転校生   作:帰宅部係長

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第9話

 

 待ちに待った放課後だ…

 うん、午後の授業の記憶が無い、…だがノートはとってある。 俺ってば優秀

 このまま家に帰れればどれだけ幸せか。

 あぁ、部活行きたくねぇ…。 

 放課後なんて全然待ってないわ。俺が待っているのは家に帰った時の、小町のおかえりの言葉だ。そして小町が待っているのは、このお兄ちゃんって訳だ。 

 あ?シスコン?千葉の兄妹なら当たり前の事だぞ。多分。

 

 教室を出て、春だけどまだ肌寒い廊下を、億劫になりながら歩いて奉仕部のある特別棟に向かう。

 

 奉仕部に着いた。

 はぁ…扉を開けずにこのまま帰りたい。 

 まぁ、部活サボると明日平塚先生の鉄拳食らう事になるだろうから、このまま帰るなんて事はしないけど…。

 少し古い扉を開けると、雪ノ下雪乃が何時もの席で読書をしていた。

 

「うっす」

「………」

 

 コイツ…。挨拶しなかったら罵倒されるから、わざわざ挨拶してやってんのに無視かよ…。

 

 雪ノ下雪乃。俺と同じニ年生で、普通科より偏差値が2.3高いニ年J組に所属している。

 流れるような黒髪に大人びた美少女。容姿端麗、才色兼備この学校で雪ノ下雪乃を知らない奴なんていないだろう。

 

 雪ノ下雪乃はこの奉仕部の部長だ。

 正直俺は、こういう人間とは一生関わる事が無いと思っていたのだが、あの三十路教師に無理矢理入部させられた所為で関わりを持ってしまった訳だ。

 あ、ちなみにコイツは罵倒のスペシャリストなんで。

 

「あら、比企谷君居たの? 存在感無さ過ぎて気付かなかったわ」

「…何お前、一日に一回罵倒しないと死んじゃう呪いにでもかかってるの?」

「話しかけないでくれるかしら? 読書に集中できないのだけれど」

「………」

「………」

 

 …俺も読書するか。

 自分が何時も座っている席に着いて、鞄から本を取り出して読み始めようとした時に元気よく扉が開かれる。

 …もう少し静かに開けられないのかなぁ……。

 

「やっはろー!」

「こんにちわ。由比ヶ浜さん」

「うっす」

 

 ……何、やっはろーって。挨拶のつもりなのか?

 ていうか、よく元気に大声でそんな恥ずかしい事言えるな…。 流石アホの子由比ヶ浜さん。

 

「由比ヶ浜さん。紅茶飲むかしら」

「飲む!」

 

 

 

「ねぇねぇゆきのん。今日転校生が来たんだけど知ってるー?」

「えぇ、知ってるわ。名前は知らないけれど」

 

 まぁ、転校生の話しをするわな。 

 学年カースト上位に所属している由比ヶ浜だ、転校生とかそういう話しは大好きだろう。

 転校生が知り合いじゃなければ、俺はこういう話しを全く気にせず読書をしていただろう。

 自分の近くで、自分の知り合いの話しをされるのは、何かむず痒い。

 

「えーとね! 名前は、雨矢上善光って名前でね。永和学園から転校して来たんだって!」

「永和学園…ね、それはまたすごいのが転校して来たわね」

「えー? 何がすごいの? ゆきのん」

「逆に、由比ヶ浜さんは知らないの?」

「知らなーい」

「はぁ…流石ね由比ヶ浜さん」

「えへへ、ゆきのんに褒められた」

「褒めてないわ、由比ヶ浜さん」

「…永和学園の偏差値は78、所謂エリート高校なのよ」

「へー。じゃあ雨矢上君は頭いいんだね!」

「頭いいとかのレベルじゃないわ…」

 

 雪ノ下がこめかみに手を当てている。

 …由比ヶ浜の将来が心配になってきた。

 

「…でも何故、わざわざこの高校に転校して来たのかしら?」

「なんでだろーね。ねぇ、ヒッキー何か知らない?」

「…し、知らねぇよ」

「本当にー?」

 

 …アホの子のくせに無駄に勘が鋭い。 いや、近づいて来るなよ。

 近い近い!由比ヶ浜さん近い!何なの?わざと?やっぱりビッチなの?!

 

「比企谷君。あなたの腐った目が泳いでいるわよ。目は口ほどに物を言うとはこのことね」

「くっ…」

「観念しなさい比企谷君」

「そーだよヒッキー」

「……雨矢上は俺の知り合いだ、これ以上は言えん」

「えー!? なんでー!」

「大丈夫よ由比ヶ浜さん、すぐに吐かせるわ」

「おい、何をする気だ…」

「拷問?」

「可愛く首傾げながら物騒な事言うなよ。ていうかマジでやる気!?」

「っ……じょ、冗談よ。いくらなんでも拷問なんてしないわよ。それに、比企谷君に触れたら腐りそうだもの」

「………そうか」

 

 ならよかったとはならないぞ。少なくとも最後の一言で俺の心は傷付いたぞ…。

 


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