無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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どうにもFate編として長くなりすぎたのと、以前から考えていた聖杯戦争のオリジナル根幹で矛盾が発見されたという大問題で悩みに悩みました。
一々直したりするのもアレですし、ここは一つ勢いつけてサクリと終わらせてしまおうかな、と。
勝手ではありますが、どうか御容赦くださいませ。


・川上稔(先生は本人が嫌っているらしいので略)の『境界線上のホライゾン』がアニメ化!!!

 十月かららしいですが、超楽しみです。激烈に楽しみです。
 でも、あれってまだまだシナリオの半分もいってない雰囲気がする、ような? 個人的には前作、『終わりのクロニクル』や、その前の都市シリーズもアニメ化して欲しい!
 都市シリーズから最新作であるホライゾンまで、全部合わせて『都市世界シリーズ』の別時代なんですし、ここは一つ、PS時代のゲーム化を思い出して企画が立ち上がらんものだろうか……。
 個人的に都市シリーズの『閉鎖都市 巴里(パリ)』『機甲都市 伯林(ベルリン)』とか大好きです。もし『境界線上のホライゾン』読んでいて以前の作品を知らず、もしも武神が気に入っていたら。この二作品で最初の原型たる『重騎(ヘビィ・バレル、又はグレーセ・パンツァー)』が、『終わりのクロニクル』で沢山の武神が登場します。もし気に入りましたら、読んでみると面白いかと。個人的にガンダムより好きです。
―――はっ!? 好きすぎて思わず宣伝をしてしまった。


・バゼットさんの性格が随分と変かも? どうにも私のイメージがはっきりしないキャラです。本話の彼女の視点部分は、あくまで彼女が見た印象です。例えば黒川さんの行動を余さず見ているヌルとかからすれば、でてくる意見は大分違います。




第参章 27 突撃 (Fate編)

 

 

 さてはて、随分と混沌とした戦況になって面白みが出てきたもんだ。

 

 (くだん)の町が見渡せる位置、屋根の上に上がり、適当に出したコンビニ弁当を三つ四つバゼットへ投げ渡した。

 

 観た所、そう派手な閃光やら爆発やらは起きてないようだ。

 だが魔力の動きはかなり大きい。

 静かに、激しく刃を交えているのだろう。

 

 隣から聞こえる“(むさぼ)る”と表現できるBGMを聞き流し、お気に入りのツナマヨおにぎりを齧る。うん、味は美味くもなく不味くもないが、ツナマヨだからプラスってとこか。それにしても、バゼットは本当に味が二の次だなぁ。

 

「おっ、光った光った。いいねぇ頑張るねぇ」

 

 戦力は実質アーチャー一人しかいないのに、無論アーチャーがセイバーに剣でも渡せば別だが、どちらにしろ数で負けている。

 精神状態に拠らず十全の戦闘を行えるスキル《無窮の武錬》持ちの四次バーサーカー、暗殺者クラスのくせにセイバーと正面からタメを張れる五次アサシン、八十人まで分裂できサーヴァントが発見不能なレベルの気配遮断スキルを持つ、諜報と敵マスター殺害に特化した四次アサシン。

 

 いやぁ……難易度高いだろう、これ。

 

 最低限バーサーカーはセイバーへ突進したとして、アーチャーは分裂アサシンとは幸い相性が良い。何故ならアサシンの分裂は自身の能力を細分化する事になるからだ。アーチャーの難点である基礎スペックの低さが消えれば、対多数に優れた魔術を持ち目視という気配に拠らない索敵が強い弓兵が有利。まぁ接近戦スペシャリストの五次アサシンに突っ込まれながら対応できるかが、この勝負の分かれ目か。あ、セイバーが瞬殺されない事も条件か?

 

 と、横からご馳走様になりましたとの声。

 

「動きがあってから二十分。トオサカの呼び出したアーチャーは凄まじいですね。名は知りませんが、弓兵でありながら英雄を三人敵に回し、接敵されてなお、これだけの時間マスターを守り抜いているとは……」

「いや、速いから食うの」

 

 見れば一つでなく、渡した弁当四つが四つとも綺麗に無くなっていた。アンタ噛んでないだろ?

