三ヶ月半も続きが出なかったのはアホらしい理由があるのですが
自分のお馬鹿加減に切なくなりそうなのでご勘弁を。
それで済むかー!って人もいるかと思うので末尾に書いときます。
うぉ~……遅れて申し訳ない。
それでは悶えるのが済んだ所にて、
第零章、人である黒川氏が、生きる為に最後の挑戦に挑む物語。
どうか、終わりまでお付き合いください。
※書いていたプロローグがあまりに長すぎたため、細かく切って4話ほどに分けて投稿します
プロローグで二万字を突破って……。俺はアホか
深く、眠りの淵に沈んでいた意識が、上昇してくる。
《ん、むぅぅぅ……、ぬぅ?》
体内チップからの情報は四時前を示している。
目が覚めるには早い気もするけど、昨日は暗くなり始めから夕食の準備を始め、食ったらそのまま寝たので喋ってた時間を入れても九時前には寝ていた。
寝る時は外している視覚センサーの変わりに集音センサーで確かめてみると、テント内の二人はまだシュラフの中で寝息をたてていた。
《うぅ、さむい……》
枕もとの視覚センサーを取ろうとアームをシュラフから出すと、断熱素材のお陰でほこほこと暖かかったシュラフ内に、まるで日本の真冬の朝のような空気が流れ込んでくる。
素早くアームを引っ込め、頭まで潜ってからシュラフの口をなるべく閉める。
駄目。
これは駄目だ。
寒いもん。
それに比べて――あぁ、悪魔の誘惑なのか、この暖かさは。
そうだ。
この地は人間が初めて誘惑され、あっさり転がってしまった場所。
なら、良いんじゃね? おれも。
北風と太陽のお話でも、旅人さん太陽の暖かさには勝てなかったし。
あぁ~…………ぬくい、ぬくいのぅ……
都合の良い言い訳を考えてる内に、再び訪れた眠気にあっさりと意識は沈んでいったのであった。
結局、俺が起きたのは二時間後の六時過ぎだった。
二人は俺が二度寝を決め込んだすぐ後に目が覚めたそうで、朝御飯の用意やら蜘蛛のチェック等を済ませてしまったそうな。
テントの隅でミノムシになっていた俺は、夏樹の「昨日の移動の疲れもあったんだろう。今のうちに休ませておこう」との気遣いで、そっと寝かせておいたとの事。
今更、寒くて二度寝していたとは言えません。
ごめんなさい。
現在時刻は朝の八時。
日の出から三時間以上が経過し、気温も上がってきた。寒暖の差が激しいぶん気温の変化も
俺は朝食後に軽い休憩を挟み、義体を蜘蛛に付け替え最終チェックを行っていた。
「うん、大丈夫みたい。組んだ状態で外に一晩置いといたけど、さすがだね。なんとも無い」
蜘蛛と有線接続していた夏樹がノートPCのキーボードを叩きながら感心していた。
《そりゃね。そういう風に作ったから》
「それが難しいんだって。普通はこういう精密機械の塊、それも密閉型じゃ無いヤツをあれだけ丈夫にするのは大変なんだよ?」
ま、確かにそこら辺は面倒だったけど、木登りやらする機能を付けてたら、素で頑丈になってたってのもあるな。
「ていうかね、そもそもこれは飛んだり跳ねたりするモンじゃないし。あんな機動しなければもっと簡単に、軽くて丈夫で居住性の高い物が普通に出来るのに、何で……」
《まあまあ、そうぶつぶつ言うなよ》
蜘蛛の前足で夏樹の腕を軽く叩く。
どうでもいいけど、この格好でやるとシュールな光景になるな。
《設計も使うのも俺なんだから。こう言うのってほらアレ、作った物には個性が出るってヤツ?》
「うぜぇし! そのお陰でアホみたく複雑化したシステムをチェックするの俺だし!!」
《あっはっはっは》
相変わらずからかうと面白いヤツですな。
じゃれたりしながらも着々と準備は進み、九時を回る頃には全ての準備が整っていた。
《…それじゃ、行ってくる》
足を一本上げ、最後の挨拶をする。
夏樹のやつは少し前から黙り込んでいたが、此処に至って涙をこぼしながら袖口を噛んで嗚咽を堪えていた。
《泣くなって……》
やっぱりこいつが泣いてるのを見るのは切ない。
見るのはこの計画を話した時から二度目だ。
夏樹はそうそう泣くようなヤツじゃないから、こういう時は止めてやりたい。ただ、今まではいつも一緒に居たけれど、俺にはもう居てやることは出来ない。
《いいか、俺はもう戻ってこない。それは確かだ》
「そんなこと、ひっく、言うなよぅ……」
《聞け。お前は昨日の夜、俺が選んだなら間違いは無いって言ったな》
「ん”」
《その俺が、死なないために考えた方法だ。ここには戻っては来れないけど、どっかで生きてる。絶対だ》
そうだ。もし仮にうまくいって生きていることが出来ても、戻りはしない。
俺には時間が無かった。だから名前も隠さず、逆に己の病気と境遇すら利用して準備を推し進めた。
その結果、俺の脳みそが根を上げる前にこの場所に辿りつけた。
かわりに俺は注目されている。
技術関係でも知られているし、医学的にも俺の”変異した脳みそ”は機械との直結を成功させたサンプルとして調べたがる奴が多いだろう。
