無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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一言語り
 上手い下手は置いておいて、戦いのシーンは書いていて気分が乗ります。




第弐章 2 人間の強さ (シャギードッグ編)

 

「繰り返すようだが、どうしてこうなった」

 

 場所は開けた空き地。少し離れた場所には小柄な壮年の男性が此方を見据えている。

 

「そのような事は考えても仕方が無いでしょう」

 

 こっちのぼやきに対してそんな風に返してくるのは、例の”師匠”こと桂さんだ。

 到着して俺を見るなり目を丸くし、(かい)(じん)が気絶したのは俺の”中身”を精神観応(テレパス)で覗こうとしたからだと取り成してくれた。

 塊もそれを聞いてようやく納得したようだったが、問題は代わりに桂さんの方が興味を示しだした事。

 どうも自分のテレパスや予知がまったく効かず、かといって重度の遺伝子改変者、俗に言う”弄り過ぎ”という訳でもないのが気になるらしい。

 更には塊の全力の遠当てを食らいながら無傷だったのも気を引いたのだろう、話を聞いてみれば衣食住の当てがない俺の面倒を見る代わりに、そちらの修練に付き合うように提案されたのだ。正直な話、ここまで怪しい男を詳しい事情も聞かずに受け入れるのは、器が大きい云々(うんぬん)より単純にバトルジャンキーの血が騒いだだけだろう。

 

 で、了承したと思ったら、あれよあれよと言う間に連れて来られた次第。

 こうなってはしょうがないと心は半ば諦め気分。いっそのこと力試しのつもりでやってみますか、と相成った。

 

「いつでも良いですよ、掛かってきなさい」

 

(特に構えるでもなく、緊張もしていないように見受けられるが、さて?)

 

 エイヴィヒカイトは活動位階のまま、脚力に任せて突進する。

 現状のエイヴィヒカイトは俺自身も聖遺物も本体の影なので、その性能は本来のものに比べれば幾分弱い。魂も本体とのパスを通して三万程度しか利用できず、下手をすればこの世界の兵器でも装甲は貫通されるだろう。

 これも本来は物理的・霊的合わせ持たねば徹りはしない所を、危機感を持つ為に物理のみにしてある。ここら辺の調整はカリオストロから知識を譲られ助かった面だ。

 

 だがそれでも恩恵は非常に強力だ。

 鉄を軽く引きちぎる怪力に俊敏性、ちょっとしたセンサー並みになった五感に、纏った霊的装甲の非常識な強度、そして霊的な装甲を纏うという性質上の弱所の皆無。

 これだけ揃えば余程の事がない限りどうこうはならないだろう。

 

 一方で問題もある。

 俺自身がこういった戦いという行為と無縁だった事だ。

 殴る蹴るは出来るだろうが、それは出来て素人レベル。生憎と病気持ちだったせいで本当にやった事がないのだ。目の前に居る格闘の専門家からすれば失笑ものだろう。当たるなど夢にも思えない。それこそ隙を晒すだけだ。

 

 今の俺が出来る最も素早く強力な攻撃。それは全力で突進し体当たりするか、それとも相手にカウンターを叩き込むか。

 後者のカウンターは無理として、前者は避け難く、そして殴るといったモーションは素人が走った勢いですると体勢が定まらず、折角の運動エネルギーが拳に乗らずに逆に威力を弱めてしまうからだ。蹴りにしたって自分からバランスを崩すようなもの。いくら感覚が人間離れした所で経験の無い動きには体が付いてこない。問題は単純だから避けやすい事だが……まぁどっちにしろ同じか。

 

 では――と突っ込んだ。

 土の地面では蹴る力で抉れ飛んで受け止めてくれない。そうならない様、大雑把に加減しながら一蹴りごとに加速する。最終的には(まさ)しく目にも留まらぬ速さだ。

 相手の胸辺りに当たるように突っ込む。普通の人間が無防備に食らったら胸骨を中心に骨が粉砕される勢いだが、この世界の格闘家は硬気功や軽身功による防御、ESP能力者はサイコキネシス等の念による防御を行えるので、万が一当たっても心配は要らないだろう。

