無と無限の落とし子(にじファンより移転)   作:羽屯 十一

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おおう、タイトルが読みにくい。「と」がみっつ。

う~ん、やはり分量を抑えながら話を進めるってのは難しい。いや、修飾とか作者がイメージを伝えようとして無意識に入れてしまう部分を削れば、客観的に書けばいいですよね。
でもそれが難しい……。

さて、今話は『フェイトさんの厄日』です。
いやいや、アンチとか言ってキャラクターをどうこうするのもいいんですが、それより何より作品として楽しい雰囲気ってのも重要だよなー、って思いまして……、ようは日和ました!
だって彼女って精神まで"シンプル・イズ・ベスト"で出来たような人でして。真っ直ぐ過ぎて自虐・自罰的になっている辺り、仄かに歪んでいるように思えてきて可愛く思えて仕方ないです。変質者と呼ぶなら呼びたまえ!!


―――あ、次話で今回のリリカルは終わりです。次回のリリカルはまた今度に。




第肆章 04 ふぇいとととらうまは仲良し (とてもリリカルと言えない編)

 

 

 金髪女には本当に驚かされる。

 俺の首を薙いだ魔力製のブレード、あんな物をこの歳で扱えるとは。

 実は魔力を物質のように固体化させるのは、人間レベルの制御力ではかなり難しいものがある。なにせ元々が実体があやふやで純粋なエネルギーの塊のようなものだ、人間にお前電気で剣作れと言っているのと似たようなものである。想像するだに無茶なのが良く分るだろう。

 ところが魔力は制御力とイメージさえあればその無茶が意外に利く。

 もっとも難度は相応に高い。魔術で同じ事をしようとしたら最低でも第六階位、大達人(Adeptus Major)はないと無理だ。

 ああ、ちなみに魔術の位階とは近代式の魔術師力量分け方で、1~4は外陣と呼ばれる理論を学ぶ段階、5~7が内陣という所謂(いわゆる)実践段階だ。

 そして最後の第三陣と呼ばれる8~10階位が、到達者とされる肉体より精神(アストラル)に重きを置くに至った存在。

 そして、普通では努力しても内陣まで到達できない。なんといっても四位階で哲学者といった学者レベルなのだ。

 

 ここから考えれば最低で六位階というのが如何に破格な魔術かが分るだろう。

 もちろんあれは魔術と違う理論を使用しているし、彼女の場合は更に術式構築・維持の大部分を握った魔杖に代理させているようだから、実質的な負担は使用される魔力の供給と大まかな制御のみだろう。難度は格段に下がっていると見なすべきだ。

 

 ――あった。

 

 知識の検索でヒット。

 どうやら魔杖はデバイスと呼ばれる魔法用の外部演算機関のようだ。確かにこの性能なら彼女のまっとうな匂い(・・・・・・・)にも納得できる。

 魔術師はなんというか、大抵腐敗の終わった後の半ミイラ化した死体の匂いとでも言えばいいのか、あの長年放置された廃屋の中の古い埃と板一枚隔てた腐敗の空気がするものだ。

 金髪女は一瞥してそれらが縁遠いと見て取れる。

 魔術師の観点から見ればいかにもアンバランスな存在だが、使っている技術を分析すれば至極真っ当な、正道といっていい発展の仕方をしたもの。

 なるほど、これが魔道技術を中心に近代地球より発展した文明という訳か。

 

 

「……なんて考えてるのは現実逃避か」

 実は今、盛大に落ち葉にまみれて転がっている。

 いやね? どうにか落ち着いたかと気を緩めた瞬間に首を薙がれた訳よ。当然切れんのだが、そうなると切れない代わりにガッツリ刃が首に引っかかる訳で……、一言で言えば吹き飛びました。

 なさけなし。

 ダメージはエイヴィヒカイトの装甲で止まっているが、引っ張られるのまではフォローが無かった。せめて着地くらい対処できてれば面目も立ったのに。

 まだそんなものを気にしてしまう辺り、やはり俺は変わっていないのかと思う。

 やれやれと身を起こした。

 どうやら金髪女は一目散に逃げたようだ。無様に転がっていたのは十秒無かったと思うのだがすでに影も形も無い。

 キューブ?

