刀使ノ巫女RTA 漫画版離反ルート   作:イナバの書き置き

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次回は走者パートも書くので許してください!
何でもしますから!


第6回(中編)

「──やぁっ!」

 

「──ッ!」

 

 観客はおろか、明かりすら無い武道場に鋼が閃く。模擬戦ではない。

 写シを展開し迅移を用いた、本気(ガチ)の決闘である。

 攻める少女、名を衛藤可奈美。

 守る少女、名を星切依奈。

 両者の力量は一見して互角──のように見える。

 

「どうしたの依奈ちゃん!こんなものじゃないでしょ!?」

 

「……言ってろ!」

 

 技術なら勝っている、と可奈美は確信した。

 思い返せば依奈は「基礎」に異様なまでの執着を見せていた。寝ても覚めてもただ無心で、自らに基礎を徹底させていたのだ。

 2ヶ月前は不安を抱いているのかと思った。基礎を完遂せずに応用を学ぶ事への恐怖が彼女を練習に駆り立てるのだと、そう勝手に思い込んでいたのだ。

 だが、違う。

 

(間違いない。依奈ちゃんは基礎から先を()()()()()()()

 

 依奈は歪だ。剣術の応用という言葉にまるで興味を示さなかった。

 荒魂を効率的に討伐する事を望みながら、何故か頑なに成長を拒んでいる。例えるなら、地震でもビクともしない基礎を作っておきながらその上に態々掘っ立て小屋を建てるようなモノだった。

 普通に考えてもおかしい事なのだから、剣術に熱心な可奈美が理解出来ないのは無理もない話と言える。

 基礎しか用いてこないと言う事は、剣筋のパターンが少ないと言う事だ。そして滅茶苦茶に振り回した所で相手に通用する筈もないのだから、可奈美は自らの優位を確信したのだ。

 が──

 

(──でも、押し切れない)

 

 もう何合打ち合っただろうか。

 可奈美は最初からカウントするつもりが無かったし、恐らく依奈もそうだ。ただ思いを乗せて、打ち込む。それが何十分も続いているのだが、勝負が付く気配は一向に見当たらない。

 既に攻守も決まっていて、幾度となく打ち込んだのに何故か攻めきれないのだ。

 可奈美はそれを「経験」の差だろう、と推測した。

 実際の所、依奈が討伐任務に従事するようになってからまだ2ヶ月も経っていない。しかしながらその僅かな期間で渡り歩いたのは特に過酷な戦場である。中型から大型の、複数の刀使で対処するのが当然とされる任務を単独でこなす様は誰がどう見ても異様だった。

 つまり荒魂との過酷な闘争に進んで身を投じた事で、人並み外れた危機察知能力を手にしたのだ。

 その証拠に────

 

「──やっぱり」

 

 逆袈裟が空を裂く。

 踏み込む直前で、つんのめるようにして依奈が立ち止まったからだった。

 試合なら、姿勢を崩せばそこで終わりだ。しかし実戦ならまだ悪足掻きには繋がる。

 とことん頑固で、諦める事を知らない少女の1面が発露した瞬間である。

 

「コレも、避ける」

 

「──くぅぅっ!」

 

 そして、立て直しも素早い。

 前傾姿勢から獣のように飛び退った依奈は、5間程の距離を空けて再び下段に構え直した。

 此方に踏み込ませず、踏み込まない。無理に踏み込んだらその分下がって、そしてまた距離を取らされる。

 掴み所が無い依奈の生き方そのものだ、と可奈美は思った。2ヶ月程度の付き合いしかない可奈美でも、剣を重ねればすぐに分かる事だった。

 剣術でも人間関係でも、距離の取り方に於いては達人の域に到達しているに違いない。

 

 ──だから、逃げる前に押し入ってみせる。

 

 これは喧嘩だ。

 譲れない「何か」の為に互いの本心をぶつける儀式なのだ。そこには道理も善悪も関係なく、剣術すら相手の主張を引き出す為のツールに過ぎない。

 口で言うよりこっち(剣術)の方がやり易いからそうする、と言うだけの話であった。

 が、依奈からすれば不本意な事この上ないらしい。

 

「──ち、気色悪いんだよ!」

 

「酷い事言うなあ」

 

