材木座の依頼は、自分の書いた小説を読んでもらい、その感想を聞きたい。というものだった。
「なぁ材木座。感想聞きたいなら、ネットのサイトとかにでも投稿した方がいいんじゃないのか?」
「雨矢上の言う通り、ネットの方がいいだろ」
「転入生殿が言う事は正しいのだが、ネットに投稿して感想でボロクソ言われたら我、自殺するかもしれん」
「中2メンタルよわっ」
「豆腐メンタルかよ」
「ぐぅ……とにかくっ! 八幡達にはこの小説を読んでもらい、そして読んだ感想を聞かせてもらいたい!」
「分かったわ。材木座君の依頼を受けましょう」
「えぇ…マジ?」
部活終了後、材木座の小説をコピーして各自家に持ち帰り、小説を読む事になった。
由比ヶ浜はマジで面倒くさいって顔をしていた。雪ノ下は少し読んで苦い顔をしていたが、ちゃんと読んでくるだろうな。
由比ヶ浜あたりは読んで来ないだろうな…。雨矢上も多分読んで来ないだろう。 俺はちゃんと読んで来るぞ? いやマジで。
「おう、比企谷」
駐輪場に行くと雨矢上がマッ缶を器用に二つ手に持って立っていた。
「一緒には帰らねぇぞ」
「別に一緒に帰ろうなんて言ってねぇだろ…。ほら」
「うおっ…。いきなり投げんなよ」
「一本やるよ。昼休みは買えなかったからな」
「いや、別に——」
俺は断ろうとしたのだが、雨矢上は「じゃあな」とこちらの言葉を待たずに行ってしまった。
「俺もさっさと帰ろう…」
自転車に跨り家路につく。
家に帰ると何時も通りに小町が迎えてくれる。そんな時にふと思い出す。
……確か雨矢上は一人暮らしだったな。あいつには、こうやって自分を迎えてくれる人間がいないんだな……。
「なぁ小町」
「何?お兄ちゃん」
「今度、雨矢上を家に連れて来てもいいか?」
「え?本当に!?」
「何だ、ダメか?」
「いやいや大歓迎だよ! 何なら今からでも連れて来てもいいよ!」
「ん、小町がいいならいいか」
「あ、でも連れてくる時にには小町に必ず連絡してね」
「おう、分かった」
「楽しみだなー。十年ぶりくらいだよね?」
「そうだな。まぁでも、あまり期待しない方がいいぞ」
「え?何で?」
「目が若干腐ってるからだ」
「マジ?」
「マジ」
「まぁ…腐った目ならお兄ちゃんので耐性ついてるから平気だよ」
× × ×
—翌日 学校の駐輪場—
「ふわぁ」
「おはようヒッキー!」
「ぐえっ」
こいつ…。後から鞄で…。
「あれ? ヒッキー元気なくない? どしたー?」
「いやいやいや、あんなの読んだらそりゃ元気無くなるだろ」
「っつーかむしろなんであれ読んで元気なのか知りたいわ」
「え? あっ、だよねー。あたしもマジ眠いから」
「お前絶対読んでないだろ」
由比ヶ浜と二人で話していると、不意に声を掛けられる。俺が後ろを向くと、朝から仮面モード全開の雨矢上が立っていた。
「おはよう」
「お、おはよう」
「おはよー!」
「雨矢上。お前は材木座の小説読んで来たのか?」
「ん、あぁ読んで来たぞ。おかげて寝不足だ」
「寝不足には見えねぇけどな…」
「お前“は"って事は読んでない奴がいるのか?」
俺の横でばつの悪そうな顔をしている由比ヶ浜に向けて目を動かす。 雨矢上はそれを察したのか、由比ヶ浜に腐った目を向けて黙る。
「うぅ…」
「……」
「はぁ…」
× × ×
—放課後—
あれを読むのはきつかったな…。色々な意味で。なんて言うか…心が痛かった。何でだろうな。主の影響か……。
廊下の窓から見える外の景色を見ていたら、直ぐに奉仕部に着いてしまった。ちなみに俺は一人だ、比企谷は教室で寝ていて、由比ヶ浜は比企谷の寝顔をちらちら見ては、頬を赤らめていた。 まったく……幸せでなによりだ。
「お疲れ………っ!」
奉仕部の扉を開けると、雪ノ下がパイプ椅子の上で斜陽の淡い光の中で、気持ち良さそうに寝ていた。
流石の雪ノ下でも、あれを読んだら疲れてしまうか…。
……それにしても絵になるなあ。雪ノ下ほどの美少女ならパイプ椅子に座るだけでも絵になるんだな…。
悔しいけど見惚れてしまう。
「んぅ…」
「…よう」
「驚いた、あなたの顔を見ると一発で眠気が飛ぶわね」
うわぁ…。寝起きでここまで言えんのかよ…。