 

「何を言うのです、戦場では悠長に食べてる時間など無いですよ?」

「戦場でなくてもそうだろう」

 

 目を逸らすな。

 

「ともかく。

 どうするのです? 順当ならば強力ながら多勢に無勢なアーチャーへ助力し、同盟を組むのが妥当ですが……」

「ん~、それパス。余計なのがついてきそうだし、遠坂ってそもそも御三家の一角だろう? 聖杯の破壊に同意するかは疑問だ。ついでに力量はともかくアーチャー自身が信用できん。目がもう、目的を最優先するタイプだったな。最悪マスターを裏切るかも」

 

 あの眼差し。色々と鬱屈しているのは読み取れるし、それに加えて此方はヤツの憂さ晴らし兼自己消去の鍵を台無しにしている。知識の中でも自分で『八つ当たり』と言っている人間が、その八つ当たりを別の対象にぶつけないとは限らない。特に自分の邪魔をした相手なんぞは随分魅力的に映るだろう。

 

 ほんの少しだけ、苦い思いがした。

 

 そこに至る道筋に同情こそ覚えるが、しかしだからと言って後ろから刺されるのは気分が悪かった。かといって資料にあった魔法使いのように、気に入らないという理由で彼をどうにかしようとも、結局それは数え切れない幾らでもある平行世界の僅かに一つ。

 

 つまるところ俺のような存在に必要なのは、ある種の割り切りや思い切りなのだろう。嫌な思いをしたくなければ最初から関わらないか、嫌な思いをする対象を完全に無くすか。それとも開き直って目の前のしか知らんと思い切るか、嫌と思わないよう自分が変わってしまうか……

 

 

 とにもかくにも、バゼットはこちらが下した判断に頷いた。彼女は直接アーチャーと対峙した事が無い。得てして戦場の判断は目で見て信用できるか否か。例え一人だろうと直接相手を見た者が背中を預けられんと判断したなら、それは優先するだけの理由になる。

 

「古今東西の英雄という人物像は、良くも悪くも我が強いですからね。ですが、あの状況で主を見捨てない英雄がそうそう裏切るでしょうか」

「彼にとっては見捨てるほどでもない状況なんだろうよ」

「複数の英霊を相手にしてですか?」

「だからこそ、英雄だ。近付けば倒せる、数が多ければ倒せる、そんな当たり前の定石を覆せるからこそ英雄なんだ」

 

 

 最後の一欠けを口に放り込んで手を払う。ご馳走様。

 にしても、俺がおにぎり一つ食うよりも早く弁当四つ食うってどうよ?

 

「んーじゃ、俺はそろそろ行くとしますかね」

「俺は? まさか貴方一人で行く気ですか?」

「そ。一直線に街中突破して、アレに呑まれた寺とは別方向の学校側から山に入り聖杯を目指す。そうなれば大半のサーヴァントは俺の迎撃に寄って来るだろう。バゼットはランサー起こしてどうするか決めると良い。彼なら聖杯はいらんってハッキリ分かってるしね。

 街から離れるも良し。

 遠坂嬢たちを助けに行くのも良し。

 好きにするといい。でも個人的には子供を助けに行って欲しいかな」

「私は貴方に借りを返すと言った筈ですが」

 

 それはそうなんだが、と少し困る。

 少なくとも死なないだけの力があるならいいのだが、ここから先はサーヴァントと呪いの濁流を押し退けて進む強行軍。遺伝子改変者と言えどトップクラスのESPの発現がなければ、ついて来るのは愚か生き残る事も難しい。

 

「悪いな。これ、この軟膏つければ石化は解けるから。全身分あるからちゃんと塗りこむ事。あぁ、それとメデューサは俺がやるからこっちに任せて」

「……ふぅ、分かりました。ですが気をつけて」

 

 引いてくれたようだ。彼女にもプライドはあるだろうが、無理して死ぬのは色んな意味で勿体無い。バゼットとて犬死にはご免だろう。

 

「それじゃ、また縁があったら何処かで」

「ええ、そちらも御武運を」

 

 あっさりした別れ。

 お互いにやる事があり、現状で最も優先すべき事柄を見失うほど子供ではない。

 ま、本当に縁があるなら出会うだろう。

 

 

 

 

「それにしても、あれだけの戦力と呪いに飛び込むというのに『縁があったら』ですか。本当に脅威とも思っていないのか、それともどうにか出来るだけの奥の手でもあるのか。―――彼なら前者ですか」

 

 小さな笑いが零れた。

 英霊という人間では勝てない化け物同士の戦争に引き込まれておいて、彼はあまりに普通だった。困っている女子を助け、危険に飛び込んだ子供を叱り、こうして義理もないのに暴走した聖杯を処理しようとしている。

 お人よし、とは違うのだろうが、それでも思考の選択が自然と善性にいっているところが、少しひねた本人の態度に比べて微笑ましかった。

 

