無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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一言
 Dies irae完全版おもしろい。未完成品出さずに最初からこれ出してりゃFeteに並んだって言われるのも頷けるわ。
 ただし中二に燃える人限定だろうけど・・・・・・




第壱章 3 ”蛇”の世界と断頭台の姫君

 

 驚いた。世界を覆うほどの蛇だ。キリスト教化以前のノース人の伝説『北欧神話』に出てくる地を飲む大蛇、ミドガルズドオルムも適わない巨大さだろう。

 まさかそれが唯の蛇だと思ってはいないが、葉の”外側”である此方を認識し、しかも声を掛けてくるなんて流石に予想外。

 しかし予想外は予想外として、意思の疎通がなせるならこれに越した事はなかった。

 まずは挨拶でも、と思った所で伸ばしたままの手に気付き、引っ込める。

 

「ぁ――無遠慮に触れようとして申し訳ない。初めまして」

 

 万国共通で通じるのは誠意だ。表情やちょっとした動き、何より雰囲気が相手の感じるそれを左右する。

 

『フフフ。此方こそ、初めまして』

 

 若者か老人か、男か女かすら分からぬ奇妙な声で蛇は返礼してくる。

 

(というか、普通に返してくるのが吃驚(びっくり)だわ)

 この蛇が世に数多ある蛇神の類であれ、ぱっと見で蛇でしかないのが人間らしいと違和感が。こういった常識的な部分は、おそらくこれからは邪魔になるのかもしれん。

 

『何という幸運だろうか。我が世界が終わろうとする今この時に、これ程得難い客人を迎えられるとは!』

「は? なに? ちょっと待ってくれ、今何と?」

 

 溢れんばかりの凄い喜びようだが、それよりも重要な、全くもって聞き捨てならない碌でもない言葉が聞こえた。

 

『あぁ、この世界が終わると言ったのだよ』

(さらっと笑えない事言うなよ)

 

 真偽は分らないが、見た感じでこの世界の神かそれに類する存在が『滅びる』と言っているのだ。もしその言が本当なら、間違いなく滅びるのだろう。

 よもや世界を出て初のコンタクトがこれとは……。

 さて――もしどうこうするにしろ、事情は聞きたい。少なくとも世界の終わりとなれば貴重な情報だろう。

 

「……名乗らず、失礼しました。私の名前は黒川冬理(クロカワ トウリ)と言います」

『私の神としての名はとうに忘れてしまったが、君には”メルクリウス”と名乗ろう』

 

 双頭の蛇は何故かは分からないが、とてもとても、それは嬉しそうにクツクツと笑いながら名乗った。

 

 

(“メルクリウス”だと?)

 

 メルクリウス

 古代ローマにおいて伝えられたローマ神話における伝令・商業・泥棒・旅行を守護する神。移動する、彷徨(さまよ)う等の『変化』を司り、それが長じて後に錬金術の神にもなる。

 しかしこの神、ローマの都市において、正式に『ローマ』と呼ばれた聖域の外に神殿が建っていた事から、どこか他の、“外”から来た神とされている。

 

(外来の神、か。 自分の知る神話が当て嵌まるかはともかく、また意味深な名を名乗られたものだ……)

 

 

 

 

 

 

 

「では、貴方は私にこの世界に触れて欲しくないと?」

 

『そうだ。この世界は特異な成り立ちをしていてね、君のような外からの強力な力には弱いのだよ。それこそ君に触れられただけで破れてしまうだろう。

 それに、今は私にとっても重要な時を迎えているのだ。干渉はしないで欲しい』

 

 

 どうも話し合ってみると、この世界は考えていたような物とはまったく違うらしい。

 となればこの世界は諦めざるを得ないが、幸いにもここには言葉の通じる彼(便宜上メルクリウス神は男神のため“彼”とした)がいる。

 見たところ、彼は自分より圧倒的に長く生きているようだ。

 それに加えて”外側”を見ることが出来るなら、それに見合った多くの知識も持っているだろう。

 

 言っては何だが、純粋な力関係では此方が圧倒的に上らしい。

 交渉ごとにおいては有利なアドバンテージとなる。

 彼も、表情こそ分からないが矢鱈と歓喜の念が感じられるなど、何やら此方に対して思うところがあるらしい。ここで彼の先の言を嘘だと断じ、強引に世界に入ろうとするよりも、彼が知る情報を得た方が有益だろう。

