無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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第参章 9 撤退戦 (Fate編)

 

 

 間桐邸地下のバゼットから蟲の確保成功を聞いてから少し、俺はどうやって救助対象の桜さんから寄生虫を取り出すか悩んでいた。

 ちなみに用の済んだ髭は収納し、代わりに空き地のそこらに積んであった土管を分解して造ったソファーに転がっている。

 

 やり様は幾つかある。簡単なのは餅は餅屋、魔術は魔術師という事でバゼットの知識か、所属組織の助けを借りるやり方。だが肝心の魔術知識を持つバゼットは、邸内を探索して資料等が無いか確かめると言ってまだ帰ってきてない。その上これだと治るかどうかは分らず、もし俺の能力がばれた際にはそれが未来人という嘘設定としても、取り込むために桜を利用されかねない。碌な事にならないだろう。

 

 同じく簡単だが乱暴な手段としては、面倒くさく悩まずに身体を切開して蟲を取り出すやり方。当然ながらいくら俺に元の世界での最先端医療知識があるとはいえ、間違いなく命の危険が大きい。寄生虫も抵抗するだろうし、場合によってはそれが死因になりかねない。しかしそこは俺、素を弄れば例え死亡しようが魂の保持から蘇生まで難なくこなせる。

 本当は素操作で体内の蟲だけを分解できれば良いんだけど、小さい奴を他の臓器を巻き込まないように分解するには、せめて形くらいは目で確認しておきたい。

 

「あー、どうしよっかなー。もしよっぽど深く長く寄生されてたら、蟲だけ取れば良いって訳でもないんだろうし」

 

 もういっその事身体自体を交換するか?

 それなら身体を複製して魂移せばいいんだし。

 女の子としても汚染されまくった身体よか、綺麗な体の方が良いんじゃなかろうか。

 うん、そうしてみるか。

 

 となれば、さっさとバゼットと合流してライダー追っかけないとな。

 集合はあの洋館だが、万が一辿り着く前に他のサーヴァントに補足されたらえらい事になる。急ぎますかね。

 

 

『マスター』

「うん?」

『手遅れのようです』

「……おい」

『現在メデューサ様は敵性サーヴァントの追撃を受けており、偽臣の書による能力の低下と救助者を抱えているため、逃げ切る事は不可能と思われます』

「バゼットに先に救援に向かうと通信、俺達はこのまま直行するぞ!」

『イエス・サー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガギィン!!

 

 不可視の剣が一閃、夜を裂いて飛来した杭をいとも容易く叩き落す。

 

(足止めにすらならない)

 

 キリッ、とライダーは己の本来の主人であるサクラに悟られぬよう、小さく歯を食いしばる。

 街中を人間を抱いて一直線に移動しているのだ、他のサーヴァントに見つかる危険性は彼女も承知していた。

 

(だがよりにもよってセイバーとは!)

 

 幸運値が低い事は分ってはいるが、それでも忌々しい。

 本来の力であれば十分に逃げ切れるだけの速度は有しているのだが、偽臣の書による能力の低下と、サーヴァントたる自身の全力機動に腕の中のサクラが耐え切れない。

 幸いにしてセイバー側も何らかの能力低下に見舞われているらしく、セイバークラスにしては妙に動きが鈍く、遅い。それでも此方の牽制の一撃を歯牙にもかけず捌くのは流石といったところか。

 

 現時点でライダーが最も警戒すべきは、セイバーペアがアーチャーペアと同盟を結んでいる事だろう。

 単独偵察の途中なのか、セイバーは魔術師らしからぬ妙な少年のマスターを連れていない。しかしこうして交戦状態に突入した以上、マスターを通じてアーチャーが援軍に駆けつけるのも時間の問題だ。

 何せライダーが腕に抱えているサクラは彼女のマスターだが、同時にセイバーのマスターと親しく、アーチャーのマスターであるトオサカ・リンに至っては実の姉妹なのだ。ライダーとサクラの関係を知らないセイバーからすれば、サクラがライダーにさらわれたようにしか見えない。

