無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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●お知らせ
一週間ばかり更新できないかもしれません。
実は東京という都会へ出向く事になりまして……果たしてどうなる事やら。
向こうでも可能なら更新します。


始めに一言。

 やりすぎた!


……やりすぎました。ごめんなさい。
覚悟して読んで下さればと……

あと士郎の内面が思い出せない。Fateやったの何年前だっけ?
とにかく、かなり違和感が酷いと思います。
もし”こんな感じだ”、”士郎ならこう考えるだろう”といった指摘があれば、ぜひ教えてくださいませ。



第参章 2 珍客過ぎてどうしよう (Fate編)

 

 

 Main Side 黒川冬理 In.

 

 

 

 無事に意識の移動が成功した。

 最悪の場合は欠片がかなり溶かされている事も考えていたが、幸いそれはないようだ。

 体に感覚が戻ったのを感じ、まぶたを開く。

 

「ふぅ、どうやら無事か」

 

 なにやら足の裏に地面の感触が無かったので予想していたが、やはり体が宙に浮いていた。別にそれに見合った上向きの力が掛かっている様子は無く、まるで宇宙空間のようにふわふわと浮いている。

 何よりニュルニュルでもネチョネチョでもない。助かった。

 しかしこれは”そういう世界”なのか、それともあの不気味な舌が何かしているのか?

 現状では何も分からない。

 

 

 改めて周りを見回す。

 

「ここは……どこだ?」

 

 目の前に広がったのは不思議な空間だった。

 東西南北に天地を見渡してみても霞んだ白と黒しか目に入ってこない。

 よくよく見れば、今まで地面と思っていた黒いものが波打っている。

 となるとあれは海か?

 しかし、何処かの霧が出ている海上と判断するにはどうにも嫌な感じが消えない。

 眼下の真っ黒な海以外は何もなく、空すら乳白色のもやに阻まれて果てが見えない。

 

 これはどうしたものか?

 移動しても良いが、肝心の陸地やらなんやらがある方向が分からない。

 一応はここも物語の世界なので、主人公とかそれに類する生き物がどこかに居る筈である。

 

 まさか、あの黒いのが主人公とか、ないよね?

 

 嫌な考えを頭を振って振り払う。

 兎にも角にも周りを調べてみよう。

 そう考え、下に向けて降りていく。

 降り方は簡単、降りたいなーと思ったら高度が勝手に下がったのだ。

 どんどん黒い海面(?)が近づいてくる。

 

「あれ? なんっか違うような」

 

 それに凄いイヤな感じが強まっている?

 

 背筋に走るぞわぞわした感じに押され、目を凝らして見詰める。

 結構波打っている。

 

「ん? 波が大きいだと!?」

 

 ”風がまったく無い”のに!?

 

 ガンガンと銅鑼でも叩いているかのように第六感が警鐘を鳴らす。

 

「やべェ!!」

 

 全力で上へと考える。体がそれに従ってグンと上に持ち上がっていくが、その動きは焦りとは逆にあまりに鈍過ぎる。

 いっそ自分で、そう思ったその時。

 

 こっちの真下、黒く蠢く”何か”の海が、まるで対潜ロケット(ボフォース)を纏めて打ち込まれたかの様に大きく盛り上がった。五メートルか十メートルか、その高さの分だけ距離が近くなり、そしてとうとう、俺の素晴らしい視力を誇る眼球が”アレ”の細部を見てしまった。

 しゅるしゅると、数える気にすらならない程折り重なり、蠢きあっている黒い舌。

 こうやってみると舌というより細い布だが、それが地平線とはいかないが、見える範囲全ての下を覆っていたのだ。

 

「ひっ!」

 

 流石にこの光景には鳥肌立ってかすれた声が漏れた。

 さんざっぱら人間の死体やら何やらを見て来たが、そういう一般的に言う所の”グロい”というのはまったくもって平気だ。

 だがコレは話が違う。激烈に気持ち悪い。というよりも気色が悪い。駄目だ。

 

 そしてついに、盛り上がったアレの小山がはじけた。

 はじけて、それで終わりなんてこっちの希望は当たり前に無視され、正に間欠泉と表現すべき勢いでアレが宙に吹き上がり、こちらに向かって大挙して殺到してきたのだ。

 

「っ!? ぅぎゃああああああぁぁああぁああああ!!!!!!!!!!!」

 