 

 

「分かりました。そのような理由なら、この世界は諦めましょう。

 代わりと言っては何ですが、私が入れそうな世界を識別する方法を、もし知っているなら教えてもらえないだろうか?」

『知っているとも。

 よろしい。それをもって我が願いの対価としよう』

 

 

 少し拍子抜けしてしまうほどにあっさりと取り引きは終わった。

 両者の求める物が()ち合わないとシンプルで後味も良い。

 これが奪い合いになれば話はまた別で、もっとドロドロした様相を見せるのだが。

 

『それではまず此方から対価を支払おう』

「それは……いいのか?」

 

 少々意外な提案に面食らう。

 当然、此方が貰うだけ貰って契約を履行しない危険性がある。

 この短時間では人間性など分かろう(はず)も無い。彼とてそれは分かっている筈だが。確かにこの状況、俺を力で止められない以上、好意的な関係に持っていくのが向こうにとっても安全策となる部分もあるが、さて……

 

『もちろんだ。なにせ、君は既に私に素晴らしいプレゼントを持って来てくれたのだから』

 

(プレゼントだと? まさか俺自身がプレゼントとか言わないよな)

 

 嫌な予想が脳裏をよぎり、内心戦々恐々とする俺を尻目に、彼は語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

『さて、最初に言っておこう。

 私はこの世界から出た事がない。

 

 あぁ、君が欲しい情報を知らないと言うわけではないよ。

 まぁ少し待ちたまえ。

 

 だが、”君が許容されうる世界”について語る前に、この世界と私と、そして我が愛する『姫君』について、少し語らせて貰おう。

 

 もう消え行く世界とは言え、彼女が生まれた世界。

 私にとっては永劫に続く責め苦を与える忌々しい牢獄だが、誰か一人くらいは覚えていても良いだろう。それに、この世界群を渡る上で、この知識が君の助けになる事もあるかもしれない。

 

 

 

 さて、先ほどこの世界は特殊な成り立ちをしていると言った事は覚えているね。

 

 私も遥かな昔は、大地に生きる一介の魔術師だった。

 しかし運命は数奇な物。私が組み上げた秘術によって以前の『世界』を塗り替え、旧神を殺し、その『座』について新たな『神』となってしまった。

 今の世界は、我が秘術によって己の渇望が世界へ流れ出した結果、生み出された産物。

 故に、私にとっては全ては既知の存在。この世界の過去、現在、未来の何もかも全てが、既に分かっているのだ。

 透徹した思慮と、極限を超えた知識と永遠に近い時間を生きたあげくに愚の極地へとたどり着き狂った座、それが私だ。

 

 待ち望んだ終わりを目の前にして若干正気に戻りこのように理性的に会話をしているが、なに、実際には理性などとうの昔に失っている。ほんの少し前までは自身の渇望すら忘れ、ただ流れ出す影となり、宇宙を覆いつくす妄執となっていたほどだ。

 

 我が魂に刻まれた渇望は”まだこんなところで死にたくない”。

 この私の渇望を根源に創造された世界は、神である私が全てに納得し、満足した死を迎えない限り、例え神である私が死のうとも回帰し、何度でも全てをやり直す。

 

 だが神にとっても長過ぎる時間ひたすらに繰り返され、知覚する物全てに既知しかない感じられない世界の何に満足しろというのか?

 私は逃れられない永劫の回帰に囚われ、永遠とも思える時の間に狂い果てた。

 

 

 しかしある時、私は一人の少女を見つけた。

 

 断頭台の姫君。

 

 フランスのとある地方に彼女はいた。

 

 私はすぐさま己の影を送ったよ。この神としての体はあまりに大きく力も強すぎるから、自由に動く事すらままならないからね。

 

 何故そこまでしたのか?

