無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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遅くなり、すみません。

どうにもこうにも、雪がわしわしと降り出したら電線の辺りに影響が出たのか、割と良くPCが落ちる様になり、執筆環境が急落。愕然としました。

突如、プツン という音と共に暗転するディスプレイ。
真っ暗な画面に映りこむ口が半開きの自分の顔。
脇を見下ろせば、置かれたPC筐体からいつも流れる一定のファン・ノイズが、ゆっくりと息を引き取るように途絶えてゆく。
静まり返る部屋。
改め画面へ視線を戻し、脳裏に浮かぶのは『よつばと』作中でブレーカーが落ちた時のお父さんを描いたコマ。
ようやく理解が現実へ追いつき、同じように顔を覆って泣きそうになりました。

ちなみに、ほぼ一話分を書いた頃合でした……



第参章 24 暗き森 (Fate編)

 

 黄金の炎に永遠に焼かれていたい。かつてそう願った女が居た。

 軍人だった彼女は黄金に導かれるまま魔人となり、その渇望は轟然と燃え盛る全てを焼き尽くす劫火となった。

 

 

「――――」

 

 さして特別な感慨も無く、目の前の光景を眺める。

 

 ようやく定まりだした大地は無数のガスを噴き出すひび割れに覆われ、所々でガラス化した部分や、未だ煮え滾る溶岩がガスと共に間欠泉のように吹き出すのが辺り一面に広がっていた。大気は気化した様々な物を足されて致死の猛毒となり、灰色のもやとなって重く垂れ込めていた。

 

 その猛烈な輻射熱で水面のように踊る景観は、いかなる生き物の生存も許さない地獄以下の世界を見る者に連想させた。

 

「ほう?」

 

 比重の重い物質をふんだんに孕み、地表一メートル付近に霧のようにわだかまるもやの内、幾らかが薄っすらと発光し、空に溶ける様に散っていく。同時に、低位階で駆動するエイヴィヒカイトへと新たな燃料が注ぎ足されるのを感じた。

 英霊約二百人と、邪神の眷属三十七万余。そのどれもが平均的な兵士の魂を軽々と凌駕する。この千年で、一度にこれ程の魂を取り込んだのは初めてだった。

 

(随分とエイヴィヒカイトの出力も上がってきた……。しかし、こうなると逆に手加減が難しいか?)

 

 手を幾度か動かして調子をみる。

 それにしても、此処までの数となると、周囲を侵食する覇道型『創造』の領域である結界内に全て取り込むのは随分と骨が折れた。

 覇道型の特徴として、取り込んだ魂が多ければ多いほど効果が薄まるというものがある。

 しかし、そもそも数億度を数える焦熱世界という、エイヴィヒカイトの使い手ですら格下なら蒸発を免れない物理法則を完全に無視したこの世界、それなりに薄まったからと言って、太陽表面温度と同じ六千度はある中で元気に生きられるほど英雄も頑丈ではなかろう。

 

「死亡から幾分時間があるのか」

 

 かかとで踏み躙った黒い地面は未だ熱波を放って柔らかく、何処までも平坦に広がっている。

 

「回収は済んだ。復活は無い。ヌル、転移術式実行(ラン)」

『了解しました』

 

 広がる法陣。次空間を渡る魔術に身を委ねつつ、最後に焦熱の地獄と化した世界を一瞥した。

 遥か地平線、陽炎の彼方から“世界”が崩壊してくる。

 ガラガラと空が砕けて剥がれ落ち、固まりかけた溶岩が拭い去ったように消えていく。

(世界の終わり…)

 

 誰もが終焉を悟らずにはいられない光景が広がっていた。

 

 終わり。

 終末。

 終焉。

 

 よくよく宗教で不安を煽るよう描かれているのが見られるが、当然ラッパは鳴り響かんし神なんぞは影も形もいない。いるわけが無い。どう言い換えようと終わりは終わり。世界の持ち主が死んだ以上、生き永らえる道理も無い。

 そう思い見れば、この光景もまた心に響いてくるものがある。

 だがまぁ、

 

「既に死に絶えた世界が消えるだけか」

 

 と、思わず正直なところがポロッと零れてしまい、

 

『術式、起動』

 

 壊れ行く世界から消え去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 身を捻って突き込まれた長槍をかわす。即座に飛び離れ、障害物の影に滑り込んだ。

 ランサー相手には中途半端な距離が一番拙い事は良く分かっている。

 ちらりと太腿に視線を降ろせば、ざっくりと横に開いた傷口が鮮血を流し続けていた。生物でないサーヴァントにとって出血自体はさほど問題でないが、骨に届こうかという傷の方はいささかまずかった。脚にこれだけの負傷があっては、全力で長時間逃げるのは無理だった。

