「どうしたものか………」
「どうしようもないんじゃない?」
佐渡。
奥州に隣接した国であり、かの軍神、上杉謙信が支配する国でもある。
そんな所に二人の男女がいた。
男の名は小十郎。対魔の槍である獣の槍を持ち、その力を使いこなせる人間である。
女の名は傾国。かつては呪い付きであり、三百年近く生きた不老不死の少女であった。今は幽霊と化している。
二人は妖怪の地である奥州で出逢い、現在は一緒に旅をしている。
奥州を出て彼らはようやく最初の国へと辿り着く。
しかし、そこで彼らは早速足止めをくらい、未だ入国することすら出来ていなかった。
人間不可侵の奥州方向からやってきた人間。
一人は手に槍は持っているが、別段怪しいところはない。
だが、もう一人の女は幽霊であった。
妖怪の国から現れた男と幽霊の女。
関所を通れないのも納得出来るもの。それだけ彼らは不審であった。
「どうにかして先に進みたいのだがな………」
小十郎は策を巡らす。
強行突破。山道からの迂回。どれも現実的ではなかった。
傾国と別れ、一人で関所に向かっても通用しないだろう。奥州からやってきた人間。それだけで人は警戒に値するのだ。傾国一人のせいではない。
「北条の方に行っても無駄でしょうね。結局同じ理由で入れてくれないわ。それに私達だと余計に無理ね。あそこは陰陽の国なの。逆に退治されちゃうわ」
「困ったな………」
「あなた達ですか?奥州から現れたという人間と幽霊、というのは」
不意に後ろから声を掛けられる。
振り向くとそこには耳の生えた少女がいた。
「そなたは………妖怪、か?」
「なんですって!?」
思わず口に出してしまい、少女に怒られる。
そんな小十郎を見かねて、傾国が間に入った。
「ごめんなさい。この人は人の文化に疎いの………。そのヘアバンド。とても似合っているわ」
「わわわわっ!ほ、ほんとに幽霊!?」
少女は傾国の言葉など耳に入らず、ただひたすら驚いていた。
「そなたは関所の者か?先ほどの時は見かけなかったが………」
「わっ私は城から派遣された者です………。関所の者から連絡があって、奥州から人間が幽霊を引き連れてきたって聞いて………誰かのイタズラだと思ったのに本当にいるなんて………!!」
少女は傾国を見てかなり怯えていた。傾国はそんな少女を見て楽しそうに笑っている。彼女はいつも笑っていた。
「落ち着いて聞いて欲しいのだが、私達をこの国に入れて貰えないだろうか。私達は尾張を目指していてな、是非とも通して欲しい」
小十郎は少しだけ沸き立つ。もしかしたら上手く取りいることが出来るかもしれないのだ。
「と、当主様に確認を取ってきます!しばしお待ちを!」
そう少女は言うと、逃げるようにこの場を去っていった。
果たしてちゃんと戻ってくるのか、小十郎は少し心配になった。
「あなた達が奥州から来たという人達ですか」
「いかにも。私の名は小十郎。よろしく頼む」
「私は傾国と申します。よろしくお願いしますわ」
「直江愛、と申します。まもなく当主様がいらっしゃいますのでもうしばらくお待ち下さい」
そういって目の前の女性、直江愛はこちらに一礼した。
あの後、無事に少女は戻ってきて、小十郎達は城へと案内された。
どうやらこの国の当主が直々においでになるらしい。
政宗と同じ一国の王。かつ軍神の名は奥州まで響いている。しかもそれは女であると。
果たしてどのような人なのか、小十郎は少しばかり緊張をしていた。
「愛、待たせたな。その者達が噂の客人か?」
「そうです。さぁ謙信。挨拶を」
「うむ。上杉謙信と申す。よろしく頼む」
現れたのは小十郎と年がそう変わらないであろう若い少女であった。
「………小十郎と申します」
「傾国ですわ」
自分と同じ年頃の人間が一つの国を治めている。
小十郎にとっては驚嘆に値する事実であった。
素直に称賛の言葉を送りたかった小十郎だが、失礼に取られることも考慮し、結局黙ることにした。
相手は一国の当主なのだ。甘く見てはいけない。
