無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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かなり遅れました。

いやはや、参った参った。難産にも程があります。
士郎・凛サイドからみたら、とても叶わない戦力差がハッキリしてるにも拘らず、前々話の最後でアーチャーが先制攻撃を顔面目掛けて撃ってしまっていた。これ以上ない敵対宣言に思えるし……。
描く上で非常に困りました。
軽く書いてるけど、凄く困りました。

難産のあまり、セイバーの辺りで切ってもう一話追加する事にしました。
あと一話で話しが戻ると思ってくださった方、すみません。


※前書きに色々書くと読者の方の邪魔になると悪いので、後書きの部分へ書くことにします。気が向きましたら、暇つぶしにでもしてくださいませ。


幕間     インターミッション

 

「まず、これからの方針をどうするかね」

 

 立ち直った遠坂凛は居間にいた。

 タイガーは昼食休みに心配して学校を抜け出してきていたので、今いるのはセイバーを抜いた昨夜のメンバーである。

 桜は巻き込みたくないという士郎と凛の意思に反して、既にライダーに誘拐されて少なからず言葉も交わしたらしい。士郎は知る(よし)も無いが、元々魔術の家系に生まれて魔術師の家に養子に出された彼女は魔術の存在を知っている。それどころか、養子の目的は魔術回路の失われた家系の救済として、彼女をマキリの家の跡継ぎに据える為だった。

 凛は知ってはいる。

 彼女が魔術を学んでいる事だけを。

 それがおぞましい蟲の寄生体としての『道具』であったとは知らず。魔術という分野そのものに隔意を抱いていると知らず。

 だから凛は桜がここで話に加わる事を許したのだった。

 

 

「方針って言われても、俺は聖杯戦争を止めようとしてただけだし」

「正直、今のままだとそれはたんなる自殺よ。アンタは一人じゃサーヴァントに対抗なんて出来ないし、アーチャーは無事だけど、私も刻印を無くしたから魔術が使えないわ」

 

 その言葉に衛宮士郎は少し引っ掛かる。

 

「待ってくれ遠坂。魔術が使えないって、魔術刻印が無い俺は魔術を使えるけどどういう事なんだ?」

「正確には使えないじゃなく、使い物にならないね。私が刻印を継承したのなんて随分昔だけど、要するにそれから長い間魔術刻印って物凄く便利な道具をずっと使ってたの。

 だから慣れきった道具が無くなった今、戦いの最中に慣れてない手間を掛けて魔術を使ってたら逆に危険よ」

 

 確かにそれはそう。

 魔術刻印はブースターとしての機能の他にも魔術の補助、持ち主に代わっての詠唱とその機能は非常に多岐に渡り、魔術師にとっての有用性は人後に落ちない。

 彼女は当然ながら長い期間その環境にあり、魔術を使用する時に当たり前に使いこなしていた。だがその当たり前は欠けてしまったのだ。戦場という危急の場で咄嗟(とっさ)に”いつも通り”の効果を期待したり、”いつも通り”の魔術行使を行ってしまえば、それは彼女ばかりでなく味方すら致死の危険に晒す事となる。

 

「だから実質戦力はアーチャーだけね」

 

 セイバーが立ち直れば話は少し違うんだけど、と遠坂は若干顔を(しか)めて呟く。未だセイバーは部屋に篭っており、マスターである士郎が声を掛けても梨の礫だ。

 

 主の隣に座るアーチャーが現状を纏める。

 

「つまり私一人で君達全員を守らなければならんという事だ」

 

 打って出るには防御を捨てる必要があり、そうするには守る対象が多すぎる。

 そう言っているのだ。

 

「衛宮君は止めるって言ってるけど、それをするにも力は絶対に必要よ。止めろって言って止める様な相手なら最初からこの戦争に参加してないわ。馬鹿が来たと思われて殺されるのが関の山。

 つまり、攻めるのは良いけど説得は不可能なの。余計な事をしている余裕なんて欠片も無いわ。守勢に回るにしても時間で増える戦力は剣を失ったセイバー(剣士)くらいだし」

 

 だからどうしようか、という話し合いをしようというのだ。

 

「う~ん……」

「ふむ」

「えっと」

 

