一私は夜が嫌いだ一
夜は何だか自分と余計に向き合ってしまう感じがして、
何か音がないと自分の心の中にいるもう1人の自分が語りかけて来る気がしてどうも好きになれなかった。
「莉桜」
「んー?」
「なーに暗い顔してんのー?」
私の最愛の人である夜舞 健斗 (やまい けんと)。
「ううんなんでもないよ」
「ふーん、とりあえずおいで」
「うん!」
彼はいつも、私のことが全て分かってるかのように悩んでいる時に抱きしめてくれた。
彼とは大学で知り合った。私が1年生で、彼が2年生だった。
その時の私はレポートに追われていて、寝不足で疲れきっていた。
大学のキャンパスにあった自動販売機で、コーヒーを買った時疲れてるせいかお釣りを取るのを忘れてしまっていた。
その時に声をかけてくれたのが彼だった。
「あの、お釣り取り忘れてるよ?」
彼はそういうとニコッと微笑んだ。
「あっ、すいません!ありがとうございます!」
突然のことに驚きちゃんとした返事ができなかった。
「今、何年生?俺は2年だけど」
「あっ、1年です!」
「あぁ、どうりでレポート時期だもんね、顔が疲れてる」
そういうとかれはまた微笑んだ。意地悪な笑顔だった。
「大変でしょ?レポート手伝ってあげるよ」
「え?」彼のペースに少し戸惑ってしまった。
「あ、あぁナンパとかじゃないからさ、このお釣りも何かの縁だし」
目を逸らした彼は少し、可愛かった。その表情から少し追い込まれてた自分が落ち着いた気がした。
「それじゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろん!えーと、LIME聞いてもいい?」
「あ、はい、これです!」
「ありがとう!学校終わり、また連絡する!」
「わかりました!待ってますね!」
「うん!後で!」
こうして私たちの関係は始まった。
何度か、2人で近くの喫茶店に行き、レポートを手伝ってもらった。
そのカフェはいつしか、2人のお気に入りの喫茶店になり、
カフェのマスターにも顔を覚えられるようになった。
「今日もお熱いねぇ」いつものようにマスターが茶化してくる。
「もーマスターそんなんじゃないって」
彼も少し困った表情で、言い返してた。
「ちょっと、俺タバコ吸ってくるね。」
「あ、はい」
1人で席に座り彼を待つ。
この前までは、少し不思議な出来事なのにいつの間にか日常に変わっていた。
そんな日常が好きだった。
それから約1ヶ月が経ち、ついにレポートも終わり、私の日常も終わろうとしていた。
レポートを提出した日の学校終わり、私は彼にLIMEを送った。
『今日これからご飯へ行きませんか?レポートのお礼として奢らせてください!』
『お礼とかいいのに(笑)でも、お言葉に甘えようかな』
『それじゃあいつもの喫茶店の前で待ってますね』
『了解!すぐ向かうね!』
とっさに誘ったものの、ふと我に返ると、髪とかメイクとか大丈夫かな?と不安になった。
3分後くらいたっただろうか、「ごめーん!」と彼が走ってきた。
「遅くなったね!先生の話が長くてさ」
必死に謝る彼に少し笑ってしまった。
「そんなに待ってないんで大丈夫ですよ!行きましょ?」
2人で歩き出す。
「どこへ行きます?」と彼に聞くと
「んー、駅前に新しいイタリアンが出来たんだよ!そこ行ってみない?」
「いいですね!」
「もーお腹めっちゃ空いたー」2人で笑いあった。
そんな他愛もない会話が居心地良くて、
心の中では(どうか、この時間が続けばいいのに)と思ってた。
そうか、私はこの人が好きなんだ。そう思えた。
お店に入ると内装がとてもオシャレだった。
「いらっしゃいませ。ご予約はされてますか?」
「いえ、してないです。2名なんですけど入れますか?」