………比企谷が言われなくて良かった。あいつの事だ、永眠させてやりたいとか、心の中で思うだろうな…。
「あら、何も言い返さないのね」
「比企谷が言われなくてよかったって思ってただけだ」
「それはどうしてかしら?」
「……思いの外傷付いたからだ」
「え……」
「比企谷には言ってやるなよ」
「…っ」
「………」
多分だが、雪ノ下は自分の吐いた言葉に対して『傷付いた』と言われた事が無かったのだろう。さっきから俯いて黙ったままだ。
部室に気まずい雰囲気が漂う。
俺は自分の席である比企谷と由比ヶ浜の席の間に置いてあるパイプ椅子に座り、鞄から材木座の小説を取り出して読み始める。
…別にこの小説が面白いから読んでいるわけではない。小説を読んでるだけで、気まずい雰囲気から目を逸らす事ができるから読んでるだけだ。
読み始めてから二分ぐらいの所で、部室の外の廊下の奥から二つの足音が近付いて来るのが聞こえた。その足音は、部室の扉の前で止まり、それと同時に扉が開かれる。
「やっはろー!」
「すまん。ちょっと遅れた」
「ほんの数分程度、気にしねーよ」
「こんにちは。由比ヶ浜さん…と、比企谷君」
「あれ? ゆきのん元気無くない? …ウッシー。ゆきのんに何かしたの?」
「なんで俺が何かした事になるんだよ…」
「大丈夫よ由比ヶ浜さん。彼は何もしてないわ」
「そお?」
「おい、由比ヶ浜。お前は今からでも材木座の小説を少しでも読め。材木座が来たときに、感想の一言でも言えるようにしておけ」
「だって面白くなさそうなんだもん…ゆきのんは?」
「この手のもの全然読んだことないし……あまり好きになれそうにないわ」
「読む気無くなった…」
「読め」
由比ヶ浜はブツブツ言いながらも、一応は読み始める。由比ヶ浜は活字読むのが嫌いなんだな…。まぁアホの子なのに活字大好きってのはおかしいもんな。
「頼もう!」
「よう材木座。お前はそこのパイプ椅子に座ってくれ」
「承知」
俺達は材木座の周りに椅子を持って来て座る。
「さて。では感想を聞かせてもらうとするか」
× × ×
「ぴゃあ!!」
材木座が奇声をあげながら床に倒れる。あの後雪ノ下の厳しい言葉の嵐は凄かった。
「…その辺でいいんじゃないか。あまりいっぺんに言ってもあれだし…」
「まだ言い足りないけど…まぁいいわ」
まだ言えるのかよ…。見てるこっちが辛くなってくるわ。やめて! 材木座のライフはもうゼロよっ!
「じゃあ次は由比ヶ浜さんかしら」
「え、えーーと…」
「あ! む、難しい言葉いっぱい知ってるね!」
「ひでぶっ」
無意識なんだろうけど、由比ヶ浜…それは他に褒める所が無いって意味だ…。
「じゃ、じゃあ次はヒッキーどうぞっ」
お、比企谷か。さてあいつは何て言うのだろうか…。
比企谷は無言で席を立ち材木座の元へ行き。倒れている材木座の肩に手を置いて——
「で、あれってなんのパクリ?」
材木座はショックのあまり言葉が出ないと言った様子で、涙を流しながら転げ回って、壁に勢いよくぶつかり、仰向けになって停止する。
「あなた容赦ないわね…」
「…ちょっと…フォローした方がいいんじゃない」
「フォローは雨矢上に任せた」
「え、俺?」
「ウッシー早くフォローしてあげて」
「お、おう。」
「材木座、大事なのはイラストだから中身はあまり気にするなよ!」
「カハッ…」
「うわぁ」
「うわー」
「はぁ……」
言い過ぎたか? いや、言い過ぎだな…俺達。
「——また、読んでくれるか」
材木座が立ち上がり言った。
「…え?」
「また読んでくれるか」
「お前…」
「どMなの?」
「あんだけ言われてまだやるのかよ」
「無論だ」
「確かに酷評された。だが、それでも嬉しかったのだ」
「自分が好きで書いたものを、確かに読んでもらえて感想を言ってもらえるというのはいいものだな」
「この想いになんと名前をつければいいのか判然とせぬのだが…」
「読んでもらえるとやっぱり嬉しいよ」
そう言って材木座は笑った。それは剣豪将軍の笑顔ではなく、材木座義輝の笑顔。
そうか、こいつがかかっているのは中二病だけじゃないんだな…。 俺の中での材木座の印象が大きく変わった。