 そうだね。別に彼女に未知を感じた等という訳ではない。

 それでも。その存在に、その魂に、私はどうしようもなく惹かれた。

 有体(ありてい)に言えば、私は彼女を一目見て愛してしまったのだ。

 陳腐だが、一目惚れという奴さ。

 

 それからというもの、私が死ぬ(たび)に幾度も繰り返される世界の回帰の中で、必ず彼女に会いに行ったよ。

 人間としては断頭台の下に生まれ、人に触れると問答無用で首を刎ね飛ばす呪いを帯びていたため、周囲の人間に忌避され、最後まで誰にも深く関わることが無く、白痴の不吉な狂人として自身も断頭台によって処刑され、その短い人生を終えた。

 

 だが、彼女の魂はある意味、私と似たような境遇だった。

 世に生まれながらに私と同位の、世界への『流出』へと至り、それが故に永遠の存在となっていた。

 

 魂だけの存在となり、黄昏に染まる砂浜でいつまでも一人歌い続けるその姿を見て、私は彼女に特別のプレゼントを贈ることにした。

 笑ってくれたまえ。そう、まさに惚れた弱みだ。

 私を”カリオストロ”と呼ぶ可愛らしい私の姫君のために、何かしてやりたくて仕方が無かったのだよ』

 

 

 

 

 まるで嬉しいという気持ちが滲んでくる、そんな口調の語りが一段落着く。

 それにしても、

 

「また何と言うか、これは壮大な惚気話(のろけばなし)でしょうか?」

『クックック。そう、そうとも言うね』

 

 蛇は愉快そうにクツクツ、クツクツと笑う。

 それを幾分呆れた顔で見ていると、彼はますます笑みを、まぁ蛇の顔だから雰囲気でだが、深めて言った。

 

『さて、ここからは私の影の記憶と、その目を通して見てみないかい?

 そうすれば、この世界の終末劇を余す所なく見ることが出来る』

 

「ここまで聞いたら最後まで知らないと、気になって仕方ないな」

 

 そう伝えると彼は満足そうに頷き、何事かを呟く。

 すると宙に光がまるで夜空の星々の如く(とも)り、寄り集まって複雑怪奇な黄金の魔方陣を形作る。その内の最も小さな一つが宙を滑り、目の前に止まる。

 

 

『その魔方陣に触れたまえ。

 

 演目は、彼女へプレゼントを贈ろうと決めてから始まった、世界の終末へと繋がるクランギニョル。

 

 どうか、楽しんでくれたまえ』

 

 

 期待。

 これから見るのは俺がいた世界とは別の世界の物語。

 まるでそうする事が始めから決められていたかの如く指は動き、黄金に輝く神秘へと触れた。

 

 

 

 それから見たものは以前の常識を覆す、まさに荒唐無稽な御伽噺。

 

 彼には名が多くあった。ヘルメス・トリスメギストス、カリオストロ、カール・エルンスト・クラフト、ノストラダムス、パラケルスス、クリスティアン・ローゼンクロイツ、ジェフティ等々、歴史上に数え切れないほどの多くの名を名乗っていた。

 大戦期に彼の影である存在は、”カール・エルンスト・クラフト”として本格的に活動を始める。かのドイツ第三帝国にて、一部の上級将校のお遊びでしかなかった聖槍十三騎士団を超常の魔人の集団と仕立て上げた。

 首領に『黄金の獣』ラインハルト・ハイドリヒを頂く黒円卓の十三騎士。副首領に納まったカールによって、秘術『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』を授けられた彼らは、その力をもって戦場で更なる魂を狩り集めてゆく。

 

 『永劫破壊(エイヴィヒカイト)』

 血を吸い力得たアイテム、”聖遺物”を核として魂で駆動する複合魔術。殺害した者の魂を取り込み、保有する魂の量と質によって力を増す、魂喰らいの邪法。

 

 そしてドイツの敗戦。連合によって戦火に包まれる首都ベルリン、そこに十三の騎士もいた。彼らにとって、もはや自国の敗北などどうでもいいことだった。

 焼け落ちる町並みの中で、敵国への止めに湧く連合軍、せめて民を守ろうとする僅かに残ったドイツ軍、そして逃げ惑う自国の民衆までも、その全ての魂を(むさぼ)り、儀式への生贄として捧げた。

 

 それから61年後。

 

 十三騎士は首領と副首領、そして上位の三騎士が姿を消し、二人を失い、新たに一人を加え、かつての同盟国である日本を訪れる。

 目的は”ツァラトゥストラ”。

 万能至高として生まれついた首領の、己の全力を出してみたいと願いに対して副首領が用意した相手。副首領たる自身の代行とまで予言する存在。

 

 青年は何も知らないまま、魔人が踊る狂気の闘争へと巻き込まれてゆく。

 そして”メルクリウス”と名を変えた彼に導かれるまま、断頭台の姫君と会い、そう創られたが故に彼女の呪いを唯一受けず、彼女の魂を所有する事になる。

 

