無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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●これにて、最後は駆け足ながらFate本編が一段落です。以降、一話か二話くらい小話を挟んで次の世界へ行こうかと考えています。

 候補としては『マヴラブ・オルタ系』か『されど罪人は竜と踊る』あたりでしょうか。ガンダムUCとか好きなんですが、あれは小説版で最後まで書くと映画だけの方にネタバレしそうで……。ま、そこ等辺は頭に書いておけばいいんでしょうけれども。

 先だってちょこっと書きましたが、一章をちょっち短めに纏めて描いてみようかな、と。

●それにしても、書いてるにも関わらず本編がなかなか進まないのは何故だろう? 分からないふりしようとも、答えなんぞとうに出ている。
『ネタ帳』だ。
あの悪魔のアイテムが俺の思いついた場面や設定を片端から書かせるんだ。ネタ帳なのに、本編より多く書いてあるんじゃないだろうか。きっとそうだ。
――――だって、もうどこら辺にどの場面書いたかも分からないくらい山になってるし。

※いや、実はネタノート(黒歴史ノートとも)が他にも五冊くらいあるんだ。部屋やらのあっちこっちに置いてあって、寝てようが何してようが、思い浮かんだら即書けるようにしてあるのさ。……誰がまとめんだよ、コレ?




第参章 30 終劇 (Fate編)

 

 

 膨れ上がる闘気を尻目に洞窟を進む。

 光源の無い、真っ暗闇をぶつかりも迷いもなく進み、やがて目的地が見えてきた。

 

 そこはひとつの異界だった。

 さして大きくもない山の洞窟に似つかわしくない、巨大な大空洞。広大な面積一杯に魔術陣が築かれ、竜穴に似た地脈の集点より汲み取った魔力で煌々と輝き、その上を焔のように煮詰められた呪いが踊り狂う。

 そして、それら全てを見下ろすように起立する、霊的な巨杯。

 

 世界とは様々な要素が一定の範囲で組み合わさる事で成り立っている。

 ところが、ここの場合"呪い”という一構成要素が突出してしまった時、そこは同じ世界の括りの中にありながら、既に別の世界と言っていい代物になってしまう。

 

「はっ。こりゃあの子供どもに限らず、生き物にとって有害だぁな」

『肉体的にはともかく、精神や魂の面で重度の汚染に晒されるでしょう』

「それにしても、よくまぁ“純粋な力”なんか出そうとしたもんだ。きっと、いや、間違いなく阿呆だったんだな。極彩色のパレットに水たらしゃ染まっちまうのは子供でも判るだろうに」

 

 嘲りを吐き捨てつつ、歩を進める。

 

 無頼な歩みに陣は輝きを増し、黒色の炎は餌に群がる肉食魚の如く、一斉に跳びつく。だが障害になど成り得ない。

 一言、一動作すら掛けさせることなく、まるで虚ろな幻影であったかのように空中で溶けて消えてゆく。踏み躙る足元からとある二つの血族の、千年にわたる悲願が薄氷より脆く砕けてゆく。

 

 踏みにじる手間すらもったいないと性悪に歪めた顔が、「おや」と、ふと立ち止まった。

 

 何やら何処ぞで覚えのある感じに加え、俺自身の匂い。

 ここに来たのは初めてなのだが? と首をひねり考えた。

 

『おそらく間藤桜嬢の魂魄移殖の際、旧躯体の焼却と共に貴方が御魂送りをした老人ではないかと』

「あぁ……あの。行き先はここだったか」

 

 なんて事ない、少し予想外の、いや、予想は出来たか。元々あの爺さんが聖杯システム造ったひとりらしい事を考えれば。残念なのはどうでも良すぎて印象に薄かった事か。

 

 

 

「はてさて。げに恐ろしきは人の妄念、とな」

 

 折角の小さな心遣いがこうなって返ってくるとは、皮肉を言う口元もひん曲がろうというものだ。

 それなりの時間をアクティブに生きてれば、こういったことはそれなりにある事だ。それこそ運命は皮肉というのかもしれないが、まぁ、運命よりも俺が皮肉屋になりそうではある。

 

『ならないでください』

「どうだろうな? それこそ気分転換で(・・・・・)なってみるかもしれん」

『――――』

 

 ひねた答えに、心地良く冷えた声は口をつぐんでしまった。

 拗ねたかな、と。そう思う。

 ここに来てからずいぶんと人間味が出てきたな、とも。

 やはり何がしかの切っ掛けを期にしたのだろう。そういえば直接ヌルが俺以外と対話したのは今回が初ではなかろうか?