「大丈夫ですよ。ご案内しますね。」
「はい、お願いします。」
席までの道の中で、彼はいつもこうしてリードしてくれる、1年違うだけで大人に見えるんだと思い返した。
2人でマルゲリータと彼はワイン、私はアイスティーを注文した。
「お待たせしました。マルゲリータとワイン、アイスティーになります。」
「ありがとうございます」
彼がマルゲリータを切り分けてくれた。
「見てみて!チーズ伸びる!」彼が笑顔で私に言った。
大人っぽいのに、こういう無邪気なところもあって可愛い人だなと、
どんどん彼に惹かれていった。
料理を食べたあと、お会計を済まして、お店を出た。
正直私はまだ帰りたくなかった。
すると彼が、「本当はさもう少し、一緒にいたいんだよね。もう少し、一緒に入れないかな」照れながらも言われて、嬉しかった。
「私もそう思ってたんです。」そう伝えると彼も嬉しそうに、
「そっか、良かった!うちに来ない?」
「ぜひ!」
そしてまた、2人で歩き出す。彼のお家に行くのは少しドキドキしたけど、彼と一緒にいたい気持ちの方が大きかった。
ガチャ。「ただいまー」
「お邪魔します」
彼の部屋は清潔感があっていい香りがした。
「なんか飲む?」
「なにか、お茶かなにかお願いします!」
「あ、そっか、まだ19歳だもんね!おっけー」彼は微笑む。
2人で趣味や、映画の話をしていた。
彼とはレポートのことや勉強のことばかり話してたから好きな物とかは初めて知ったことも多かったけど、新しく知れたことが嬉しかった。
他愛もない会話の中、時間を忘れて、終電が無くなっていた。
「あ!遅くなっちゃった。ごめんね!楽しかったから忘れてた。良かったら泊まってく?」
「私も楽しかったので!大丈夫ですよ!迷惑じゃないですか?」
「全然!何も無いけど!」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「おっけー」
急なお泊まりで緊張したけど、まだ一緒にいられる喜びも多かった。
少し話してるうちに、彼が「あのさ、話があるんだ。」と言った。
「なんですか?」何故かこっちまで緊張してしまった。
「この1ヶ月間、莉桜のレポートを手伝ってきたけど、居心地が良くて、楽しくて毎日が楽しみになってたんだ。そして、莉桜のことが好きになっていた。これからも一緒にいたいと思ってる。良かったら付き合ってくれませんか?」
急な告白で驚いたけど私も彼が好きだったからとても嬉しかった。
「私も先輩が好きです。よろしくお願いします。」
2人で照れ笑いをして、彼からキスをした。彼のキスはタバコを吸っているせいか、少し苦かった。これが大人の味なのかなと感じた。
彼との初めての夜はとても濃くて幸せだった。これからも私の日常が続くのがとても嬉しかった。
彼はベランダに出るとタバコを吸っていた。タバコの煙は臭くて苦手だったけど、彼が吸っているのはなんだか好きだった。大人っぽくて綺麗に見えた。
次の日の朝、一緒に向かった。1日の始まりから幸せに満たされた。
学校終わりに、またいつもの喫茶店へ行く、いつものようにマスターが
「今日もお熱いなぁ」と茶化してきたが、今日からは違う。
彼は自慢げに「まぁね」と返した。
その表情に私はクスッと笑うと、マスターは驚きながら
「え、じゃあ、もしかして!」と言ってきた。
私は照れながらも「はい」と応えると。
「よかったね!莉桜ちゃん幸せにしてもらいなよ!いやーお似合いだと思ってたからなんだか私まで嬉しいなぁ」とマスターが言ってきた。
「もちろん!でも、今も幸せです!」と答えると彼も笑顔になった。
彼に出会って本当に世界が変わって見えた。幸せ以上の言葉があるならいいのにと思えた。
それから彼と付き合って1年が経ち、私と彼は同棲をした。