 アーチャーは黙然と目を閉じて黙り込み、士郎と桜は考え込む。

 

 最初に顔を上げたのは士郎だった。

 

「遠坂、この家って危ないのか?」

「へぇ」

 

 にやりと凛が笑い、見直したわ、と呟く。

 

「よく気付いたわね。

 正直なところ、わからないわ。ここ数日で一番動いてたのは私達だから他のサーヴァントがこっちに気付いてないって事は無いだろうし、キャスターやアサシン辺りにはばれてるかも。最悪、こっちの弱体化まで知られてる可能性もあるわ。だからずっとアーチャーに屋根で警戒して貰ってた訳だけれども」

 

 ちら、と従者を見やる。

 腕を組み、目を閉じたまま弓兵は口を開く。

 

「襲撃の気配は無かったな。例えアサシンの気配遮断スキルだろうと、姿そのものが消えるわけではない。警戒に集中していればそうそう見逃しはせん。キャスターのレベルの魔術に関しては専門外だが、監視する視線は感じんな。無論、油断は出来んが」

 

「そういう事」

 

 それを聞いて士郎は顔を(しか)める。

 家が安全と言い切れない状態では、戦いへ行くのに桜を置いて行っても安全とは限らないからだ。彼女を危険かもしれない場所へおいて離れるのは彼の性分が許せなかった。既に一度誘拐されたばかりなら尚更に。

 

「遠坂、どこかに桜を避難させられないかな?」

「ん~、正直サーヴァント相手じゃ無理よ。この町を離れるのが一番だと思うけど……」

「あの教会は? 確か監督官とか言ってたけど」

 

 すると遠坂は物凄く嫌そうな顔をした。

 

「あんなヤツに預けたら絶対(ろく)な事にならないわ」

「確かに何か嫌な感じはしたけど、でも降参したマスターは教会で保護される事になってるんだろ?」

「うーん、アイツ性格は最悪だけど、確かに神父としてはしっかりしてるのよね」

 

 なかなか決まらない。

 すると、今まで黙っていた桜もおずおずと発言した。

 

「先輩、私は大丈夫ですから」

「大丈夫なわけあるか、もう一回攫われてるんだぞ? 大事な桜を危険な目になんてあわせられる訳ない」

「だ、大事な、ですか?」

「あぁ、当たり前じゃないか」

「はいはい、ご馳走様。

 はぁ。いいわ、桜は教会に預けましょ」

 

 恋する相手の自覚ない”大事”発言に、顔を真っ赤にして固まった桜を見て凛が首を振る。どちらにするにしろ、この町を離れても確実に安全とは限らないのだ。それならば目の届く所で、力のある相手に保護して貰うのがベストとも思う。

 

「わかった」

「わかりました」

 

 了承を返す二人を見て凛も頷く。

 

「じゃ、話を戻しましょ。って言ってもセイバーがどうなのか分からないんじゃ話しが進まないわ。衛宮君、無理矢理でも構わないから引き摺って来て」

「無理矢理って……。そんなの駄目だ、セイバーは今落ち込んでるんだろ? だったら無理強いは出来ない」

 

 そんな言葉に呆れの溜息が出る。

 

「あのね、今はそんな事言ってられる状況じゃないの。今すぐにでも他のサーヴァントに襲われるかも知れないのに、肝心のこっちのサーヴァントが戦えるか分かりませんとか話にもならないの」

「……わかった」

「頼んだわよ?」

 

 やはり納得はしていない顔で衛宮は居間を出て行く。その際に茶菓子を抱え込んだのは、彼女の説得に役立つかもだからだろうか。

 桜も心配げな様子で少し離れてついて行った。

 

「大変だな、マスター」

「何人事みたいに言ってんのよアンタ」

 

 隣を見れば、(つむ)っていた目を開いた己の従者がいつもの皮肉げな態度を見せる。ホントに毎度ながら嫌味なヤツだ。

 

「同盟を解消しなかった事、後悔したかね?」

 

 見透かしたような言葉にむかっ腹が立つ。

 ふんっ、と一つ鼻を鳴らして持ち前の負けん気のまま言い切る。

 

「まさか! ただ勝つんじゃつまらない、これくらいハンデの内よ」

 

 するとクツクツと笑い声が上がる。

 

