まだ夏の暑さが残るある日の母港。
書類作業をある程度片付けた指揮官は昼食を済ませた後、息抜きの為に学園内を散歩していた。そこで彼はある光景を目にする。
「ん? あれはコメットとクレセントか……?」
物陰に身を
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
「ひゃぁ!?」
「あ、指揮官」
突然話しかけられた事に驚いてクレセントは声を出す。対照的にコメットは普段通りに指揮官に応じる。
「びっくりした……じゃなくて、何しに来たのよ!」
「休憩だよ。そっちこそ、二人して隠れて何見てたんだよ。ってか、シグニットはどうした?」
いつもはCクラスの三人でよく一緒にいるはずだが、今日はそのシグニットの姿が見当たらない。
「それが……」
と、コメットが先程まで見ていたところに視線を戻す。指揮官もそれに
視線の先には指揮官が声をかけるまでのコメットとクレセントと同じように、隠れながら何かを見ているアーク・ロイヤルがいた。
「アークロイヤル……? アイツがまた何かやらかしたのか?」
「今はまだああして見てるだけなんだけど……」
――それいつも通りじゃねぇか。
「アークロイヤルさんが見てる部屋なんですけど、あの中にシグニットがいるんです」
コメットにそう言われた指揮官は、改めてアーク・ロイヤルが中を覗いている部屋を見る。
「あの部屋って、確か資料室……ってか図書室だったよな?」
「そこにシグニットがどんな用があるのか、実は私達も知らないんだけどね……とにかく、そこにシグニットが入ってくのが見えたから私達も入ろうと思ったら、既にアークロイヤルさんがいたってわけ」
クレセントの説明に、指揮官は「なるほど」と返す。
その時、物陰から図書室――の中にいるはずのシグニット――を見ていたアーク・ロイヤルが突如「危ないッ!」と叫んで図書室に走って行く。それと同時に中から大きな物音と、続けてシグニットがアーク・ロイヤルの名を呼ぶ声が聞こえた。
「おい、俺達も行くぞ!」
「はいっ!」
「ちょっと!?」
三人が図書室へ足を踏み入れると、そこには沢山の資料が散乱している床に倒れるシグニットと、その上に覆いかぶさりながらも気を失っているアーク・ロイヤルの姿があった。
「シグニット大丈夫!?」
「このロリコンめ、遂にやりやがったか……」
「これは海軍部に通報ね」
コメットはシグニットを心配しているが、指揮官とクレセントは気絶しているアーク・ロイヤルへ冷たい視線を向ける。
「うぅ、アークロイヤルさんが
「庇った? コイツがか?」
指揮官はアーク・ロイヤルを引き剥がしながらも
「うん、うちの事を助けてくれたの……」
シグニットは立ち上がりながら、この状況へ至った経緯を話し始める。
◇
「えへへ、実家じゃ読めなかった本がこんなにあるなんて幸せだよぉ……」
表情を
「あっ、これ……昔読んだ本だぁ!」
偶然、上段に見つけた懐かしいハードカバーの背表紙とタイトルに、思わず彼女の手が伸びた。
しかし、
「あ、あれ……? うぐぐ……!」
ぎっしりと詰まった本棚からその本を引き抜けず、シグニットは力の限り引っ張る。少しして目当ての本が動き始め、それが分かった彼女はより力を込めて引き抜いた。
その時――
「危ないッ!」
「え? きゃっ!?」
誰かの声が聞こえて倒されたかと思った瞬間、突如としてシグニットの視界には自身を押し倒した人物――アーク・ロイヤルの姿と、彼女の上に降り注ぐ大量の本が見えた。
「ぐっ……!」
「アークロイヤルさん!?」
アーク・ロイヤルはその身でシグニットを護るように覆い被さる。何冊かの本が庇っている彼女の身体に当たり、その衝撃は思わず声が漏れてしまう程であった。
「あ、アークロイヤルさん大丈夫……?」
「つつ……シグニットちゃんこそ大丈夫かい?」
「うちは大丈夫だけど……」
シグニットの無事を確認したアーク・ロイヤルは彼女の手を取って起き上がろうとする。