 そう。

 彼こそが、蛇の用意した彼女への”プレゼント”だった。

 

 『人類最悪にして最美の魂』と称えられた彼女を所有し、永劫破壊の法を手に入れ、彼は決意する。

 “俺の日常を守り、そして取り戻す。奴らの首を一つ残らず刈るまで、俺は戦い続ける”と。

 

 

 始まる魔人同士の壮絶な殺し合い。

 敵味方が入り乱れ、殴り、刺し、切り、撃つ。

 皆化物へと成り果てた存在、肉などいくら砕こうが無意味。互いに欲するは敵の魂。

 魔人のもたらす業火は容赦無く周囲を巻き込み、人々を戦火にて焼き払う。

 

 そして幾夜の果てに訪れる終局。

 己の自滅因子(アポトーシス)に敗北する蛇の影”メルクリウス”。

 死へと落ちかけ、新たな回帰へと飲まれようとしている彼の元へ、彼女が現れた。

 

 無かった。

 既知感が無かった。

 この展開は知らない(・・・・)

 

 

 己の人生で始めての予想外の展開に満足して涙を流し、彼はその永遠とも思える長すぎる人生を、奇跡を運んでくれた愛しの歌姫の中で、閉じた。

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか詰めていた息を吐き出す。

 

「奇跡だな」

 

 それ以外の言葉が出なかった。

 

『まさしく。彼女の存在は私にとって奇跡そのものだ』

 

 そう語る蛇の声は、あの出来事の中で出てきた”メルクリウス”の本体とはとても思えないほどに邪気が抜けていた。

 

 

 

 

『さて、愛しいマルグリットの話はここまでにして、対価の続きを語るとしよう』

「分かった」

 

 改め、姿勢を正す。

 

『君を許容しうる世界だが、現状そのような世界は存在しない。

 

 ……話は最後まで聞きたまえ。

 私は自らの世界の外については殆んど知る事はない。

 あくまでも世界の内側へ向いた存在なのだ。この世界の中では紛れも無い神だがね。

 さて、考えてもみたまえ。

 君は大きい。この世界群を表した葉と根本的に規模がまったく違う。

 確かにこの大樹としての形は君の想像の影響を受けた結果だが、規模や強度自体は変わっていない。いくら外見が変わろうと存在自身に変わりは無いのだよ。

 現時点では君が指先で(つつ)いただけで砕け散るだろう。』

 

「それでは?」

『まず確実に存在しないだろう』

 

「むぅ。―――ん、貴方は現状と言ったな?」

『そう。あくまで現状でしかない。

 君が世界に入るには二つの方法がある。

 一つは君が言ったように、君の存在に堪えうるキャパシティを持つ世界を新たに誕生させる。

 もう一つは君の方(・・・)を世界に合わせる方法だ。

 

 最も、二つ目の方法は根本的な解決には成り得ず、送り込めるのも私が己の影を送ったように、自分の極一部に意識を移して世界に紛れ込ませる程度だろう』

 

 確かにそのような方法で、自分の方をあわせて世界に入るのは考え付かなかった。

 やはりこういうのを”年の功”と言うのだろうか? 

 

 

『真面目に聞きたまえ。

 故に、まず二つ目の方法をとり、”君が内にいる世界”を作り出すことを繰り返す。

 それによって植物の品種改良のように、やがては一つ目の方法、君の存在に堪えうる世界の誕生が成されるだろう。

 改変した世界が多ければ多いほど、君の望みが叶う可能性も高まる。

 

 ああ、君が入る世界についてはなるべく情報量の少ない世界を選ぶといい。それだけ君自身が持ち込めるのだから。

 そしてその世界で自身を知らしめる。それだけ強力に世界に認識されるだろう。

 

 肝心の情報の少ない世界は、君の世界で創作された物語を選ぶといい。

 歴史に厚みが無く、世界の観測者も少ない。

 更にそのような世界では変わった能力が多いだろう。君ならそれがどのような物であろうとも、至極簡単に自らの物に出来る。

 己の力の使い方、そのサンプルくらいにはなるだろう』

 

 

 

 やはり彼から得られたアドバイスは、自分にとってこれ以上なく有用なものだった。

 これ程の情報を貰えば十二分に対価になる。

 正直な所を言えば、随分と貰いすぎな感が否めないが。

 

