無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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ライダーver.メデューサさん。
彼女の性格をだんだんと村娘だった頃の性格を想像して近づけて行こうかと考えたり。

………原作と違う?
まぁそこ等辺は今更という事で一つ。




第参章 21 休養には鍋料理を (Fate編)

 

 

 ほかほかと湯気が立ち昇る。

 時刻は夕方。太陽は地平へと落ちかかり、窓から西日が差し込む。

 

 目の前に用意されたのは、大きな平鍋にたっぷり湛えられた沸き立つ綺麗な色の(つゆ)。そこに溢れんばかりの野菜と肉を沈めた日本料理だ。くつくつと鳴る音は立ち昇る匂いと相余って食欲を刺激し、半日以上も仕事が無かった胃袋もせっついてくる。

 野菜に肉、食材の追加分も多量に用意し、準備は万端。

 

「そう、いわゆる鍋という料理である」

「トウリ、突然どうしたんですか?」

 

 隣で涎を垂らしそうになりながら鍋を見詰めていたバゼットに突っ込まれた。

 いやね? 昨日の夜は遠坂勢と一戦あるかと思ったのに、何かぐだぐだのなあなあで終わっちゃったから気が抜けてね~。

 そこに重ねて空きっ腹に鍋とくりゃぁ……これはもうちょっとくらいおかしくなっても当然だよね?

 

「空腹は同感です。早く煮えないものでしょうか。まだなんでしょうか……」

「お前は少し落ち着け」

 

 なんつーか、バゼット遺伝子改変者になった影響だか、凄く燃費が悪いな。

 今は俺が材料出したり……は、微妙な味のが出来たりするから、有機物合成ナノマシンに時間加速の魔術を重ねて作り出した食材が有るから良いが、これだけの食料を毎食用意してたら食費が大変なことになるぞ?

 

 ―――改めて考えたら、今煮えてるこの白菜とか値がつけられない代物なんじゃ?

 

 何とか美味い食材出そうと頑張ってみたんだが、まさかさっきのバゼットとメデューサの呆れたような視線はコレだったのか!?

 

 ぐぬぅ。

 ま、まぁ突っ込まれなかったという事は、見逃してくれたんだなきっと。うん。

 ――呆れられたんじゃないよな?

 

 

「飲み物はコレでいいでしょうか?」

 

 戦々恐々としていると、メデューサが飲み物の入ったビニール袋を下げて帰ってきた。流石に飲み物まで作るのは、なんかこう、(いき)じゃない気がして彼女に頼んだのだ。

 ちなみに報酬はバイク一台。

 

 名称「MTT Y2K」

 通称Y2Kと略される俺の世界のバイクだ。

 あの当時ギネスブックに「市販されている世界最速のオートバイ」、「世界一高価な市販オートバイ」として登録されていたバイクであり、エンジンにジェット機等に搭載されているガスタービン・エンジンを積んだスペシャルなモンスターバイクである。

 

 最高時速 約402km/h。

 加速性能はスタートから365km/hにまでのかかる時間が僅か15秒。

 

 当時、これだけのパワーをフルに扱うにはタイヤの性能の方が頼り無いような状況だったが、そこは別世界印の特別タイヤを履かせれば解決である。

 

 ちなみにコイツは発売8年後に発表されたタービン・ストリートファイターというバリエーションで、最高出力を大幅に強化したバージョンだ。

 パワーは詳しく言うと――まぁ分かりやすく言えば同じエンジンでベル206型のヘリコプターが飛んでいる、と言えば簡単だろうか? 改良型のエンジンに至っては、更に其処から125%の出力アップが図られている。

 

 

 総合的に見て「人間にはちょっと……」というバイクである。エンジンの種類から違うお陰で操作の感覚が従来のバイクと全く違い、それも含めて迂闊に運転すると軽く死ねる一品。

 いやはや、乗るのが騎兵のサーヴァントだからいいけどね?

 

 ちなみに、流石に日本の市街地ではジェット音が五月蝿いので、そこ等辺もちょこちょこと弄ってある。メデューサにはそれが若干不評だったが、総合的には喜んで貰えたから良いだろう。

 

 くれぐれも、人を轢かないように言い含めた俺は間違ってない。

 

 

 

「俺アルコールはいいや。そっちのウーロン茶くれ」

「私は何でも構いません」

「分かりました。ではビールを」

「ありがとうございます」

 

 飲み物は行き渡った。

 鍋も良い具合に煮えている。

 

 では……

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

 

 

「いやいや、なかなかどうして美味い出来だ」

 

 ライダーは分かるとして、何故かバゼットが知っていたいただきますの後に、小皿に取った野菜と肉を味わう。

 有機物合成ナノマシンは登録に使用したサンプルと全く同じ味の物しか作れない。登録自体、したのは思いつきでこのナノマシンを造った昔の話である。つまるところ、こうして食物を作って食うのは初めてになるのだが、自画自賛になるが美味いものである。

 

「そうですね。そこらの木や地面から作ったとはとても思えません」

 

 ですよね?

 と、メデューサと頷きあう。

 

 バゼット?

 彼女はほら……ね?

