さて、
回収したらそのまま左区画に走ります。止まるんじゃない! 犬のように駆け巡るんだ!
……
障害物多めで手間取っているようなので、何故ここまで急いでいるかについて……お話します。
まぁ端的に言うと大荒魂特効の武器を回収したいんですね。既に条件はクリアされているので左区画にランダムで保管されている筈です。
追っ手の夜見ちゃんは移動速度こそ速くありませんが、常時こちらへの最短ルートで接近します。なので棚を漁っている最中に追い付かれたら即座に詰みです。
さて左区画に辿り着いたホモちゃんが物色を始めました。経験上後30秒は余裕がありますね。なるべく早期に見つけてくれるとありがたいのですがこればっかりは運任せです。
「これって……スルガの時の……」
……お、あっさり見付けてくれましたね(ホモにあるまじき豪運)
ホモちゃんが怪しげな段ボール箱から取り出したのは何と赤羽刀──しかも南无薬師瑠璃光如来景光のです。
この赤羽刀は刀として装備出来ず、投擲出来る消耗品でしかありません。加えて命中しても大したダメージにはならないのですが、驚くべき事に属性「大荒魂」を持つエネミーに命中させた場合短時間のスタンを含む複合デバフを付与してくれます。
だから序盤にスルガを倒す必要があったんですね。
タギツヒメ一形態につき一振使用するので三振回収しましょう。漫画版ルートで無ければ回生して二刀流で殴り込む事も可能なのですが今回は純粋にアイテムとしての用途で使用します。
「ふふ……見付けましたよ、百重奈さん」
丁度夜見ちゃんも到着したのでスムーズに迎撃しましょう。
以前習得したスキル「抜刀術」を発動します。このスキルは発動中一切移動出来なくなる代わりに、一定範囲内に侵入したエネミーに対して確定で先制する事が出来ます。
何度も使用すれば相手も対策を取って来ますが、夜見ちゃんは初見なのでまず大丈夫でしょう。
「……抜刀術? あなたが……?」
「勿論!
ここの夜見ちゃんは煽り耐性も最低クラスなので、それっぽい事を言えば乗って来てくれます。
さあ114!514!胸にかけて胸に!
「どこまでも私を虚仮にして──ッ!?」
「遅い」
バツンッ
よし、上手く左腕だけ切り落とせましたね。ノロの力でまた生えるからヘーキヘーキ、安心しろって。
宙を舞う左腕を回収したらもうここに用はありません。全速力で撤退しましょう。このまま夜見ちゃんを放置するのは心苦しいですが、タァイムの為の犠牲になって貰います。
今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。
────あ。
決着は一瞬だった。初めて見る彼女の抜刀術は、私の力に任せた鈍い振り下ろしを容易にすり抜け、左腕を斬り飛ばした。
痛みすら感じない、鮮やかな一閃だった。
──負けた。完膚なきまでに負けた。
クルクルと宙を舞う左腕をぼんやりと眺めながら私は感傷に浸っていた。閉所に誘い込んだのも、手加減を思わせる発言をして冷静さを奪ったのも、全部百重奈の手のひらの上だった。
──結局、私は追い付けないのか。
非道に手を染め、悪事を働き、人間を止めてもなお届かない頂点に彼女はいるのかもしれない。
右目から生えた「目」も徐々に崩れていく。赤みがかった視界を平素の味気無い世界が塗り潰した。
──見えていたのに。
ポツリと思った。見えていたのだ。あの鮮やかな一閃、きっと並の刀使──いや、燕さんや紫様でも見切れるか分からないそれを、私だけは確実に《見えていた》。
初見だから対応出来なかったなど見苦しい言い訳に過ぎないが、次があれば絶対に斬り結べる。
──次があれば、ですが。
仰向けで床に転がったまま誰かに向かって独白を続ける。
腕は何れ再生するだろう。いや、再生と言うよりかは腕の形をしたノロになるのだろうが、御刀は握れる。
けど百重奈は?
きっと失望したに違いない。
人体実験で得た偽りの力。
何が悪か理解していてそれを見過ごした。
挙げ句自分の感情すらコントロール出来ずにこのザマだ。
こんな情けない人間を彼女はどう思うだろうか。飛んでいった腕の行方より、そちらの方がよっぽど気になる。
気が付けば百重奈が私のすぐ横に立っていた。ノロに侵食され、とても人の物とは思えない私の腕を担いだままこちらを覗き込んでいる。
「ごめんね、夜見ちゃん。『コレ』借りてくよ」
「……お好きにどうぞ」
殺そうと思えば殺せたのに態々左腕を狙ったのかも何となく想像はつく。きっとそこからノロを吸収して、自分の力に変えるつもりなのだ。そうやって能力を増強して紫様に挑む気だったのだろう。
……要するに私は前座だったのだ。負けた以上何も言う事は無いが、少し悔しい。
「あぁそうだ」
「……?」
倉庫から出ようとていた百重奈が突如踵を返して戻ってくる。まだ何か言いたい事があるのだろうか。困惑を隠せない私の横にしゃがんだ百重奈は、耳元でポソリと囁いた。
「また、試合しようね」
「────」
私の反応を見る事無く、今度こそ百重奈は走り出す。軽快な足音が遠ざかっていくのを見送った私は、重い体を無理やり引き起こして手近なコンテナに背を預けた。
「──今度こそ、勝ちますよ」
返事が返って来る事は無いが言いたい事は言っておこう。言いたい事も言えず、色々と鬱憤を溜めすぎたのも暴走した理由の1つだ。
次がある。だったらそれで良いじゃないか。
気がかりなのは紫様だ。
今の百重奈なら彼女に勝てないと言うことは無いだろうが、一筋縄で行く相手がではないのは確かだ。
出来る事なら私も追いかけたいが、今の状態では歩く事すら苦痛なので動く事は出来ない。
「出来るのは祈る事だけ……ですか」
本来、百重奈の隣に並び立ちたいなら敵対などするべきではなかった。ノロのせいか、嫉妬がそうさせたのか、そんな簡単な事すら見失っていたとは、情けない限りだ。
「……?」
諦めと共に投げ出した右手が、何かに触れた。金属質なそれを手繰り寄せれば、拾い上げたのは赤羽刀──
南无薬師瑠璃光如来景光の写シの1つだった。
「これは……」
何故だろう。理由は分からないが、この刀に強く惹かれる。
私ではない、
──何と?
得体の知れない感覚に恐怖を覚え、刀を投げ捨てようとした瞬間──視界が暗転する。
──1つに
何も見えない、暗い世界を落下する。何も見えず、体の感覚も無いのに何故か「落下している」とハッキリ分かるのだ。
いつまで落ち続けるのだろう。上手く回らない頭でぼんやりと考える。そもそもどこに向かって落ちているのか、それすら判別出来ない虚無の世界に私は放り込まれたのだ。
──我と1つに
暗いだけ、落ちるだけの退屈な時間は突如として終わりを告げた。遥か遠くで「光」が瞬いている。黄金色の輝きを放つ「それ」が一際大きく光った瞬間────
──我と1つに
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とじともだと殆ど出落ちだったアイツ。ストーリー見直してもアッサリ倒されすぎて一人称すら分からなかったのでオリジナル成分マシマシ。