 首引っ掛けられた時に落としましたとも。いいさ、元々持って行かせるつもりで渡したんだし。

「……我が事ながら、負け惜しみチックだなぁ」

 自身の残念感が半端ない。

 しかしまぁ過ぎた事。

 つい八つ当たりしてしまった事は素直に悪かった思えるし、ここは一つキューブの悪戯に加えて謝罪代わりに"洗濯"でもしてやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な! あの件が民間にリークされているだと!?」

 その日、次元世界の一つであるミッドチルダ、その首都(※1)クラナガンに建設された時空管理局本局の施設内で、激しい怒鳴り声が鳴り響いた。

 雰囲気からして高級そうなデスク一式が真ん中にあるだけの部屋。

 そこで椅子を蹴立てたのは壮年も過ぎかけた一人の男だ。

「いや待て。全ての資料の処理は命じたはずだし、確かに処理したとも聞いている。どういう事か説明しろ」

「いえ……その、全部が、あるはずの無いデータが管理世界全土で広まっているようなのです」

「あるはずが無いデータだと? まさか処理されてなかったとでも言うのか!?」

「違います! 一佐が指示を出された場面も何もかもが映像としてです!」

 その答えにこの部屋の主は愕然とした。

「馬鹿な……、そんな物ある筈が……」

「信じ難い事ですが……被検体のデータも、それらを確保するまでの全てもです。私に直接連絡を寄越したジャーナリストには口止めはしましたが、もうどうにもならないでしょう」

 どうにもならない。

 停止した思考がその言葉に収束される。

 身体から活力が抜けていくようだった。

「何故だ、誰がやった。――何故、私だけ、切り捨てられたのか?」

「いえ一佐、我々だけではありません。局全てで同じような事が起こっています」

「…………、まさか、いや、馬鹿な」

 逃れようの無い自身の失脚が意識の片隅へと追いやられる。

 局では表沙汰に出来ない事など幾らでもある。

 何せ曲がりなりにも巨大な軍事力を保有する組織、個人単位でみれば犯罪組織と裏の繋がりがあるなんて自覚有る無し別にザラな話だろうし、軍需産業ともほぼ唯一の取引相手としてべったりと癒着している。金と権力の匂いは己を始めとした魑魅魍魎を招き寄せ、そこへ裁判権と治安維持という権限が融合しているのだ。その内実はもはや国家の縮図と言っても過言無い。

 当然ながら、国家と同じように「国(組織)の利」という物を優先する場合が多々ある。

 そういった対処の犠牲となるのは少数の人間だ。

 しかし国家と違い、時空管理局はあくまで『次元世界を守る正義の組織』

 数の大小ではない。

 国家ですら闇に沈め小奇麗な皮を被るのだ。世界の守り手が自分の利の為に守る相手を犠牲にするなど、とても公言できるはずがない。

 結果として局内では"資料として残さない"対応が横行している。

 もし、仮にそれらが処理された物も含め『全て』公開されたりなどしたら……。

「管理世界全てを巻き込んだ戦争になりかねんぞ……!!」

 いや、もう引き金は引かれたのかも知れない。

 

 部下との連絡を切り、戦慄に強張る身体で椅子に座り込んだ。

 端末を起動してみればニュースにこそなっていないものの、匿名のネットワーク上では目も当てられない騒動となっている。

 いっそう血の気が引いた頭でこれから先を考えた。

 現時点ではネットワークにアクセスする者の噂だが、程なく間違いなくどこかのニュースがスッパ抜くだろう。そうなれば資料の確度にもよるが、間違いなく管理世界のほぼ全ての住人に知れ渡る事になる。

 事がここまで大きくなれば自分だけが責任を追及されるような事態になるまいが、それ以前にこの管理局自体が管理世界全体から非難と嘲笑と蔑視と、事によれば憎しみの対象とされてしまう。誰しもが心の内で燻ぶらせる不満の前に、絶好のぶつけ先を差し出しす事となる。

「そうなってしまえば――」

 いつもは優越感をもたらしてくれる高い地位を示す制服、しかし今は厄介事を引き寄せる疫病神にしか見えなかった。その疫病神に包まれた身体で途方にくれる。

 どれだけ考えても幸福な未来のビジョンなど、彼にはもう想像できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事、一日。

 

 本局では管理局のエース、フェイト・T・ハラオウンによって届けられた物体が、ラボで詳しく分析にかけられていた。

 

 ラボの入り口を出た通路に置かれた長椅子で、フェイトは分析が終わるのを一人待っていた。

 先に医務室で顔見知りの医師に一応検診をしてもらい、それが終わった後は帰宅が許されていたのだが、咄嗟に持ち帰ったあのキューブが気になりこうして来てしまったのだ。

 

(あのキューブはなんだったんだろう。だって、あんな)

 覗いて、そして見てしまった黒い四角の中を思い出せば、今すぐにも吐き気が込み上げてくる。

(絶対に普通じゃないよ……)

 見たのは自分だけ。

 相棒のバルディッシュにも分らず、他の人間も一人残らず覗く事が出来なかった。

 フェイト自身ももう覗こうとはとても思えなかったし、幸い本局での分析が優先されて覗くよう要請される事もなかった。

 だから脳裏に焼きついたいっそ非現実的と言っていい光景が実際にあったのか、それさえも今のフェイトにはあやふやだった。

 

 やがて手持ち無沙汰のまま二時間ほども待っただろうか、夕刻も過ぎようとする頃になってラボの扉が開いた。

 

