戦国妖怪道中記   作:ガーデンマン

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第1話

 

 

 

奥州。

JAPANにある国の一つであり、人ではなく妖怪のみが住まう国である。

 

かつての妖怪大戦争。そこで数多くの人間の死者を出した一部の妖怪たちはそこに住み、人間との不可侵条約を結んだ。

いつかまた、人間と共に歩けるようになるために。

 

その奥州の森で一人の若い女が歩いていた。

名は傾国。妖怪に呪われた女であり、精神が破綻した人間である。

彼女は『争い』を求める。それだけが彼女の唯一の楽しみであり、奥州にいるのもある目的のためであった。

 

「そこの人間、止まれ」

傾国は後ろから声を掛けられる。

自分の隠密には自信があり、こんなに早くに見つかるとは思ってなかったため、少し驚き振り返る。

 

「あら、あなた………人間?」

ここには妖怪しかいないはず、だが声をかけてきたのは人間の男であった。

「ここは人間と不可侵条約を結ぶ地、知らぬわけではあるまい。即刻立ち去れ」

傾国は心の内で嗤う。

私を人というのか、何も知らない小僧が。

「そういう貴方も人間みたいだけれど。子供がこんなところで何をしているのかしら」

心で悪態をつき、口で挑発する。

不思議だが面白い。傾国は今の状況を楽しんでいた。

 

「私はこの地で育った人間だ。ここに住まい、ここに家族がいる。もう一度言う。死にたくなければ今すぐここから立ち去れ」

男はそう言って傾国に手に持っていた槍を向ける。

殺意もなにもなく、あったとしても傾国には警戒する気にすらならない。

だが、槍を向けた瞬間。男の顔が驚愕の色に染まる。

なぜ、あの子供が驚く?傾国は不思議に思った。

 

「そなたは妖怪………いや、もしや呪い付きのものか?」

「っ!!」

男の言葉に次は傾国が驚く。

何故わかった?妖怪の地に住んでいるものにはわかるのか?いや、そんな話は今まで聞いたことがない。傾国には理解出来なかった。

 

「………その通りよ。私は呪い付き。貴方達人間が忌み嫌う………人間よ」

傾国は答えた。計画の範疇外ではあったが少しこの人間が気になる。もう少し様子を見ることにした。

 

「そうか、では呪いをかけた妖怪を探すために来たのか………。しかし女人がこんな時間に一人で来るとは無謀だ」

「あら、私はこう見えてかなり強いのよ?少なくともそこいら人間には負けないわ。それがあの軍神だとしてもね。それに私は呪いを解くためにここに来たのではない。別件よ」

「………別件とは?」

「妖怪達に、戦争でもしてもらおうと思って」

「なんだとっ!?」

男の顔が驚きと怒りに染まる。それを見て傾国は愉快そうに笑った。

 

「その様子だとやっぱり貴方、妖怪達と仲が良さそうね。もしかしてさっき言ってた家族ってのも妖怪?」

男は否定しない。あれは図星をつかれた人間の顔だ。それを見て傾国は声を上げ笑った。

「あはは!これは傑作だわ!妖怪なんかを家族という人間がいるなんて!妖怪王も何を考えているのかしら。いや、あれは昔から甘ちゃんだったわね。人も殺せなければ敵となった妖怪も殺せない。なにもできないからこんな所に引きこもってるんですものね。本当、滑稽だわ」

傾国は笑う。

腹がよじれそうだった。笑いすぎて涙が出てくる。まさかこんなにも面白いものがあるとは彼女は思ってもみなかった。

 

「………それ以上、それ以上口を開くな。それ以上私達の王を………私の父を侮辱するな!」

男は槍を傾国に向け振る。

傾国は咄嗟の攻撃をよけるも、その歪んだ笑みは崩さない。

 

「まさかとは思ったけど、ここまで期待通りとはね……」

傾国は男は妖怪王の身内だと確信する。確証も取った。つまり、この男を殺せば確実に妖怪は戦争を起こす。

傾国は歓喜する。かつての妖怪大戦争、それ以上の争いがこうも簡単に起こせるのだ。

あまり期待はしていなかったが、傾国は最高の拾い物をした。

 

「決めたわ。貴方には死んでもらう。喜びなさい。貴方のおかげでたくさんの人と妖怪が死ぬでしょう。それはとても楽しいことだと思わない?」

傾国は笑う。だが男は笑わない。ただ怒りに身を震わせていた。

 