 あまりといえばあんまりのおぞましい光景に思わず絶叫を上げる。

 絶対に、何が何でもアレに捕まりたくない。

 

「い、いっそげ急げ急げ……、あった!」

 

 必死になってそこらの空間に外の本体とのラインを通じて穴を開け、外世界のログハウスにある倉庫から聖遺物を引っこ抜く。

 手に握っているのは一本の剣。

 一般に使われていたロングソード等より幾らか肉厚で長い。造りも華美な装飾などは一切無く、それどころか鍔の類いすら見当たらない正に直剣といった風情だ。

 

「死ィねやオラァー――!!」

 

 それを握り締めエイヴィヒカイトを起動、躊躇無く位階を『創造』までシフトアップする。碌に渇望など設定しなかったが、現状俺が何より”渇望”している”アレを近づけたくない”という思いと、聖遺物の特性がうまい具合に組み合わさったようだ。

 それに更に”増幅”の魔術を上乗せし、こっちに向かってくるアレ目掛けて全力で振り切る。

 

 ドドドッドォォドォォォンッ!!!

 

 空に描かれた銀線から落雷と見紛う雷霆(らいてい)が数条迸り、一塊となって群れているアレを薙ぎ払った。

 

 この剣は楽園で手に入れた『炎の剣』。以前に俺の胸を背中からぶち抜いてくれた一品だ。

 名前は炎だが、雷撃を操る神が鍛えた剣である。

 エイヴィヒカイトの核として俺が使用した際の武装型は、全四種中もっともバランスに優れた武装具現型であり、意外にも蛇の世界以外で生み出された魔術とは相性がいい。

 だがあれだけの物量をなぎ払い焼き尽くすには絶望的に火力が足りない。

 しかも黒い奔流が途切れたのもつかの間の事。すぐさま新しいアレが吹き上がってくる。

 

(まずい、このままでは捕まる!?)

 

 慌ててこの間隙を使って次を、アレに対抗出来るだけの物を作り出す。

 

(非常事態だ。この身の危機には代えられん!)

 

 そこらの空間自体を問答無用で分解、”素”を確保する。代わりに世界に拳大の穴が開いたが、それを利用して再び倉庫へアクセス、手の聖遺物を放り込む代わりに以前に訪れた機械世界で手に入れた超大型量子コンピュータの端末と、自身が作り上げたとあるシステムの基盤を放出する。

 

 体とそれら二つを中心に確保した”素”を操作する。

 

 合金製の骨格がそれらを包み込むように構築され、そこに二基の主機が合致。 ”素”を変換して発生したエネルギーを使って、短時間で鼠算式に天文学的な数までに膨れ上がったナノマシン群が、骨格に張り付いて装甲となり、腰部兵装ラックにマウントされたライフルとなり、左腕に装着された楕円形の盾となる。

 

 

 その場に現れたのは全高二十Mジャストの、お髭がダンディな白い人型万能機動兵器。

 

 

 機械とは得てして特定の方向に特化して作成されているものだが、この機体はナノマシンを広域で制御する事により兵器として限りなく万能を目指した物。

 

 前の前に訪れた機械文明の世界で構造を覚えた機体だが、原作を見ていったら、俺のこの機体のナノマシン制御システムに対する興味が強すぎたのか、少し力が入った結果、なんと機体が造られる前の世界に到着してしまった。

 しかも変な影響が出て、意識の移動が終わった辺りからこの世界にある大型量子コンピュータ等に、この世界の機動兵器に似たガンダムと呼称される機体のデータが、その歩んだ歴史と共に何処からか送られてきたというのだ。

 原作ではこの世界の遥か過去の記録とされていたが、予想するに俺が入る時に開けた穴が若干大きすぎたため、同じ”ガンダム”という非常に”近い”世界のデータが一気に流入したのだろう。

 どちらにしろ地球も宇宙の民も大混乱。たった数年であっという間に世界は戦火に包まれ、火達磨になった。

 

 当初は目当てのブツが影も形も無く、戦争ばかりの世界に絶望していたものの、どうせだったら俺が作ってやろう! と一念発起。元にわか(・・・)科学者の血も騒いだ結果、研究主任の私室忍び込んで直談判やら脅迫やらをし、チームに参入する事に成功した。

 

 やる気に満ちていた俺は、以前の世界でαの部隊に所属していた、同じく二基の縮退炉をエンジンとする200M級の非常識機体『ガンバスター』を参考にエンジンや構造手を入れた。ちなみにこのガンバスター、とこらへんが非常識かというと、全長をキロメートル単位で計るような生き物の群れ(・・)相手に無双出来る性能と言えば少しは伝わるだろうか?

