無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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●黒川さん一行は、家を離れてから教会を襲撃するまで一日たっています。

夜に捕虜を残して家を出る
→町へ降り、ホテルにて朝まで休憩。
→昼間。食事などをしつつ観光。
→日が沈んだら教会へ。

こういう流れで行動しました。


うおおォォォォ………
凄い難産であります。お待たせしてごめんなさい


ひぎゃー―――!?
パソがおかしくなった! 音関係のデバイスが正常動作中って出てるのに、何故か音が一切でなくなった!!
せっかく『IS』のロングプロモ見ようとしてたのに…。面白そうなのに…、これは一体どういうこと!?

●もう一話、彼ら側が続きます



幕間     インターバル (Fate編)

 

 遠坂凛は後悔という感情にあまり縁が無い。

 

 勿論それは反省しないという事や失敗自体が少ないという訳ではない。遠坂家の血筋なのだろうか? ここ一番の重要な点でうっかりポカをやらかすという呪いじみた特徴から大きな失敗には事欠かないし、彼女も己を(かえり)みないほどに傲慢ではなかった。

 彼女の場合、逆にその体に溢れんばかりに詰め込んだ反骨心故に、失敗でくよくよしたりせずにさっさと反省し、前に進んだほうがよっぽど良いと思うようになっていたのだ。

 そんなかんなで大きくなった現在、生まれ持った類い稀なる魔術の資質もあって失敗は徐々に減り、性格としても後悔というまったくもって後ろ向きな精神状態を好かなかった。

 だからそれ(・・)に蝕まれた経験など、そう多くはなかった。

 

 しかし、

 まさか高二のこの年になって死ぬほど後悔する羽目になるとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

 古い家が立ち並ぶ閑静な住宅街の一角に、昔ながらの木造平屋作りの衛宮邸は建っていた。常は、特にここ数日は人の出入りが激しく、また出入りする人物の穏やかならざる性格もあってその賑やかな声は庭と塀を越えて外へ響くほどである。

 しかし、今はその家も火が消えたように静まり返り、暗く重苦しい空気に包まれていた。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 昼、いつもなら喧しいほどの喧騒に包まれる居間で、三人がもそもそと昼食をとっていた。

 内訳は家主の少年、昨日助け出された後輩の少女、そして少年の担任にして姉貴分であるタイガーだ。

 

「…タイガーって言うな…」

 

 いつもの叫びも今日ばかりは元気が無い。

 常ならかっ喰らうという表現がピタリと当てはまる健啖を見せるのだが、今は味気無さそうにしている。

 別に料理自体の味が悪いわけではない。

 ただ、やはり何となく物足りない感じが大かった。

 

「先輩、遠坂先輩とセイバーさんはやっぱり食べないんでしょうか…?」

 

 少女が箸を止めて問いかける。

 彼女も彼女で少々雰囲気が暗い。

 本来なら長年の忌まわしい呪いから解き放たれ、愛する人の傍へ帰る事が出来たのだ。忌憚無い本音を言えば、開放された喜びに任せてもっともっとアプローチをして、今まで抑えに抑え付けてきた思いの丈を彼にぶつけたかった。

 だが流石に家人が沈み込んで部屋に篭ってしまった状況では、そうするのは不謹慎が過ぎると思う程度には正気ではあった。

 

「ああ。二人とも返事はするんだけど、食欲が無いって……」

 

 返事をする少年。

 彼自身はそう落ち込んでいない。魔術は使えなくなったが、元々成功率が実戦に耐えられるかどうかの『強化』しか出来なかったのだ。無くなったら無くなったで切継には申し訳ない気がするが、困る事と言ったら精々が機械の故障箇所が分かり辛い程度だ。

 

 落ち着いて考えてみれば確かにあの男が言ったとおりの部分もある。いくら自分達が殺し合いを止めるつもりとはいえ敵に捕まったのだ。普通なら最低でもサーヴァントであるセイバーの命は取っただろう。

 それを自分の未熟な魔術と引き換えに助けられたのだ。

 自分と合わせて二人分の命に比べれば安いのだろう。命に値段をつける事は全くもって納得がいかないが。

 

(そういえばあの黒川ってヤツ、あの時わざわざ俺にアドバイスみたいな事言ってたけど……。一体どういうヤツなんだ?)