「………人間とは………人間とは、こうも残酷な生き物なのだな………」

「そうよ?貴方、自分以外の人間と会うのは初めて?何も変わらないわ。私も、他の人間も、そして貴方も」

「そうか………よくわかった」

男は再度傾国に槍を向ける。

男とその周囲の空気が変わったことに傾国は気づく。

「………最初に言っておくわ。貴方に私は殺せない。なかなかの実力はあるようだけどそんなものは無意味だわ」

「………呪いの力か」

「その通りよ。妖怪に育てられた割に頭の回転が早いのね。だけど、私の呪いは特別。死ぬことはないわ。潔く殺されなさい」

「不死の能力か………」

「本当に頭がいいのね。それでもって冷静。殺すには惜しいわ」

傾国は女として男に魅かれるものがあった。

実力を伴った強い意思と眼。JAPAN中を探してもここまでの男はそういないだろう。

少し残念にも思ったが予定は変わらない。

傾国は男を殺す。

 

「心配無用だ。私は死なない。………ついでにそなたの呪いを解いてやろう」

「なにをいって………っ!?」

男の雰囲気が変わる。先ほどにまして空気の重圧が増えていく。

そして、雰囲気だけではない、男の身体に変化が生じた。

 

「あなた………本当に、人間………よね?」

傾国の顔が驚愕に染まる。

長く伸びた髪の毛。

人とは思えない爪と牙。

先ほどまでの好青年は獣のような人間と化していた。

「………」

男は応えない。言葉さえ失ったのだろうか。

 

「私が怖いか?」

「えっ………?」

男は喋った。だが何を言った?

「なっ!?」

傾国の体は震えていた。そして男の言葉を理解する。

彼女は目の前の人間に恐怖していた。

彼女が不老不死の呪いを受けて三百余年。いつのまにか失われていたはずの感情を思い起こされていたのだった。

 

「少し、驚いただけよ。私にそのような感情はない。私は死ぬことを望んでる。そんなものがあるわけがない」

だが、彼女は認めない。努めて冷静に答える。

「………そなたは、可哀想な人だ………」

「黙りなさい!!」

傾国は男に向かって飛び出す。その手には彼女の得意とする獲物はない。無手である。

怒りに任せた行動であったがない。

男は槍を突き出すがら、傾国は避けずに受け入れた。

傾国の心臓に男の槍が刺さる。

だが傾国は平気な顔をして笑っていた。

 

「これで信じた?私は死なない。死ねないの」

「………何故泣く?」

傾国は笑いながら泣いていた。

「ちょっと笑いすぎたのね。貴方のせいよ」

男に言われて初めて気づいたが彼女は気にしなかった。

「哀れ人だ………安らかに眠れることを祈ってる」

「あなた、これを見てもまだ………えっ!?」

彼女は驚く。

不老不死だからといって痛みを感じないわけではない。痛いものは痛い。死ぬほど痛いと思っても死なない。それがこの呪いだ。

だが、この痛みは違う。

今までどんなに斬りきざれようと、すり潰されようとしても感じることのなかった痛み。

そして何より彼女は怖かった。

死ぬことにではない。目の前の男から感じる異様な力がそれを理解させる。

存在が、消えていく。

 

「これが、死?………わたし、やっと、死ねるの?………貴方に、殺されて………」

「そうだ。………この槍は対魔の霊槍。魂のないもの、妖怪を一撃のもとに葬り………呪いを解くものだ」

傾国の言葉に男は答える。

対魔の霊槍。この世を生きて三百余年。どんなに探してもこの人間の男はともかく、そのようなものが存在したなど彼女は知らなかった。いや、知ることが出来なかった。この槍は今まで存在すらしていなかったのだ。だから見つからなかった。

根拠のない答えに彼女は確信を持つ。

そしてこの子供。妖怪に拾われ、妖怪の国で育ち、妖怪殺しの槍を持つ子供。この子は一体………。

 

「あなた………なんなの?」

何者、とは彼女はきかない。

「名は小十郎。人間だ。そして今は………妖怪だ」

「そう………」

それは傾国の求めた答えではなかったが、しかし彼女は理解した。そして同情する。

この子は、世界に呪われているのだ。

 

「強く………生きなさい」

「なにを………」

「この世界は、この世界の神は、残酷よ。私よりも非常で、怖い人間が、たくさん………っ!」

「喋るな………辛い思いをするぞ」

既に傾国は事切れかかっている。

彼女が今も話せているのは彼女が持つ従来の精神的強さからきているものだ。

常人なら死ぬ。彼女も然程変わらない。

だが話すのをやめない。

 