特にこの分野は民間医療よりも軍事技術に近い。
近年実用に近づいてきたパワードスーツ。未だSFの域をでないがサイボーグ。大きく飛躍できるとなれば、手に入れるか始末するか、色々と容赦の無い話に巻き込まれてくる。現実は物語よりずっと救いがない。
おまけに不治の病で早世するはずが、生き残れたなどといったら尚更。命に関係する技術は魅力的過ぎる。そして事が起こればまず間違いなく、俺の唯一の身内である夏樹が巻き込まれる。それは許せない。
だったらそうならない様にするだけだ。
俺の持っていた安全な権利や資産等はあいつの名義に書き換えてある。残せる物は全て譲り渡した。
《今まで面倒かけたな。手伝ってくれて、ありがとう》
《じゃ、夏樹。 行ってくる》
後は自分の事だけだ。
俺は歩き出す。
八本の足は、もう止まることはなかった。
Another Side 黒川 夏樹
兄貴が行った。
オレの兄貴が、行ってしまった。
蜘蛛が見えなくなってから、オレはテントの中で一人うずくまって、胸がつぶれる様な悲しみに耐えていた。
流れる涙と共に兄貴との記憶が思い出される。
兄貴はたった一人の肉親だった。顔を見た事も無い両親は、共に死んでいる。
母親はオレの出産と兄貴の病気で、心身を弱らせて。
父親は病院に母の見舞いに行く途中で、対向車線から飛び出したトラックに車ごと潰されて。
金持ちの親族に引き取られた俺は、クソッたれた環境で小学校までを過ごした。
保険金目当てのありふれた話。
そして業突く張りなアイツ等がそんな目的で引き取った子供に、まともに養育費をかける筈がなかった。
今はしっかり理解できるけど、大金が入ったとはいえ、日本で子供一人が育つまでの養育費は馬鹿にならない。一端金に目が眩んだ大人が認める訳がなかった。最低限の食事に半分物置の部屋、毎日の目立たない場所への暴力。一日一日が地獄だった。
でも、病気で病院のベッドからろくに動けなかった兄貴は、そこで義体関係の何かをしたらしく、金を手に入れてオレを迎えに来てくれた。
最初はオレに兄弟が居るなんて知らなかったんだ。
だからいきなり大勢の人を引き連れて家に押し入ってきた兄貴を見て、オレは物置の扉を閉めて見つからないように怯えながら震えていた。オレを引き取ったアイツ等がろくでもない奴等だってのは分かっていて、だからきっと誰か似たような奴等が来たんだと思った。
門と玄関をこじ開け屋敷に入ってきた兄貴は、家に居た親戚を締め上げてオレの居場所を聞き出し、暴力を振るわれると思って怖がって泣き喚くオレの痣だらけの体を、その機械の腕で抱きしめてくれた。
それからあのろくでなし共を改めて殴ってオレを連れ出し、両親の残したお金も丸ごと毟り取ってくれた。
周りの大人、学校の教師、誰一人オレに手を差し伸べてくれる人は居なかった。
誰も彼もがオレの事情を知ると、哀れんだ目をしながらも結局は厄介事には関わりたくないと避けた。
助けて、と。
アイツ等の影に怯えながらも、
話し掛けた瞬間の、ホンの僅かに浮かんだ”厄介な物”を見る目。
微かに心にあった希望も、そして心自体も。
あの目を見た瞬間に折れて砕けた。
そんな中で生きて、そして助けられたオレにとって、優しくて頭が良くてかなり性格の悪い兄貴は全てを預けられる相手だった。
でもそんな兄貴は、重すぎる病気を患っていた。
医学的な詳しい病状は分からないけど、簡単に言うと未知の死病だった。
徐々に脳が変質し、体の機能維持を放棄していく。
初めて聞いたときは何かの冗談かと思ったけど、実際に出会ってから二年で内臓二つと耳が駄目になった。
担当の医者に「いくら機械に置き換えたとしても、二十歳までは絶対に生きられない」と聞いた瞬間、目の前が真っ暗になって吐き気さえした。
その後兄貴の所へ行ってオレは酷く泣き喚いた。どうして、なぜ、そんな事ばかり繰り返した挙句に、またこんな辛い気持ちになるなら引き取られなければ良かったと叫んだ。
それまで困ったようにオレを見ていた兄貴だったが、最後の一言を聞くなり呆れ顔になってオレの顔面を義手が外れる勢いで殴り飛ばした。
後から聞いた話だと兄貴は倒れたオレに説教していたらしいけど、着込むような形のガッチリした特製義手で殴られたオレはとっくに意識を失っていたので、そもそも聞こえてなかった。殴った本人はその後看護師に怒られたらしいけど、開き直って「睡眠学習だ」って訳の分からない事を言い張ったらしいのは笑い話だ。
……だめだ、兄貴のこと思い出してると涙が引っ込んでくる。
目が覚めた後に兄貴は、オレに自分の考えを言った。
《このままほおっておけば確実に俺は死ぬ。医学も死ぬまでに都合よく進歩するとは期待が過ぎる》
《だったら大勢の人がやっている医学以外で、何とかすることは出来ないかって考えた》
《リミットはきっと八年も無い。その時間で出来そうな何かを探す》
言ってる事は分かるけど、医学以外って何?
