傷吐き   作:めもちょう

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本編
一話


「オイ見たか昨日のニュース! 中学生がヘドロヴィランに捕まったってのを、オールマイトが助けたってやつ!」

「見た見た! オールマイトカッケーよなぁ。天気変えちまったってよ!」

「中学生の方もヤバくない? ウチらと同級だってさ。爆破の“個性”で抵抗したって、タフすぎん!?」

 

 まだ冬の居残りが風に感じる朝。でも教室の奴らの顔はそんなこと関係無しに明るくそれぞれ話してた。話題は勿論、昨日の大ニュース。その話題で持ちきりで、それ以外話してる奴らが居るのかどうかすら怪しいくらいだ。凄かったもんな、そのニュース。分かる。だから、今日くらい、朝は何も――

 

「あ~あ! ここにいるヴィランも、ついでに捕まっちまえば良かったのによー!」

 

 ――そう簡単に、見逃してくれないか。

 

「ヴィランとヴィランでお似合いだしなぁ! 今からでも取り込まれてくればァ?」

「ちょっとは強くなれんじゃねェのー?」

 

 ギャハギャハ笑う暴力加害者ども。朝の爽やかさとは程遠い、悪意に満ちた笑い声。教室が一気に淀んだ空気へ様変わりし、視線が席に着く俺に集中する。今日も、めんどくさい。

 

「オイ、ヴィラン!」

 

 加害者の一人が俺を見て言う。この教室でいう狭い意味でのヴィランっていうのは俺のことだ。母親がヴィランとして捕まっていて、俺も三白眼のヴィラン顔だからっつー、くだらなすぎる理由でだ。

 

「無視すんじゃねぇよヴィラン!!」

 

 反応するわけがない。俺は何も、法律を裏切っていない。

 

「だ~か~ら~! ヒーロー志望のヴィランよォ!」

「!」

 

 それをなんで知って……!

 俺がヒーロー志望であることを他のクラスメイトも今知ったらしく、ざわついた。そんな事より、何で知ってんだ。まだ、先生しか知らないはず……。あぁそうか。進路希望調査を雑に管理してたな担任。いじめを黙認してるあのクソ担任なら、やらかしそうなことだ。

 

「ヴィランが何で雄英目指してんだ、アァン? テメェは裏路地で惨めにくたばってる方がお似合いだぜ?」

 

 ギャハハと笑うそいつにつられて、加害者どもが笑っている。

 勝手にカミングアウトしやがった奴とは別の奴が、指の毛を針化させて俺の前にちらつかせた。見た目はメリケンサック寄りってところか?

 

「おつむがよろしいってだけじゃ、ヒーローは無理だぜ、ヴィランよォ!」

「“個性”をちらつかせて脅す奴よりは、適正は上だろ」

 

 言い返した瞬間、殴られた。毛の針は顔に刺さって、一々抜かなきゃならねえのに。痛い。面倒くさい。

 

「自分しか治せねぇ“没個性”に、何が出来んだ、アァ!」

 

 めんどくさい。何も言わないで針を抜いて、“個性”が勝手に傷を治すのを待つ。こいつらに付き合って良いことがあった試しはない。

 

「ハンッ! 何も言い返さねェ語彙力皆無野郎に、ヒーローは向いてねーな!」

 

 暴力が言語のくせして何言ってやがる。周りの奴らもだ。笑っていられるのも今のうち。法律が守ってくれるのは、俺だ。

 

 いくら血が出ないようにってほとんど服の下しか暴力しないところで、物に当たれば証拠になる。世の中にはDNA鑑定、繊維鑑定ってのがあるからな。“個性”の隠しているもう一つの効果で血を流してやれば、割と早めに暴力からは解放される。

 俺の“個性”は、こんな卑怯な奴らから逃げる為に俺に宿ったわけじゃないのに。

 

 別のグループに捕まらないように、放課後はいつも早足で学校から出ていく。今日は成功だ。

 人通りの多い表通りから人の少ない住宅街に入ると、見慣れた人影が俺に手を挙げて笑顔を見せた。

 

吐移(とい)!」

水面(みなも)さん!」

「おかえりなさい」

「ただいま」

 

