多くは申しません。
――というか、恐れ多くて申せません。
全ては私の脆弱な心によるものです!
もはや幾度目か分かりませんが、遅れてすいません。
ここ数話、MainSide~という書き方で主観をハッキリさせようと試していましたが、執筆する上で視点の変わりをもう少し細かく入れようと思い立ち、今話からやり方を変更します。
たびたび文体を変えてしまい読者の方には申し訳ないと思いますが、私自身、書き方の技術を向上させたいとの思いもあり、様々な書き方を試していきたいと考えます。
読んでくださる皆様には迷惑をおかけしますが、どうか寛大な心でお許しください。
また、ストーリーの展開や表現の方法等、こうした方が気持ちよく読むことが出来るといったご意見がありましたら、ぜひともお聞かせください。
!注)このFateの世界は原作とは並行世界という設定にします。ライダーの生前のエピソードがうろ覚えだったため、ここは一つ神話を種にして再構築しようと思い立った次第です。どうかご了承下さい。
現在、我等がアジトにてバゼットと合流、サーヴァントから情報を聞いていた
「ふむふむ、クラスはライダーで真名はメドゥーサと」
「はい」
「この書は?」
「前マスターに令呪によって、マスターの権利を魔術師ではない彼に移譲された際、令呪の代わりに出現した『偽臣の書』です。持つ者へマスターの権利を譲渡する事が出来ますが、ステータスがランクダウンします」
「前のマスターってのは誰?」
「…………」
様子から見るに答えられないじゃなく答えたくない、か。
大体こんなところかな。
「あ、この書は燃やしたら元のマスターに戻るのか?」
「はい。おそらくですが」
偽臣の書で仮マスターになっているとはいえ、ライダーは必要な事以外に口を開こうとはしない。今も勧めた椅子に腰掛けもせず、黙然と立っている。
いやはや、話を聞いてようやくあの感覚の正体が分かったな。まさかこの美人さんが蛇の類いだとは思わんかった。だがそう聞いてから改めて集中してみれば、成程、人外特有の匂いこそ比較にならないがメルクリウスと似た感じがする。性格の方は似ても似つかないようだがな。
流石に俺もこんな所で蛇の眷属に会うとは思わなかった。
それにしてもメドゥーサとは……
メドゥーサといえばゴルゴン三姉妹の末女。
非常に美しい容姿を持ちポセイドンと恋仲だったが、アテネの神殿で幸せに逢引していたのが不幸の始まり。戦神であるアテナの激怒に触れたのだ。
まぁこの女神、処女の誓いを立てた処女神として
この時羊毛でそれを拭って捨てたら、そこからエリクトニオスという下半身が蛇の子供が生まれ、アテナに育てられた後、アテーナイの王となる。彼はヘパイストスの鍛冶場で修行しキリシア戦車を生み出すのだが、それは蛇足である。
こんな女神だ。自身の膝元でのデートがいろいろと気に障ったらしく、ちょっと尋常ではない事をやりだす。
その美しかった容姿を化け物へと変えてしまったのだ。しかも他者がその顔を見れば石になってしまうという呪いつき。これでは性格で勝負なんて事すら出来ない。
しかも今度は逢引一度でこれはあまりに酷すぎると、アテナに直訴した二人の姉が気に食わなかったらしく、妹と同じく美しかった二人をいきなり豚に似た永遠に死ぬ事も出来ない身体へと変えしまうのだ。
惨すぎる話である……
しかしそこで追い討ちをかける戦神というよりは嫉妬の神アテナ。
人と離れ、小島の古い神殿に引きこもった三姉妹。その末女の石化の呪いがかかった首を盾につけたら凄いんじゃね? とか、凄いどころか、死体すら辱めてやろう的な素晴らしく外道なことを思いつく。即座に付近で有望な若者であるペルセウスくんの夢に現れ、”化け物だから殺して首を取って来て。盾につけるから”と頼み込む。
まさかその女神が化け物にした黒幕とは想像だにしないペルセウスくん。
アテナとヘルメス神から装備を借りて神殿へと侵入し、引き篭もって寝ていた三女の首を躊躇無く切り落として殺害する。その後、怒り狂った姉達に追われるが、装備の力によって逃げおおせるのだった。
かくして彼女の首はこのあと、ペルセウス・アテネの二人に存分に利用される事となる。
幾つかパターンはあるが、総じてアテナの過剰な行為があまりにも酷い話である。
ギリシャとかの神話は酷い話が多いが、これはその中でも指折りだ。
此処で会ったのも何かの縁。
ここは一つ蛇に恩を受けた者として、ぜひとも彼女の願いに協力してあげたい。
「決めた」
「?」
バゼットが訝しげにこっちを見、メデューサは立ち尽くしたままだ。