 他人の心を剣で読み取るなど常人のする事じゃない、と依奈は吐き捨てるように言った。しかも可奈美の「悪い癖」は最大限発揮されている。相手の底を見透かし、もっともっとと飽くなき強さへの探求を見せるその様が依奈は気に食わないのだ。

 

「ホントは終わらせられる癖に手加減なんかしてッ!」

 

「そんな事してないッ!」

 

「嘘を言うなぁっ!最初に会った時からずっとそうだ!」

 

 最早剣術とは呼べない、独楽のように半回転した依奈の薙ぎが可奈美を急襲する。

 

「──ッ!」

 

 可奈美の首を両断する筈だった一閃は、しかし彼女が残像と共に消失した事で空を裂いた。

 

「2段階か──」

 

 可奈美は迅移の段階を引き上げ、一気に加速して剣閃を回避したのだ。

 そして御刀を振り抜いた事でがら空きとなった依奈の背後から──

 

「貰った!」

 

 流れ星である。

 闇夜に沈む道場に、剣と言う星が流れたのである。

 正に神速と呼ぶしかない速度で放たれた可奈美の「突き」が依奈の左脇腹を食い破った。

 

「うぐうううっ!」

 

「獲った──」

 

 写シを展開していれば、肉体に損傷を負うことはない。

 が、痛みに限ってはそうではないのだ。腕を落とされればその痛みを感じ、全身を切り刻まれれば同等の苦痛を体感する。

 故にこの瞬間、星切依奈は自身の胴体が真横から串刺しにされる苦痛を余すことなく受け止めているのだ。

 

「──いいや、まだだ!」

 

 しかし濁った咆哮と同時に、依奈の全身が黄金色に光り輝く。

 咄嗟に飛び退こうとした可奈美は、想定外の固い手応えに驚愕した。

 

「千鳥が抜けない……!?」

 

 そう、金剛身である。

 肉体を瞬間的に硬化させる能力を御刀が突き刺さった状態で発動し、千鳥を自らの体内で固定したのだ。

 

(御刀を奪うつもり──!?)

 

 一瞬の内に可奈美は依奈の戦術を看破した。

 刀使の能力は全て御刀を介して発動する。迅移も八幡力も、御刀をその手に握っていなければ行使する事は出来ないのだ。もし御刀を手放してしまえば、そこに残るのは非力な少女である。

 依奈は最初からこの一瞬を狙っていたのだ。

 

(引き抜くのも、間に合わない──)

 

 依奈は既に山鳥毛を振り上げている。

 回避不能、防御不能の一撃必殺が打ち込まれ────

 

 

 

■■■

 

 

 

 一見依奈と可奈美の他には誰もいないかに見えた道場だったが、しかし問答無用、情け無用の決闘を傍観する者達があった。

 

「おいおい……!ヤバいなアイツら」

 

「ねー……」

 

 頓狂な声を上げたのは舞草の刀使「益子薫」と守護獣「ねね」である。

 今、1人と1匹の視線の先では、可奈美が振り下ろされた御刀を左手で受け止めた所であった。

 たとえ無理な姿勢でも、刀使の強化された筋力による一撃はバカにならない。

 この場に於いてもそれは例外でなく、可奈美の腕は肘まで真っ二つに裂けてしまっていた。

 しかし可奈美は苦痛に顔を歪めているものの戦意は衰えず、互いに押すも退くも出来ない膠着状態に陥っているのだ。

 とても正気とは思えない、と薫は1人ごちた。

 

「て言うか何で決闘してんだコイツら……。バレたら停学どころの騒ぎじゃ済まないだろうに……」

 

 そもそもからして薫がこの場にいるのは単なる偶然である。夕刻頃に美濃関に降り立った薫は、羽島学長への挨拶もそこそこに寮舎へと向かっていた。

 その途中本当に偶々、しかし彼女にとっては不幸な事にこの異様な剣戟音を聞いてしまったのである。

 そうして興味の赴くまま道場に忍び込み、物陰から決闘を観察しているのだ。

 しかもなまじ監視対象が当事者であるが故に見なかった事にも出来ず、立ち往生しているという訳だ。

 そして観察者はもう1人いた。

 

「可奈美ちゃん……」

 

 胸の前で祈るように両手を重ね、親友の名を呟く少女あり。

 柳瀬舞衣である。

 彼女がこの場に現れたのは、決して偶然ではない。

 