《オカルトとかそっち方面。今だと誰も見向きもしないような話》
正直な所、あの時は兄貴は自分が死ぬっていうのを知っていて、とっくにどこかおかしくなっていたんだと思った。
だってそうだろ?
自分で機械を弄って特許とって金稼いでいるような人間が、いきなり自分の生死をオカルトに賭けますって言い出したんだから。普通は誰だって頭がイカレたって確信するだろ。
けど、よく聞くと兄貴は兄貴で論理的に考え(正直、オリジナリティ溢れすぎてて理解しづらいけど)結論を出したらしい。
随分たって、ふと気になって兄貴に聞いたらこう言っていた。
医学は既に多くの研究者が居る。そこにたった数年勉強しただけの、それも経験値も低い人間が新たに加わったところで画期的な進展があるとは思えない。何よりその数年の勉強の時間が致命的だ。
だったら他に病気などが治ったという方法を試そう。なるべくなら他の人が試していない方法を。
単純に並べてみると、医療に近い温泉や食事療法から始まり、怪しいところでは宗教関係や御伽噺や伝説の類がある。この中で駄目だったという確認が無く、なるべく情報が多く存在し、俺のリミットまでの時間で可能で、もっとも可能性の高いものを選ぶことにする。
俺がやり遂げるのは目的の”場所”、または”物”を完璧に特定し、そこまでたどり着くこと。
後は選んだものの可能性と俺の運しだいだ。
オレからすれば論理的思考ってのに、平然とオカルトを混ぜて考えてるのが既に論理的じゃないと思う。兄貴からすりゃ立派に筋が通ってるらしいのが不思議だ。
そして兄貴は一年の期間をかけて一つを選ぶ。
オレは結局、一緒に数年がかりで一つの
兄貴の言ってることも分かるんだ。
医者が匙を投げた今、このまま待ってたって死ぬし、医者やら何やらになって自分で治そうとしたって時間が圧倒的に足りない。ならそっちの研究は知識のある人に任せて、自分は別の方向から試そうっていうのは良い考えだ。
そしてあの兄貴がそれで足掻くっていうんなら、オレも手伝うだけだ。
それからただひたすらに資料を読み漁り、研究者を訪ね、様々な可能性を検証した。外を気軽に歩けない兄貴に変わって足を棒にして動き回った。
そして兄貴の体が機能の喪失の許される限界まで成長するのを待ち、この最後の旅行でリドルの答え合わせをしに来た。
そして今、兄貴は歩いていった。
あと三日。
屋外での運用を目的に金額度外視で設計されたあの蜘蛛は、気休め程度ながらも太陽光発電システムを備えている。それでも二個のバッテリーと合わせて三日が活動限界だろう。
兄貴の代替内臓機関は、たとえこんな環境下でも正常に働いてくれるだろうけど、生身の部分はそうはいかない。元々がもう限界なんだ。
奇跡なんて起こる訳が無いのは俺自身が良く知っている。
俺を苦しめたのも救ってくれたのも、世の中の全ての出来事は誰かや何かが動いた結果だったのだから。
だからきっと、俺が見つけるのは動かなくなったあの蜘蛛と、その中で死んだ兄貴だろう。
Another Side 黒川 夏樹 Out
・後書き・
えと、頭に書いた更新の遅れた理由ですが、素晴らしく
アホらしいのですが、
「この主人公って、アクション出来なくない?」
と、致命的な事に気付きまして……
まぁ、見切り発車のツケが最初から襲ってきたのですな。
それからアクション出来そうな能力を探していたら時期悪く
七年ほど使っていたマイ相棒、PCのハードディスクが寿命で
逝ってしまいました。
結局、買い直すのに時間が掛かってしまいました。
こんな有様ですが、見捨てないでもらえたら感謝です。