 しかも肝心の傷口は、治癒へ魔力をまわしても一向に塞がる気配を見せない。

 

「不治の呪いですか……。流石はかの高名な“輝く貌”、ディルムッド・オディナといったところですね」

 

 忌々しさが隠しきれない声で小さく呟いた。

 先刻、キャスターの転移魔術で先回りしていた二騎に不意打ちを受けた際、颶風の速度で襲い来るランサーの長槍を避けざま脇を駆け抜け離脱しようとして、身体の後ろに隠され獲物を待ち構えていた短槍に切り裂かれた傷だ。

 奇襲でなければ短槍に気付いただろうが、突然襲い来る刹那の交戦<エンカウント>の中では些細な仕掛けが恐ろしい罠となる。二度は通じないが、その一度が随分高くついたようだ。

 まさかこの首を刈った呪いの鎌、不死殺しのパルペーの同類とまみえるとは思ってもみなかった。

 

 

 ランサーが枯葉の踏みしだく音がゆっくりと、真っ直ぐに近づいてくる。

 

 目を瞑り、耳に集中して飛び出すタイミングを計る。

 交戦初期に眼帯は取り払われ、その見つめる者を石にする美しい瞳は開放されていた。だが、ランサーもキャスターも石像になる気配は一向に無い。

 原因は明白。キャスターだ。対魔力Bのクラススキルのお陰でキャスターの魔術を殆んど無視できるのは幸いだが、同時に此方の魔眼もキャスターの操る神代の魔術によって防がれてしまっていた。

 確かに魔眼は魔術に比べ、速度も効果も群を抜いて非常に強力。だが、そうとなれば対抗策が編み出されるのは至極当たり前のこと。現代では魔眼殺しなるアイテムも、それほど労せずして手に入るというほどに、それは有り触れている。あくまで難しい物と比してだが……

 まして掛ける方もサーヴァントだが、抵抗する方もまた、サーヴァントである。そこに稀代の魔女の防壁がついたとなれば、魔眼の効果は期待するだけ無駄だろう。

 

(五メートル……四メートル……三メートル……)

 

 等速で近付く足音。武器である杭にも似た五十センチ超の短剣を握りなおす。特別な効果も無く宝具としてのランクも最低限だが、サーヴァントの首を裂く程度ならこれで十分。

 

 枯葉を踏み締める音。

 

 サーヴァントの中でも特にスピードに秀でた両者にとって、この距離は既に一挙手一投足の間合い。瞬きほどでも意識を逸らせば命が消し飛ぶ。

 

(二メートル…、―――?)

 

 ぴたり、と足音がやむ。

 

(止まった?)

 

 ジワリと焦燥が滲む。

 次の瞬間、総毛立つ殺気と悪寒に背筋を氷塊が滑り落ちた。

 

「くぁっ!?」

 

 咄嗟に傷から血が噴き出すのも構わずその場で飛び上がる。

 

 ドヅッ!!!

 

 瞬間、赤い穂先がかなり太い生木の幹を易々とぶち抜き、先ほどまで潜んでいた影を貫いた。飛び散る木屑に身を打たれながら空中で短剣を投擲する。別の木へ刺して身体を腕力で引き寄せながら見やれば、赤い槍を引き抜くランサーの左が黄の短槍を握り、隙無く獲物を窺がっていた。

 あの時咄嗟に上へ飛ばず横に回避していたら、今度こそ癒えぬ傷を心の臓に添えられていた。

 

「ぞっとしませんねっ…!!」

 

 牽制の短剣を放ちつつ枝から枝に飛び渡りつつ何とか身を隠し、木々に茂みにと影を渡り何とか追撃を振り切ろうとする。それを赤と黄の二槍を手に追うランサー。月明かりも木々に遮られる森の中、槍の間合いの外から変則的な軌道を描いて襲い掛かる短剣を、風切り音で捉えてはじき返す。

 鍛えられた鋼と鋼が打ち合う音が響き渡り、火花が生み出す一瞬のストロボの中で、コマ落としの様に英雄が命を賭けた舞踏を踊る。

 

 

 二対一。通常の戦闘ならさしたる時も経たずに命を失うだろう戦力差であった。戦力として取り込もうという生け捕りを目的としてさえ、いっさいの神秘を切り裂く槍のアドバンテージを考えれば、相手が同格たる英霊とてそれほど無理の無い事。