 

 機体構造の方は当然の如く重装型になり、これまた当たり前のように却下されたが、主機である縮退炉は劇的な性能の向上に成功した。

 とはいえ、まさかガンバスターの燃料であるアイス・セカンドをぽんと出して見せるわけにはいかない。

 技術融合によって格段に出力を増した、元来の不連続超振動ゲージ場を利用した縮退炉一基をメインエンジンとし、胸部の空いていたスペースに”予備”と言って俺が使うための若干大型となったガンバスター型の縮退炉を搭載した。

 

 だが当然問題もあった。俺が入った事で本来は誰かが思いついたであろうナノマシン制御システムの構築が迷走しだし、最終兵器となるべき本機の製造計画が狂っていった。

 流石にコレは拙い。

 慌てて知恵を振り絞った。最終的に魔術を解禁し、時間限定で首を掛けシステム構築を一任してもらい、科学と魔術の融合である現時点の俺の最高傑作『バベルシステム』を作り上げて搭載。なんとか帳尻を合わせることに成功する。

 

『バベルシステム』

 機体の主機である双発縮退炉の生み出す莫大なエネルギーを魔術に転用し、世界に存在する生命体の脳へアクセス、その普段は殆んど使用されていない脳の処理能力を少しずつ拝借するシステム。

 かつて全ての人の心を繋ごうとして、神に打ち倒されたバベルの塔。 『バベルシステム』はそのバベルの塔のエピソードをモチーフにして名付けた。

 

 これにより、原作とは全く違った物に仕上がってしまったが、他の誰よりも構造を知ることができ、お陰でこのように”素”から作り出すなど最も扱い易い機体となった

 

 勿論だが他のシリーズの機体なども造れる。

 これは考えてみれば丁度いいと、世界に流入した全シリーズの機体データを、髭のバベルシステムの起動試験中にちょいちょい手を入れて実行した思考ハッキングや、システム構築の功績を盾にデータの閲覧を要求して全て集めたのだ。

 この際に今機体に端末を組み込んだ量子コンピュータの、その原型となった量子回路を手に入れた。

 

 意外にお得になった世界だったと言えない事もない。

 ……今更だが、実行したのが世界とは言え俺が原因で戦争が起きたのに、自分に利が出てラッキーとか考えてるのは重症だな。どこかでバランスを取るか?

 

 

『本日ハ曇天也。おはようございます、マスター』

 

 機体の構築の際にコックピットとなった場所に、冷ややかでどこか金属を思わせる滑らかな女性の声が響く。

 超大型量子コンピュータの管理擬似人格である『ヌル』の声だ。

 この”無い”という意味の名を持つ彼女は、度重なる増設と改良、更に俺の手による魔術的改造を経て、情報の空間投射により魔法じみた真似事すら可能となった演算装置を管理するために設けられたAIが、”素”を餌に外世界で自我を獲得した存在だ。

 

「おはよう。すまんが、いきなり害虫、害獣? 何て言えばいいのか分からんが、明らかに害のあるアレを焼き払いたい」

 

『――あれはいったい? ……たしかに、物理的にも精神的にも害がありますね。

 了解しました、機体を起動します。

 

 バッテリー残量、100%。

 システムチェック。 ……メインシステム・バベルシステム、共に正常。

 本機体チェック。 ……機体状態、良好。

 主機関、起動。 ……起動完了。

 両縮退炉、稼働率を40%へ。

 ナノマシン群、自己増殖を開始。

 

 システム、戦闘(コンバット)モードへ移行します』

 

 ヌルの冷たい声が流れるたびに機体に命が吹き込まれ、コックピットに光が灯ってゆく。

 操縦桿を握って足はフットペダルへ。

 メインカメラが機能し、パネルモニターに映像が出る。って、

 

 ウゾウゾ、ウゴウゴと奴らが寄ってきてる!