 

 がつがつむしゃむしゃ、なんて音はしない。

 マナーは良いんだ。良いんだが、味わって食べようとかいう気持ちが全く、これっぽっちも感じられない食い方をしている。

 ……具体的には、殆んど噛まないで胃に流し込んでいるように見える。

 

「何と言うべきか。作ったかいの無い食い方だなぁ」

 

 思わずといった風に零してしまった呟き。これには流石にメデューサも苦笑を浮かべた。

 

「彼女は職柄、食事を栄養補給と割り切っていたそうですから」

「けどな、味覚は有るんだから美味しい物を求めると思うんだがなぁ」

「普段から味も碌にしない栄養食ばかり食べていて、他の物は忙しくて食べる暇が無かった、というのはどうでしょう?」

「あー……、何かそれっぽいな。つか、喋ってる間に食い尽くされるし」

「急いで追加を入れましょうか」

「じゃんじゃん入れよう。どうせ無くなるんだし」

 

 残りをザッと攫って時間稼ぎにバゼットの皿へ。

 肉を露の底へ沈め、上からどさどさ野菜類を投入する。

 キノコや白滝なんかは脇を囲うように潜し、真ん中に豆腐も乗せる。

 最後に火を強めにして蓋を被せ、

 

「もう少し煮りゃ、また食えるな」

 

 雑煮にしても美味いが、まぁそれは次の飯時に取っておいて、せっかく作った野菜をまず食い尽くそう。

 

「メデューサ、今度は取られんようしっかり食おう」

「ふふ、はい」

 

 バゼット(食欲魔人)も早々無くなりゃしないんだから、もう少し手加減してくれんかねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、騒がしい(?)食事は満足満腹の内に幕を閉じた。

 昨夜の騒ぎから帰還して、丸半日を休養に当てたお陰で三人とも調子は万全である。

 片付けが終わった頃には丁度良く日も暮れ、夜闇の(とばり)が街を包んでいる。

 

「さてと、今夜も行きますか」

「ええ。私の目的は達成しましたし、今度は貴方の手助けをしましょう。ところで何処へ行くかは決めてあるのですか?」

 

 やる気に満ちてぴしっ、と男前に決まっているバゼット。

 どうやら神父を殺った事で一区切り着き、色々とすっきりしたようである。ちなみにランサーは石像のままで保管してある。下手に復帰させると襲い掛かってくるだろうし、バゼットとよりを戻せと言っても彼は一度主換えをした身、それが死んだからといって戻るなど決して納得しなさそうだ。

 戦力的にそれでどうにかなりはせんが、逆にランサーに死なれても困る。あのクソ聖杯にエサをやる事になるからだ。

 つー事で、彼は石像のまま一時保留である。これからも含めた処遇についてはバゼットに任せたので、その内決めるだろう。

 

 

「目標か。いや、特にこれと言って決めてないな」

 

 ライダーとランサーを抜かした残りは五騎。

 セイバー・アーチャー・キャスター・アサシン・バーサーカー。

 その内、知識ではキャスターとアサシンは聖杯のある山の中腹にある寺に陣を敷き、出て来ないとある。そうなると無目的にうろついた所で、出会うのはバーサーカー位のものだろう。遠坂嬢チームは漁夫の利を狙って引き篭もる可能性も大きいし。

 

 そうなると戦う相手は女の子? それも年端もいかない子供?

 

 

 ……ないな、うん。

 

 

「あー、選択肢は幾つかある。

 

 1:遠坂嬢のチームを狙って止めを刺す。 ただし聖杯が狂っている事は言ってあるから、命を掛けてまで欲しがるかは怪しい所だな。

 あくまで聖杯戦争を続行する場合、低下した戦力を考えると他のサーヴァントが潰しあうのを期待して守勢に回る可能性が高い。戦場に出てくるとしたら衛宮少年とセイバーか?

 

 2:適当にうろつき、出会ったサーヴァントと戦う。 聖杯戦争での普通の行動だな。バーサーカーとかち合う可能性が高い。問題はあんな子供と戦うのは気が進まんという点だ。

 

 3:聖杯の様子を見に行く。もしくは二度と聖杯戦争が起こらない様に、さっさと基礎システムごと破壊する。

 

 当座はこんなものか?」

 

 少し首を傾げたメデューサが口を開く。

 

「今更なのですが、マスターの目的は何なのでしょうか?」

「俺をこの世界に引き摺り込んでくれたあの気色悪い聖杯を叩き壊すことだな。ただまぁ、こうして来たからには、サーヴァントなんていう存在と戦うのも悪くないと考えてた」

「――初めて目的を聞きましたが、随分といい加減ですね」

 

 見えない見えない。呆れ返った表情の、心まで男装した女の人なんて見えない。

 

「なら3でいいのではないでしょうか?」

「やっぱりそうなるかねぇ。聖杯システムを打ち壊せば現界しているサーヴァントの大部分が、マスターが自前で支えない限り消えそうなのが残念だが…、まぁそこはしょうがないか」

「トウリは聖杯の場所を知っているのですか?」

「知ってる。寺のある山の奥、洞窟の中だ」

 

 方針は決まった。

 サーヴァントとの戦いが不完全燃焼気味なものばかりだったのが残念だが、これは仕方が無い。当たった相手がランサーみたいなタイプじゃなかったり、そうでなくても変な気負いが入ってたりと、全体的に運が悪かった。

 

(いやはや、アクシデントの先でそれは高望みが過ぎたかな?)

 

 なんにしろ、さっさと聖杯を破壊してメデューサの姉貴たちをどうにかしよう。

 この世界に来た最初の辺りが気色悪かったが、ちょっとした休暇位の気持ちで納得する。

 と、いうわけで。

 深夜の山登りに出発である。

 

 

 


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