 

 桜を攫った事には腹が煮えくり返るが、肝心の桜自身が全く怒っても怖がってもいない。事実、かすり傷一つ負っていなかった。

 本当に何で桜を攫ったんだろう?

 改めて考えれば、命を狙う敵というにはどうにも見えなかった。

 

 落ち着いたら落ち着いたで、お人好し回路が発動した少年は悩みだす。

 三つ子の魂百まで。

 彼のこの性分は死ぬまで直らないのかもしれない。

 

 

「遠坂さんもセイバーちゃんも、あんなに落ち込むなんて何があったんだろう…」

 

 タイガーは一人何も知らず、けれど教え子と自分を上回る剣を持つ少女を心配する。

 

 盛り上げ役が欠けた食卓、食器の小さな音が鳴るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 遠坂凛は頭からかけ布団を被り、部屋どころか布団に完全に引きこもっていた。

 

「―――ハァ………―――」

 

 その口から零れるのは何とも力の抜ける憂鬱なため息ばかり。

 有体に言って、かなりの重症だった。 

 

 

 不意に部屋の中に気配が現れる。

 唐突に、それも扉を開けた音や歩く音すらないとなると相手は限られる。

 

「…何だ、マスターはまだ引き篭もっていたのか?」

 

 自分のサーヴァントが嫌味な口調で言う。

 いつもだったら言わせておかないんだけど、今はそんな気力が無かった。

 

「フン、いつもの威勢も無しか」

 

 だからどうだって言うのよ。

 魔術刻印が無きゃ私は魔術師として三流、とは言わないけど、それでも二流まで落ちてしまう。確かに私が持つ生まれ付きの才能は凄いものだ。うぬぼれでは無く『五大元素使い(アベレージ・ワン)』とはそういった魔術属性だ。

 それでも。

 たとえ劣ろうと、魔術師の一生の研鑽の結晶を、数世代・数百年以上を積み重ねた魔術刻印とは私の『才能』など霞ませてしまうだけの、それだけの上積みをもたらす。

 才能があったとしても、たった16・7の小娘が一流の看板を上げていられたのも刻印の助けがあればこそ。

 私はそれを失ってしまった。

 それも打てる手をすべて打ち、有事に備えて溜め込んだ宝石を全て使ったのでもなく。

 敵にサーヴァント以外の戦力がいないと思い込んで突っ込んであっさりと捕まり、命と引き換えにあっさりと奪われた。妹が攫われて頭に血が上っていたなんて言い訳にもならない。

 自分のあまりの見通しの甘さに気が狂いそうだった。

 

 刻印は戻らないだろう。

 あんな風に魔術刻印を剥がし、掌でお団子みたいに丸めるなんて普通は出来ない。そんな加工をされた刻印を取り返しても、私の体に戻すなんて無理な話だろう。出来るとしたら、それは刻印を剥いだあの男本人だけだ。

 セイバーとアーチャーを纏めて手を抜いて相手でき、セイバー一騎なら傷一つ負わずに無力化してしまう黒川とかいう男。

 挙句にどうやったのか英霊であるセイバーから象徴たる宝具、彼女の剣を奪い取り、敵戦力にライダーに加えて凄腕の魔術師までいた。

 

 対するこちらは戦力半減どころではない私にセイバー、見習い魔術師の衛宮君に唯一まともなアーチャーだけ。

 どう贔屓目に見ても勝てる要素がない。

 

 何より、次は見逃してくれない……。

 

 

「いい加減返事をしてくれないかね、マスター?」

「……うるさい」

 

 泣き寝入りしないと今度は命が無くなる。

 そんな状況が、魔術師としての合理的な思考が少女を(さいな)んでいた。

 