 しかしながら、メデューサは未だ逃れ続けている。

 夜の森は彼女のフィールド。敏捷ステータスもそう差は無く、逃走という行為に際して令呪のプラス判定がある以上、獲物に長物を持つランサーに不利な地形なのは自明の理。幾度かの“幸運”の助けもあり、満身創痍ながらも健在だった。

 

 

 メデューサは傷が増えるにつれ、次第に悪くなる状況に焦っていた。

 一度引き離す事が出来れば、キャスターの魔術でまた追いつかれるとはいえ僅かな時間は取れる。マスターからの潤沢な魔力供給が有る以上、その時間さえあれば呪われた傷口以外は癒せるのだが。現実はその僅かな時間を得るだけ引き離す事すら出来ていない。

 

 戦場の地形も、闇の(とばり)が降りる時間も此方に有利で、令呪の助けも有る。しかし一方的に追い込まれている。技はともかく能力はそう変わらないのに。

 幾度も視線は切れていた。にも拘らず、確実に見失わせたと思ったランサーが次の瞬間には再び此方を捕捉し、再び追われる羽目になった。

 

(厄介な……あれはキャスターの補助でしょうか? 対魔力Bのおかげでバーサーカークラスの『泉の騎士』や、速度と気配遮断スキルを合わせ持つアサシンよりはマシなんですが、二対一ではそうそう逃げ切れないようですね)

 

 逃走はスピードがものをいう。なのに最速のクラスであるランサーが追っ手にいるのは何ともまずい。更には魔術によって空間転移が出来るらしいキャスターまで控えている。状況は最悪ではないが、その一歩手前だった。

 

 しかし、逆に救いもある。

 

(サーヴァントとして現界していたのが幸いでしたね)

 

 英霊の限定召喚であるサーヴァントは、その能力を本来よりかなり制限されている。

 彼らは能力をスキルとステータスで表される。

 が、そこに記されるのは所持する技能の中でも伝承などで語られた特徴的なものや、突出して秀でたものばかり。

 洩れた能力は『持っていない』とされ、切り捨てられる。

 これが本来は召喚出来ないといわれる英霊を座より降ろす為の、クラスという枠の範囲なのだろう。

 

 お陰で歴戦の英雄たるランサーが、当然持ち合わせている筈の直感などがごっそりと抜けていた。

 生前より戦場など出た事も無く、女神に呪われた後も強力過ぎる魔眼によって戦闘という戦闘など全く経験していない自分が、まがりなりにもこうして戦えているのはそのお陰でもあった。

 

 だがそれにも当然限界がある。純粋な技量の差はいかんともしがたいし、それこそまともに戦うなど以ての外。状況さえ許せば騎兵のクラスたる己の宝具で森ごと吹き飛ばすなり、そのまま逃走するなりしたいのだが……

 

(駄目ですね。魔力を消し去る宝具がある限り、あの子は呼べない)

 

 自分の可愛い騎獣は特に防御に秀で、その防御障壁ごと突進する事で最大の攻撃力を生み出す。でも破魔の紅薔薇《ゲイ・ジャルグ》は、その障壁をまるで無かったように貫く事が出来る宝具。スピードを出した時に目の前へ槍を突き出されでもしたら、間違いなくそれは致命傷になる。

 騎乗して逃げたとしても、キャスターの転移がある以上、望みは薄いと考えざるを得ない。

 

 

「っ」

 

 敵を見失い辺りを窺がっていたランサーが再度こちらの存在を捉え、物も言わず突進を再開した。

 脚は癒えず、しかし幾つかの有利な環境故に、これまで大きな負傷は何とか逃れていたが、それも限界が近かった。

 

『このままでは逃げられない』

 

 ことここに至り、ついにメデューサはリスクを犯す覚悟を決めた。

 

 樹上から短剣を投擲する。鎖の尾を引いて疾走する短剣を追いかけるように、間髪入れず逆の短剣も放つ。二投目は怪力スキルを使用した渾身の一投。

 中途半端な投擲は最速を謳うランサーに対してあまり有効な手段ではないが、このフィールドは森。槍を携えた騎士は著しく行動を制限される。無論、英霊ほどの技量なら有って無いが如しの隙だが、同じサーヴァント同士なら話は別。

 

(もっとも、この攻撃が通じるかと言えば否ですが)

 

 現に最初の短剣は容易くかわされ、次の渾身の一投は受けるでもなく、短剣の先に信じ難い技でもって短槍の穂先を合わせ軌道を流された。

 杭短剣に備えられた棘が軽鎧を擦過して夜目に眩く火花を散した。だがランサーは胸元の弾けた火花を意識にも止めない。杭短剣を受けた短槍は衝撃に僅かに泳いでいる。しかしもう一本の赤い長槍が、樹上から降り、地を這う蛇のような動きで駆けるライダー目掛けて素早く突き出された。