俺はメデューサを、その眼帯に隠された彼女の目を見詰めて言った。
「メデューサ、君が何を願って召還に応じたかは知らない。けれど、この聖杯システムは完全におかしくなっていて、万能の杯など到底望めない。
だが幸いな事に、此処には俺がいる。君達”蛇”に縁があり恩を受けた俺が。
だから君の願いは聖杯ではなく、俺が叶えよう」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいトウリ! いきなり何を言ってるんですか!?」
サーヴァントを尋問していたはずが、何故か相方が相手に協力すると言い出し混乱するバゼット。当たり前だがな。肝心の彼女にとってもこれは予想外の言葉だったのだろう、これまでの無表情が崩れ、狼狽した声を上げて戸惑っている。
「昔に”蛇”に親切にされてね。少しは返したけど、彼は死んでるから。
ここでメデューサ、蛇の眷属である君に出会ったのも何かの縁。彼に返せなかった恩、受け取ってはくれないか?」
「そのよう事を言われても……受け取るのは構いませんが、貴方は私の願いがどのような物かも知らないでしょう。なのに叶えると言うのですか?」
若干落ち着いたのか、微かに困惑した様子で聞いてくる。
疑うのも分かる。なにせ相手は英霊になっていない生身であり、それどころか聞けば世界との契約もしていない為に、そのバックアップすら受けていないのだ。こんなのが英霊の望みを叶える等と言い出したら、普通は笑い話にしかならない。
それでもこれが、力が欲しくてライダーを引き込む為の罠だと考えないのは、学校での一撃で、英霊でもなく世界のバックアップがある訳でもない、唯の生身のはずの俺がサーヴァントを上回る戦力と判断したからだろう。
彼女からすれば、この申し出が真実なら、どうやってかは分からないが偽臣の書で弱体化した自身にも願いが叶う目が出てくる。話しが
「叶える。例えその願いが君達姉妹の呪いを解く事だろうとも、この名に賭けて叶えよう」
呪いを解く。その言葉に彼女は僅かに反応した。
「本当に、そんな事が可能なのですか……?」
メデューサは己の耳を疑った。
問い返すため搾り出した声は震えていた。
それは可能性すら無い望みだった。
相手は神だ。戦って勝てる相手ではなく、例えそれが非情な仕打ちだとしても耐えるしかなかった。妹を助ける為に直訴した二人の姉も醜い不死の怪物へと変えられてしまった。ペルセウスに首を刈られて死んだ自分はまだ幸運だったのだろう。姉達は怪物と成り果てた姿で死ぬ事すら出来ず、今も世界のどこかで苦しんでいる。
それをこの男は救えるというのだ。
神の呪いを解く事が出来るというのだ。
「勿論、解けるとも。神の呪い? それがどうした。
生憎と創造神を堕としたこの身、たかが戦神の畑違いな呪い如き解けぬ道理が無い」
創造神を堕とした。
このあまりの、どう考えても狂人の法螺にしか聞こえない言葉に二人は唖然としている。もっともバゼットは、魔術すら知らない唯の未来人だと思っていた相手が、まさか世界を創造した存在なんていうオカルトの頂点と、関わりがあると聞いたのもあるのだろうが。
「初耳ですよ、トウリ」
「それは、本当ですか」
「そりゃあ言ってなかったからね。
それに本当だからこそ、聖杯がわざわざ未来から生きてる俺を呼び出したんだろうね」
聖杯に英霊ではなく
証拠でも見るかい? と言って、ぽんと聖遺物として使っている”神の腕”を出してみせた。
その目が潰れんばかりに光輝く黄金率を体現した腕は、創造神の
「――――」
「――――」
魅入られると悪い。さっさと仕舞うに限る。
無造作にむんずと掴み上げて”穴”に放り込む。
目の前から消えた事で正気に返ったのか、二人とも夢から覚めたような顔をしている。
それぞれがほぅっ、っと溜息をついて強張っていた身体から力を抜いた。
若干ながら魂レベルで惹かれていたようだ。
この深度の影響なら、少なくとも俺の不意を突いて奪おうという邪心が沸き上がったりもしないだろう。二人とも己を律する事には優れているようだし。
「これは……、とてもではありませんが魔術協会にも聖堂教会にも報告できませんね。世界中で奪い合いが始まるのが目に見えている」
と言ってバゼットはぐったりとソファーに沈み込み、メデューサの方はぽすんとやけに可愛らしく椅子に座り込んで、
やがて決心がついたのか、顔を上げて此方を向くと深々と頭を下げた。
「お願いします。私に力を貸して頂きたい」
「任せろ」
さて、呪いを解くは良いが他の姉達がどこにいるやら?
