まだ終業には少し早いのそこには早上がりした二人の英霊の姿があった。
「あ」
「あ」
「先客がいましたか」
「ああ、今日はマスターが夕食を作るらしくてな、演習も早めに切り上げられた」
「なるほどそういえば今日は日曜日でしたか」
「ああ、カレーの日だ」
「随分と楽しみにしているようですね」
「マスターのカレーはおいしいからな」
「確かにあれは評価に値する味でしょう」
「そうか」
「お前はよくここへ来るのか」
「サウナですか、ええ。毎日とは言いませんが週に三回ほどは通っているでしょうか。そういうあなたはあまり見かけたことはありませんね」
「ジークフリートたちに勧められてまだ数回来た程度だ」
「日本人である私ならまだしも欧州のジークフリート殿がサウナに通っているというのもなかなかに不思議といえば不思議な話でしょうか」
「ジグルド殿に誘われて以来病みつきになってしまったらしい」
「彼は北欧の英霊でしたか、なるほどそういうつながりということですか」
「そうか」
「お前は今日は早かったのか」
「ええ、次の異聞帯のための侵攻計画の立案ですから。もうあらかた形にはなっています。あとは実際のプロフェッショナルの領分です。上からああしろこうしろと具体的に横やりを言える監督役がいるほうが迷惑でしょう」
「それでも場にいなければならないのではないか、監督役なのだろう」
「皆がすべてを理解しているなら監督役もさして重要な役職ではないでしょう。何よりこの施設にいる人間は大体がスペシャリストではなくジェネラリスト、私が多少早く上がったとて問題は起こりません」
「そういうものか」
「そういうものですよ」
「そうか」
「おま」
「ロウリュのサービスでちー、サウナ加減はいかがでちかー」
「ええ問題ありませんよ」
「今日は早いんでちね」
「ええ、それと今日は初心者もいることですし、あまり温度を上げすぎないようにしてもらえますか」
「いいんでちか、いつもならまだ随分あげてい」
「いつもと同じで構わない」
「初心者なのですから無理してはいけませんよ、初心者なのですから」
「気にすることはない、もとより邪龍の端末とはいえ英霊として限界している身だ、自分の炎に巻かれても死ぬことはないからな」
「止はしないでちが危なそうならすぐ出るんでちよ、それで倒れられたらナイチンゲールを呼ぶことは覚えておいてくだちゃい」
「はい」
「わかった」
「それじゃいくでち」
「それじゃごゆっくりでち」
「なかなかに効くものだな」
「無理をすることはありません、つらくなったら出ればいい、初心者なのですから」
「大したことではない」
「強がって入ったところで何にもなりませんよ」
「お前に心配されるほど落ちぶれちゃいない」
「これは失礼」
「お前はなぜ召喚に応じた」
「呼ばれたから、それ以外に理由などないだろう」
「全能の杯を持つ悠久の待ち人、有閑に耐えられなくなったかかと思ったんだがな」
「そういうお前が呼びかけに応じた理由は分かりやすいな、全治を願う恒久の旅人よ」
「生憎と諦めは悪いほうだ」
「今なお聖杯を追い、その我欲を成すか」
「それが世界のためならば」
「させると思うか」
「次はもう少しうまくやるだけさ」
「それが再びの禍難の道だとしてもか」
「それを願った男はもういない、あるのは人の形をしたただの妄執のみ」
「ならば」
「しかし」
それでも
「今、この時だけは世界の救済を願うマスターの力になる、それだけは違えはしない」
「信用の出来ない男だ」
「信用はしてもらってもかまいませんが」
「聖職者の風上にも置けないな」
「邪龍に言われたとて何の傷もつきはしません」
「色黒」
「もやし」
「何か言っているのは聞こえるが内容までは聞こえないな」
「貴方の耳が悪いんですよ、ちょっと変わってください、ジーク君の言葉なら一言一句聞き逃しませんから」
「おい、押すな危ないだろうが。それに私たちが男湯へつながるボイラー室まで来ていると女将にバレればどうなるか分かるだろうが」
「女にはやらねばならない時があるのです」
「少なくとも今じゃないことは確かでち」