「ありが………とう。わたし………を、殺して、くれて」

「もういい………もういい!!喋るな!」

これで最後だ。

傾国は目の前の男を見つめる。

まるで、恋い焦がれる少女のような眼で。

 

「小十郎………わたし、あなたと、もっと………………」

そして、一人の少女には長すぎた命が、ここで終わりを告げた。

 

「………………逝ったか」

小十郎は女の心臓から槍を抜く。

それと同時に、長かった髪は空気中に霧散し、爪と牙も元に戻り、小十郎は人間の姿へと戻った。

槍を抜き、崩れ落ちた女の体を抱き起こし、その顔を見つめる。

それは安らかな表情だった。

小十郎は安堵し、女の顔の涙を袖で拭き取り、身体に着いた土埃を払う。

そしてそのまま彼女を抱き上げ、歩き出した。

 

 

 

 

 

政宗は奥州の城にある自室で自分の嫁たちと静かな時間を送っていた。

ふと、部屋の外から気配を感じた。

「父上」

「小十郎か。入れ」

人の養子とはいえ、彼らの間に溝はない。血の繋がり、種族の関係は無くとも彼らは確かに家族だった。

「失礼します」

小十郎が部屋へと入ってくる。

その手には人間の女が抱かれていた。

 

「小十郎………その者は………」

「人間です。呪い付きでありましたが………私が殺しました」

「そうか………辛かったな。ゆっくり休め。その者にも手厚く弔ってやれ」

「お気遣い感謝します。失礼しました。………父上」

「なんだ?」

踵を返し、小十郎は部屋を出て行こうとしたが、直前で立ち止まり背を向けたまま政宗に声をかけてきた。

政宗にとって、その背中は、あまり長くみていたいものではなかった。

 

「この世界は、この世界の神は、人間は、妖怪は………残酷なものなのですね」

「………そうだな。その通りだ。………だがそれが全てだと思うな。俺はお前をそんなヤツだとは思っていない。お前は優しい人間だ。それは俺達が一番良く知っている。………だから、あまり気負うな」

「………ありがとうございます。自分でも、よく考えてみます」

顔を少しだけ振り向き、政宗に礼を言うと、小十郎は出て行った。

 

「………梵天丸」

「あぁ、お町よ。とうとうこの日がきてしまった」

政宗はお町に悲壮を込めた言葉を返す。

妖怪に育てられた人間。それが世に出ればこの御時世、必ず不和が生まれる。

そしてあの獣の槍、その力を唯一使いこなせる小十郎。

長年、覇権を巡り争うこの時代では、小十郎は特殊な力を持った希少な道具にしか見られない。確実に利用され消耗していくだろう。

それを予期し、政宗達は奥州から外に出さず、他の人間に会わせることもしなかった。彼らはそれが小十郎の枷になるということも理解しここに留めた。

全ては小十郎のために。

だが、それも限界であった。

 

「けど、あまりにも惨い。これでは小十郎は潰されてしまう」

「ああ。恐らく考え得る限りの最悪のきっかけだ。心配か?ノワール」

「当たり前だっ」

東方御天ノワール、彼女は基本的に人間に興味がない。だが小十郎には政宗と同等と言っていいくらい愛情を注いでいた。

そしてそれは奥州・エゾに住む妖怪、全員に共通していることだ。

それほど小十郎は妖怪達から愛されていた。

 

「小十郎さん。ちゃんと答えを出せるでしょうか………」

「もしかしたら敵になっちゃうかもねー。嫌だなぁ〜」

「小十郎次第、だろうな………。だがあいつは沈着冷静で頭もいいし度胸もある。誰に似たかは知らんが立派に育ったものだ。俺たちが不安になる必要はないのかもしれん」

心配する野菊と折女を政宗は窘める。

あとは小十郎を信じるのみ。

政宗達に出来るのはそれだけであった。

 

「誰に似たか、ねぇ〜。一目瞭然だと思うけど」

「本人は全く気付いてませんね。あの小十郎さんでも気づいているというのに」

「政宗は変な所で鈍いからな」

「そんな梵天丸も、素敵だ」

「どうしたんだ?お前たち」

親の背を見て子は育つ。

知らぬは本人だけであった。

 

 

 

 

 