「取り引きは完了しました。私は以後、貴方の世界への一切の干渉を行わないと誓いましょう」

『満足してもらえて良かったよ』

 

 

 

 

 

 改めて礼を言い、其処から去ろうとすると彼に呼び止められた。

 

『待ちたまえ』

 

 他に何かあるのだろうか? と、階段を降りかけた足を止めて振り返る。

 

 

『先ほど能力と言ったが、君に一つ私から贈り物をさせてもらおう』

「贈り物は嬉しいが、わざわざ良いのでしょうか?」

『なに、私はね、嬉しいのだよ。

 君はここへ来て私に会ってくれた。

 私の世界に縛られていない君は、私にとってその全てが未知なのだ。

 フフッ、先の分からぬ会話など愛しのマルグリットの他では幾星霜ぶりか』

 

 そういう事か。

 それほどの年月、逃れようとした予定調和の内で突然に俺のような彼にとっての幸運が現れれば、それは確かに嬉しいだろう。

 

『君に贈るのは我が秘術。

 永劫の回帰より逃れるために組み上げた永劫破壊の理論。

 血を喰らい自意識を持つに至った強力な力持つ物品、『聖遺物』を核とする複合魔術・エイヴィヒカイト。

 君なら造作も無く使いこなせるだろう』

 

「あの戦いの? だが待ってくれ、俺はその聖遺物を持っていないが?」

 

『いや、君は所持している。

 それもかの獣殿の持つ”運命の槍”に勝るとも劣らぬ品を、それも複数』

 

 持っていると言われても、オカルト研究三昧の生活だったが、流石にあの有名な”ロンギヌスの槍”と同格の代物など手に入れた心当たりが無い。

 何かの間違いでは? と思うが、双頭の蛇は構わず宙に黄金の魔方陣を描き出す。先程の魔方陣とはまた違い、こちらの方が断然に精緻かつ複雑で、しかもそれが次から次へと増えてゆく。

 

 

『君が持つ聖遺物は”炎の剣”、”神の腕”、”契約の箱”、そして”機械仕掛けの蜘蛛”の四つだ』

 

 ”炎の剣”に”神の腕”といえば心当たりは一つ。

 あの知天使を殺した後、俺の体を串刺しにしたままだった”神の腕”付きの”炎の剣”だろう。

 

 そして”契約の箱”は別名を聖櫃(アーク)といい、この世界にも存在するらしく騎士団員の一人が所持していた。箱の中にはマナを納めた金の壺、服従と反逆を司るアロンの杖、十戒を記した石板が入っており、神に命じられ、知天使が守護しているとされる。

 それを持っているとするならば、やはり知天使を殺した時なのだろう。

 

 

(なるほど、蜘蛛以外は全部楽園で手に入れたって事か)

 

 つーか、手製の蜘蛛がそのラインナップに並んでると違和感を覚えて仕方ない。

 いつの間にアレはそんな大層なモノになったのだろうか?

 

『仮にも創造神の腕を切り落とし、その使徒に止めを刺した物。君の世界においても間違いなく最高の聖遺物の一つに名を連ねただろう』

 

 確かにそう言われると矢鱈凄く聞こえる。

 が、それ以前に、

 

「何故貴方がそれを知っている?」

 

 と問えば、

 

『君の聖遺物に術式を付与した際に、その記憶が流れ込んできたのさ』

 

 などとあっさり言い放つ。

 術の開発者ならそれ位初めから分かっていただろうに、流石にあの腹黒さが抜けきった訳ではないらしい。特に贈り物とか言っていたあたりが。

 伊達に長生きはしていないし、三つ子の魂百まで、といったところか? ああ、百どころではないか……

 

『そう腐るのは止めたまえ。

 効率的に扱うために、私の持つ魔術の全ても君に譲ろう』

 

 彼がそう言うと、幾重にも宙に描かれた魔方陣に新たな陣が付け加えられる。

 その陣を介して送られたのか、何か不思議な感覚が流れ込んでくる。

 

 目を閉じる。

 

 脳裏にまるで自分が作り出したかのように思ってしまう程の、秘術に関する細かい知識が湧いてくる。古今東西ありとあらゆる呪(まじな)いごとが、正邪の区別無く、基礎から秘奥、更に蛇が至った深淵の底すらもが、雪崩込む。