「クッ、ふふふっ。それでこそ私のマスターだ」

 

 少し照れくさくなって、わざわざ発破をかけてくれた従者から顔を逸らした。

 

 

「当たり前よ。私は遠坂凛なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんとん。

 

 扉の叩かれる音がする。

 私を心配する主の声も。

 だけど、私の心は澱のように沈み、応える事もままならない。

 

 アーサー王

 

 たんなる少年が聖剣に選ばれた事から始まる、華々しい英雄譚。

 強さと英知を備えた綺羅星の如き騎士達を従え、民を、国を守るために周り中の強大な侵略国家と戦い抜いた稀代の君主。

 その最後は英雄らしく悲劇的なものだった。遠征の隙に国は内乱が勃発、ズタズタに引き裂かれて滅亡し、王自身も決戦の地・カムランの丘で命を落とす。

 とはいえ、彼の功績が無ければ国は遥か手前で他国に侵略され、とっくの昔に滅んでいたのだから。

 

 ある意味、内乱で滅んだのはとても幸運な事だったろう。

 時代柄、他国の侵略による滅亡なら、敗北した国の民という民は侵攻軍の暴虐に晒される。歳をとった者は殺され死体から身包みを剥がれ、若くたくましい男は奴隷とされ、女子供は犯されてから奴隷とされ、赤子は石畳に叩きつけられ殺される。

 血に狂った兵士は指輪が欲しければ指を、首飾りが欲しければ首を切り落とす。

 発端がどうあれ、それを(まぬが)れた事は歓迎できる。

 

 

 だが聖剣を持つ英雄たる王ではなく、ただ一人の人間として客観的にみた時、彼はどういった人間だろう。

 戦に明け暮れ、妃に逃げられ、配下の騎士達は櫛の歯が抜けるように欠けていく。民への求心力も失い、(しま)いには国内で起こった一地方の反乱すら鎮圧出来ずに死んだのだ。

 仕方の無い事だった。あれが最善だった。

 言い様はいくらでもあるだろう。

 後の人間が分かったように。

 そんな反感を持たれる考えだろう。

 

 王は人にあらず。

 

 誰かが言った。しかし王という椅子に着いたからと言って人間という生物を止める訳でも無し、どのように考え行動しようとも、あくまで人なのだ。例えその時は分からなくとも、後世にされる評価とは人類という種からの一つの指針となる。アーサー王は、はたしてどう評価さたのだろうか……

 

 

 

(―――わかっている)

 

 

 私は聖剣を抜き、王となった。

 英雄譚にも語られるその生涯に、今の(・・)私はいない。

 聖剣こそが英雄を選定し、英雄たる証であり、英雄を保障するもの。

 それが失われた私は、もう思い出せないくらい昔の、剣を抜く前のたんなる子供だ。

 

(―――わかっているから)

 

 私を戦いに導こうとする声が聞こえる。

 聞きたくないのに、耳をふさいでも聞こえてしまう。

 お願いですから……

 

(――何の力も無い私に、重荷を背負わせないでください――)

 

 どうか、 

 

(……期待をかけないでください)

 

 

 

 





●手慰み日記

ガンダムUC、読みましたし見ました。
アーガマ、ネェル・アーガマのハイパーメガ粒子砲って、あれ程に非常識な威力があったんだと愕然としたり。あらためてメガ粒子の内包できるエネルギー量の凄まじさが感じられました。しかも亜光速で飛ぶし。
あれって地上で撃っちゃ駄目でしょ。スパロボでは素晴らしく弱体化してると思います。
そして彼女、マリーダさんが私的にヒロインにしか見えない。あれはあんまりなんで、その内あの世界も出すかも知れません。
ここで小説版の爆笑セリフを一つ。いや場面は真面目なんだけどね?

『ニュータイプ、それは若さが生み出す一過性の力だ。
 すなわち、若気の至り!』
「中年の絶望を押し付けてもらっては、困る!」

新説・『ニュータイプは中二病』説
斬新過ぎてちょっと……


何と何と、富士見ファンタジアで刊行されていた超大作『風の大陸』の続編が始まっていた。レーベルは違ったけど、気になるので読んでみよう。あの作品の魔術って陰惨というか、完全に呪いって感じだし。

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