今回は大分短めです。
昔から、剣術が好きだった。
それは
試合はもっと好きだ。
相手と技術を、努力を、発想をぶつけ合うその一瞬が他の何より楽しい。
色んな流派があって、色んな刀使がいる。皆の剣術を見るのが楽しくて、わざと試合が長引くようにする事だってあった。
それは相手にとって何よりの無礼だって分かってるけど、打ち合いから伝わる「心」は何より綺麗だった。
そう、剣術は人を語る。
油断があれば無意識に加減してしまうし、迷いがあれば太刀筋も揺らぐ。
反対に、気を引き締めて迷いを断てばそれは必勝の一太刀になる。
その時の健康状態、コンディション、全てが反映される以上剣は口より雄弁だ。
だから──
だからこそ、彼女の心が分からない。
美濃関学院中等部2年、星切依奈──依奈ちゃんは、私の理解を超えた人間だった。
初めに会った時は溌剌とした、裏表の無い人だと思った。それは打ち合いからも簡単に読み取れた。
基本を徹底した鮮やかな剣筋には惚れ惚れしちゃった。初志貫徹って口で言うのは簡単だけど、そうそう出来る事じゃない。
それだけ積み重ねた努力が感じられたから、きっと悪い人じゃないって思ったんだ。
……まあ、ちょっとおどけた喋り方をするからビックリする事もあったけど。
『ダメだなぁ、私。これじゃ満足出来ない』
『依奈ちゃん……?』
1ヶ月位一緒に鍛練して何かがおかしいって思った。
依奈ちゃんは、不気味な位に基礎的な事しかしていなかった。ただ振って、振って、それで終わり。
試合の時も、悪く言ってしまえば「つまらない」物だった。仕方無くやっていると言う雰囲気がありありと伝わる、侮辱行為ですらあった。
何でそんな事をするのか、と聞けば適当にはぐらかすばかりで、私には何も教えてくれなかった。
全く何を考えているのか分からなくて、私もただ困惑するだけだった。
『よ、依奈ちゃん!もう止めようよ!3日連続でなんて無茶だよ……!』
『……別に。それより、こんなんじゃ足りない。もっと、もっと斬らせてよ』
でも、1度荒魂を斬ったあの日からもっと依奈ちゃんはおかしくなった。
毎日毎日、授業が終われば先輩達にくっついて荒魂討伐に向かった。休みの日も関係無く、昼夜問わず荒魂と聞いただけで飛び出していっちゃう。
刀使の使命は
だけど依奈ちゃんは違う。
まるで機械のように、ただ淡々と荒魂を斬る。斬って、斬って、そうして足りない「何か」を埋めている。
なのに斬った後は満面の、いっそ不気味な位明るい笑顔になる。
どれだけ傷付いても、どれだけ苦しくても。
依奈ちゃんは何も語らない。
自分の事も、他人の事も。
全てに線を引いて、その向こう側から此方を眺めている。
いつも浮かべている薄い笑みだって、他人を誤魔化す為の仮面でしかない。
だから。
だから────
「
「ふぅん。なるほどねぇ」
午後10時、美濃関学院の武道場で私と依奈ちゃんは相対していた。
鎌府での一騒動が終わり、戻ってきていた依奈ちゃんを呼び出したのは私。
こんな時間だから巡回の警備員以外が通らないし、それもついさっき行ったばかりだ。
──つまり、思う存分闘える。
「バレたら1発でアウトだね。御刀返納の上退学処分間違いなしだ」
「勿論!よく理解した上で言ってるよ」
夢で
『んー。私に覚えは無いけど、可奈美は私の娘なんだよねぇ?』
『そ、そうだよ。それが何か──』
『だったらぶつかってみるしかないでしょ』
『え──』
『私も可奈美もさ、多分器用な方じゃない。手先が、とかそう言う話じゃなくて生き方がかな。そんなに賢くあれる訳じゃないのよ』
『まあ、そうかも……』
『なら自分に出来る方法でぶつかって、本音を引き出してみるしかない。それが私達には
右手で
確かにそうだ。剣は言葉以上に雄弁だ。怒りも喜びも悲しみも、人の意思は刀に乗る。
なら剣で問いかけよう。ちょっと野蛮かもしれないけど、これが私のやり方だ。
私が迷えば迷うだけ依奈ちゃんは遠くに行くから、もう何も考えない。思ったままをぶつけるだけ。
「さあ、やろうよ。2人だけの決闘」
「……分かったよ」
依奈ちゃんが
この2ヶ月で、依奈ちゃんは変わった。最初の穏やかな雰囲気は消え失せて、もっと鋭い、それこそ刀のような抜き身の気迫を漂わせている。
だけど、それはねえ?
──落とし下段で余裕ぶって、思ったより頑固って事?
良いよ、分かった。
どこまでも隠し通そうって訳だ、依奈ちゃんは。でも構えで分かっちゃうよ、それ。
それならもう言葉なんていらない。最初から全力全開、どの道喧嘩なんだから後先なんて考える必要もない。
問答無用で依奈ちゃんの鉄仮面ひっぺがして、その下の素顔を拝んでみせる。
「────覚悟してよね、依奈ちゃん」
・衛藤可奈美
落とし下段で余裕こいて、思ったよりヒゲです!(人違い)