 

(いい事だ、とも一概に言えんあたり、なんともはや)

 

 ヤクザな事も平然とする今の生活。遠い昔の、記憶の底にある一般的な市民生活とは程遠い。教育に悪い、などと柄にもない考えがチラリとよぎった。

 

 

 

 

「何にしろ、これ邪魔だな」

 

 顔を上げれば、目の前には件のまっくろけな聖杯。

 悩みながらも歩いていたらしい。

 眼前のそれは、やたらめったら禍々しい感じの何かを辺り構わず放射している。うむ、健康に悪そうなブツである。考える時間は幾らでもあるが、これは時間のあるなしに限らず壊したい。つまりはまぁ、あれだ。短絡的に消してしまおう。

 

 

 腕を振り上げ、振り下ろす。

 子供が気に入らない物を叩くように振り下ろす。

 永劫破壊は最低活動域で駆動し、ほぼたんなる義手義足となっている。

 必要ない。

 あれはむしろ(かせ)

 世界に内包されざる存在である俺は、いかなる既存・未開概念にも当てはまらない。それを誤魔化すための、わかりやすいほど強力で異質な外殻で、外装。

 

 特別鋭くもなく、特別力強くもない。

 振っただけの腕。

 それで聖杯は微塵の欠片も残さず、匂いや空気すらも残さず、綺麗さっぱりと無くなってしまった。特筆する部分すらない、魔術師が見ていたら絶句するような、いっそ清々しいまでの理不尽な終焉だった。

 

 

 

 

 

 

「あ~、くそ。何だかんだで長かった」

 

 適当に大空洞を埋めるようヌルに頼んだ後、少しは楽しめたらしい塊と合流し、ひとしきり話し込んだ挙句に突如殴り掛かってきたあいつを殴り倒して取り込み、ようやっと山腹へ出てきたところだ。

 なぜにアヤツはあぁも戦狂いの気があるのだろうか、などと埒も無い事を街を見下ろしながらひとしきり悩む。

 

『どうやら、他のサーヴァントも還るようですね』

「ん、らしいな」

 

 凍えた声に頷く。

 俺には鮮やかに色付いて見える魔力が、幾筋も空へ立ち昇っていた。「まるで火葬だな」と、小さなつぶやきが風に流れる。

 

 ひとつ、ふたつ、みっつ……

 

 各々の性質に染まった色は、やがて途切れゆく。

 『赤』に『青』、『鉛』に、最後にか細い『黄金』が。

 

 結局あの少年たちは、この戦争では翻弄されるだけの存在だった。大した理由もなく参加し、要の力もなく、後先考えない意思だけが空回り。自身の武器であり防具であり、生命線でもあるサーヴァントと心を通わせる事もままならない。

 状況に翻弄され知らぬ間に全てが終わったあと、彼らはどうするのだろう。

 ――ひとつ、少しいらぬお節介でもしてみようか。

 

 少年たちがどれほど驚くか。さぞ愉快だろう顔を思い浮かべて小さく笑った。

 

 

 

 

 

「さてと。この世界に来る羽目になった元凶は処理したし、あとは適当に見てまわりますかね」

 

 どことも決めずに、ぶらりと歩き出す。

 目的など後で決めればいい。

 ヌルもいればメデューサもいる。ああいや、メデューサは後でちゃんと形成しないとか。でないと姉をどうにかする約束が果たせない。ついでに、戦闘時にサーヴァントの枷を外して『座』の本体の能力を取り戻した方法も聞きたいな。

 

「ん~~~~~~っ、ぬぅ。くぁ……、まずは寝るところかねぇ」

 

 背伸びしたら欠伸も出た。うむ、文字通り締まらんが、これにて聖杯戦争は締め。ここからは余禄程度のだらだら生活で生き抜きですな。いやはや、心が躍る。

 

 

 

 


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