「では早速お聞きしたいのですが、貴方達が奥州からやってきたということに間違いはありませんか?」
「違いありません。私達は奥州から参りました」
「しかし、あそこは人間との不可侵条約を結んでいます。彼らは自分達から攻めることこそしませんが、入り込んだものには容赦はしない。なぜ貴方達は無事なのですか?」
直江愛は目の前の者達を疑っている。
彼らが現れた関所。そこは本来ならば使われることのないものだった。
奥州へと続く関所ではあるが、念の為に人は配置するもののそれはもはやただの飾りのようなものだ。
商人ですら通らない所。そこから現れた人間。
十分に警戒に値するものだった。
「………確かにあの国は人間との接触を拒んでいる。だがそれはかつての対戦で出来た溝を埋めるべく距離を取っているものだ。彼らは無闇に人を襲ったりはしない」
「まぁ私は死んでしまったけれど」
小十郎は言葉を選び必死に説得する。
ここでしくじれば更に状況が悪くなる。だが傾国はそんな小十郎の気持ちを知ってか知らずか、あまり言いたくなかったことを平然と口にした。
内心では大分驚いた小十郎であったが、彼女は大して気にしないという風だったので、全て説明することにした。
「………彼女はもともと不老不死の能力をもった呪い付きの人間でな、死ぬことが出来なかった。そこで私と出会い、呪いを解いてやった。既に人としての寿命が尽きていたので死んでしまったが、そういうことだ。私には呪い付きの呪いを解くことができる」
「呪いを、解く?そんなことが可能なのですか?」
「詳しくは話せないが事実だ。もしこの国に呪い付きの人がいるのならば、ぜひ話をさせて欲しい。その人が望むなら呪いを解いてやりたい」
呪い付きは忌み嫌われる。
人間であるのに人間として扱われない。もとい妖怪ですらない孤独な人間。
救えるものなら救いたい。それが自分の使命でもある。小十郎はそう感じていた。
「………申し訳ありませんが、この国に呪い付きがいるという情報はありません。彼らは皆、居場所を失くし国を追われました。その責任は私達にあります。ですが、どうか御容赦ください」
「そうですか………」
呪い付きを匿えばその国の立場は悪くなる。民衆も納得しないだろう。
愛の言葉は国を治める一人の人間としては正しいものだった。
しかし肝心の国の当主が未だに一言も話さない。
話は聞いているようだが、その顔は何か別のことを考えている。
何か粗相でもしただろうか、そう小十郎が思い悩んだ時、ぐぅー、という大きな腹の音が鳴った。
「………謙信、貴方ここに来るまでおやつ食べてたでしょう。もう少し我慢出来ないの?」
「むっ、すまない………客人にも恥ずかしいところを見られてしまった。………だが難しい話を聞いているとどうもお腹が空く。なんとかならないものか………」
「難しくないっ!!」
そういうと愛は謙信の頭をはたいていた。
一国の当主の頭を叩けるとは凄まじい御人だ。
あまりの驚きに小十郎は少しずれたことを考えていた。
「ふふっ………あらあら、軍神といってもまだ子供なのですね。可愛らしいわ」
「お恥ずかしい限りです。これで国民からの支持が高く、多くのものから慕われているというのだから不思議なものです」
「ありがたいものだ………」
「ならもっとしっかりしなさいよ………」
傾国の失礼とも取れる言葉を全く気にすることなく、彼女達は話を続ける。
元より隠す気もなかったのだろうな。
小十郎は気張ってた体を落ち着かせるように軽く息をついた。
「少しは落ち着いたかしら」
「あぁ、もう大丈夫だ。それにしてもそなた、初めから知っていたな?」
彼女は初めから何やら楽しそうな顔をしていた。
幽霊である自分を見て、驚く人達の様子を楽しんでいるとばかり思っていたが、そうではなかったらしい。
「軍神の噂なんてJAPAN中にコロコロ転がっているわ。
大体は予想してたけど、私も見るのは初めてよ?まぁ奥州に引きこもっていた貴方には分からないでしょうけどね」