「さて。トウリにも望まれた事ですし、さっさとランサーを起こしてあの子供達を助けに行きますか」

 

 聖杯は心配要らないだろう。彼がああ言った以上、事はきっと成る。自分がする事と言えばその後の報告だが……

 

「そこを考えると少し気が重いですね」

 

 吐いたため息は、どこか明るい気持ちが混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 走る走る走る。

 

 夜の街は嫌に人気が無く、それこそ街中纏めて人払いか睡眠の結界で包んだかのような静けさだ。未だ汚染されたサーヴァントからの襲撃は無い。

 

 輝く術式陣を踏み締め、風より速くと疾走する。

 

 僅かながらの開放は、景観をすっ飛ばす勢いをこの身に与える。

 疾走する速度は街を破壊しない程度に抑えてはいるが、ランサーを置き去りに出来る程度には出ている。それでも出る衝撃波やら振動やらは魔術で押さえ込んでいた。これをこの世界の魔術師が見たら目を剥くだろう。あまりに効率が悪い。 

 肉体強化は自前の肉体と永劫破壊があるが、一歩ごとにそれに耐えうる足場の強化に加え、体の動き全てから生じる衝撃波を片端から正確に+-ゼロへ相殺しているのだ。労力も魔力も難易度も天井知らずに跳ね上がっている。

 

 もっとも、それが苦にもならないから行使している訳だが。

 わざわざ世界法則に沿った被害を出さない肉体運用など、もはや意識するまでも無い。

 

 

『前方三キロより動体、高速接近。サーヴァントクラスの魔力反応4と認む』

「おう」

 

 この速度では三キロなどあっという間だ。

 ヌルの報より、ものの数秒で敵前衛と遭遇(エンカウント)

 軽い接触で人体など砕け散る相対速度での戦闘が始まる。

 

 先陣は第四次ランサー、ディルムッド・オディナ。

 数いる英霊の中でも屈指の速度を担う槍騎士。その秀麗な顔に極限の集中と必殺の気迫を漲らせ、しかし最速と呼ぶに相応しい速度を捨ててその場に腰を落とす。

 常とは違い、その手に握り締めるのは一槍。

 唯一僅かなりとも領域に食い込んだ宝具へ自身の存在すら削り魔力を叩き込み、それに応えて赤槍は燃え上がるような魔光を放つ。

 

「形成《イェツラー》」

 

 対して此方のやることなど決まっていた。人だった頃よりの相棒をまどろみより引き起こす、目覚めの呪文を口ずさむ。みしりと軋みを立てて四肢は機械仕掛けの義肢となり、蘇芳の脈動をほの暗く輝かせた。

 僅かに前傾し、更なる加速をもって迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 恐ろしい速さで駆けて来る男を見据える。武器らしき物は見受けられず。山中と変わらず徒手格闘か。些か戦いを楽しむ気が見えるが、暗器を仕込む輩特有の“匂い”はしない。

 

 ディルムッドは槍を、かつて始めに教えられた型に構えた。

 先刻の交戦にて生半な攻撃は通らぬと知り、そして敵の自身を大きく上回る速度に連撃は困難だと悟ったがゆえに。だからこそ黄の宝具を投げ捨て、破魔の槍での一突きに全てを賭けた。

 

 敵は速く、強い。あの疾走の速度のまま、あの固さで突撃されたなら。それは破城槌を上回る攻撃となって、例えサーヴァントであろうがただではすまないだろう。

 ならば。

 だからこそ、真正面から中心を突く。

 敵の速度をも利用し、宝具であろうあの強固極まりない何かを貫く。

 

 夜空の星ほども繰り返した動きだ。

 射抜く先だけを見据え、根を下ろした脚、腰を軸に、全身の動きを揃えて真っ直ぐに突く。

 

 単純だからこそ奥深く、才に溺れず叩き上げたからこそ、その一閃は神技と呼ぶに値した。

 

 

 

 

 

「!!」

「!!」

 

 圧倒的な速度差をものともせず、赤の穂先は恐ろしく正確に、寸分たりとも狙い過たず胸元へと吸い込まれた。全ての衝撃は切っ先に掛かり、幾百万の魂で造り上げられた障壁と刹那の均衡を作り出した。

 莫大な魂を得た霊的装甲に、以前のように食い込みはしていない。

 しかし、確かに拮抗していた。

 抗いようの無いほどの純粋なスペック差を、ある種の境地に達した技量が埋めてしまう。これこそ神ならぬ人が生んだ奇跡だろう。だから……

 