しかしこれで終わったと油断して、立とうとしていたアーク・ロイヤルの後頭部へ、残っていた最後の一冊が落下してきた。
「がっ……!」
「ふぇ!?」
ハードカバーの本が頭に直撃したアーク・ロイヤルはシグニットの上に倒れ込み、そのまま気を失ってしまう。
丁度そのタイミングで図書室へ指揮官とコメット、クレセントの三人がやって来たのだった。
◇
シグニットの話を聞き終えた三人は散らかってしまった本を戻して、アーク・ロイヤルを医務室へと運んでいた。
「ヴェスタル、いるか?」
「は~い。あら、指揮官とCクラスのみんなに……アークロイヤルさん? どうしたんですか?」
出迎えたヴェスタルは、医務室にやって来た四人――更に指揮官に背負われているアーク・ロイヤルを見て不思議そうな顔を浮かべる。
「詳しい事は後で話すが、
「分かりました~」
背負っていたアーク・ロイヤルを指揮官がベッドに寝かせると、ヴェスタルはすぐに診察を始めた。その様子を指揮官が
「どうだ?」
「うーん、特に大きな外傷は見当たりませんね~。頭に出来た大きめのたんこぶぐらいでしょうか~?」
「あとで背中も診てやってくれ」
「どうしたんですか?」
「ハードカバー本の
指揮官の言葉に、シグニットが思わず恥ずかしそうに
「なるほど、そう言う事だったんですね~」
その様子を見たヴェスタルは納得して頷く。と、指揮官は自分の腕時計に目を向ける。
「やべっ、休憩時間終わってる! すまんが報告とかは後でよろしく!」
そう言って彼は医務室を出て行った。
「行っちゃった……」
「指揮官も忙しいですからね~。あ、シグニットちゃんも怪我がないか、念の為診るので服を脱いでくださいね~」
「うぅ、そんな~……」
× × ×
昼の出来事から少し経って――
「は? アーク・ロイヤルの様子がおかしい?」
診察を任せたヴェスタルの報告を聴いた指揮官の反応は、怪訝な顔を見せた。
どうやらアーク・ロイヤルは無事に目を覚ましたようだが、ヴェスタルの報告によると万全ではないらしい。
「アイツがおかしいのはいつもの事だろ?」
そんな事まで言う指揮官に、思わずヴェスタルも苦笑いを返してしまう。
「流石に所属しているKAN-SENの事をそう言うのはどうなんだ? 指揮官」
話を聞いていた秘書艦――エンタープライズもつい口を出してしまった。
「だってアークロイヤルだぞ」
「確かにそうかもしれないが……」
「それが、いつもの感じじゃないんです」
「いつもの感じじゃない?」
ヴェスタルが言ういつもの感じも大概変――と言うより変質者であるが、それが常態化しているアーク・ロイヤルに限って言えばそうではない彼女は逆におかしい、と言う事であった。
「その、指揮官が直接現状を見た方が良いかと……」
「いいのか?」
指揮官はエンタープライズを見る。
「そうだな。仕事は今日の分は
「私も出来る限り、エンタープライズちゃんのお手伝いをしますので」
ヴェスタルとエンタープライズの二人にそう言われては、指揮官も渋々であったが納得してアーク・ロイヤルの様子を見に行く事にした。
「分かったよ。じゃあ何かあったらすぐ呼んでくれ」
「ああ」
「はい」
医務室の前に来た指揮官は、扉を開ける前にノックする。いつもと違うアーク・ロイヤルというものに
「アークロイヤル、入ってもいいか?」
「閣下? 別に構わないぞ」
――今の応答は普段通りか……。
気を取り直して医務室に入ると、そこには運んだ時と変わらぬ格好で立っている彼女がいた。
「もう動いていいのか?」
「まだ背中や頭は痛いが、特に問題はないぞ」
そう口にするアーク・ロイヤルに指揮官は安心する。
しかし、
「それよりも閣下。シグニットちゃんは大丈夫だろうか? よく覚えていないんだが、確か私は彼女を助けようとしたはずなんだ」
この言葉に、指揮官は多少の違和感を覚えた。
彼女がシグニットを助けた際に頭を打って気を失ったのは事実だ。それはシグニット本人からも聞いている。
違和感の正体はそこではない。
――駆逐艦の話なのに、アークロイヤルの言動が普通過ぎないか……?