 

 即座に推進器を噴射、脚部に搭載されたマイクロエンジンの集合体であるスラスター・ベーンが生み出す強力な推力で、より高い高度へ逃れる。

 腰の後ろにあるハードポイントから、大型ライフル引き抜き銃床部分をスライド。

 全力射撃モードに移行して狙いを定める。

 

「喰らえやオラ!」

 

 粒子ビームで片っ端から焼き払う。

 放たれた閃光は黒い濁流を欠片の抵抗も許さず引き裂き、そのまま蠢く海面へ着弾し大爆発、内包した莫大な熱量を存分に撒き散らす。金属粒子を固有振動によって収束・発射されるその威力は、かの世界で建造されたモビルスーツ群の中でも他の追随を許さない。

 

「ヌル、バベルシステムを起動」

『了解。バベルシステム、起動』

 

 なぎ払う一方で同時にバベルシステムも起動、十分な演算能力を確保出来るかどうかで生命体が居るかどうかを探る。

 

「これ、かなり人間が居るな。それも一万や十万じゃない、一つ上の億の単位で居るはずだ。だが一体何処に?」

『予想では五十億は超えるでしょう。少なくともレーダーの探知範囲内には生命反応なし』

 

 まさかこんな怪奇生物の居る場所では生活できないだろうに。

 それに、それだけの数が居るってことは、それだけの土地を支配下に置いてるという事だ。

 

 一先ず考えるのは置いておき、先にアレを完全に排除しよう。でないと落ち着かない。

 ライフルを再びハードポイントへ戻す。

 

「バベルシステム、稼働率を30%に設定。目標、敵対性動的存在。ナノマシン散布を開始」

『システム稼働率30%へ変更。ナノマシンの散布を開始します』

 

 バベルシステムの稼働率が上がると共に、コックピットの内壁に有機的無機的な黒いラインが燐光を放ちながら駆け巡る。

 射撃を含め滞空以外の行動を中止、余剰出力をバベルシステムへ回す。

 このシステムは俺から離れれば使えなくなってしまう、兵器に搭載する物としては完全に欠陥品だが、利点は原作よりも格段に細かなナノマシン制御が出来る事だ。

 

 眼下の黒いのがナノマシンによって次々と分解されていく。

 しかし、

 

 あれ……?

 何かおかしい?

 

『いえ、異常な点があります。対象を分解したにも拘らず、ナノマシンの増殖がありません』

「あ、それか」

 

 確かにそれはおかしい。

 あのナノマシンは強力な自己増殖能力を持つが、増えるにしてもその部品がいる。

 これは、最初の増殖は俺が手伝って、後は分解した対象を使用するのだが……

 

「あれだけの量分解して増えないってのはどういうことだ? まさか質量が無いとか言わんよな?」

『――いえ、どうやらそれで当たりのようです』

「む、何か探知に引っかかったか」

『逆です。光学センサー以外の、どのセンサーでも実際のデータが全く取れません。

 私は目視で指示を出しましだし、ナノマシンも分解する事ができましたが、やはり質量が無いとしか判断できません』

 

 まて、それって確か同じ事があったよな、昔に。

 あれはまだ人間だった頃の思い出だ。

 意識が朦朧としてばっかりだったからハッキリとは覚えていないが、楽園がそんな感じだったハズ。

 

「となると、あれを潰してもまた湧く可能性大ってとこか」

『?』

「あぁ、神とかの人間より上位の輩が拵えたもんだったりすると、あんな感じになるのを見たことがある」

『では、現状での根本的な対処が取れませんね。

 それが分かった以上、いったん退避することを進言いたします』

 

 それしか無いかねぇ、やっぱり。

 捕まるわけにもいかんし、捕まりたくも無いし。

 

「つってもどこに逃げるよ?」

 

 アレの海も、いったいどこまで広がってるかわかった物じゃないし。

 

『その事についてですが、少し分かった点があります』

「何?」

『ご存知の通り、マスターとの通信は私の演算によって空間を越え、そちらとの双方向通信を行っております。当然ながらマスターの座標も把握しておりますが、どうもその座標が本世界の通常空間とずれています』

 

 えっと、つまりあれか?