「押し通る」

 

 容赦なく勝つ。躊躇い無く命を刈り取る。

 拮抗した力の集約点は、耐久を大きく超える力によって突き刺さる事無く砕け、折れ飛んだ。刹那の間、加速した意識が赤く輝く破片の向こうに魔と謳われた美貌を掠める。そこに浮かぶ表情はなんだったろうか。

 

 翻る機械腕。

 

 二つに折れた赤槍を更に打ち砕き、鋼の指先は正確に槍兵の霊核を貫いた。

 

 衝撃は展開した魔術に押さえ込まれ、傷に比してささやかに飛んだ鮮血は地へと吸い込まれる。

 

 しかしそこへ滑り込む影。翻ったのは青い陣羽織に長大な銀光。

 第五次アサシン。

 胸板を貫かれた槍兵が砕けた槍を捨てた。消え行く体を押して腕を抱え込み、脚を地に突き立てる。微かに重心が崩れた。稼げた時間は瞬き一つ程度。

 

「見事だ、ランサー」

 

 涼やかな声と共に長刀が翻る。

 聖杯の魔力に支えられる剣閃は、まさに閃光。

 鍛え抜かれた大業物が月光を弾き、奔ったのは九条の斬撃。

 

「秘剣、燕返し」

 

 宗和の心得。佐々木小次郎という剣豪が保有する、技を見切らせない特殊な技法と心得を象徴するスキル。重い刀を振るう日本剣術には、流派の奥義としてこの手の極意が伝わる事がある。サーヴァントでありながら、敵の宝具たる武具を相手にただの刀で打ち合い切り伏せんとする彼には何より相応しい業だろう。

 だがこの一瞬に関係は無い。

 全く同時に三方向から囲むように斬撃を放つこの秘剣、マスターが供給するものとは桁の違う魔力供給の恩恵によって瞬きの間に三度振るわれた。

 

 常人どころかサーヴァントですら微塵とする妙なる剣閃。

 しかしたんなる刀で切れぬのは、技を振るった侍とて百も承知していた。

 

 

 

 先のランサーによる攻撃は試金石も兼ねる。もっとも相性が良いと思われた「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」の渾身の一撃、それで破れぬとあらば自身の秘剣では些か分が悪い。

 

(長丁場ならば勝機もあるやも知れぬが、あの速度ではそれも叶わぬ)

 

 名も知られぬ一介の剣客として、ただ編み出した秘剣を供に冥府へと旅立ち、果てに巡ってきたつわものと死合いの場。

 

 世に名だたる英雄を一顧だにしない最高の敵を得たは望外の幸だが、その脚を止めるだけの腕が無いのがつくづくも惜しかった。

 

(しかし、それもまた良し。これほどの敵と合間見え、名高き英雄と剣を揃えて挑むなど、真に得難い事。ならば私は私の役を果たすとしよう)

 

 銀光が音も無く吸い込まれ、血に濡れる事無く澄んだ音を残して砕け散った。

 体には傷一つ無く、だが無駄ではなかった。

 弾かれた刀は微かな体勢の崩れをより大きく、サーヴァントにとっては決定的なものまで崩す。ただの刀で宝具と打ち合う神業あれば、この程度やってやれぬことではない。

 

 しかし敵もさる者。ほんの微かに残った手の指先で地面を弾き、超人的な筋力とバランス感覚でもって即座に体勢を立て直そうとしてきた。少々速すぎる。些か時が足りない、となれば……

 

 ランサーに続くように駆け、僅かに残った刀身を突きこんだ。

 刃は弾け、次の瞬間には自身の霊核も綺麗に吹き飛ばされていた。

 

 歯を食いしばり、耐える。

 

 霊核を中心に魔力の塊で体を構築したものがサーヴァント。魔力供給が途絶えただけならば、まだやりようもあろう。それは補給が完全に途絶えたというだけで、動くだけでも減るとは言え、保有した魔力が尽きるまで行動は可能だ。

 だが霊核を損なえば、そうはいかない。

 霊核は座より招かれた英霊の魂片であり、この魔力体の楔。ここをやられれば体そのものが泡沫の夢の如く霧散してしまう。現にランサーも、その体を半滅させている。それに抗おうというのだ。我ながら無謀な事だと苦笑も浮かぼう。

 

(さて、このような華麗さの欠片も無い泥臭い戦い方は、私の主義ではないのだがな)

 

 

 

 


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