その日の夜、夜が少し苦手な私が暗い顔をしていると、
「莉桜」
「んー?」
「なーにくらい顔してんの?おいで」と声をかけてくれた。
ぎゅっと抱きしめる。安心した。
「ちょっと、コンビニ行ってくるけど欲しいものある?」
「ううん、大丈夫だよ」
「わかった。行ってきます。」と彼は家を出た。
それから1時間が経っただろうか。コンビニへは10分くらいで着くのに、遅かったため心配した。すると彼の携帯から電話がかかってきた。
「もしもし?」電話に出ると。
「もしもし!莉桜ちゃん?」彼のお母さんだった。声が震えていて、嫌な予感がする。
「落ち着いて聞いてね、健斗が、居眠り運転のトラック事故にあっちゃって、今とても危険なの。病院に来て!」
と言われ、咄嗟のことで「え?」としか言葉が出なかった。けど行かなくちゃという衝動で家を出た。
病院まで、走っていき、受け付けで
「健斗くんは、夜舞 健斗くんはどこにいますか?」と聞いた。
それを聞いた受け付けの人は暗い表情になり、
「地下へ行ってください。」とだけ私に伝えた。
あれ、健斗くんは危険な状態だったんじゃないの?なんで地下なんだろう。色んな不安が頭をよぎる。
エレベーターで地下へ向かうと、女の人のすすり泣く声と男の人の
「健斗、健斗!」と言う声が聞こえた。
健斗のお父さんとお母さんだろう。
その部屋に近づくにつれ私の鼓動は早くなり、音は大きくなった。
部屋に入ると、薄暗く、白いベッドの上で彼は寝ていた。
現実から目を背けたくて、寝ていると思うしかなか
った。
「お母さん、健斗くんは?」と聞くと。
彼のお母さんはかすれた声で、「ついさっき、息を引き取ったの。」
と言った。
状況が理解できない。悪い夢なら早く覚めてと思うしか無かった。
涙が溢れてくる。全身の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
「健斗くん…?嘘だよね…返事してよ!」
彼は何も言わず目を瞑ったままだった。
「これからこちらで司法解剖などを行いますので。」医師が言った。
夜も遅く、私達3人はふらふらだった。
彼のお父さんが口を開き、
「今日はもう遅いから帰ろう。莉桜ちゃんも家へおいで、心細いだろう?」と言ってくれた。
私は、「はい、お邪魔します」と答えた。
医師は、「明日の朝には、そちらのお家へ健斗さんをお送りできます。」と言っていた。
突然の出来事で、私まで意識が朦朧とする中彼の実家へと向かった。
誰も何も話さなかった。彼のお母さんは泣き崩れ、お父さんは背中を摩りながら泣いていた。
私は携帯を見つめ彼にLIMEを送り返信が来ないかと願った。来るはずもない返信を。
保存した彼との写真を涙でぼやけた目で眺めると、酷く後悔した。
(なぜ一緒に行かなかったのだろう。)と、それから時間が経ち、気がつくと朝になっていた。
泣き疲れて眠ってしまっていた。彼のご両親も起きていて、彼を迎える準備をしていた。
「すいません、寝てしまっていました。何かお手伝いします!」
「大丈夫よ、突然の事だったんだもの、えーとじゃあ、あっちの部屋お父さんと片付けて貰えるかしら?」
「はい」
奥の和室にお父さんが居た。この部屋に彼を迎えるのだろう。
「お手伝いしますよ」
「あぁ、ありがとうね、それじゃあこっちを頼むよ」
2人で部屋を片付けて、1時間が経った頃彼が運ばれてきた。
顔はとても綺麗なままでほんとに眠ってるみたいだった。
(あぁ、やっぱり夢じゃなかったのか。)と心が苦しくなった。
そして葬儀屋が来て、お葬式日付などをきめた。
お葬式までは彼の実家に泊まらせてもらった。
そして彼のお葬式には、親族、大学の先生や友人などが集まった。
