無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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またもや、またもや番外……
本編待ってた方に申し訳ない。
これからまた投稿続けます。
どうもFate編の手直ししてたら時間ばかり過ぎてしまって、
こうなったら以前の場所までそのまま上げて、その上で
改訂版Fate編を入れてもいいな、なんて。

追伸:今話も、またしても読み手を選ぶ代物です。
   原作知ってるならタイトルで落ちが分かるんですが……そうでないなら御勘弁を。



Seal's Story : 圧倒的

 とある日、世界の幾つかの国の首相宛に連絡が入った。

 それは一通のメールだった。

 怪しい事に、本来下から上がる筈のそれは、あらゆる防御や監視を掻い潜ってプライベートエリアのデスク、あるいはベッドの上へと届けられた。

 文面は長くない。

 本題は簡潔と言っても良かった。

 

 

『貴国の戦力と演習を行いたい。

 我が方は私有する艦隊戦力のみであり、実戦経験を積ませる目的である。

 引き換えに此方は、貴国へ国家予算相当の物資を提供するものとする。

 交渉の意図があるならば、下部へサインを』

 

 

 悪戯としか思えない、実に馬鹿げた内容だった。

 しかし国としては『悪戯だろう』で済ませる訳にはいかない。

 このような真似をしてのけた犯人を捕らえなければならず、またその手法も判明させなければならなかった。仮に犯人の目的が暗殺だったならば、それは成功していたも同然なのだから。

 調査の過程で、手紙は科学技術によって徹底的に調べ上げられた。

 置いてあった場所。

 そこへ到達しうる経路。

 全てもまったく同じに、塵一つ見逃すなと調査された。

 

 しかし、結果は芳しくなかった。

 あらゆる調査は“アンノウン”と結論し、超能力染みた推察を立てるのが関の山だった。

 そして暗礁に乗り上げた調査は、更に踏み込んだ方法を取った。

 

 手紙の下へ、文面にあったように、サインを書き込んだのだ。

 

 勿論首相のものではない。まったくの別人のものだ。

 しかし反応があった。

 ただの紙でしかない筈だったのに、そこへ記された文面が独りでに、見る間に消え去り、新たな文字が表れたのだ。

 

 

『交渉を』

 

 

 やはり短い、簡潔に過ぎる一文。

 そこから話は進んだ。

 交互に、紙に文字を書き、文字が表れるのだ。

 

 結論から言おう。

 演習は数カ国の合同演習と表向きの形を整え、実現される運びとなった。

 決め手はやはり対価として明記されていた物資である。

 交渉にて、当然の如く話は難航した。信頼を持たぬ手紙の送り主側は、まず相手に真剣に交渉するに値する“何か”を示さねば話にならない。

 当たり前の如くされる追求に、だがその口を問答無用で閉ざしてみせたのは『前払い』として支払われた半金だった。

 それらは国々によって種々様々であったが、レアアース、レアメタルを皮切りに、希少で高価な地下資源が文字通り山と出現したのだ。

 これは単なる国家予算相当額どころの話ではない。

 外国からの輸入、あるいは自国国土での採掘・精錬、そういったコストが丸々浮き、更には有効活用による自国企業や技術発展が見込める。政府としても企業へ不必要分の売却を行う事で莫大な利益が見込め、かつ新しいコネクションの開拓も進むだろう。

 そして、残りの物資もスイス銀行の貸金庫へと、時限解凍で預けられているという。つまり演習の結果がどうあれ、残りの半分も手に入るという事だ。

 

 これで頷かない訳が無かった。

 

 

 そして小さいながら、もう一つ理由があった。

 相手方の戦力だ。

 『艦隊戦力』

 政治家によらず、この戦力は聞く者を侮らせるものであった。

 現在の国家戦力と呼ばれるものが、大艦隊でも航空戦力でも無くなったのは市民にすら明確な世界的事実である。艦隊などと、実に古臭く、非力で、新しい時代が幕を開けて十と数年を経た今、それらは前時代的と評される代物でしかなかったのだ。

 そして後の交渉で取り決められた規定にある『こちらの艦隊の全滅をもって、演習の終了とする』との言が、そこへ一粒の説得力を添えていた事も忘れてはならない。

 

 無論、いくら美味い話とはいえ、これが怪しい話には違いない。この文面を馬鹿正直に信じる者は一人としていなかったが、しかし事を進めると決めた以上、疑っても仕方が無いのもまた、事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高空を飛ぶ影があった。

