そのせいで麗花に侘しい思いをさせたこともある。

 

奴は、奴の関わる皆が笑顔でいてほしいと願う心根は至極真っ当な優しい女の子だ。

だからこそ、俺も笑ってくれれば幸せだと彼女は言う。何度も、この前も言われた。

 

が、彼女の要望通りにはなかなか上手くいかないのだ。

元々のスキルもある。

何度も何度も『意図的に』笑おうとしたが、なかなか上手くいかん。

 

「‥‥‥感情を表に出すのは良い事だと思うが仮に今の俺が笑うとこうなるぞ」

 

そう言って、俺は幸せの感情をイメージしながら笑う。

結果は見事な程に失礼な鼻笑い。

これがあるから感情を表に出すのは嫌なのだ。

 

「うっわー‥‥‥酷いねそれ。因みに何を想像したのさ」

 

「‥‥‥幸せな感情」

 

「コタローちゃんの幸せは鼻笑いで済ませられるものなの!?逆に凄いと思うよそれ!?」

 

だろ?

その割に、まともな笑みを見せることは苦手なんだ。

ここまで来ると1周回って自分の笑みに嫌気がさしてくる。

この苦しみが分かるだろうか。少なくともアンタにゃ分からねえだろう、はっはー。

 

「ま、俺の生まれ持つセンスってことでここはひとつ」

 

「そんなんじゃ絶対済ませられないって‥‥‥」

 

時は過ぎていく。

目の前の景色だって、いつかは変わっていくもの。

その中で、俺のこの表情と麗花の天然っぷりは環境が変わろうが、さして変わるものではなかった。

この先、これからこの光景が変わることはあるのかね。

まあ、今の俺には到底理解しえないものだろうさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーヒーの味は上々だったと言えよう。

金をかけて飲むくらいの価値はあった。

アカネチャンも満足そうであったからな、痛い出費ではなかったと個人的には思っている。

 

アカネチャンと別れて徒歩で家まで歩くこと早10分。俺にとってのエデンでもあるマンション5階の一部屋。

そこにたどり着くや否やプリンを冷やして料理の支度。

簡単に作ることの出来る野菜炒めで今日は勝負だ。

 

 

 

 

 

 

「美味しーい!」

 

 

勝負には勝った。

味見の段階で美味しいと言われて嬉しくない訳がない。

内心、ガッツポーズをしながらほくそ笑む。俺の料理にケチを付けられたことは1度としてないものの、こうして食べてもらった人に美味しいと言われるのは心にくるものがある。

 

「そうか、だが今日はプリンを用意してるからな。食いたきゃ野菜炒めは食いすぎるなよ」

 

「はーい」

 

鼻歌を歌いながら野菜を更に炒めていく。

すると、俺の何かを察したのか麗花が後ろから声をかける。

 

「こっくん、何か嬉しいことでもあった?」

 

「何故?」

 

「んー、何か楽しそうなオーラがしたから!」

 

楽しそうな、オーラね。

そりゃまた結構な宇宙人発言だ。

ただ、麗花のそういう予感的な何かは全て的中する。

恐ろしいもんだ。

 

「まあ、な」

 

「やっぱり!どんなこと?」

 

「大したことじゃないぞ?ただ単に、さっき言ったプリンを買いに行った時に友達ができたってだけでな」

 

本当に大したことではない。

が、それを言うと麗花は本当に目をキラキラさせるものだから仕方ない。

果たして麗花の立場的には今の俺の話にどれだけの価値があったのか、聞いてみたいものだ。

 

「こっくんの大したことないは大したことあるの裏返しだからねー」

 

「え、待って。意味が分からないんですけど」

 

「だってこっくん、進んで友達を作りたがるタイプじゃないでしょ?」

 

む。

それを言われてみればそうだが。

確かに俺は積極的に友達を作るタイプではない。

表面上の友達は作るが『皆でパーティ!!イャッフゥゥゥゥゥ!!!!』的なノリは苦手故に友達と遊びにも行かない。

チャラ男が星のように居る都会では、メシに誘われることも多かった。今ではパタリと尾を引いているが。

 

「だから、こっくんが友達を作るのは私的に凄い嬉しいのと同時に、驚愕の事実なんだ!」

 

「‥‥‥そういうものなのね」

 

改めて麗花の中で俺の話題がどれだけ大したことなのかが分かったような気がする。

 

つまり奴の中では俺という人間が友達を作るのは麗花的にはネズミがライオンに勝つことよりも有り得ないことであり、なんだかんだ嬉しい───ということ。

 

うむ。

単刀直入に言わせろ。

 

「俺だって友達の1人くらい作るわ。お前が見てないだけでな」

 

そう、俺は表面上は友達擬きを作れる。

何もコミュ障って訳じゃないってことを理解して欲しいわけなのだが麗花にはそんな詭弁通用せず、ニコニコ笑顔で俺の詭弁を弾き飛ばす。

 

「えー、うそだー。だってこっくん長野に居た時も私とばっか遊んでたじゃん」

 

「ばっかお前。年がら年中お前と居たか?俺はお前といない時間に友達と遊んだりしてた。それが事実なんだ」

 

「えー、ずっと一緒にいたと思うんだけどなー」

 

そ、そりゃお前の気のせいだ。

週にいっぺんくらいは友達と遊んでいた。

まあ、浅い交友関係ではあったのだが。

 

麗花が冷蔵庫を開けて、買ってきたプリンを見つける。

『わあっ』と驚きつつも、麗花はプリンではなく俺を笑顔で見つめる。

なんだろう、いつも通りの筈の視線が痛い。

 

「でも、嬉しいなぁ」

 

「‥‥‥」

 

「えへへ、こっくんに友達できて嬉しいなぁー♪」

 

「‥‥‥ヘルプミー」

 

自分が惨めに思えてきた。

アカネチャン助けて、麗花が虐めるよ。

 

 

 

 

 

 

 

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