 

 

「―ぁッ、か、……はぁっ! っ、はぁ、はぁ」

 

 これほど莫大な情報処理など経験した事がなかった。

 いや、人だった頃にこの万分の一でも経験などしていたら死んでいただろう。生身の名残か、まだ呼吸が荒い。

 

『ツァラトゥストラが眠った今、これでエイヴィヒカイトの後継者は君だけだ』

「ふぅ……。お陰でエイヴィヒカイトについては理解したが、ここまでしてもらうと怖いな」

 

 特に彼の所業を”観た”後だと、かなり深刻に心配だ。

 タダより高いものは無いとは使い古されたことわざだが、世界の外ですら通用する気配がしようとは。

 

『フフフ、考えすぎではないがね』

「あぁやっぱりか。程ほどにしとかないと姫様に愛想を尽かされるぞ」

『なに、君にとっては大した事ではないし、聞けば君も協力してくれるだろう』

 

 そう言うと、彼の雰囲気が静まり返った。

 月の湖水。氷河の最奥の純水。こういった気配を纏ってしまった生き物を、前に居た場所で何度も見てきている。

 そうか――もう――

 

『時間だ。

 私はこれで消滅するが、変わりに彼女が『座』につくだろう。

 あの後、影にほんの僅かに時が残されていた。その最後の瞬間に彼女の願いを聞くことが出来たよ。

 

 ”いつかきっと、みんなと逢える。レンも、カスミも、シロウも、センパイも、そして出来ればこのわたしも……みんな一緒になれる時が来るって、信じてる”

 

 新たな女神の『座』はまだ産声を上げてすらいないほど幼い。精妙な因果の操作は困難だろう。先へ進み続ける転生のサイクルで、同時間軸上に彼を並ばせられる保証はない。

 十年か、百年か、何代巡れば成就するのか分からない。それでも。その時が楽しみだと彼女は言った。

 私は思わずにいられない。この眩い女神に何かしてあげられることはないのだろうかと。

 だが今更己が関わることは、彼らの勝利を侮辱する行いだ。

 であれば、君も知るように私の十八番である他力本願でいくしかない。この願いは無粋な行いかもしれないが、あまりに女神が可愛らしいので老婆心が疼くのだ。

 消え去る間際、気づかれぬよう、要らぬお節介をさせてくれたまえ』

 

 

 最後まで語った蛇は、既にその姿を薄れさせていた。

 俺も決断する。

 彼は人外となって初めて逢った意思の通じる存在。

 対価とはいえ過分なアドバイスを受け、さらには分不相応な手土産まで持たされた。

 たとえそれが最初から彼女の為だったとしても、俺にとってその行いは好ましい。

 俺の“神”に対する評価など下がる所まで下がっていたが、こんな神なら――悪くなかった。

 

 だから、俺も彼の願いのために骨を折ろう。

 

 指の先を噛み千切る。

 擬似的に構成された肉体が損傷を正確にトレースし、破れた皮膚から真紅の血が滲む。

 小さな紅玉のような血をそっと、殆んど消えてしまった彼の巻き付く世界へと垂らす。

 

 ほんの小さな一滴。

 しかしそれは五百年以上をかけ、極限を超えて圧縮され続けた全ての源。永劫の回帰の中で淀(よど)んでいた流れが、新しい潤いを得て再び走りだす。

 くるくる、くるくると。

 彼女の願った輪廻の円環をもって、ここに新世界の礎(いしずえ)と成す。

 

 

 ありがとう。そして彼女によろしく、奇跡を運んできてくれた”同胞”よ

 

 

 声に目を開けた時には、彼はもう逝っていた。

 たとえ世界の内にいようとも、弔う死体すら残らない。

 それが一柱の神の死だった。

 

 

 

 

 螺旋階段を降りていく。

 契約通り、俺はあの世界に触れないし、そして他の存在にも、彼らの営みを邪魔させはしない。

 ただしこっそりと、気付かれないように。もう俺は関わりすぎたのだから。

 彼の中から観た生き様は眩しくて、そして何より彼らが望んでいたように。

 この世界は女神と彼らのものだから。

 

 

 ふっと、呼ばれたような気がして振り返る。

 あの世界の葉に金色の髪をなびかせた少女が座り、笑いながら此方に手を振っていた。

 

 ――カリオストロと話してくれて、ありがとう――

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

(――は。気付かれないように、って言ってたのにな)

 

 やっぱり余計なお世話だったんじゃないか?