「閣下?」
「あ、ああ……それなら大丈夫だぞ。シグニットはお前のおかげで怪我一つない」
「そうか、それは何よりだ」
頬笑みすら浮かべながら答えるアーク・ロイヤルに、指揮官の違和感はより強くなっていく。
――いつもなら駆逐艦が無事、と言うだけでもっとテンションが高くなるはずだが……こうなったらこれを使ってみるか。
そう考えた指揮官は、懐からある物を取り出す。
「……ところでアークロイヤル、これをどう思う?」
「これは――」
彼が見せたのは、昼寝をしているラフィーやカッシンの写真だった。普段のアーク・ロイヤルならこれで興奮するはずだと――
「閣下……人の趣味にとやかく言うつもりはないが、こういうのを持ち歩くのは感心しないぞ?」
「――は?」
アーク・ロイヤルから放たれた言葉に、指揮官は衝撃のあまり手にしていた写真を落としてしまった。
執務室に戻った指揮官は未だに先程の出来事が信じられずにいた。戻ってくる途中でヴェスタルとすれ違ったが、彼はその事に気を回せない程だった。
「指揮官、大丈夫か?」
エンタープライズは声をかけながら、コーヒーを
「エンタープライズ……」
「アークロイヤルの事は私もヴェスタルから聞いている。それはそれで良かったのでは?」
「良かったってなぁ……」
彼女の言い分も分からなくはない。普段のアーク・ロイヤルは駆逐艦を影から――時には堂々と――見守っているが、その様子は
「“駆逐艦が絡まず、黙っていればカッコいいのに”とか“クール美女だと思ってたのに”とか以前から言われてたじゃないか」
「お前も容赦ないな……」
「秘書艦として何度も手を焼かされているからな」
そう言いながらエンタープライズは笑う。それにつられて指揮官も笑みを浮かべる。
「ははっ、確かにそうだな……でも――」
「うん?」
「――でも、やっぱり俺の知ってるアークロイヤルは実は可愛い物好きのロリコンだから、戻ってもらわねぇと調子が狂うわ」
そう言ってコーヒーを一気に流し込むと、一枚の指令書を掴む。
「とりあえず、これで様子見するか」
「明日のパトロール任務だが……いいのか?」
「危なくなったらすぐに下げる。一応、お前も一緒に行くぞ」
エンタープライズは頷く。
「前衛は?」
「何か反応があるかもしれないから、駆逐艦にしよう」
「分かった」
こうして指揮官とエンタープライズは明日の任務の予定を立てていった。
× × ×
翌日。
エンタープライズとヴェスタルに、少し時間をずらしてアーク・ロイヤルと共に来てもらうように頼んだ指揮官は、港でアーク・ロイヤル達を待っている間に、パトロール任務の前衛として選んだCクラスの三人に昨日の事を聞いていた。
「で、俺が行った後に目覚めたアークロイヤルはああなってたと」
「うん……うちのせいだって思って泣いちゃったんだけど……」
「そしたらアークロイヤルさん、シグニットに泣かなくても平気だって言って頭を撫でたのよ」
――やってる事ただのイケメンじゃねぇか……。
「その時のアークロイヤルさん、優しく笑ってました」
シグニットやクレセントはもちろん、あのコメットですら不安げな表情で話す。
「……これは俺の
彼はそう言って三人の顔を見る。
「ま、いつものアークロイヤルさんって駆逐艦の事になるとちょっと気持ち悪いけど、今のアークロイヤルさんはなんかもっと気持ち悪いし、私も協力するわ!」
「何もそこまで言わなくても……」
クレセントの
「うちは……」
シグニットは胸の前で両手を強く握る。
「うちのせいでアークロイヤルさんはあんな風になっちゃったんだから、うちも頑張るよ指揮官……!」
「もちろんコメットちゃんも協力しますよっ!」
「三人とも……ありがとう」
感謝と共に指揮官は頭を下げた。
「お待たせしました~」
ヴェスタルの声が聞こえた方を見ると、彼女とエンタープライズ、アーク・ロイヤルの三人の姿が見えた。
「アークロイヤル、調子はどうだ?」
指揮官が問いかける。するとアーク・ロイヤルは海に向かって走り、地を蹴って大きく飛ぶと同時に、その身に艤装を
「身体の痛みもない。いつでも行けるぞ!」
海上に降り立ってそう言った彼女はニッと笑みを見せた。
「……よし。ではこれより、近海のパトロールを始める。各員出撃!」
◇
クレセントを先頭に、コメット、シグニット、アーク・ロイヤル、エンタープライズ、ヴェスタルの順番で隊列を組み、さらにその後方を指揮官が乗る艦船が続く。
