「じゃあ…始めます」
審判の戸塚が試合開始の合図をする。
「ところで転入生殿」
試合が始まった直後。テニスコートの壁で俺と材木座二人で並んで見ていると、不意に材木座が話しかけてきた。
「何だ?」
「先程は聞かなかった事なのだが」
「正直八幡達に勝算はあるのだろうか?」
「無いよ」
「ななっ!?」
「そんなに驚くな」
「だって先程までは、何だかんだ勝ちそうな雰囲気だったではないか?!」
「いや、だってアレ見てみろよ、比企谷達かなり苦戦してるじゃないか」
俺は現在進行形で苦戦をしている比企谷、由比ヶ浜ペアにもう一度視線を向ける。
「ふむぅ…」
「考えてみろよ。幾ら比企谷にテニスのセンスがあっても初心者のペアが格上に勝てる訳ないだろ?」
「た、確かに」
そんな事を話していると、視線の先でボールを追っかけた由比ヶ浜が盛大にコケた。…痛そう。
「コケた…」
「あぁ、コケたな。それにアレ足捻ってるな」
「じゃあ試合はどうなるのだ!?」
「あの様子じゃ試合続けるのは無理だろうな」
「では………って、どうしてブレザーを脱いでいるのだ?」
「どうしてって? そりゃ、俺が出るからだよ」
脱いだ制服のブレザーを近くのベンチに置いて、コートに向かう。
医師や兄さんからは「"半年間は要安静"」って言われてるが………普段から無理してんだ、これぐらいどうってこと無いだろ。それに、由比ヶ浜や比企谷が頑張ってんだ。だったら、俺も少しは役に立たないとな。
× × ×
「ごめ…ちょっとひねっちゃったかも…」
「負けたらさいちゃん困るよね……」
「あーーもう!」
「……」
由比ヶ浜は膝をついたままそう言い、ラケットのグリップを強く握り締める。由比ヶ浜は頑張ると張り切っていたのだから無理も無い。
「…あれだ、もうお前コートの中にいるだけでいい」
「あとは俺がどうにかする」
「…どうするの?」
「テニスには古来から禁断の技がある」
「その名も『ラケットがロケットになっちゃった!』だ」
「ただのラフプレーだ!?」
「ラフプレーは良くないぞー比企谷」
「あ?」
気の抜けた声のした方に視線を移すと、制服のブレザーを脱ぎ、軽く準備運動をしている雨矢上がいた。
「なんで準備運動してんだお前」
「なんでって、俺が由比ヶ浜に代わってテニスをするからだが?」
「お前…大丈夫なのか?」
「完治してるって言っただろ? 大丈夫だよ」
「ウッシー運動できるの…?」
「何故心配そうにする」
「だって…何時も体育の授業の時見学してたから…」
「もしかして体弱かったり…?」
「俺の事は別にいいから。由比ヶ浜、お前足捻ったんだろ? なら早く保健室行け」
「…そんな、悪いよ」
「……不本意だがこれでも奉仕部の部員なんだ、少しぐらい役に立たせてくれ」
「う、うん分かった、じゃあ二人ともあとはよろしくね!」
由比ヶ浜はそう言うと雨矢上にラケットを手渡し、捻った足を庇いながら校舎の方へ去って行った。
「はぁ? なんで転校生がやるわけ?」
「えー…確か三浦だっけ?」
「そうだけど、何?」
「こっち男二人でもいいか?」
「ルールは"男女混合"なんだけど?」
「確かに、ルールは男女混合だったがこっちは初心者なんだ、これぐらいのワガママ聞き入れてくれてもいいんじゃないか?」
「ふーん……まぁ、二人対一人じゃ面白くないしね。いいわよ聞き入れてあげる」
「聞き入れては駄目だ優美子」
「隼人?」
「ちゃんとルールどうりやるべきだと俺は思う」
葉山はこちらを(視線は雨矢上に向いてる気がするが)見て訴え掛ける。が、雨矢上は呆れたように言い返す。
「なぁ葉山。お前この試合の前に、自分で言った言葉…覚えて無いのか?」
「『強い奴と練習した方が戸塚のためにもなるし』だろ…」
「勝った方が強いって理論なら、男女混合なんてルールに拘る必要ないよな?」
「それに、こっちは正真正銘初心者なんだ。それともなんだ、初心者二人に負けるかもとか思ってるのか?」
「ねー隼人ー早くしないと時間無くなるんだけど」