 

 事実、全く当たらない。速度からすれば驚くほど当たらない。

 それどころか、相手はNBで一切の遺伝子改変をされていないのに、かわすだけでは飽き足らず、交差する刹那にこちらの急所目掛けて剄打を打ち込んで来た。

 掌がそっと此方の体に触れたと思ったら、どっ!と湿った音が鳴る。威力が体まで通る事は無いが、これでは千日手だろう。

 

「ふむ、変わった鎧を着込んでおいでですな」

「ええ。そちらも碌に見えてなどいないでしょうに。良く反応できますね?」

「おや、分かりましたか。

 なら少々力を入れましょう。そちらもまだ余力があるでしょう?」

 

 やはりやり難い。ESPで読まれる事はないみたいだが、どうにも見透かされている。

 しかし、どうしようか?

 形成位階になれば勝てるかもだが、そうなれば硬気防御しようが関係なく当たれば死んでしまうだろうし……

 

「何を躊躇っているのです。これは戦いですよ」

「―――ほんとにこころ、読めてないんだよな?」

 

 どうなってんだこの人は?

(あぁ、これはやるしかないか)

 

 目を閉じ息を吸い、心を澄ませる。

 

「『形成(イェツラー)』」

 

 ど

  くん

 

 蜘蛛が擬態していた手足に、血の如き蘇芳(すおう)のラインが走り抜けた

 人の手足から異形へと、その姿を変えてゆく。

 

 蜘蛛を使用した場合の(ダイプ)は人器融合型。

 本来なら事象展開型か特殊発現型、おそらく前者になるのだろうが、元来俺の体の一部として作られたもの。その根本の性質が出たらしい。

 ギシギシと軋むような音を立てて服の下の四肢が一回り太くなっていき、張り詰めたシャツの袖とズボンを切り裂いて黒く鋭い棘が生えてくる。破れた服から覗く肌は、手足の付け根から黒い金属質の甲殻に覆われ、その隙間から鼓動の如く脈動する蘇芳が覗く。

 大きく鋭い爪に変じた五指を握りこみ、体を駆け巡る高揚に熱い吐息をついた。

 

 

「これはこれは……、また凶悪な気配ですね」

 

 そう(こぼ)しながらも、嬉しくて嬉しくて思わずといった風な笑みがちらりと覗く。まるでその凶悪な存在が、滅多に見られないご馳走と言わんばかりに。

 

「いきますよ?」

 

 もはや堪え切れん。そんな言葉が聞こえてきそうな口調。

 次の瞬間にはその姿が消え失せる。

 蛇の影の記憶で見たシュライバー少佐のような、暴力的なまでの凄まじい速度で消えるのではなく、速度も確かにあるが、それ以上に此方の視覚の穴に潜り込む様な、正しく超絶の技巧による見失い方。

 

 しかし今度は追い付ける。

 低い体勢で流れるように滑り込んできた体に右の拳を打ち下ろす。尋常の速度ではなかった筈だが、まるで始めから分かっていたかの如く備えていた腕に流される。がら空きになった此方の胴目掛けて奔るもう一方の腕、それを狙い膝を跳ね上げる。避けられた。体を回すように避けたと思ったらその動きで此方の後ろに回りこんでいる。膝蹴りを空振った体勢では回避は無理。 ぱんっ! と足を跳ね上げられた。ついでとばかり力も加えられてぐるりと空中で半回転。逆さになった背中に固い感触。「あ、」

 

 ッッッッッッシン!!!!!