 本当にあの男が言っていた通りだ。

 奪う、奪われる覚悟。

 今までもそういう機会はあった。一番近いところで衛宮君の時だ。でも、いつだって私は奪う側で、それも判断に迷えるだけの余裕がある状態だった。

 けどそんな事に相手が付き合ってくれるはずが無い。

 現にこうして命の次に大事なものを失った。

 叶うなら、アーチャーに「そこに戦争があったから参加した」なんて言ってた馬鹿な自分を殴り飛ばしてやりたい。

 

 本当に、後悔は先にたたない。

 

 

「ようやく喋ったかと思えばそれかね? まったく、いつもの憎まれ口は何処へ行ったのやら…」

「用が無いなら出て行って」

「用ならあるさ」

 

 アーチャーが不意に真剣な、鋭利な刃物を思わせる雰囲気に変わる。

 

「君は聖杯戦争をリタイアするのかね?」

「―――――ッ」

 

 言われた。

 言われてしまった。

 考えないようにしてた事を、真っ向から訊かれた。

 

「続けるわよ。アンタは何も問題ないじゃない」

「私が言っているのは君の事だ。誤魔化すな」

 

 ぎりっ

 

 知らず、歯軋りする。

 

「確かに私はセイバーや君と違い万全だ。戦闘に(いささ)かの支障も無い。

 だが、私はサーヴァント(使い魔)だ。

 主人である君が戦わないと言うのなら、私が戦う必要も無いだろう。幸い私の願いは聖杯と関係ないからな」

 

「アンタだけ戦ってくればいいでしょう!」

 

 駄目だ、耐えられない。

 布団を跳ね除けて飛び起き、あの憎たらしい皮肉げな笑みを浮かべるアーチャーを睨みつける。

 

「その年で耄碌したかね、マスター? 私が言っているのはそうじゃない。戦うという事は”勝利を求める決意”だ。たとえ後方で拠点に篭ろうと、それで最終的に勝利を掴もうと思っているなら、それは戦いだ。

 今の君にその気概(きがい)があるかと訊いている」

 

「――分かんないわよ」

 

 やれやれ、なんて言って肩を竦めているアーチャーが憎たらしい。

 八つ当たりだってのは自分でも分かってる。

 でも、そうずけずけと痛いことを言ってこられると腹が立つ。

 

「そういうアンタはどうなの?」

「ふむ。この戦いはバトルロワイヤルだ。サーヴァントが残るかぎり終わりはしない。よって私が狙われる事は明白だ。君が戦わないというならやられても別に構わんが、唯でやられるのも癪だ。精々が自衛するといったところだな」

 

 弓兵は特に気負った所も無さそうに言う。

 

 数日組んだだけの間だ、まだ知らない所など互いに山ほどある。

 それでも、今の無様な主人を見て見捨てる選択を取らない彼は本当に聖杯に執着してないのは分かる。

 皮肉ばかり言って、態度も人を小ばかにした様ないやなヤツ。

 でも優しい気遣いの出来るやつ。酷くわかり難いけど。

 

「ハァ」

 

 何だか力が抜けた。

 それで、こうやっていじけてるのにも力が入ってたって事に気付いて、すこし可笑しかった。

 

 真名は知らないけど、それでも世界に選ばれ、座に召し上げられる程の英雄英傑。そんな相手がわざわざ不器用に、不慣れな風に慰めてくれて、それでなお不貞腐(ふてくさ)れているなんて私のプライドが許さない。

 遠坂っていう魔術師じゃなくて、遠坂凛という私自身が許せない。

 

 

「ぃよしっ!!」

 

 

 ぱんっ

 

 

 頬を両手で叩いて気合を入れる。

 うん、こうやってても何も変わらない。

 動けば何かが変わるかもしれないんだから!