前衛の三人は周囲を警戒しながら進み、後続のエンタープライズが偵察の為に数機の艦載機を展開させる。
「しかし、閣下とエンタープライズまで一緒に来て良かったのかい?」
警戒はそのままにアーク・ロイヤルが尋ねる。
「母港からそこまで離れていないし大丈夫だ。それに向こうにはウェールズやベルファスト、クリーブランド達もいる」
「緊急の事態なら私だけでもすぐに戻る」
エンタープライズも周囲に目を向けながら答える。
「今のお前を戦闘に出してもいいかどうかを、俺とエンタープライズが確認しなきゃならんってのが一番の理由だがな」
「別に私は問題ないと思うのだが……」
「……自分じゃ気付けない事もあるだろ」
アーク・ロイヤルに聞こえないよう口にした指揮官だが、思わずその表情は険しいものになってしまう。
「ん? 閣下、今何か言ったか?」
「いや――」
「セイレーンの艦隊を発見!」
指揮官の言葉を
「規模は?」
「……一隻の
――この辺りにしては随分な規模だな……。
「戦艦型が旗艦だな……まだ周りにもいるかもしれないから警戒は
艦隊のそれぞれが「了解」と応えると、敵艦隊にも動きが見られた。
「向こうも戦闘態勢に入ったな……駆逐艦二隻と重巡二隻が前に出たぞ」
「やってやるわ!」
「コメットちゃんも頑張りますよ!」
「う、うちも頑張るっ!」
エンタープライズの報告を聞いた前衛の三人は主砲を前方に向ける。
「アークロイヤル、本当に問題ないんだな?」
「全く、閣下は心配性だな」
ライフルのような飛行甲板にソードフィッシュ中隊の発進準備をするアーク・ロイヤルは、指揮官――が乗る艦船――に笑って見せた。
「……よし、全艦戦闘用意! ヴェスタルは
「はいっ!」
指揮官の号令で、ヴェスタルを除いた五人は戦闘速度でセイレーン艦隊に迫る。
前衛の三人は敵艦隊が主砲の射程内に入ると、まずは煙幕を
そんな中、クレセントは魚雷の発射態勢に入った。
「先制魚雷行くわよッ!」
「任せて!」
「う、うんっ!」
クレセントの合図で二人も魚雷発射管を展開させる。
「いっけぇーッ!」
煙幕で視界は不明瞭だったが、展張前の位置と敵艦の進行方向を予測していた三人は、ほぼ同時に魚雷をそれぞれの方向へと発射した。
果たして煙幕の向こう側から、二つの爆発音が聞こえてくる。
「当たったぁ!」
「喜ぶのはいいけど油断しないでよ、シグニット!」
「そう言うクレセントも、顔が嬉しそうだよ?」
「こ、コメット! そんな事言わなくていいから!」
三人がそんなやり取りをしていると煙幕の効果が切れたようだ。
視界が開けると、駆逐艦型と重巡洋艦型が一隻ずつ魚雷で轟沈しているのが見えた。
「よし、まだまだやるわよッ!」
クレセントが先陣を切って敵艦隊に突っ込む。その後をコメットとシグニットも続いて行った。
「流石、指揮官の下で古参なだけはある」
Cクラスの三人を後方から見守るエンタープライズは上空から艦載機に偵察させながら、彼女達の活躍に感心する。
「そっちはどうなんだ、アークロイヤル?」
「準備は万端だよ。ソードフィッシュ中隊、出撃!」
エンタープライズの質問に答えたアーク・ロイヤルは、撃ち放つようにソードフィッシュを発進させた。目標は敵の旗艦である戦艦型。
「意思を持たない量産型とは言え、頭を潰してしまえば!」
ソードフィッシュ隊を敵陣の左翼から侵入させて戦艦型へと全機の航空魚雷を投下する。そのままであれば直撃するコースだ。
しかし、
「な……!」
アーク・ロイヤルは驚愕する。
その理由は戦艦型の後方にいた軽巡洋艦型と、さらにその後ろにいた駆逐艦型が、まるで戦艦型をソードフィッシュの魚雷から護るように進出してきたのだ。
発射された魚雷は進路の変更が出来ない。果たして軽巡洋艦型と駆逐艦型は魚雷によって沈められたが、戦艦型はその二隻によって護られ未だ健在であった。
「すまないエンタープライズ、こちらは再装填まで時間が掛かる」
「ああ、後はこちらで――」
エンタープライズが「任せろ」という言葉は、セイレーンの戦艦型による砲撃音によってかき消された。
「くっ!」
「厄介だな……!」
狙われた二人は即座に回避行動を取る。敵弾は先程まで彼女達が立っていた場所の近くに着弾して、大きな水柱を上げた。
アーク・ロイヤルとエンタープライズが避けているその間に、戦艦型はもう一基の砲塔を、主砲で駆逐艦型を沈めたCクラス三人に向ける。
「まずい!」