 

 

 吹き飛ばされた。

 無防備な状態に渾身の発剄。強烈などという表現が生温く感じる衝撃。金属に置き換わった四肢も含めた重量がボールのように空を飛ぶ。衝撃は装甲で止まったが、踏ん張りの利かない空中で受けた力自体はどうしようもない。

 

 目まぐるしく入れ替わる天地を拡大された感覚で掴む。大雑把に地面に向け、両の指先からばら撒くように糸を飛ばす。

 能力の応用で具現できるワイヤー。聖遺物の一部であり、此方の意思で自在に動き、攻撃の手段や蜘蛛のように足場として使う事が出来る。それを十本地面に打ち込み、空中で体勢を整えて着地する。

 着地するやいなや、両腕を一振りして糸を操り攻撃を加えた。

 激しく波うち、その先端はまるで鋭すぎる針か鞭の如く襲い掛かる。桂さんもこの糸に嫌なモノを覚えているのだろう、流石に生身で(さば)こうとはせず、例の滑るような動きでスルスルと糸を避けきってしまう。それどころか糸の只中をかわしながら進んでいた。

 だがそれは予想の内。

 一階梯引き上げられ、完全に人の枠を外れた超感覚が相手の表情から僅かに漏れた驚愕を捕らえる。

 使用した糸は精々がピアノ線より少し細い程度で、強度は高いが鋼線のように波打つ程度には柔らかい。だが仮にも聖遺物の一部。それが避けた背後で地面に突き刺さり、そこを基点に全体が硬化、完全に動きを止める。その十本の線で区切られた空間を俺が糸を足場に疾走していく。

 

「触れれば切れ飛ぶぞ、どうする!?」

 

 牽制の言葉を掛けながら、本来なら人間どころか犬一匹支えられない太さの糸の上を両足どころか両の腕まで使い上下の区別無く駆け抜ける。そのスピードは強固な足場を得て地面を走る時とは比べ物にならない。

 桂さんは一気に迫るこちらを見て笑みを浮かべ、何とその場で腰を落として身構える。

 これには自分まで思わず笑いが零れてしまう。当たれば死ぬような攻撃だというのは今までのやり取りで十分に分かっているだろう。にも拘らず、動きの制限された状況で自ら機動性を捨てて笑みを浮かべるその気質。喧嘩もした事が無いのに、心が高揚し、血が熱くなる。

 そしてその気持ちの命じるまま、鋭利な大爪と棘を持った両腕をまるで大顎のように左右へ大きく開き、全身を砲弾として桂さん目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Another Side 桂 天遊斎(かつら てんゆうさい).

 

 

 

 楽しかった。心が躍った。

 

 私はとある古神社に生まれ、神職を継ぐ役目を負い、そう育てられたが、ある一つの事柄を好んで止まなかった。

 それは“力”。

 なまじかな強力な予知など出来たからだろう、暴力という、渾身を振り絞り、刹那に掛ける行為にどこまでも魅了された。それは喧嘩好きを親に見咎められ、心身を鍛えるために知り合いの道場主へ預けられても収まらなかった。

 体躯は小柄で細い。だが、私にはそういった才があったのだろう。二十を越えた頃には預けられた先の合気道の流派を己のものとし、大陸へ渡って中国拳法を学び始めた。三十五を過ぎた時にはそれすら収め、帰国して神社を継ぐ傍ら、合気道と中国拳法をベースに桂神法を創始。境内に練武場を構えて日夜練武に励んだ。

 その内『日本震災』が起こり、遺伝子改変者が多く生まれ、格闘プログラム保持者と呼ばれるにわか格闘家が増える事になった。

 

 新しい時代。

 

 もはや誰も、体を一から鍛え、血の滲むような修練を何十年と繰り返して一つの武術を収めるなどという事はしないだろう。

 遺伝子改変者は適度に鍛えてあれば五キロ・六キロと走っても息切れ一つせず、格闘プログラムはある程度鍛えた体があれば、インストールするだけで子供でも一流と呼ばれる格闘家を捻り潰せる。

 まさに時代の変わり目だった。

 

 なぜこの年になってこの様な時代が訪れるのか。

 そう考えた事が無かった訳ではない。だがそれは言っても仕方の無い事。

 ならば(・・・)、古い世代である自分は、戦いを力を何より好むこの心は、一体何のためにこの時代に生まれたのか。

 

 決心は早かった。

 

 己の血肉で積み上げたものは本物である。

 それが人を弄繰(いじく)り回した末に出来た身体に劣るのか?