 

「アーチャー、他の皆は?」

 

 やっと目が覚めたか。口ほどに物を言う表情に少し、ほんの少しだけあった感謝の気持ちが消えていく。

 このやろう……

 ふっ、とか鼻で笑ってるし。

 

「小僧共は昼食の最中だ。セイバーはまだ引きこもっている。あれから顔も出さんよ。君とはまた別の意味で重症だな」

「そう……」

「無理も無い。宝具とは英霊の象徴そのものだ。それを失ったとあってはな」

「でも宝具は英霊にとって体の一部みたいなものでしょ? そう簡単に奪えるとは思えないけど」

「本来ならな。だが実際完全に奪われている。ラインどころか霊核そのものから宝具の存在が失われているらしい。それではもう―――」

「霊核からって……。それじゃもしかして座に帰っても?」

「そうだ。英霊は座から降りる時、座にいる本体からコピーを作って送り出す。だが宝具そのものまでコピーされて増える訳ではない。英霊とて、役目が終わるか死ぬかすれば座へと戻り、回収されるのだ」

「じゃあ、セイバーは……」

「あぁ。更に悪い事は、彼女は『宝具に()る』タイプの英霊らしい」

 

 『宝具に依る』?

 

「どういう事よ?」

「簡単に言えば苦難の末に宝具を得たのではなく、宝具を手にしたからこそ、苦難の道を歩んだという事だ」

 

 手にしたからこそ。

 手にしてしまったから、英雄になった?

 

「剣身を一度見た。なるほど、あの剣の担い手なら頷ける話だ」

「ッ!? セイバーの真名が分かったの!?」

「彼女の、というより剣の名だな。彼女の持っていた剣、あれは聖剣だ。それも最高位のな。そして聖剣の担い手になる方法と言えば――」

「――――剣に選ばれる(・・・・・・)。 そう、そういう事」

「ああ。だからこそ、剣(根)の無い彼女は進む事ができない」

 

 まいった。正直甘く見てた。

 私と同じで負けて落ち込んでるんだとばかり思ってたけど、それって再起不能と変わらないじゃない。

 

「がんばれ、って言ったくらいで気を取り直したりしないわよね?」

「それで済むなら、私も諸手(もろて)を挙げて喜ぶのだがな」

「いいわ、とりあえずそっちは衛宮君に任せましょ。彼のサーヴァントなんだし」

「了解した。同盟自体は解消するのかね?」

 

 う……

 確かにメリットは無いのよね。セイバーが戦えない以上、衛宮君は戦力になりようがないし……。逆に足枷になるばっかりか。

 

 でも、

 

 

「同盟は継続よ。正直メリットなんて無いけど、戦えなくなったからここでさよならってのは優雅じゃないわ」

「ふむ、確か家訓だったか?」

「そう、”常に優雅たれ”ってね」

「マスターがそう言うのなら良いがね、私は小僧どもの面倒は見んぞ」

「ほんっと、何でアンタ達そんなに仲が悪いのよ?」

「さてな。あえて言うなら実力も無いのに夢ばかり見て、妄言ばかり吐いているところか」

「……ほんとに嫌いなのね」

 

 ハァ、もういいわ。

 変な所で子供っぽいというか、意地になってるっていうか……

 

 さて、とりあえず心配させちゃった衛宮君と桜の所にでも顔を出しますか!

 

 

 

 

 

 

 衛宮邸。

 その屋根の上に霊体化した弓兵はいた。

 襲撃を警戒して唯一戦える彼が見張り役をしているのだ。

 

 

 屋根の下、平屋作りの建築物では一階しかないが、その居間からようやくいつもの調子を取り戻した主人の声がする。

 

 懐かしい声だ。

 

 改めてそう思う。

 ずっとずっと昔、その声を振り切って戦場へ飛び出していった過去が、擦り切れて(かす)れた記憶の中から蘇って来る。

 

 だが先ほどまでの落ち込んだ彼女の姿は、記憶にもほとんど無い。

 忘れたとか、そういうのでも無い。

 単純にそういった事が無かったか、あるいはプライドが無闇に高い彼女が見えない所に行っていたからだ。

 

 

(そうだ、あんな遠坂は本当に知らない)

 

 

 ぽそりと零れる。

 

 実は顔に出してはいないが、弓兵も戸惑っていた。

 目的は過去の自分の抹消。

 己の手で過去の自分を殺す、その矛盾によって『衛宮士郎』という存在が歩いた歴史そのものを消し去り、座にある自身の本体を消去する。それが磨り減り、擦り切れた自分の望みだ。

