無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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第零章 下編・2

 

 

 

 

 拡散してゆく。

 内面と外界の境は消え去り同質の物となる。

 意識はどこまでも広がり続け、やがて全ての果てへと至る。

 

 一は全也

 全は一也

 

 だが、そこには『俺』という自己がある。

 これこそがあの『楽園』へと至った俺の嫌悪する神の視点なのだろうか?

 世界に重なり、世界と等しく、しかしそれだけでしかない。

 

 世界とはただあるのみ。

 そこに『俺』という精神は不要であり、その存在分だけ重石でしかない。

 世界からこの身一つ分だけはみ出た存在。

 

 ぴしり、と

 

 完全なる循環に亀裂が走る。

 それは俺のせいでもあり、両腕を失った事で”完全無欠”から落ちた神が原因でもあるのだろう。

 格の落ちた神がどのような選択を採るのかは今の俺にも分からない。

 

 ただ、俺はこの世界を出よう

 少なくともそれでシステムにこれ以上の負担は掛からないだろう。

 

 世界は完成されている。

 足しても引いても、その総量が変われば崩壊を招くだろう。

 

 唯一の例外が”生命”と”知恵”の樹だ。

 あの『神』だったなら、いの一番に切り倒しそうな樹がなぜ残っていたのか。

 ここに至ってようやく分かった。

 アレはこの世界が存在するための土台から生まれた物。

 世界を支える巨木の芽が、世界の殻を破り現れた。

 そして神は己と世界にその実を栄養として取り込んでいた。

 

 その実を取り込んだ俺は、この世界を出るために、それ以外をここに置いていく。

 生まれ、育ち、アイツと共に歩いたこの世界に。

 

 

 さあ、もう行こう。

 世界から溢れてしまった『俺』が、存在する事の出来る世界を見つけに。

 

 

 

 

 


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