 そんなふうにもう消えてしまった神様に語りかけ、俺はもう振り返らなかった。

 

 

 

 階段を降りきった所で、うんっと背伸びする。

「さて、これからは創作の世界廻りか。

 それって物語の中に入るのと変わらんだろう? 子供の夢だが、自分がやるとなれば楽しみになってくるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、俺、そういうの見てる時間無かったからどんなのがあるか知らんのだが……」

 

 

 




能力説明スペース


●原作情報


原作名
 PCノベルゲーム
 Dies irae ~Acta est Fabula~
 2012年9月20日現在、新章を加えた『Dies irae ~Amantes amentes~』がPC版・PSP版共に発売済み。


複合魔術・エイヴィヒカイト(Ewgkeit)
 (以下、特徴を挙げる)

・聖遺物で武装化し、超常の力を行使する理論体系。

・聖遺物を核とし、駆動に魂を必要とする。

・他者を殺せば殺すほどにその魂を取り込み、戦力を増大させることが可能。(魂にも質があり、エイヴィヒカイトとしての性能は魂の量だけでは決まらない。戦士等の自らを高めた者や、親友などの術者にとって大切な存在は質が高いと言える。)

・聖遺物を砕かれれば、その使用者も砕け散る。

・聖遺物による攻撃は、物理的・霊的、両面で防がなければ止められない。死霊などの実体の無い存在でも殺傷可能。

・聖遺物の加護ある限り、使徒は不老であり不死である。

・殺した人間の数に相当する霊的装甲を常時纏い、殺した人間の数に相当する活力を持って再生し、魔道兵器として最高レベルの聖遺物を揮う。 (訳・無敵バリアー常時展開、リジェネ、オートレイズ、超人的な身体能力で反則武器を振り回す)

・レベルの指標として、四つの位階がある。(後述)

・聖遺物の発現の仕方によって四種の武装形態に分類される。(後述)


聖遺物(AhnenErbe)

 エイヴィヒカイトに使用されるマジックウェポン。一般的に言われる聖遺物とは異なり、年月によらず、人の想念を吸い続ける等して意思を持った器物の総称であり、必ずしも“聖なる”遺物とは限らない。“餌”として吸ったものが信仰心であろうと怨念であろうと、力のあるアイテムならば聖遺物にカテゴライズされる。原作では、これらは全て、ドイツのアーネンエルベ局が大戦中に世界中から掻き集めた物である。


位階(Degree)

 位階が上がると聖遺物の形状・効果範囲は変化拡大し、身体能力は爆発的に跳ね上がり、超感覚を得るなど、殺しの手段としてみた場合、位階を上げることには凄まじいメリットがある。位階が一つ違えば、強さの次元は桁違いになる。以下の四つがある

・活動(Assiah・アッシャー)
 辛うじて起動しているだけ。半暴走状態。聖遺物での武装は出来ないが、刃物の聖遺物なら手を触れず切り刻んだりとその特性を使用できる。しかし、精々が一般人への虐殺向け。

・形成(Yetzirah・イェツラー)
 使い手の基本形態。五感・霊感が超人化し、聖遺物で武装して高レベルの戦闘行為が可能となる。また高密度の魂を取り込んでいる場合、それを具現化することが出来る。

・創造(Briah・ブリア)
 必殺技解禁。自分の渇望を基にした物で、己と己の聖遺物にとってのみ都合の良い異界を創り出す。性質によって求道型と覇道型に分けられる。また、この位階になると殆んどの聖遺物の形状が大きく変化する。

求道型
 自身そのものを異界とし、肉体を変質させたり特殊能力を得たりする。凶悪なドーピングの様な物。名の通り、求道者の如く自分一人で突き詰めていく道であり、主に「~になりたい」という思いを元にする。一対一の戦闘向きで、自己完結しているため効果が強く破られにくい。また他者を取り込まないため、他者に影響されずにその効果を発揮できる。しかし能力によっては、術者自身の精神状態によって効果が変動するものもある。また真の意味で流出に達せない型である。