 それがあのような紛い物の(つたな)い技に劣るのか?

 

 否!

 

 ならばそれを証明しよう! 命尽きるまで、我が身に敗北は許さぬ。

 

『我ガ使命ハ、遺伝子改変者ニ敗レヌコト。』

 責任ではなくこの身に(たぎ)る情熱で、信念というよりは信仰として、この魂に刻み込んだ。

 

 

 

 あれから『日本震災』後に創っていた孤児院に仁を拾い、母に死なれた塊を引き取り、才能に満ち溢れた彼らに武術を教えながら日々を過ごした。

 仁と出会い、その強大な異能に初めて相手の事が読めないという経験をし、塊と出会い、その病的な人生を経てきたがゆえの強さに感嘆した。

 自分のような力に魅入られた人間を、それを分かってなお”師匠”と呼んでくれるあの子達が(いと)おしかった。

 

 やがて別れの日が過ぎる。

 施設を出た仁は、持ち前の人を惹き付ける才でもって己の”家族”を作り、塊は真剣勝負で私の師でもあった人を打ち殺して破門されたが、あちらこちらの強者や仁の所を回り、一度も勝てていない仁に勝つための腕を磨いていた。

 (しばら)く施設は火の消えたように静かになりはしたが、彼らのその道行きも順風満帆とは言い難いが、それでも幸せそうな顔を見れれば満足だった。

 

 しかし、心には一つの棘が刺さったままだった。

 

 私が生まれ持つ超能力。精神感応や未来予知といった行為を可能とする強力な異能。

 その異能が知らせた一つの未来が、私の心に暗い影を落としていた。

 

 仁が旅立つ少しばかり前、練武場にて彼と恒例の組み手をしていた時の事だった。唐突に見えた光景、それは爆発し、炎に巻かれて焼け焦げてゆく一台の乗用車と、そこから転がり出てくる火達磨になった人間だった。

 そう、数日後に巣立つ仁が死ぬ光景だった。

 感覚的に三十年も四十年も先の事でないのは分かった。

 それを仁に告げ、組を作るのを止めるように言っても、彼が絶対に聞き入れないであろう事もまた、分かってしまった。

 

 悩んだ。

 悩んで悩み抜き、いっその事、彼が旅立つ前に戦う事が出来ない体にしてしまえばとも考えた。

 

 だが、それは諦めざるを得なかった。

 仁は天性の格闘センスに加えて私を超える異能を持つ。施設で私に教えを受け、また共に切磋琢磨した現在、彼は私を大きく上回るほどに強くなっていた。

 たとえその為に己の命を捨てたとしても、再起不能に出来る可能性は殆んど無かった。

 私は、可能性が極僅かで、無駄に命を捨てる羽目になろうとも、それでも、試しに(・・・)やってもみても良かった。

 

 

 結局仁は施設を出て行き、そのまま二年三年と時がたった。

 

 だが今日、ここに仁と同じく私を超える異能者が現れた。それも彼を飛ばした転移能力者に問題があったのか、偶然にも仁の前に転移するという現れ方で。

 

 天佑神助

 

 思わず脳裏によぎった言葉をすぐに打ち消す。未だ何一つ分かっていない者に期待をかけるものではない。

 

 

 

 それならと条件を引き換えに始めたのが此度(こたび)の立ち合い。

 身体つきや動きを見れば格闘技には縁遠いのは分かる。聞けば遺伝子改変者ではなく異能者でもなし、特別な機器を持つわけでもなし。にも拘らず、仮にも塊の全力の遠当てに傷一つ負っていない。

 一体どのような尋常ならざる技でそれを成したのか、武術家としても血が滾った。

 

 始めの内は遺伝子改変者すらも超える身体能力に振り回され、ぎこちない動きが目立った。此方の様子見というよりは、まるで初めて扱う自分の体の動きを確かめているような、そんな節が見られた。

