見た目は通常の日本刀だが切れ味は抜群、突きの威力も申し分無し。刀の弱点である横からの攻撃にもある程度の耐久力を発揮するため乱暴にしても殆ど折れない。
『……っち、椿っち〜』「ん…?」
勝矢の声で瞼を開ける。もう少し寝ていたかったが、こんな生活が何日も続いたら流石に堪える、早めに終わらせなければならない。だがそれより…
「隣から良い匂いが…!まさかっ!」
『朝ごはん作ったからおいで、いやぁ倉庫の隣が調理室で助かったよ♪』
少し重い体を叩き起こして隣の部屋に向かう、昨日から何も食べていない分、正直空腹が何よりも苦しかった。
「勝矢、料理出来たのね…見直した」『ありがとう椿っち、僕は先に訓練してくるからご飯食べちゃってね〜』
2年生になるまで1年の付き合いだが、勝矢は本当に適応力が凄まじい。何事をも受け入れそれに対して向き合う、それが彼の強さなのだろう。
即席なはずなのにしっかりと味付けされたサンドイッチは眠気を吹き飛ばすに充分な威力を持っていた。恐らく料理の腕では勝てないなと確信しつつ、倉庫とは逆の部屋から勝矢の声が聞こえて来た。
『もっと精度をあげないと椿っちの足を引っ張るだけだ……せいっ!』
アクロバティックに、次は精密に、弓の天才と囁かれる今の勝矢はきっとああいう努力から生まれたのだろう。
その後私も一時間程訓練してから、二人で次なるステージ、1-2に向かった。
体育館…今は戦場と化した場所だが、対峙する二人目からは斧を持ち、後輩とは思えない圧を放っていた。
『先輩方、悪いですがこの勝負…勝たせてもらいます』
「いいねその威勢、真剣勝負はいつだって燃える…!」
『……』
場の空気が一気に変わる。また強敵だろうがこっちは数の有利も新技もある、有利であるなら尚更負ける訳にはいかない。
「おおッ!!」『うおお!!』
力み声と共に眼前の敵めがけて刀を振る、無論受け止められる。二人の刃が当たり、離れ…だが少しずつ政織が優勢になってきた。
『この…ちょこまかと!』「どうした、攻撃が単調だぞ!」
振り下ろされた斧が地面に付くまでの数秒で斧を3発斬りつけて後退、人間技とは思えないスピード。
弓で援護と行きたいが、あのスピードで動く政織を避けつつ敵に弓を当てるのは至難の業だ。それに…まだあの後輩は何かを隠している…!
『いやぁキツイな…まあ、こっちにはこれがありますけどね。
『壁剛の守、漆の力。炎帝!』
「悪あがきね…今更遅いわよ!……?!」
『椿先輩、甘いですよっ…!』
今、確かに突きが後輩の肩に炸裂した…否、当たる瞬間弾かれている。原因は先程の技だ、大方特定の攻撃属性以外は効果が無い。
『肆の力、鋼換!』「ぐあっ!?」『椿っち!』
政織の体が宙に浮き、壁に激突する。
打ち付けられても起き上がる辺りは流石だが、その頭からは血が顔に流れている。
『(今なら打てる…思考よりも手を動かせっ!)』
震える手を落ち着かせて矢を撃つと…
『…!』
斧で防御した…と言う事は即ち、矢のような突属性の攻撃ならば効くという解釈で間違いないはずだ。
『椿っち、技は使えそう?』「当たり前よ…そっちこそ、外したら殺すから…」
調子は大丈夫そうだ、ならこっちも…期待に応えなければいけない!
「『全集中ッ!!』」
肺の空気を入れ替え使い込んだ右腕に力を込め、それぞれ出来たばかりの新技に全てを賭けた。
「魔王の覇、肆の炎!禍郡鎚…!」
黒炎を纏った刀での素早い4連撃。しっかりと命中した…が、これでは足りない。力では無く技量で属性ダメージをメインに与える禍郡鎚では全集中と言えど火力に欠ける。眼前の敵は容赦無く斧を振りかざし、椿は間違いなく致命傷を受けて倒れる……ただし、一人ならばの場合だが。
『チェックメイトだ、後輩君。
弓の手、弐の矢…!紅蓮矢!』
勝矢自身、限界を超えた4本同時打ち。此方も炎を纏った矢が今度は高速で眉間、喉、心臓、そして斧を振りかぶった右腕にしっかりと命中した。
声など出る訳もなく、後輩はその場に倒れて消滅した。
「流石だ勝矢、良い技じゃない。紅蓮矢」
『椿っちこそカッコ良かったよ、禍郡鎚』
お互いに戦果を話しながら、二人はまた倉庫へと戻っていった。
全集中とはーー
技を撃つ前に呼吸して、肺を思い切り膨らませる事によって身体能力を飛躍的に上げる技法。
発動後の技後硬直と引き換えに技の威力が大幅に上昇する為、ここぞという場面でのみだが使用される。
ただし四六時中ずっと発動など、長い時間の持続は出来ない。
次回、#4 拾壱の型