「アークロイヤル! 待て!」
戦艦型の主砲が自分達に向けられているのを、駆逐艦型を沈めて重巡洋艦型に気を引かれているクレセント達は気付いていない。
「コメット、シグニット、次は
重巡洋艦型の攻撃を避けながらクレセントは二人に標的を示す。
だが、
「クレセント! 二人を連れて一度下がれ!」
突如として無線機から指揮官の叫び声が聞こえた。
「何よ!」
その声で動きが止まった三人に対し、戦艦型の砲撃が襲来する。
「きゃっ!?」
「ふえぇぇ!?」
「間に合わなかったか……煙幕は使えないか!?」
「まだ再装填が……!」
煙幕はまだ使えない。どうにか逃げようとするが、戦艦型はさらに三基目の砲塔で砲撃を始めた。それはシグニットを狙った
「シグニット!」
「逃げなさいッ!」
コメットとクレセントは叫ぶが、重巡洋艦型の砲撃もありシグニットは動けない。
そして、戦艦型がシグニットへ砲撃。それは直撃する弾道であった。
「っ!」
シグニットは
その時――
「うおおぉぉぉぉぉッ!!!!」
「アークロイヤルさん!?」
敵弾とシグニットの間に割って入ったアーク・ロイヤルは、手にしていたライフル型の飛行甲板を迫り来る砲弾へと差し向ける。
「妹たちはやらせないッ!」
そう言葉にした彼女に、戦艦型の砲弾が直撃した。
◇
「う……ここは……」
目覚めたアーク・ロイヤルは、辺りを見回す。
「医務室……?」
まだ頭がぼんやりとする状態ではあったが、自分が寝ている場所が母港にある医務室のベッドであったのは理解出来た。
「目が覚めましたか?」
「ヴェスタル……」
「今、指揮官を呼んできますから、そのまま寝ててくださいね?」
ヴェスタルはそう言って笑みを浮かべると、一度医務室を出て行った。
しばらくすると指揮官とヴェスタル、そしてCクラスの三人が入ってくる。
「大丈夫か?」
「まだ少し頭が痛むけど、大丈夫だぞ」
昨日と同じように答えるアーク・ロイヤルに、指揮官は彼女が出撃前と変わっていないのではないかと不安を覚えた。
「それよりも閣下、私が被弾してからどうなったんだ?」
――記憶はちゃんとあるか。
「閣下?」
「あ、ああ……それなら、すぐにエンタープライズが全部片付けた。その後、
「そうだったのか……皆には迷惑をかけてしまったな」
彼女は申し訳なさそうに言う。
「その、アークロイヤルさん……」
と、今度はシグニットがおずおずとアーク・ロイヤルに声をかける。
「うちを助けてくれて……ありがとう……!」
「私と閣下の妹を助けるのは当然の事! シグニットちゃんが無事ならそれでいいんだ!」
などと力強く口にするアーク・ロイヤルに、彼女を除いた全員がその場で顔を見合わせた。
× × ×
それから数日が過ぎ――
執務室にやって来たKAN-SENの報告によって、またしても
「はぁ、アイツはまた……」
「以前はああじゃないと調子が狂うと言っていたのは誰だったかな?」
「うぐ……」
痛いところを秘書艦であるエンタープライズに突かれた指揮官は、言葉を詰まらせて苦い顔をする。
「ま、今日はそこまで書類も多くないから行ってくるといいだろう」
「しょうがねぇかぁ……」
彼はそう口にすると席を立った。
報告された場所に向かってみると、目的の人物を早速発見する。
「おい、アークロイヤル」
指揮官が呼びかけると、その人物――アーク・ロイヤルは肩をびくりと震わせて振り返った。
「か、閣下!?」
「お前、また駆逐艦にちょっかい出そうとしてたんじゃないだろうな?」
「ち、違うぞ! 私はただ遠くから観察――眺めていただけだ!」
弁明する彼女に思わず指揮官は溜息を吐く。
――あの時のアークロイヤルのまま、元に戻さない方が良かったんじゃないだろうか……。
「またアークロイヤルが不審な行動をしてるって報告が来てるんだぞ。少しは自重しろ」
「う、すまない……」
そう諭され、流石の彼女も肩を落とす。
「……これやるから、それで我慢してろ」
そう言って、懐から以前にも見せた昼寝をしている駆逐艦の写真を何枚か手渡した。
「閣下……感謝する!」
「おう、分かったから騒ぐなよ」
恐らく自室に向かうであろうテンションの高いアーク・ロイヤルの背中を見送りながら、指揮官はそう声をかける。
「ところでご主人様」
「……ベルファスト」
「この写真の入手経路はどちらから?」
「……グリッドレイから押収した」
「私の目をしっかり見てから仰ってくださいませ」