 当然ながらこれは勝負。その隙をついて幾らか打ち込んでみたが、見えざる鎧を着込んでいるかのように服をへこます(・・・・)ことすら出来なかった。

 

 しばし千日手の如きやり取りをするなか、彼の動きは見る間に上達、いや、後足で立った猿が人間になったかの如く、もはや進化と表現すべき速度で熟達してゆく。

 それが一段落したとみるや此方が掛けた発破。

 頷いた彼が一言、聞き慣れぬ言葉を口に出したと思うや否や、四肢が膨れ、服を裂いて異形の手足が現れた。

 

 すわサイボーグの類いだったかとも思ったが、特有の機械くささとでも呼ぶものが無い。

 何よりあの異形はあまりに生物の気配がした。彼は一度も気やそれに類する力を使ってはいない。拳を交えてみて、やはり使わないのではなく使えないのだと確信した。にも拘らずあの四肢には、健常の生き物と同じく生気が満ちている。

 

 そして身が震える程に異様で、何よりどこか意思を感じさせる奇怪な気配。

 

「これはこれは……、また凶悪な気配ですね」

 思わず、試合の最中にこの様な言葉が出てしまう。

 

 始めてまみえる新しい形の強敵。期待に震え(はや)る気持ちに押され、此方から仕掛けた。

 渾身で駆けたにも拘らず至極あっさり捕捉される。あの四肢が(あら)わになってから視覚聴覚などの五感に加え、六感も非常に利くものになっているようだ。

 打ち下ろしと膝打ち、速さも込められた力も目を見張るもの。万一当たれば弾けて飛ぶ。しかし予知された動きは“速さ”が死ぬ。二度の豪速の捌き、背後を取って体勢を崩した後、練りに練った渾身の発剄を背に打ち込む。

 鉄骨を纏めて圧し折る気の一撃、それを受けてなお彼は堪えた様子を見せていない。それどころか宙にいる内から不可解な糸を伸ばして身を捻り、受身すら取らず足から着地、すぐさま糸を使って反撃してきた。気を通した訳でないにも関わらずうねりながら襲い掛かってくる(さま)は、正に生き物そのもの。

 相手の驚異的な身体能力を考え、僅かの隙も見せないよう最小の動きで糸を避ける。たとえ先端が背後へ流れた糸が、その腹を此方目掛けて波打たせても回避できるよう慎重に前進する。

 

 が、体を大きく囲むように背後へ流れ去った糸が、突然凍り付いたかのごとく動きを止め、即席の危険極まりない檻と化した。

 彼は手元へ繋がる糸を切り、この糸に在らざる現象に僅かに驚愕した此方へ向かって、あろうことか糸の上に(・・・・)飛び乗り、その中を先を上回る速度で疾走してきた。

 軽身功ではない。彼は気功は使えない。ならあの動きは何だ?

 その道理から外れた戦い方に堪えきれぬ笑みが浮かぶ。

 

 この身は檻の中にて動く事(あた)わず。なれば動を捨て、静と柔にて之を制す。

 

 こちらの笑みにつられたのか、その(おもて)に獣の如き笑いを浮かべ突進してくる。

 横に鎌のように広げられた腕に触れ様、半身になり腋の下、体当たりの死角へ潜り込みつつ掴んだ腕を捻る。

 突進の空恐ろしい勢いを自らの力で捻じ曲げられ、轟音を立てて地に人体がめり込む。すかさずその胸に片足を乗せ剄を放つ。

 

 どんっっ!!

 

 足は体に食い込まず、しかし彼は口をかっ! と開き血を迸らせた。

 浸透剄。

 相手の強固に過ぎる外殻に手を焼き、ならばと直接内臓を打撃したのは正解だったらしい。

 しかしこれで油断できる相手ではない。すぐさま飛び退(すさ)り距離をとる。

 

 ちらと視線を降ろせば、己の左の腕は肩が外れ骨が折れと大変な有様となっている。

「私もまだ修練が足りませんね」

 悔やむでもなく、楽しげな声が口をついて出た。

 

 

 

 

 Another Side 桂 天遊斎 Out.