心底楽しそうに傾国は笑う。彼女は自分のことを玩具か何かだと思っている節がある。それ自体は構わないが、こういったことは精神的に悪い。即刻やめて貰おう。
まぁ、効果は見込めないが。
「心臓に悪い。今後は程々にしてくれ」
「嫌よ。貴方面白いんだもの。飽きるまでやるわ」
案の定、効果はなかった。
「では、話を戻しましょうか」
小十郎達が話している間、謙信は一度席を立ち、巨大なおにぎりを持って戻ってきた。
あれを作るにしては随分と早かったが常備でもしているのだろうか。小十郎は少しだけ不思議に思った。
「貴方が呪いを解ける力を持っている、というのは正直、まだ信じられません。一旦その話は置いておかせて下さい。次の質問です。貴方達は奥州で出会ったと言いましたが、何故そこにいたのです?」
愛は問う。彼女にとってここが一番に重要な所だった。
「私は、ちょっと妖怪達をそそのかして戦争でもしてもらおうと思ってたの。そのために居たのだけれど彼に止められたわ。もうそんなことは考えていないから安心してね」
「なっ!?」
目の前の傾国という女は愛の質問に平気でとんでもないことを言った。
多大な死者を出した妖怪戦争をまた起こそうとしたというのだ。気が狂っているとしか思えなかった。
「私は………私は奥州で育った人間だ。彼処に住み、彼処で暮らしていた」
「妖怪の国で、人間が………?」
「私は幼き頃、現妖怪王である独眼流政宗、その人に拾われ育てられた。それ以前の記憶はない。それが貴方の問いに対する私の答えだ」
目の前の男は先ほどの女を上回る事を言ってきた。
妖怪の国で妖怪王に拾われ、育てられた。尚且つこの男は呪いを解く力も持っているらしい。
もはや愛には頭を抱えることしか出来ない。
これが真実ならとんでもないビックリ箱を拾ってしまった。敵意がないだけ尚更扱いに困る。
「貴方の目的はなんなのですか?人間へ復讐ですか?そうであれば私たちはあなた方を放ってはおけません。その次第で貴方達のこれからが決まります。教えてください」
「私の目的は先ほど言ったとおり、呪い付きの方の解放だ。人間への復讐など考えたこともない。勿論、妖怪にもな。自分の生まれた意味を知りたい、というのもあるが、何より、私を拾ってくれた人たちは人間の私にも本当の家族の様に接してくれた。だからその人達の夢を叶えたい。それが私の目的だ」
「その夢、とは?」
「人と妖怪が仲良く共に生きることだ」
「それは………」
それは難しいことだ。
そう思うが、男の強い意志を感じ、愛は続きを言うことが出来なかった。
ただでさえ、今の世は争いで蔓延っている。
各国の大名達は力を欲している。妖怪達が仲良くしたいと思っていても、その力は魅力的だ。手にした彼らがそう思わなくても、他の国は必ず警戒する。
共に生きるなど、今は到底不可能なことだった。
「厳しい旅となるだろうが、覚悟の上だ。是非ともそなた達にも協力を願いたい」
小十郎は愛と謙信に改めて姿勢を正し、向き直る。
そして頭を下げた。
愛は謙信へと見やる。
この国の当主は謙信だ。最終的決定権を行使できるのは彼女一人のみ。あとは謙信次第だ。
「貴方の家族は、きっと優しい方なのだな」
「謙信………?」
突然、今まで黙々と食べることのみに口を動かしていた謙信が喋る。
謙信はかなりのど天然ではあるが、馬鹿ではない。その発言にも意味がある。
そして、愛には謙信が感じていることが直ぐにわかった。
この子は、目の前の男が羨ましいのだ。
「私は、あまり親戚とは仲が良くない………特に叔父は女の私が当主であることに不満を感じているだろう。だから少し、羨ましく思った」
「謙信、あなたは………」
愛は謙信の叔父である県政が嫌いだった。彼奴は純真な謙信を利用して自分勝手なことをするから。
だからこそ愛は叔父から謙信を守ってきたのだが、謙信はそんな愛の行動をきちんと理解していた。
わかっていながらも、彼女は身内を大切にするがあまり、叔父である県政を切り捨てる事が出来ない。