 

政宗の自室に寄った後、小十郎は再び外に出向き、奥州の丘にある一本の大きな木の下に墓を作り、女を埋めた。

そこはかつて小十郎が政宗達に拾われたところであり、小十郎にとって特別な場所であった。

なぜここを選んだのか、自分でも理解できない。

ただそうしたかった。わかったのはそれだけだった。

 

「強く生きろ………ありがとう、か………」

女の墓の前に腰を下ろし、小十郎は彼女との出会いを思い出す。

最初は家族を侮辱され、殺したいと思うほどに憎んだ小十郎だったが、最後には、助けてやりたい。ひたすらそう思っていた。

不老不死だと彼女は言った。そして死ぬことを望んでいると。

小十郎にはそれを成す力があったし、実際に彼は彼女を殺した。

だが、それは本当に正しかったのだろうか。

彼女を殺す必要はあったのか。

他に手はなかったのか。

時間がなかったわけじゃない。彼女は妖怪戦争を起こすと言っていたが、死に際に見た彼女は本当にそんなことをするような人間だったか。

ただ呪いに狂わせられただけで説得すればどうにか出来たのではないか。

答えはわからない。

 

「まるで呪いのようだな」

彼女は既にこの世にはいない。直接答えを聞きたいがそれらもう叶わないのだ。

女が可哀想だった。あの様な人はもう二度と見たくない。

ただそれだけが、唯一理解出来た。

ならば………次は救いたい。

 

「名も知らぬ貴方に誓おう。私はこの槍で呪いに苦しむ人間達を全て救う。だから、約束してくれ。呪われた人達を全て救うことが出来たら………その時は、貴方が私の呪いを解いてくれ」

女の面白おかしく笑う顔が頭に浮かんだ。

そして、何故か自分も面白くなり笑った。

長い旅になるだろう。だがそれも悪くない。

小十郎の呪われた宿命が、今。始まった。

 

「馬鹿な男なんだから。でも約束は守ってあげるわ。ずっと見ててあげる………。そのかわり、私を退屈させないでね?」

丘から去る小十郎の背を追いかける者がいた。

その者の名は傾国。不老不死の運命から解放され、八百比丘尼となる以前の人間の少女である。

 

「だけどまさかまた死なない身体になるなんてね。彼、小十郎は私が呪ったなんて言ったけど、私もまた呪われてしまったのね」

しかし、その身体に肉体は存在しない。

目視することも、触れることも出来るが、それは魂だけの存在。

彼女は幽霊として未だこの世に存在していた。

その理由は、小十郎。

傾国は最後の最後に小十郎に惹かれ、また呪われた。

既に死ぬことも、争いも望んではいない。

小十郎の行く末を見届けること。

彼女が望むのはただそれだけであった。

 

 

 

 

 

「覚悟は出来たようだな」

「はい。私は、この奥州を出て旅に出ます」

翌日。小十郎は再び政宗の部屋を訪れていた。

「………何を成す?」

「一つは呪われた者達を解放するために。そして、人と妖怪が再び共に生きていけるように、世界を変えます」

それは小十郎が一晩考えて決意したことだった。

「世界か………大きいな………」

「梵天丸………」

政宗の小さな呟きに、お町たち方位御天が不安そうな表情をする。それほどまでに政宗の表情は悲痛だった。

 

「その意思に揺らぎはないか………?」

「覚悟のうえです。自身の眼で見定め、決めました」

「………ならば、これ以上は何も言うまい。………達者に生きろ。それだけが、俺たちの願いだ」

「ありがとうございます。………父上も、母上達もお元気で。二度とこの地に足を踏み入れることはないかもしれません。だからこそ私は強く生きます。だから父上達も、どうか………」

その続きを言うことなく、小十郎は祈るように目をつむりそして立ち上がる。

政宗には小十郎の夢の過酷さが理解できた。それは政宗の望む夢でもあったから。

その政宗には人間との距離をとることしか出来なかった。時間が解決してくれるまで。今はただその時を待っていた。

しかし、小十郎は人間だ。妖怪のように寿命は長くない。政宗の策はあてがなく、可能性の話でしかない。これが駄目であればまた別の策を考える。それの繰り返し。

だが小十郎にはそれが出来ない。だからこそ、辛い。

 

「………まずは、尾張へと向かえ。そこに3Gという古くから織田に仕える妖怪がいる。俺の名前を出せば助力を願えるだろう。………そして、槍とお前自身の身に何か起きた時は天志教に助けを求めろ。………それで、最後だ」