「ああ読むよ」
比企谷が言った。
「また新作ができたら持ってくる」
材木座はそう言って奉仕部をあとにする。
…多分、あいつはジ○ジョで言う作者の分身。岸○露伴みたいな立ち位置なのだろう。二次創作で言うオリキャラみたいなもの。作者の人格の一部が反映された者で…主人公では無いが、必ず何かの想い入れがあるキャラだ。………作者ってなんだ? …これ以上は触れない方がいい気がする。
× × ×
「雨矢上。ちょっといいか」
部活が終わり、何時もの様に荷物を持って部室を出ようとした時、比企谷に声を掛けられた。
「なんだ?」
「帰り俺の家に寄っていかないか?」
「えー!?」
「うるさいぞ由比ヶ浜」
「ひ、ヒッキーどうしてウッシーを家に?」
「いやな。俺と雨矢上は、昔から家族どうしで仲が良くてな、こいつがこの街に帰って来たのを妹に言ったら連れてこいって言われてな」
「小町さんか…」
「よ、よかった…」
「? 何がよかったんだ?」
「何でも無いし! ヒッキーキモイ!」
「何でだよ…キモイ関係ないし…」
「それで、どうすんだ雨矢上。用事とかあるなら無理しなくていいぞ」
「用事は特に無いが…。そうだな、挨拶も兼ねて行くことにするよ」
「おう」
「でもいいのか? いきなりおじゃましても」
「大丈夫だ。小町には連絡してあるから」
「そうか、なら大丈夫か」
「ウッシーいいなー…」
「私達も帰りましょう。由比ヶ浜さん」
「うん!」
× × ×
—比企谷宅—
「着いたぞ」
「おぉ…懐かしい」
「さ、入れよ」
比企谷が扉を開けて家に入るよう促す。
「お、おじゃしまーす」
「そんな緊張するこたないだろ、素のお前でいいんだぞ」
「たでーまー。小町ぃー雨矢上連れてきたぞ」
比企谷がリビングの方に声をかけると、暫くしてリビングの扉が開き、比企谷と同じアホ毛の生えた中学生ぐらいの女の子が、緊張した様子で出てきた。
「お兄ちゃんお帰り。それと、お帰りなさい。雨矢上さん」
「何で他人行儀なんだよ…」
「だ、だって…」
「久しぶり小町ちゃん、大きくなったな。俺の事は昔の様に呼んでいいからな」
「っ〜!久しぶりっ!善兄さん!」
「うおっ!」
飛びついて来たよ…。昔と変わらないなこの子は…。
「こらこら。雨矢上が困っているだろ、離れなさい」
「あっ、そうだ善兄さん、よかったら家で晩ご飯食べて行きません?」
「いいのか?」
「小町が言ってるんだ、俺に拒否権はねえよ。それに俺も全然構わないから食ってけよ」
「そうか、じゃあありがたくいただくよ」
「おう」
× × ×
今の比企谷家では晩ご飯は小町ちゃんが作ってるみたいだ。
目の前にある料理を見て思う。
「昔は比企谷が作っていたが、今は小町ちゃんが作っているんだな」
「そーなのです! 小町は勉強を頑張っている兄に変わりこの家の家事をしているのです!」
「…恩着せがましいぞ」
「小町ちゃんは中学生なのにしっかりしてんな。それに料理も上手いし」
「えへへ…。もっと褒めてもらっても構いませんよ?」
「あんまり褒めんなよ、こいつすぐ調子乗るから」
「そうなのか?」
「お兄ちゃん! 余計な事言わないでっ!」
こんな賑やかな食事は何時ぶりだろうか…。家族のとは違った賑やかな食事。たった三人だけだが、俺にはこれが十分だな。こういう中にいると、偶にはこういった食事も悪く無いと思ってしまう…。
× × ×
「さて。そろそろ帰らねぇとな」
「もうそんな時間か、ほんじゃまた学校で」
「おう、じゃあな」
「いやいやいや。見送りとかしないの?」
「面倒くさいからよくね?」
「うわぁ…」
比企谷らしい…、小町ちゃんも大変だな。まぁ変に気を遣われても気持ち悪いしな。
「別に気にしないでいいぞ、小町ちゃん」
「で、でも…」
「じゃあ、小町が玄関まで見送りますよ!」
「そうか、ありがとう小町ちゃん」
「いえいえ」
「それじゃ、さよなら小町ちゃん。見送りありがとな」
「っ…はい! また何時でもいいので、来てくれると小町的にポイント高いです!」
「おう!」
扉を閉めたあとしゃがみ込む。
「……不意打ちの笑顔は卑怯だよ…」
限界。とにかく時間がないです。
……あれ?カマクr…