「最近思い詰めてると思ったら、こんな事をするなんて……」

 

 ここ1ヶ月程、可奈美は「異様」であった。

 表面上は普段通りの笑顔を絶やしていなかったが、時折思い出したように複雑な表情をするのだ。

 やりきれないような、憧れのような、何とも言えないその表情を見る度に、舞衣の心は締め付けられた。

 何か出来ないのか。何か支えになれないのか。

 そうして悩み続けたまま、「その日」を迎えてしまったのである。

 今日、いつにも増して「異様」な表情を浮かべた可奈美は放課後になると同時に姿を消した。

 彼女らしからぬ行為に不安を覚えた舞衣は学舎中を探し回り、そうしてようやくこの道場に辿り着いたのだ。

 

(私は……私はどうすれば……)

 

 決闘の終わりは見えない。

 そして舞衣が己の苦悩に解答を見出だすのも、今ではないのだ。

 

 

 

■■■

 

 

 

「……はぁ」

 

 かちかち、きちきちと機械を弄くり回す音が静寂な空間に響く。

 

「……はぁ」

 

「ちょっとぉ、そんな溜め息吐くなら手伝って頂戴」

 

「吾レに機械弄りをしろと?」

 

 馬鹿も休み休み言え、と荒魂スルガはぼやいた。

 何もかもが、この数日の内に起こった。

 突如現れた少女に折神紫への憎悪をへし折られたと思えば焚き付けられ、口車に乗せられて鎌府を襲ってみればリディア(狂人)ストームアーマー(S装備)を奪取していた。

 全く思考が整理出来ていないのだ。異常事態の嵐が過ぎ去った後で、ぽかんと呆けているのがスルガの現状である。

 

「何がどうなっているのだ……」

 

「何だって良いじゃない。私達の行動原理は折神紫への復讐だけでしょぉ?」

 

「それはまあ、そうだが……」

 

 しかもこのぶっとんだ狂人と2人きりである。

 気が滅入るとかそう言う次元ではない。いっそ自分を限界まで分割して思考能力を喪失してしまおうか、と思う程にスルガはげんなりしているのだ。

 せめて依奈がいれば──と、既に大分歪められた思考でぼやきつつ、この倉庫に鎮座する航空機へと向き直った。

 

「で、これはどう改造するのだ。刀使専用の装備を輸送する物だとは聞いているが、ミサイルにでもするのか?」

 

「──あらぁ」

 

 まあそんな訳ないか、と苦笑したスルガだったが、少し意外そうなリディアの表情に底知れない不安を抱いた。

 

「よく分かったわねぇ」

 

真剣(マジ)か……」

 

 どうやら想像以上に依奈とリディア(コイツら)は馬鹿者らしい。

 確かに人間相手には有効な手段だが、本当にそんな事をしようとする輩がいるとは──!

 いよいよ頭を抱えそうになったスルガを他所に、リディアは語り始めた。

 

「まあそれだけではないけど。どうせ2度目はないのだからコンテナ部分は使い捨てるとして本来の輸送手段としての目的も果たす必要があるわええ絶対に何がなんでも是が非でも折神紫を殺して潰して斬り捨てて誅殺して解体して晒して勝利する為の最終装備を作り上げるの──ところで」

 

「うん?」

 

「S装備の『S』はストーム(Storm)のSよね」

 

「ああ、それが?」

 

「それってぇ、おかしいとは思わない?ストームなんて、刀使には全く関係ないじゃない。不適切な事この上ないわぁ」

 

「まあ、そう──いやそうなのか?」

 

「だからぁ、私が作るのは本当の『S装備』。目的と手法を洗練した究極の支援装備にして、機械と刀使と荒魂、三位一体が織り成す究極の()()を創造する機構」

 

「故に刀使と言う抜き身の剣を納める(Sheath)と言う名こそこの鎧に相応しい」

 

 

 

 

 

「──そう思わない?スルガ」




・5間
約9mらしい。

・スルガ
頭が狂ってしまった人と2人きりの相対的常識人。
かわいそう。

・S装備(シースアーマー)
コンセプトワークスより。正直こっちの方がネーミングセンス良いと思うし沙耶香ちゃんの五連装村正見てみたかった。
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