せめて、これらの知識が小十郎の助けになれば。

その一心で政宗は告げる。彼にはそれしか出来なかった。

 

「ありがとうございます。……貴方達に拾われて、貴方達の息子で良かった。……本当にありがとう。父さん………母さん………」

そして、小十郎は出ていった。

政宗は別れの寂しさ、自分の無力さを感じ、涙を零した。

 

 

 

 

 

 

「そなたにこうやって弔意を表するのも最後になるかもしれんな」

小十郎は政宗達と別れた後、最後に女の墓の元へと来ていた。

自分が拾われた場所であると同時に、旅立つ決意をした場所でもある。

最後にはここに立ち寄ると、小十郎は決めていた。

 

「ではな。安らかに眠るといい」

「あら、起きてしまったのだけれど、眠っていなければ駄目かしら」

「なっ!?」

小十郎は聴き覚えのある声音がする方に慌てて振り返る。

まさかとは思うも、事実そこには自分が殺した女がいた。

女はイタズラが成功して喜ぶ子供のような顔をして笑っていた。

 

「そなた、死んだのでは………」

「ええ、死んだわ。でも貴方があまりにも情熱的に話しかけてくるんですもの。うるさくて成仏できなかったの」

「世迷言を………」

「心外ね。でも本当に死んでいるの。まさか私も幽霊になるだなんて思ってなかったわ」

女が心底楽しそうに話す。

小十郎はわからない。ひたすら女に振り回されていた。

 

「何故、幽霊に?」

「言ったでしょ?貴方の所為よ」

「私、の?」

「ええ、さっきのは冗談だけどね。………本当は、最後の最後、死ぬ直前に貴方に興味が沸いたの。貴方のことをもっと知りたい。貴方の行く末を見ていたいってね。そしたら成仏し損なっちゃった」

「なんて人だ………」

小十郎は息をつき、ただ呆れる。

自分のせい?成仏し損ねた?何を言っているのか。

 

「どうすれば成仏するのだ。貴方は死ぬことを望んでいたはずだ。なのに未練があるとでも?」

「死ぬことは貴方のお陰で叶ったわ。私は貴方と共にいきたいの。それが出来たら、いずれ成仏するわ」

「それは駄目だ。危険だ。共には行けない」

「幽霊に危険もなにもないでしょうに」

「………厄介だな」

荒唐無稽な話だった。

しかし彼女は現実に目の前におり、自分と言葉を交わしている。

 

「その割りには楽しそうね。顔、笑ってるわよ?」

「………本当、だな」

顔に手を触れてみると確かに自分は笑っていた。

何故か、答えはすぐに見つかった。

 

「………もう一度、貴方と話をしたかった」

「………私と同じね」

小十郎は彼女が最後に残した言葉の意味を知りたかった。

そして何より小十郎自身、彼女に魅かれていた。

「なぜ私に、生きろと、強く生きろと命じた?………貴方は私の中に一体何を見た?答えを知っているはずだ」

「そうね、確かに私は貴方にそう言ったわ。でもね、それは私も知らないの。そもそも私は貴方がいう呪いなんかをかけたつもりはない。もしそうだというのならば、そうね、きっと世界が貴方を呪ったのよ」

「世界が?」

「私はただ、あの時になんとなく感じただけ。あぁ、貴方はこの世の神に呪われているんだってね。だから私は貴方に興味がある。だから着いて行きたいの。側で、あなたという人間を見ていたい………それだけよ」

「そうか………」

結局、小十郎の求める答えを女は持っていなかった。

だが彼女といれば、 答えはすぐに見つかるかもしれない。

不思議とそう感じた。

 

「それで、答えは出たかしら?まぁ断られたとしても勝手についていくけどね」

「………貴方を殺したのは私だ。最後まで責任は取る」

「まるでプロポーズね………でも悪くないわ。私は傾国。

これからよろしくね小十郎」

「ああ、こちらこそよろしく頼む、傾国。では行こうか」

「えぇ、そうね」

 

こうして二人は出会った。

呪い呪われ、殺し殺され。

縁もゆかりも無い彼らがこうして出逢えたのは偶然か、はたまた神が仕組んだ悪戯か。

これから何が始まるのか、それは彼らにも、神にもわからない。

彼らが、物語を作るのだから。

 

そして冒険が始まる。

 

 

 

 

 

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