 航空機の類ではない。それはもっと小型な、より正確に言うならば『翼を備えた人』に近いシルエットをしていた。

『―――・――――――』

 何らかの信号に、その頭部に当たる箇所が動く。

 その有機的な動作から、この機械が有人である事が伺えた。

 しかし有るほずの推力を生み出す機器が見えない。ジェットではなく、プロペラでもなく、恐らくそういった技術的な頚木を一段超えた機構にて飛行しているのだ。

 金属で構築されたメカニカルな翼がやや窄まり、高度が下がる。雲の無い空を、俊敏な鷹のように照り返しが滑り落ちた。

 

 

 

 現代の海軍には、戦艦は存在しない。

 時を選ばず、陸海空の場所を選ばず、理不尽な暴力を備えたユニットが戦力という単位を席巻しているからだ。

 現在の海軍はその母艦としての役割に毛が生えたようなものでしかなかった。

 十を超える国家軍の前代未聞の合同艦隊が海域に到着してより、半日。

 偵察任務に従事していたユニットから報告が入る。

『海上に濃霧の発生を確認』

 すわ問題の艦隊が発見されたかと色めき立った者が期待外れと吐息を吐き、一部の者はそれ(・・)に気付いた。

 霧だ。

 天候は晴天。

 それも数日前より続く晴朗であり、水域も温暖な海域。とても濃霧が発生する状況ではない。

 即座に更なる偵察が飛び立った。

 

 

 原因は、やはり予期したものだった。

 霧に包まれるように大艦隊が存在したのだ。

 おそらく何らかの装置によって霧を発生させているのだろうと予測された。そして、それが現代戦力への対抗措置の一つではないか、とも。

 もしそうだとすれば、それはあまりにもささやかな抵抗ではあるが、相手方の戦力と演習の目的、規定からすれば分からないでもなかった。

 しかしいくらか興味深い報告もあった。

 あれだけの大小戦艦群、更には海中に観測された潜水艦群。ピケット艦などの小型艦も含めれば優に二百隻を超す艦船が、いったい何処で建造され、何処から現れたかが不明なのだ。

 何百という監視衛星には突如霧が発生したとしか映っておらず、始まりとなった手紙の謎の技術と併せ、乗り合わせた各国の政治家、軍人、技術者の注目を集めた。

 

 と、同時に、ようやく捉えられたそれら艦隊もまた、実に謎に溢れていた。

 実際に目の当たりにした軍人の一人がこう零している。

『まるで軍艦の博覧会だ』

 と。

 そこには過去、第二次世界大戦期より建造されてきた様々な艦があった。

 国籍も大きさも様々で、アメリカの超弩級戦艦『ノース・カロライナ』、現在に至るまで世界最大の記録を持つ日本の超弩級戦艦『大和』、ドイツにおける最初にして最後の超弩級戦艦『ビスマルク』といった世界的に有名な、しかし今からすれば鼻で笑うしかない大鑑巨砲主義が巨体を並べ波を蹴立て、そのそれぞれ周囲を、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦といった戦闘艦が取り巻いていた。

 それらの船は、全て、とは言わないが、ほぼ全てと言っていいほど、過去に退役や撃沈によって現在に残っていないものばかり。

 観測された限りの外観では新造艦としか思えず、手紙の主に対する謎は一層深まるばかりであった。

 

 

 

 そして、演習という名目の戦いが始まる。

 

 力で旧世代を叩き潰し、世界に己を最新最高と証明した万能型機動兵器『IS』と、

 旧世代とされてより更に以前の兵器の。

 

 最新鋭が襲い掛かり、ロートルがどれだけ抵抗できるかという。

 

 得難い経験に狂喜する猛禽が、次々と空へと舞い上がり――――

 

 

 各国が初めて聴く肉声が、開戦の言葉を告げた。

 

 

 

 

『霧の艦隊、前へ。

 望んだ経験値だ、存分に貪れ』

 

 

 

 





後書き

という訳で、クロスは小説・アニメの『IS-インフィニット・ストラトス-』と、コミック『蒼き鋼のアルペジオ』でした。

設定としては、海の戦力っぽい戦力が無いという思いつきで、黒川さんが『蒼き鋼』世界の外見だけ古臭い超絶技術チート艦隊を手に入れた、という。
でも連中、意思があるだけに要求もあり、それを満たす為にドタバタしたお話でした。

この後の結末については……まぁウサギ耳のプライドが砕けたとだけ……
『IS』も大概ですが、それに輪をかけて『蒼き鋼』に出てくる霧の艦隊はアレですから。
私見ですけど、あれは宇宙人が作ったと考えて問題無い様な気がします。ええ。


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