幾ら解ける呪いといっても、流石に見た事が無く何処にいるのかも知らない相手はどうしようもない。この時代に居るなら良いが、場合によっては彼女達の時代まで遡る必要が出てくる。
時間移動は魔術では難しい、というより不可能と言ったほうがいい。だが、かのスーパーなロボット達が暴れ回る世界で複写した科学技術ではそれ程困難でもない。億年単位で行ったり来たりする訳でもなく、精々が数千年。出来ない事でもない。
そんな風につらつらと方法を脳内知識から検索していると、顔を上げたメデューサが待ったをかけてきた。
「その事で聞いて欲しい事があります。召還の際に私が選ばれたのは私に関係する触媒が使われた為でなく、召還した主が私と同じ”怪物”に成り掛けていたから。召還に応じた理由は願いではなく、主を私の様な”怪物”にしたくなかったからです」
ふむ。
「すると願いは自分達姉妹の解放ではなく?」
「はい。私はマスターを、サクラを助けたい」
「――成程」
苦しみ抜いた自分達の救いではなく、自分と同じ処に墜ちようとする者を助けたい、か。
「成程」
優しいな。彼女が俺のいた世界のメデューサと違うのかは判らないが、それでも傲慢の末にアテネの怒りを買った方の神話ではないだろう。
俺がするべきは恩を返す事。
ならば……
「ハッ、それなら君のマスター、サクラという人を
バッと顔を上げてこっちを見た顔が驚きに染まっていた。
「で、ですが!」
何か言いかけるのを手で制し、続けて告げる。
「俺がするのは恩返し、君を助ける事だ。中途半端はいけない。
そっちは助けたけど肝心の本人が救われないってんじゃ、すっきりしないだろう? こういうのは協力して完全無欠にやり遂げて、それでハッピーエンドってのがお話しの王道。こそばゆくて、後になれば七転八倒するくらい恥ずかしい方が、勢い付くってものだ」
「……トウリ、その言い方は少しクサイですよ」
「それは言わないでくださいバゼットさん」
これまでの真剣な雰囲気が台無しだよ。
だが今回は良い方に傾いたらしい。
「フフッ」
やり取りを見ていたメデューサが小さく笑っていた。
最初は不信と警戒、偽臣の書を得てからはあくまで仮初のマスターだという態度を崩さなかった彼女が、ここにきて柔らかく笑っていた。
今まで助けようと決心したマスターを救うどころか、傍に居る事すらできず、自身はあのわかめのような髪のろくでなしに使役されて関係のない望まぬ事をさせられていたのだ。その心中はいかばかりだったのか。
それがここにきて漸くマスターを助ける為に動ける。
未来に希望が持てる、それは最高の高揚剤だ。
酷薄に見えるほどに張り詰めたものが、ほんの少しだけ、抜けていた。
「……やっぱり美人だな、アンタ」
「なっ!?」
ボソッと小声で呟いたのがしっかり聞こえたか、真っ赤になって飛び退かれた。
「なんつーか、そういう反応するとこが可愛いな。そう思うだろバゼット?」
「えっ!? わ、私に聞かないでください、そういった事は疎いんですから」
「……アンタ仮にも女だろう? それが可愛いかどうかすら判らなくなってどうする」
「うるさいですね、それ以上言うと抉りますよ?」
「わ、私はこんな身長ですし、可愛いなどと……」
「~~~、~~」
「~、~~~」
うん、少しは軽くなったみたいだな。
何か俺が口説いてるみたいになってたけど、あのキツイ雰囲気と裏腹に性格は純なのか? 妙に可愛らしい反応をしてくれる。
目標は出来た。
サクラという人がどういう状況にあるかは知らない。
だが仮にも英霊であるサーヴァントが、自分では助けられないと言っているのだ。
何者かに人質に囚われ、武力である自身は令呪で引き離されたのか、それとも”怪物”になってしまうと彼女が危惧したとおり、精神に異常をきたして制止するサーヴァントを疎んで放逐したのか。はっきりとした事はメデューサに聞いてみないと分からない。
だが、助けに向かうのはメデューサに歴代最強の封印指定の執行者、そして俺だ。
人ひとり助けるくらい、難なくこなしてみせる。
これは、明日から忙しくなるな。
ということで、ほんの少しの手入れで写させてもらいました。
今話の部分も何やらいい感じに改訂してたんですが、ふと気付くと頭は黒川さん視点で語り、中盤は改定箇所から三人称、しかもどちらを直そうと思っても内容まで直さざるを得ない内容……。正直、『しまった!』と思いました。
なまじ文量を書いただけに切ないこと切ないこと。
ただ流れは私自身として、気に入っています。
ですので、とっておいていつか陽の目を見る事があるよう―――そう、祈っておきます。