 いつもお世話になっているお巡りさんと合流する。この地域のお巡りさんは優しい。俺の事情を知っていて、人通りの少ないところを俺を守って歩いてくれるんだ。水面さんだけじゃない。非番のお巡りさん総出だ。とんでもなく優しい。

 ただの虐め被害者にしちゃあ、俺は贅沢者だ。

 

「今日は……あまり怪我しなかったみたいだな。出血も少ない」

「うん。ヒーロー目指してるのバレて、馬鹿にされたくらいだ」

「……犯罪じゃないけど、罪だな。してないとは思うけど、気にすんなよ」

「するわけないです。犯罪者の言葉を気にするほど、バカじゃないです」

「……さっさと訴えとけよ。あんまりタイミングが良すぎると、不必要に恨まれるぞ」

 

 俺への虐めの事で警察が学校に口出ししないのは、俺が止めているってことが大きい。水面さんたちはあまりいい顔しないけど。俺の好きにさせてもらってる。

 

「相手が刃物を出してくれたらなぁ。もしくは、血がぶしゃって出て、服が破けて汚れたら分かりやすいのに」

「“個性”が仇なんてな。ちゃんと日記に書いとけよ。日常的に行われていたって証拠だからな」

「分かってる」

 

 季節的にまだ明るい道を歩いて行く。水面さんは少し気まずそうに切り出した。

 

「なぁ、吐移……。ヒーローじゃなきゃ、ダメか?」

「? どうして?」

「いや、奴らの言葉じゃないけど、吐移の“個性”はヒーローで活躍してくには、力不足ではあるから……。消防士なんて、あ、特別救助隊とかどうだ? 吐移はヴィランと戦うより、災害から人を救う人間の気がするぞ」

「……ありがとう」

「納得できない?」

「いや、その選択肢もあるのかって……。考えてみる」

「そっか。良かった」

 

 歩き続ければ、いずれは家に着く。俺の家は養護施設。ここの為にももっと金、貯めなきゃな。早く出て、お荷物から卒業だ。

 

「それじゃあ、送ってくれてありがとう」

「明日は(すずみ)だぞ」

「うん、分かった」

 

 水面さんと別れて中に入る。入れば、俺より早くに帰っていた小学生5人が宿題をして待っていた。

 

「あ、正兄、おかえり!」

「正兄おかえり! これ教えて!」

「お邪魔してます」

「ただいま」

「正兄、笑ってー」

「痛いから無理」

 

 宿題してる5人のうち3人はここの子じゃない。この施設は子ども食堂と無料塾を兼ねていて、塾は7時から今日も開かれる。俺はそこでほぼ無償のバイトをしてる。ほぼっていうのは、1日1000円は貰ってるから。他の人は完全ボランティアだから俺だけの話だけど。多分そのボランティアの方々から俺も恵んでもらってる。そうとは教えてもらえてないけど。甘えられるうちにご好意に甘えときなさいって涼さんから言われたから、その通りにしてる。だから、バイト頑張ろう。

 今集まってるこの子達は5時からの子ども食堂の前に宿題を終わらせたいんだろうな。早々に終わらせて、俺も宿題しよう。この子ら別に頭悪かねーし、ちょっと教えればすぐ自分で解けるからな。

 

「漢字教えて」

「辞典の引き方教えるから、自分で調べて。その方が覚えるから」

「分かったー!」

 

 小3の男の子は長年使われ続けてボロボロの国語辞典を持って、俺の近くに座った。この子達は俺が笑わなくても怖がらないから楽だ。女の子たちは俺の目つきが怖いらしくて教わりに来ない。まぁ無理する必要はない。この子達から教わればいいからな。

 

「それじゃなくて、漢字辞典な」

「違うんだ?」

「違うんだよ。それ俺使うから置いといて」

「はーい」

 

 自分の国語辞典はこの間使い物にならなくなった。学習の機会を奪うあんな卑怯な奴らに負けてたまるか。人を傷つけてばかりのヤツらを見返してやるんだ。だから俺は雄英に行って、ヒーローになるんだ。国立は学費も安いしな。

 

 

 

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