「ああフェイトさん、わざわざ待たれていたのですか。一言言ってくださればこちらから連絡を入れさせて貰いますものを」

「いえ、私が気になっただけですし……」

「そうですか?」

「はい。それで、あのキューブは?」

「あぁフェイトさんが持ってきた物でしたね、それは気になるか。そうなんですよ、凄いんですよ! アンノウンが造っただろうって資料で見ましたけど、実際にどうやって造ったとか見なかったんですか!?」

「ひっ……!? ――ぅ、あ、あの」

 鼻息も荒く詰め寄ってくる職員にフェイトもたじたじとなる。

 戦闘以外では気の弱いフェイトは、若干怯えながらも何とか男性研究者を押し戻す。

「――ぁ、おっと、すみません、興奮してしまいました。いや研究畑の悪い癖です。

 それで、何をお知りになりたいんです?」

「えっと、アレ(・・)は何だったんですか?」

「解りません」

「えっ」

 あまりにきっぱりと返された答えに言葉を失う。

「魔力の有無から構成物質、果ては表面の付着物まで徹底的に調べつくしましたが、……いえ、正確には調べる事さえ出来ませんでした」

「それってどういう……」

 大魔道師にして著名な研究者でもあった母を持つフェイトだが、彼女自身は研究畑とは無縁の生活だ。もっとストレートに言ってくれないと分らない。

「魔力は検出されませんでしたが、その他のあらゆる分析機器が通じないんですよ。どうやっても、どれを使っても「No Data」ばかり帰ってきます。こうなってくると最初の魔力が無いってのすら怪しくなってきて参りますよ」

「そんな、そんな事ってあるんですか?」

「確かに、この目で見なきゃ私も信じませんね。何てったってサンプルを削る事も出来ないんですよ? どうやってもです。最終的には武装隊からエースを引っ張って来ましたけど、それも無駄でした」

「凄く硬いんですね」

「違います。それも解らないんですよ。驚いた事に超高圧でも一切の変形が起こってないんで、コレどうなってんだと精一杯拡大してみたんです。そうしたら……」

「そうしたら……?」

 

 真剣な表情で話を引っ張る研究員にフェイトもつばを飲む。

 研究員はオーバーに両手を広げて続けた。

 

「なんと黒一色! 物体としてある筈の分子原子すら無かったんです!」

「? ―――?」

 フェイトはそれがどういう意味を指すのか明確に理解できなくて首を捻っている。

 ところが自分の台詞で盛り上がってしまった研究員はお構い無しだった。

「つまりアレは幾ら調べても実体がまったく証明できず、唯一確かなのは我々が見て触れるという一点のみ! まるで影だ! 見て触れる『非存在』! これがどれだけの発見か!!」

「うん、と、よく分らないですけど、ロストロギアみたいな物ですか?」

「全然違う!」

 声はすでに怒っているといっていい。

 ヒートアップした彼からは、既に上位階級への敬語というものは消えうせた。

「いいか、ロストロギアは"古代文明で造られた、現代より遥かに高度な魔法文明の遺産"の事だ。今の技術からすればまるで魔法の品のように見える物もあるが、あれらは現在の魔法技術の延長線上にあるれっきとした技術の産物なのだよ。

 しかしこれは違う!

 魔法技術どころか科学技術の類ですらない、それらとはまったく別次元の、まるで世界の法則を無視でもしたような存在なのだ!!!!」

 

 研究員の目は興奮と狂熱に真っ赤に血走り、最後はもう世界の真理を見つけてしまったような絶叫だった。

 

 フェイトなど、もはや怯えて通路の隅でぷるぷると震えている。

 どうやら在らぬ方向を彷徨いだした彼の目がかなり怖かったようである。

 結局この日フェイトが得たものは、到底理解できない謎の単語の羅列と、間近で見続けるざるを得なかった半狂人による大きな心の傷だけであった。

 

 

 

 




(※1)ミッドチルダの首都
 リリカル世界(上位)は多くの次元世界(下位)を内包した多世界内包型と設定しています。
 しかし多くの次元世界(下位)を内包した事で、単世界タイプに比べ一つ一つの次元世界が非常に小さな規模に纏まっています。具体的には「一つの次元世界=一つの惑星」といった感じで。宇宙空間などには出れますが、世界の仕組み的にそこから先へは行こうと思えないようになっている、とか。
 なので普通なら「???次元世界のミッドチルダという国、もしくは惑星の首都」となる所が、「ミッドチルダ次元世界の首都」といった具合になります。


○本日の裏話

 実は当初の予定ではフェイトさんがサクッと重体になったりする予定だったんですが、そんなアッサリ気味にやられるんだったら別にモブでも十分でね? と気づきまして。
 ようは原作ファンの方々が不快な思いをする可能性と、話の展開で必要、もしくは作者が書きたい場面かという部分を量りに掛けた訳です。
 結果は本編のように書かないと言う事に落ち着きました。

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