覇道型
 自身の周囲を異界に変異させる。型月世界の固有結界の様な物。他者を食い潰して広げる道であり、主に「~であっらいいのに」という思を元にする。一対多の戦闘向き。しかし自らの世界に他者を取り込むごとに世界の否定因子が増えるため、多くの人間や、特にエイヴィヒカイトの使い手レベルの強大な魂を持つ者を取り込むほど効果が薄まっていく。許容量は術者の力量によって異なるが、基本的には、並の人間程度ならば数百~数千を取り込もうと問題はない。

・流出(Atziluth・アティルト)
 最上位階。『創造』を永続的に世界に強要する。世界を塗り替える位階。ただし求道型の流出は、自身が世界の理から外れた完全永遠の存在となるだけで、他に一切影響を及ぼさないため、真の意味での流出には達せない。


武装形態(Kampfform)

・武装具現型
 聖遺物を刀剣などの武器として装備し扱う。基本形でありバランス面で優れ、特筆すべきメリットもデメリットもない。突出した点も穴もない特性上、実力以上の力は発揮できないため、未熟な者は決定力のない器用貧乏だが、強い者は万能となり隙がなくなる。聖遺物との主従関係がはっきりしているため暴走・自滅の危険性が低い。性格としては職業的な戦闘訓練を受けた者、現実主義者などがなりやすい。聖遺物は、武器・兵器などの戦闘における道具として使用され、血を吸った物が大半。

・人器融合型
 肉体の一部、あるいは全身を聖遺物と融合させ、武器を生やしたり射出したりする。攻撃力に特化し、全タイプ中最高の身体能力を発揮する。しかし聖遺物との同調率が高くなるほど極度の興奮状態となっていき、集中力が増す反面で理性的に判断することが困難になる。そのため、爆発力は高いが格下から足元をすくわれ易いタイプでもある。性格としては好戦的で破壊的な者、刹那主義者や享楽主義者などがなりやすい。聖遺物は、拷問や処刑に使用され、怨念を餌にした物が大半。

・事象展開型
 一般的な魔道・呪術に最もイメージの近いタイプ。防御・補助面に優れたトラップ&カウンタータイプで、直接の物理的破壊力はないため攻撃力が低く、中にはゼロの者もいる。しかしその反面、殺すことが難しく、人器融合型と組んで行動した場合には非常に危険な存在。 性格としては理知的で聡明な者、探究心と神経質な拘りを持つ者など、学者・芸術家タイプの者がなりやすい。聖遺物は、書物や芸術品など、作者の狂的な情熱を餌にした物が大半。

・特殊発現型
 上記のいずれにも属さないか、または複数の性質を持つ。他を上回る強大な力を発揮することもあれば、状況次第では全く役に立たないこともあるなど、非常にとがった不安定なタイプ。性格としては特定の物事や人物に囚われて盲目的になっている者、純度の高い宗教家や復讐者がなりやすい。聖遺物は、質の浄不浄に関係なく、信仰を餌にした物が大半。


※エイヴィヒカイトを使用すると具体的にどれ位になるかというと、原作中、五・六万人ほど魂を喰った使い手が、空襲による爆撃の中を散歩したり、戦車砲の直撃で傷一つ負わず戦車を素手で引き裂いたりする描写がある。
 18万も喰うと活動位階にも(かかわ)らず、常人どころか形成位階の使い手ですら視認出来ない速度で動ける。身体能力を含めて総合的にみても、某型月世界のサーヴァントを敵とした板での議論で、サーヴァントに対して神性が無いから攻撃が通らないのでは、という意見以外は圧勝できるとの意見が多いほど。


●主人公が得た能力

 複合魔術・エイヴィヒカイト(黒川,Ver) 位階:流出

・人間では無限とでも表現した方が理解し易い程の、平行存在の『自分』の魂を使用し駆動。もはやコレだけで無敵素敵。ただし世界内へ分体を送る場合、持ち込める量は見合った程度になる。

・元が元で、別に聖遺物に依存して『格』を上げているのではない為、聖遺物を破壊されても死亡しない。(世界内の影は死亡の危険性あり。他の聖遺物へ持ち換えを行えれば生存可)

・ニート神の知識と次元の違う魂量が生み出す桁外れの出力により、位階は流出。

・創造位階では他の『自分』の渇望を利用して様々な『創造』を行える。

・覇道型の『流出』は、発動すればその世界を完全に塗り替えてしまう特性上、世界に出来るだけ自然な形で名を残す、という目的と反するため、自ら望んで行う事はない。
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