彼女はそんな優しい少女だった。
「私は何をすればいい?私でよければ協力したい」
「そんな………よろしいのですか?」
「貴方は優しい人だ。信頼に値する。だが、私には剣しか取り柄ない。それでは駄目だろうか?」
「とんでもない。ご助力、感謝致します」
謙信の言葉に小十郎は頭を下げる。
佐渡、MAZOを治める国の主の協力。それは小十郎達にとってとてつもなく大きな一歩であった。
「謙信一人では不安ですしね、私も協力させて頂きます」
「愛殿も………ありがたい………」
「それじゃあ協力者も出来たことだし、今後の方針を考えないとね。まずは情報収集かしら」
「傾国………お前というやつは………」
「ですが傾国殿の言うことも一理あります。そもそも、小十郎さん達はこれからどうするつもりだったのですか?」
「父上の助言に従い、尾張の3Gという妖怪の元に向かうつもりだ」
「尾張………織田の異人の元へですか………」
「異人?」
聞きなれない愛の言葉に小十郎は聞き返す。
なにか問題でもあるのだろうか。愛は何とも微妙な顔をしている。
「ご存知ないのですか?」
「この人の所に人の噂なんてものは届かないのよ。だから謙信様を御覧になった時もとても驚いていたわ」
「余計なことを言うな、傾国。………だが事実その通りでな、よければ教えて頂きたい」
小十郎は人の文化、人の知識については最低限度のレベルでしか知らない。
人里の噂話などは以ての外であった。
「今、尾張の織田家には大陸の異人が指揮を執っているそうで、その勢いは凄まじいものです。既に原家、足利家と征服していき、近々、浅井朝倉とも交戦するであろうとも言われています」
「凄いお方なのだな」
小十郎は素直に感心する。
だが愛の顔は未だに優れない。
「えぇ………ですが、その性格にあまり良い噂はありません。粗野で乱暴で、とてもスケベな性格と聞きます。浅井朝倉との争いの理由もそこからきているようで………」
「要するに自分勝手な奴ということよ」
「そなたがそれを言うのか………」
ともかく織田の異人とやらは横暴な人間であるらしい。
「なるほど、覚えておこう。気遣い感謝する。ともかく、これから尾張に向かうとしても色々と情報を集めておきたい。しばらくこの国に滞在していてもよいだろうか?」
「勿論です。正直、私達の方は呪い付きのこととなると今はまだ国全体では動けません。どうかご容赦下さい」
「とんでもない。協力してくれるという気持ちだけで私は嬉しい。謙信殿、愛殿。この恩はいずれ必ず返します」
小十郎は今一度、深く頭を下げる。
この人達の恩義に報いるためにも、必ずや使命を果たそう。小十郎は深く心に誓った。
「それじゃあ小十郎、私達は町に出ましょうか」
「そうだな、いつまでもここにいては仕方ない。自らの足を使って聞き込みをしよう」
「では、空いている部下に案内をさせましょう。貴方達は既に城内では有名人、県政が口を出してくるのも時間の問題です。どうかよろしくお願いします」
「承知した。どこまでも世話になるな………」
「それじゃあ、行きましょう」
申し訳ないと思いつつも、小十郎は初めての人里での生活に心が沸き立っていた。
佐渡での生活がこうして幕を開けた。
「わ、わわわ、わたしたちが!あなた方の警備を仰せつかった上杉虎子ですっ!」
「か、かか、勝子ですっ!」
案内役として来たのは、関所で出会った耳の生えた少女とそれと同じくらいの年頃をした少女であった。
二人とも幽霊である傾国にかなり怯えていた。
大丈夫だろうか………
ほんのりと不安を抱えた小十郎であった。
戦国ランス風小十郎ステータス (通常/獣化時)
LV35/70(才能限界に変化なし)
職種:一般/妖怪
攻:5/9
防:5/9
知:7/7
速:6/9
探索:7
交渉:2
建設:0
装備:獣の槍 魂のない生物に一撃で致命傷を与えることが出来る。聖獣、ムシ、妖怪、ゾンビ、鬼に効果あり。
尚、槍装備時は自動回復2付与