 

「俺の居るこの場所は物語の世界の中だけど、それとはちょっとずれた場所だと」

『イエス。更に予想するなら、マスターの欠片が飲み込まれた経緯を考慮するに、ここはあの妙な存在、もしくはその大元となる存在の”胃袋”的な空間なのではないか、と』

 

 ナニソレ、イヤスギル。

 

「冗談じゃねぇぞ!? さっさと脱出するぞ、ヌル!」

『イエス、マスター。

 空間位相転移プロセスを開始します。空間書き換えを実行』

 

 ヌルがその演算能力を使い、目前の空間そのもののデータを書き換えてゆく。

 見る間に書き換えられていく空間はぐにゃぐにゃと歪み、それが収まるとそこには銀色の直径30Mはある円盤があった。

 

『ホール開口。固定完了しました』

「サンクス、ヌル! あれが追って来る前にさっさと行こう」

 

 すぐさま海面近くまでの範囲を制圧していたナノマシンを集結、追加装甲の形で機体に纏う。

 そのまま宙に固定された銀盆に飛び込む最中、ヌルの慌てた声が聞こえた。

 

『っ! 魔力による外部干渉発っせぃ……

 

 だがその言葉を最後まで聞き届けることなく、機体はホールにその全身を飲み込まれた。

 

 

 

 Main Side 黒川冬理 Out.

 

 

 

 

 

 

 Another Side 衛宮士郎 In.

 

 

 

 俺は遠坂とセイバーと一緒に協会からの帰り道を歩いていた。

 遠坂のサーヴァントという、何だか気に入らない感じのするアーチャーとかいう男は、霊体化して透明になって付いて来ているらしい。

 

 正直頭が痛くなりそうだった。

 知らない間に聖杯戦争なんていう馬鹿げた殺し合いに巻き込まれ、他の六人の参加者(マスター)とそのサーヴァントを殺ろさなくちゃならないらしい。

 

 冗談じゃない!

 

 俺も正義の味方になりたいって夢はあるけど、だからこそ殺し合いなんて絶対に納得できない。

 だけど他の参加者はそうじゃないらしい。

 自分の願いを叶える為に他人を殺すつもりだと、同じマスターだった遠坂は言う。

 遠坂も俺達と戦うとか言ってたけど、遠坂は良いやつだ。そんな事するわけない。

 

 だけど実際にサーヴァントの強化のために、周りの人間を傷つけるマスターがいる。

 数日前に起きたガス爆発の事故。

 あれは霊的存在であるサーヴァントを強化するため、同じ霊的要素である人間の魂をサーヴァントに喰わせるためにマスターが引き起こしたというのだ。

 そんな傍迷惑な奴等は到底放ってはおけない。

 何とかして止めないと!

 遠坂やセイバーと話し、改めて固く決心する。

 

 そして遠坂の家と俺の家の分かれ道、坂の下の交差点まで来た。

 話しているうちに何故か赤くなって怒っていた遠坂だが、わざわざこっちを心配して忠告までしてくれる。

 うん、やっぱりあいつ良いやつだな。

 

 そう思っていた、そんな時。

 

 

「―――――ねぇ、お話しは終わり?」

 

 鈍色(にびいろ)の化け物を連れた小さな女の子が、こっちを見下ろしていた。

 

 

 

 

「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」

「お兄ちゃん、って? ちょっと待ってくれ、人違いじゃないのか?」

 

 こっちの言葉に女の子は冷ややかに笑う。

 

「いいえ、あなたはわたしのお兄ちゃんよ」

 

 付き従う巨人が一歩前に出る。

 無言で佇むその巨体から放たれる凄まじい威圧感。

 それだけでアレが、正真正銘の怪物だと否が応にも悟らされる。

 

「なにあれ、単純なステータスはセイバー以上じゃない!」

 

 遠坂が叫ぶ。

 それを聞き、巨人を従えた女の子が名乗る。

 

「こんばんは、遠坂の当主。私の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

「アインツベルン……」

 

 遠坂が苦々しげに呟く。

 あの女の子を知っているのか?