「莉桜」私の友達である佳奈が声をかけてくれた。
「佳奈ちゃん」
「気をしっかり持ってね。なんかあったらすぐ言って」
「うんありがとう」
これが何もかも現実なのか、とても信じられるものではなかった。
お葬式が終わり、色々と落ち着いた頃私は彼とすごした家へと戻った。
何も無い、住んでいた心地すらなかった。何度、寝室、リビングなど確認してもやはり彼の姿は無く、彼の服や、彼との写真だけが残っていた。
唯一、彼を感じられる物は彼の吸っていたタバコの空き箱だった。
うっすらと彼の匂いがした。もう、あの日常が消えてしまったのだと改めて実感した。
なかなか眠ることが出来ず、次の日私は学校へ向かった。憂鬱だった。
学校の時間では佳奈ちゃんが何度も心配してくれて少しは気が楽になった。
そして学校終わり、私はいつものカフェに向かった。
ほのかに甘い香りがして嫌いじゃなかった。そしていつもの喫茶店に向かうと、マスターが、
「莉桜ちゃん…健斗くんの話は新聞で見たよ大丈夫なのかい?」
と声をかけた。
「なんとか、落ち着きましたけど、まだ現実を受け入れられていません」
「そうかい、そうだよね。君達は常連さんだったから何かあったらすぐ言いなよ。」と心配してくれた。
「ありがとうございます」
そして、少し喫茶店で過ごしたあと、またあの家へと帰った。
なんの音も無く、いつもの彼の「おかえりーただいまー」もなかった。
携帯を見ても。やはり、彼からの返信、既読すらなかった。
何もかもを失った気がした。まるで私は抜け殻のようになってしまった。
彼の死から1年が経ち、私は20歳になった。
その日の学校の放課後、コンビニで彼の吸っていたメビウスオプションパープルのタバコを買った。少し甘い匂いがするタバコだ。
そしてその後喫茶店へと向かう。
「莉桜ちゃんいらっしゃい」
「こんにちはマスター、灰皿お借りできますか?」
「うん、いいけど20歳になったの?」
「はい、今日で」
「そうか、おめでとう、はい、灰皿」
「ありがとうございます」
タバコを咥え、カプセルを潰す。シュボッと火をつけた。
タバコの火の付け方は彼から教わったことがあった。
一口吸うとケホケホっとむせた。苦くて臭かったけど、微かにあの甘い香りがした。彼の匂いがした。
「無理して吸うもんじゃないよ」とマスターが、気遣ってくれた。
「はい、けどもう健斗くんを感じれるものこれしかなくて」
「そうか、もう少しゆっくり吸いな、ちょっとずつ慣れていくといい。」
マスターに言われた通りにしているとだんだん慣れてきた気がした。
それから1週間が経ち、私はタバコを吸うようになった。
その日の夜、久しぶりに外へ出てみた、薄暗くて、静かで怖かった。
近くの公園へ行こう。軽く散歩をしながら公園へと向かった。
公園へつき、タバコを吸おうとポケットに手を入れると、ライターを持ってくるのを忘れていた。
近くを見渡すと、1人男の人がいた。どうやらタバコを吸ってるみたいだった。
「すいません、ライターを貸してもらってもいいですか?」
声をかけると少し驚いた表情をしていた。
見た目は私よりも若く見え、明らかに未成年だった。
「あぁ、どうぞ」
とライターを貸してくれた。
少し話すと彼は渚くんと言うらしい。少し可愛げがあって、でも大人っぽくて、まるで健斗くんみたいだった。
ライターのお礼に飲み物を奢った。彼と話していると、不安が消えていった。少し、心が軽くなった気がした。
そして、別れる時、私はまた彼と話せたらと思い、
「今日は楽しかった!また、会えない?」と、声をかけた。
彼は「会えます」と答え、また夜会う約束をした。
その日の帰り道月を眺め私は、
「今日みたいな夜は悪くないかも」と、思えた。
感想やアドバイスお待ちしています!!