 

 だがこの聖杯戦争は自分が遠い過去に経験したものとはあまりにも食い違っている。

 始めこそ知るとおりだったが、あの暴力の化身とも思えるバーサーカーとそのマスターである自身の姉、イリヤスフィールとの遭遇から記憶と大きくずれ始めた。

 その中心に居るのは八騎目として聖杯に呼ばれたという、黒川と名乗る男。

 あのような存在は記憶に無い。

 この歴史に紛れ込んだイレギュラーだ。

 

 そこから聖杯戦争は全く別の道筋を辿っている。

 正直な所、困惑している内に事態は混迷を極めた、といったところだ。

 目的の士郎殺害にしても、どうやったのかは知らぬがあの男によって魔術ごと固有結界を失っている。幾ら固有結界が心に根差した物だとは言え、扱うには才能とそれに見合う下地が必要だ。心は弄られていないが、その他の部分がごっそりと無くなっている。魔術回路の方も神経を利用した擬似回路とする部分も、魔術的な要素が軒並み失われており、アレでは発動はおろか投影すら出来まい。

 事こうなってしまっては、あの衛宮士郎が自分と同じ道を歩む事は不可能だ。ここまで食い違うと、もはや過去の自分とはとても呼べない。この手で殺したとしても願いが叶う事など無いだろう。

 返す返すも即座にあの戯け者の息の根を止めなかった事が悔やまれる。

 

 まぁ良い。

 こうやって有るか無いかの機会を待つだけだったが、今回の事で過去の自分に会う事が出来ると分かったのだ。忌々しいが、あの小僧を殺すのは一先ず置いておく。

 無論の事、機会があるなら万が一に期待して殺しておくがな。

 八つ当たりだが、己が身から出たものだ。精々苦しませないよう一撃で殺してやる。

 

 

 それにしても、重要な問題がある。

 うかうかと己の唯一無二の才能を投げ捨てた小僧には理不尽な怒りが湧くが、それ以上に気に掛かるのが、相手がそれ(・・)を知っていた事だ。

 

 才能。

 そう言ったらしい。

 ほとんど初対面の、ろくに会話も交わしていない人間の才能なぞ見抜けるものではない。それが特異なものであるなら尚更(なおさら)だ。

 そして、衛宮士郎の持つ才能は魔術協会に知れれば封印指定確実な代物。

 

 本人ですら知らぬそれを知っていた?

 

(ありえんな)

 

 それこそ本当に未来の存在とでも考えねば理屈が合わん。

 衛宮士郎の人生は俺が誰よりも知っている。

 だからこそ、気になる。

 私は確かに世界に名を知られるようにはなっていた。

 その大半が例え戦争の諸悪の根源としての宣伝だとしてもだ。

 (ゆえ)に私と同じ未来人を名乗るヤツが私の名を知っている可能性は確かにある。

 だが魔術は話しが別だ。

 私は人を救う為に秘匿を破り捨て、一般人の前で魔術を行使した。結果、魔術協会から刺客を送られる羽目になったが。しかしそれは魔術協会による記憶操作などの隠蔽処理で隠されたはず。大々的に私が魔術師だとは知られていない。

 あの男も魔術師でもなければ知りようが無い情報だ。

 だが、どう贔屓目に見ても魔術師には見えん。

 

(答えは出んな。知りたければ、やはり本人に聞くしかあるまい)

 

 

「はぁ……」

 

 何となく、溜息が出た。

 

「アレと問答せねばならんのか?」

 

 脳裏を()ぎるのはゴリラに似た形態(シルエット)をしたロボット。

 仮にもサーヴァントである自分の矢をものともせず、騎士王の聖剣すら傷一つ負う事無く跳ね返す脅威を超えて不気味な装甲。サーヴァントと同格に打ち合えるだけの速度に膂力。

 

 脆くも崩れる己の常識がやけに儚く感じられる。

 

「はぁ……」

 

 幸運値。それは弓兵最大のネックだった。

 

 

 


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