 

 

 

 

 




能力説明スペース


●原作情報


原作名
 ライトノベル
 シャギードッグ


技術名・気功   
 (以下、特徴を挙げる)

・人間に限らず生物が内包するカロリーに代表される生命エネルギーを、”気”と呼ばれるエネルギーに変換(錬気)して利用した技。

・主に硬気功、軽身功などがあり、気功の効果は錬気の出力によって決まる。

・物質には気の通りやすい物と通り難い物があり、前者を気を扱える者が持つと強力な武器とすることが出来る。 主に木製や鉄製が気の通りが良く、化学製品などは気の通りが悪いと思われる。

・錬気には大別して二つの方法があり、自身の体の中で気を練る自己完結型の錬気と、外部の動植物などの存在と気をやり取りして互いに高めあう外部錬気がある。 後者の方が非常に強力で、致命傷であっても癒してしまうほどだが、太陽などの相手が強力すぎる場合、原作にて桂翁曰く、自身をうっかり(・・・・)燃やしてしまう事が良くある とのこと。超危険。 後述のホルダーはプログラムにある自己完結型の錬気しか知らない。


名称・格闘プログラム  一般使用者・ホルダー
 (以下、特徴を挙げる)

・脳に気功を使用した格闘技の動きを、一つのプログラムとしてインストールする。

・プログラムは使用者の肉体を操作し、自動で錬気を行い、意識を加速させ、プログラムに沿った動きで格闘を行う。

・届出を出したホルダーは生身の見えるところに、主に左右どちらかの手の甲に”ホルダーズエンブレム”と呼ばれる紋章が入れられる。 これは制御プログラムも兼ねており、プログラムの起動と同時に蛍光グリーンに発光、状況やプログラムを起動した相手を判断して、場合によっては強制的に起動モードや錬気の出力を変更する。

・プログラムには使用目的によって錬気の出力が設定されており、動きを確かめるため等の練習に使う『テストモード』、実戦で使用される『デュアルモード』、突発的な危機的状況で起動する『エマージェンシーモード』等がある。 さらに一つのモードにつき、錬気出力を五以上のステージに分け、使用者が選択できる。

・プログラムは国によって管理、等級分けがされており、その詳細は原作に書かれていないが、犯罪者などが好んで使用するものは未認可の等級外(オーバークラス)と称される錬気出力が規格外に高い物。

・ホルダーでも動きを自分流にアレンジできるほどに鍛えた者は”マスタークラス”と呼ばれ、このクラスになると本来ならプログラムの助け無しでも気を扱えるはずだが、国の”プログラムが無ければ気は扱えない”との宣伝によって、自身で実践できる者は極々少数に留まっている。


能力名・ESP能力(超能力)
 (以下、特徴を挙げる)

・脳や精神など、様々な要因で発動する異能力。 ゆえに頭部への負傷や精神の変化によって失われることもある。これは強力かつ精神的なESPほどこの傾向が強い。

・以前より少数居た能力者を研究し、主に遺伝子改変者に発現する能力である。 また、研究機関などで人為的に特定のESPを発現させるための実験もされている。

・代表的な能力は『精神感応(テレパス)』、『念動力(サイコキネシス)』、『発火能力者(ファイアスターター)』、『転移能力者(テレポーター)』などがあり、その数は多種に及ぶ。 なかでもテレパスは遺伝子改変者にとって割りとポピュラーな能力。しかし、実際に何かの役に立つレベルのESP保持者は稀で、何かの精神的衝撃によって発現し、周囲に被害をもたらす場合も多々ある。

・ESPはその発現の仕方によって幾つかに分類されているようだが、原作では青海塊の”感情誘発型”以外の紹介はされていない。(たしか……) 

・サイコキネシスなどのESPによる念とは、何らかのエネルギーに発現者の思考によって方向性を与え、それを操るもの。 方向性を碌に与えずに念を放つと無差別の衝撃波のようになる例が原作にある。

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