 

「じゃあ―――殺すね。やっちゃえ、バーサー、ッ!?」

 

 冬の魔女が冷たい笑みのままスッと目を細め、隣の巨人に殲滅の命を下そうとしたその時、

 

 ふわり、と。

 

 周りの空気が温まって浮き上がったような、そんな感じがした。

 

「…………え? これ、魔力?」

 

 一瞬で静まり返った夜の空気に女の子の呆然とした呟きが響いた。そして――

 

「うぐぅ!?」

 

 その空気がいきなり沸騰した。

 沸きたった何かが重圧となって辺りを支配し、全身に重く圧し掛かってくる。

 さらに強烈な違和感が五感を包み、吐き気すら催す。頭の芯を思い切り振り回されているような酷い感覚に、思わず口を押さえて(うずくま)ってしまう。

 

「なんだってんだ、これ……」

 

 正直しゃべるのがつらい。遠坂も辛そうに膝をついていた。

 セイバーはそれでも動けるのか、周囲を警戒している。

 

「っく、似てるけど魔力じゃないわよこれ。いったい何が」

 

 いきなり夜の空が明るくなる。

 ライトのような強い光じゃなくて、もっと柔らかい光だ。

 

「なっ!?」

「うそ………」

 

 セイバーに続いてあの遠坂が思わずといったふうに声を洩らす。

 俺の喉からも呻き声に似た唸りが出ていた。

 それだけ目の前の光景が尋常じゃなかったのだ。

 

 この旧市街から見て新市街の方、大体新市街と旧市街の間を流れる川の上辺りだろうか。

 雲のない月の明るい夜空に、巨大な銀色の鏡のようなものが浮いていた。

 滑らかなその面で月光を反射し、それは音も無く静かに、いつの間にかそこに存在した。

 

「なんだ、あれ」

 

 あて先の無い疑問が口をついて出る。

 当然答えなんて返ってこない。ここにいる全員が知りたいだろう。

 その時、空に浮かぶ鏡に変化が起こる。

 

「あれってサーヴァント召還の魔方陣じゃない!

 どういうことよ、サーヴァントは七騎とも出揃ったはずでしょ!?」

 

 俺がセイバーを召還した時にも土蔵の床に光っていた、眩く輝く精緻な魔方陣。

 それがあの銀色の鏡の周りを囲むように明滅していた。

 

「遠坂、じゃああれからもサーヴァントが出てくるのかよ?」

「知らないわよ! 私が知るわけ無いでしょ!? 大体あんな大きさの英霊なんているわけ、

 

 ゴオオオォォォォォ―――!!

 

 訳が分からない。今にもそう言って頭を掻き毟しり絶叫しそうな遠坂が怒鳴り返してくる途中、ジャンボジェットのエンジン音に似た凄まじい音が突然響き始める。

 こんな夜中に低空で飛ぶような飛行機はいない。

 となるとアレからしているのだろう。

 

 案の定、銀色の部分を通り抜けるように何かが現れた。

 

「ちょっと……、いい加減にしてよね……」

 

 隣から地獄の鬼もかくやというドスの利いた声がする。

 

「なんなのよ、あれは! 英霊どころかまるっきりロボットじゃない!!」

 

 そう、飛び出してきたのは白くてゴツイ装甲を身に纏い、なぜか髭を生やした人型の巨大ロボットだったのだ。

 

 

 

「なんでさ」

 

 うん、これはないよな。幾らなんでも。

 魔術で呼び出されたのが巨大ロボでしたってのは、何と言うか、凄くシュールだ。

 

 でも巨大ロボ。

 巨大ロボットだぞ。

 漢のロマン、巨大ロボ。

 

「カッコいい」

「ッ!!!」

 

 遠坂に凄い目で睨まれた。

 

 

 

 その後、例のロボは二・三度首を回して周りを見渡した後、何かする訳でもなくあっさり人家の無い町外れの山の方に飛んでいった。

 あのイリヤスフィールと名乗った女の子も、あの非常識な出来事に気が削がれたみたいで、これまたあっさりと帰っていった。

 

 俺達もあの光と音で、寝ていた民家の人が起き出したのを感じて直ぐにその場から離れた。今はあんまり予想外な事が起きたから、一時的に同盟を組んでそれを話し合うために俺の家に向かっている。

 遠坂はあの子の連れてた巨人と戦わなくて済んだ事に安堵したようだったけど、あのロボットのド派手な登場がよほど気に障ったのか、

 

「何でよりによって空なんか目立つ所で召還すんのよ!

 私の管理している土地なのに秘匿も何もあったもんじゃないわ。それに拙いわね、あんな事があったら絶対協会から何か言ってくる……」

 

 なんてあれから考え込んでいるようだ。

 

「本当に、なんでさ」

 

 

 

 Another Side 衛宮士郎 Out.

 

 

 


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