 事実、斬りかかられた際にセイバーはサクラを助け出すと叫んでいる。

 そしてサクラはライダーのマスターである事を彼らに、先輩と呼ぶ少年に知られたくないと強く願っている。彼女が望まない以上、ライダーが誤解を解くという手段は採れない。

 セイバー一人振り切れない今、そこにアーチャーの援護まで加わればどういう結末になるかは火を見るより明らかだ。

 

「くっ!」

 

 ライダーに出来るのは最低限の牽制を行いながら、ひたすら逃げ続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーリーは捻じ曲がる。

 運命はたった三つの(ルート)しかない。

 阿頼耶とガイア、二つの境界線上に魔術師の運命はある。

 だがそこに阿頼耶でもガイアでもない第三者が加わった時、そこにどのような歪な運命が開けるのか……

 それは世界そのものにすら分らない。

 

 

 セイバーは本来ならここにはいなかった。

 突然の参入者によってライダーは連れ去られ打倒する事ならず、マスターである衛宮士郎は頑固という表現すら優しいほどに聖杯戦争を否定する。六騎の英雄と剣を交え打ち倒し、聖杯をもって己が叶わぬ願いを叶える為に、英霊は召還に応じたのに。

 

 これでは生殺し。

 

 最優と謳われたセイバーのクラスとして召還され、彼女自身もまた、それに相応しい能力を持ち得ている。マスターの魔術的素養に恵まれなかったとは言え、それでも生半可な英雄に負ける事は無い。

 しかしマスターは聖杯を得る為の手段、殺し合いをやめろと言う。

 彼女は何よりも叶いえたい願いがあり、誰よりも聖杯を望んでいる。

 それなのにマスターの指示によって、聖杯戦争を止める為に剣を振るう。

 

 時代が違うのだろう。

 召還された英雄達が駆け抜けたのは戦乱の世の中。

 人は国という形で群れを造り、他の群れに備えなければ生きる事さえ出来ぬ。

 譲れぬものを巡って剣を(まじ)え槍を交わし、敵を倒して己の主張を通す。

 対立する者を打ち倒せねば、ただただ大切なものを蹂躙され、土へと還るのみ。

 生まれる遥か昔より戦は続き、そこに生きる人々もまた、戦いの無い世の中など夢のまた夢と知っていた。

 そう、かの騎士王が持つ聖剣の鞘こそがそれを表している。

 何者にも犯されない、どのような攻撃も通さぬ代わり、己の害意をも分かつ世界の遮断。それを成す鞘の名こそ『全て遠き理想郷』。

 

 平和な世など、叶わぬ、届かぬ理想郷だったのだ。

 そこに現代の甘えともとれる余裕は無く、野生の獣と同じ生存競争が厳然と存在した。

 

 

 少年にセイバーの心は分らず、分ろうともしていない。

 非がある訳ではない。彼は彼で平穏な日常から巻き込まれた、殺し合いという非日常に向き合い、己の願いに邁進する事で精一杯だったから。

 

 しかし、それでは何一つ成す事が出来ないだろう。

 聖杯を得る為にも、また一般人と変わらぬマスターが生き残る為にも、命を狙ってくる敵を切り伏せなければならない。

 

 襲い来るは世界に名を刻んだ英雄六騎。

 唯でさえ能力が低下している今、不殺等という枷をはめてしまえば屍を晒すのは此方。

 もはや余裕など欠片すらありはしないのだ。

 

 にも拘らず、彼女の主人は意向を翻さない。

 騎士であるセイバーに主である少年を裏切り、主換えをする事はできない。

 出来る事は一つ。

 不戦の命を破ってでも此方から敵に挑み、その首級を挙げる。

 

 セイバーは夜の街へと一人、抜け出した。

 

 

 そして現在。

 唯一、拠点の判明しているキャスターに襲撃をかけるべく移動中、偶然にも学校で逃したライダーを発見する。

 ライダーの力量は以前の戦いで把握している。ライダーのクラスの特徴である騎乗宝具を使用させる間を与えなければ、彼女を下すのはそう難しい事ではない。

 そして何より、ライダーの腕に囚われているのは見覚えがある少女。

 マスターの旧知であるサクラだった。

 主の騎士として見逃す訳も無く、ライダーを打倒する事が出来れば己の目的も果たせる。

 

 剣の英霊は追撃を開始した。

 

 

 

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