「……分かった、試合を再開しようか」
結局葉山は折れて、由比ヶ浜に代わって雨矢上が入る形で試合は再開した。
「戸塚、試合を再開してくれ」
「う、うん……じゃあ試合を再開します」
「言って置くけど、あたし手加減出来ないから——傷とかできちゃったらごめんね?」
三浦の口角が上がる。
なるほど…思った以上の女だった。
「ご親切にどうも」
雨矢上も口角を上げ、含みのある言い方で言葉を返す。
「……あっそ」
そう言うと、三浦は渾身のサーブを放った。ボールはコートの左側にいる雨矢上の方へ向かう。が、雨矢上はコートギリギリのボールを初心者と思えない程の綺麗なバックハンドで返す。
ボールは相手コートでバウンドして後ろのフェンスに当たって落ち。外のギャラリーからは少しの間静かになった後に大きな歓声が上がった。
「お前本当に初心者か?」
「当たり前だろ、ラケット握ったのも今日が初めてだ」
「じゃあなんだ今のは」
「昔観たテニス選手の動きを真似した」
「マジかよ…俺よりお前の方がセンスあんじゃねぇの?」
「てゆーかめっちゃ目立ってんじゃん…」
「それに関しては大丈夫だ」
「はぁ?」
「まぁ、後々わかるよ」
「それに今のはあくまで真似だからな次からは上手くいかないかもしれん」
「…やばくなったら俺が土下座して何とかするわ」
「比企谷が土下座する展開にはならないぞ」
「なんでだ?」
「俺達が勝つからだ」
雨矢上はそう言って不敵に笑った。
× × ×
雨矢上の言った通り俺達は勝った。…結果としては。雨矢上の圧倒的な力でマッチポイントまで点を重ねていったのだが…最後の最後で葉山に持ってかれた…。
「まぁ…なんだ。試合に勝って勝負に負けたって感じだな」
「馬鹿言え。俺とあいつらじゃ端から勝負になってねぇんだよ」
「なんだ、比企谷も分かっていたのか」
「当たり前だろ」
「でも、勝てたではないか」
「なぁ雨矢上お前どうしてあんなに上手いんだ?」
「別に俺は上手くねぇよ、上手い様に見せていただけだ。点がよく入ったのも相手の癖知ってたからだよ」
「癖なんていつ知った?」
「比企谷と由比ヶ浜が試合してた時」
「…すげぇなお前」
「ん、そろそろ教室に戻るか」
「すまないが先に教室戻っててくれ。俺は奉仕部に寄ってから教室向かうから」
「?そうか。じゃあまた後でな」
「おう」
「材木座も早く教室戻れよ」
「うむ」
× × ×
—奉仕部—
「…誰も居ないな」
扉を開け、中に誰も居ない事を確認して部室に入り、何時も自分が座っている椅子に腰を下ろす。
「はぁ…」
やっちまった…。
今年最大の溜息を吐き頭を抱える。今まで何度も無茶してきたが、今回は浅慮だった…。ラノベに出てきそうなヒーローみたいになろうと思った俺が馬鹿だった…。
制服のブレザーとYシャツを脱ぐと、包帯をぐるぐるに巻いた自分の腹部が露わになる。
よく見ると巻いた包帯の一部が赤くなっており。慎重に包帯を広げていくと、徐々に赤い部分が大きくなっていった。広げ終わる頃には露わになった腹部の傷痕から生々しい血が出ていた。
「思ってたより血は出てないな…」
心配した比企谷がここに来る前に早く応急処置しないとな…。
部室に置かれている机たちをどけ、隠れていたロッカーから救急箱を取り出す。……「いつ置いたんだよ」とか聞かないでくれよ?
一通り応急処置をして包帯を巻いている途中、廊下から二つの足音が聞こえた。
音的に比企谷と平塚先生だろう。一つはヒールの音だし…。
今この状況からはどうやったって全部を隠すのは無理だと思った俺は諦めて包帯を巻き続けた。
数秒後扉が開かれ、案の定比企谷と平塚先生が中に入ってきた。比企谷はいつも通りの腐れ目だが若干眉を顰めている。平塚先生は険しい顔をしており、怒りがオーラになって体から溢れている。
二人は直ぐ俺に気付き、3歩近付き立ち止まる。どうやら逃げ場は無さそうだ…。
読者の好きなカップリング
-
八雪
-
八結
-
八色
-
八陽
-
八幡×戸塚