 

 牽制の一撃。

 瞬時に判断したメデューサは疾風の速度そのままに踏み込む。

 

 ぞぐっ

 

 筋繊維を断ち切る音を立て、槍がメデューサの肩へ突き刺さった。

 

「っっっ!」

 

 研ぎ澄まされた刃は薄い筋肉を切り裂いて骨を割り、背後へ突き抜けた。

 

 第五次のランサーが持つ朱の槍とは違い、第四次のランサーが携える二槍は刃の幅が幾分広い。その刃に自ら飛び込む形になったメデューサの肩は完全に切り貫かれ、彼女の細い左腕はかろうじて皮一枚で繋がっているという有様だった。

 

(~~~~~~~~ッ!)

 

 踏み込む。

 おかげでやり易い(・・・・・・・・)

 

 予想していた痛みを耐え、無視して強引に進む。綺麗に刺さったから衝撃そのものは少ない。勢いは止まっていない。腕をほぼ文字通りに皮一枚残して切られたおかげで、槍はそのまま抵抗無くズルリと血肉を滑った。

 最も恐れるべき黄の短槍が持ち直す前に、槍兵の懐へ滑り込む事に成功した。

 

 ランサーの目が驚愕に見開かれる。

 

 速い。

 最速たるランサーから見ても異様な速さだった。

 その源は此処にいない彼女のマスターが使った令呪の補助の力。逃げ切れという願いはまだ続いている。主従を繋ぐ令呪は、危機の分水嶺たるこの瞬間に持てる力を発揮した。

 

 最も厄介な短槍を握る腕を掴んでランサーの身体を跳ね上げた。まだ発動している怪力スキルの恩恵をフルに行使しておもちゃの様に振り回し、力いっぱい遠くへ放り投げる。

 

 凄まじい人外の膂力によって振り回されたランサーの身体は、一瞬で木々の梢を超えるほどの高さまで小石のように投げ飛ばされた。

 

 それを見ず、メデューサはふらりとよろめき、しかし足を踏み締め(きびす)を返した。

 

 生半可な手段ではどうにもならないと、二対一の状況でありながら片腕を捨てるという暴挙の末に掴み取った機会。

 持ち前の怪力で地面に叩きつければそれなり以上のダメージは与えられただろうが、今はとにかく逃げるのが先決。もとより二対一では勝ち目は無く、脚に負傷も抱えていた。少しでも時間を稼いで、マスターの援護を待つのが今出来る最善だった。

 

 

(ぐぅっ、う、つぅ……、流石に、無理が過ぎましたか。

 マスターの方はパスが生きているから無事でしょうし、そもそも死にそうにない人ですし。ですが、私はもう一度追いつかれたら少し厳しいですね)

 

 激痛に焼かれる傷を抱え、キャスターの魔術を警戒しながら再び夜の森を駆け出そうとして、その瞬間。

 

 ヒュォ と鋭く風を切る音がして、

 

 

 ドシュ!

 

 

 衝撃に突き飛ばされて倒れこんだ。

 

 

 





本作のライダーさんは、かなーり弱めになっております。まぁ、原作でもサーヴァント中で一・二を争う弱キャラでしたけど。

彼女の扱い自体が最初のかませ犬的と言いますか、最終ルート以外は序盤で出てきて苦戦はすれども割とあっさりやられる、いわゆる中ボス的な存在でしたね。(確かそうだったと思い)
だからこそ、何よりもサクラに尽くす彼女の内面が輝いたのかな、と。



●手慰み日記(ネタバレが沢山あります。御一考くださいませ)



 劇場版ガンダムOO、見ました。
 感想は、面白かったけど映画の二時間じゃ全く時間が足りてなかったな、と。あとこのガンダムシリーズでは、新型MSとは即座に破壊されるフラグとしか思えませんでした。特にティエリアの乗ってたの。アレって何分くらい登場したよ? 五分や十分も戦わないで壊れたし。

 そして何より言いたい。
 一期でも二期でも、そして映画でもフェルトがセツナに贈った花が非常に印象的で、映画にいたってはフェルトの気持ちにセツナは嫌でも気付いたはず。
 にも拘らず、フェルトは突然何か悟ってしまっていきなり身を引き、最後のアフターでセツナはまるっきり脈絡無く、場面もセリフも一つ二つしか無かったマリナの元へ。

 言わせてください。


 なっとくいかねー――――!!!!


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