傷吐き   作:めもちょう

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十一話

 元々無いような表情に疲れを乗せて、俺は言う。

 

「……変わっちゃいないよ。なりたくない理由は。まあ、いくらか人より人生ハードモードだけど、それでも幸せになりたいし、幸せを目標にするならヴィランは向いてないって思うだけ。特別救助隊を目標にしてるのは、命を奪った母親に代わってって思いもあるからかな。単純にヒーローに一番近いと思ったからだけど……」

 

 ヒーローを強く希望していることはバクゴー君たちには言ってないから、これでいい。

 

「確かに、あいつらは憎い。憎いさ。でもね、バクゴー君。俺は母親とは違うんだよ。話を聞いてくれる人も、守ってくれる人も、いたんだよ」

 

 これは、本心だから。

 彼に顔を向けて言う。

 

「もちろん、バクゴー君もだよ」

 

 ああ、変な顔。見たくない。

 

「だから俺は、ヴィランにならない。救けてくれた人たちを、悲しませたくないから」

 

 君きっと、一度誤魔化そうとした俺を怪しむでしょう? 雄英から警戒されている俺に興味を持つでしょう? 注目しろよ。俺から逃げるな。

 

「そうかよ」

 

 ああ、釣れた。さぁ情報源さん、まずは昨日のことを教えてくれよ。俺の関与が疑われている、ヴィラン襲撃事件。何があったかくらい、教えてくれよ。

 

 へえ、大量のチンピラに、手の模型を全身に取り付けたキモい男、黒いモヤを纏ったワープ男。複数の個性を持った怪人、脳無が、USJ(嘘の災害や事故ルーム)に襲撃をかけてきた、と。狙いはオールマイト。自分を衰えたと言っていたオールマイトは、生徒の力を借りながらもヴィランたちを撃退していて、バクゴー君の目には全くそうは見えなかったらしい。実際に見た人がそういうんだから、そうなんだろうな。

 

「すごいね。チンピラとは言え、多人数相手に戦って、勝って、オールマイトを()()()()と駆けつけたんでしょ? そんな危険な奴らに……すごいな。俺はそういうことが出来る“個性”じゃないから、人質になるのも嫌だし、逃げるかなぁ」

「ザコは逃げとけ」

「流石に言い返せないや」

 

 ヒーローなら逃げずに立ち向かえって話だけど、迷惑かけたり死んだりしたら、意味無いしね。

 初めて飲んだプロテインの味は、粉っぽいというか、うん、美味しくなかった。こいつが筋肉になるのかぁ。本当にお前、タンパク質入ってんのかよぉ? ……俺はここまでの贅沢、望んでなかったんだけど。バクゴー君優しすぎない? ノリノリすぎない? なんかこのトレーニングを、バクゴー君も利用してんのかなぁ?

 

 

 

 家に帰る電車の中で振り返る。

 俺は、嘘を吐きすぎて、いらない緊張をしている気がする。思い出してもみろ。俺がバクゴー君とお近づきになりたいと思った理由を。単に友達になりたいと思ったからだったじゃん。何が情報源だよ。もっと単純に仲良くしようとすればいいのに。

 いいじゃん。バクゴー君に俺が雄英から警戒されてると知ってたって。復讐心をまだ持ってるって知ってたって。

 俺は何もしない。ヴィランにならない。黒いキューブも使わない。だから、怖がるなよ、俺。

 

「キューブ……」

 

 黒いキューブ、溜まりすぎているのか、たまに体からポロリと転げている。使わないと、もう、しまっておけない。

 

「大きめの箱でも、買いに行くかぁ」

 

 俺の体から出たそれが長時間形を保つのか、自然に砕けて触れている物質に影響を与えるのか、よく分からない。実験したことがない。

 そろそろ雄英体育祭。黒いキューブを使っても違反にならないように、役所に相談しにも行かなくちゃ。次の日曜日だな。……空いてる?

 

 

 

 金曜日。担任から言われた雄英体育祭の話で、クラス中持ち切りだった。なんせ俺たち普通科にとってはヒーロー科編入のチャンスだからだ。ヒーロー科だけの目立つ場所じゃない。

 

「俺たちだって、やってやろうぜ! 成り上がれ!」

 

 俺の呼びかけに、皆腕を上げて答えてくれた。ノリのいい人達だ。大好き!

 

「吐移、今日は俺たちと飯食おうぜ」

「え?」

 

 昼休み時間。畳くんに有無を言わせない態度でそう言われた。どうしたんだろうか。

 

「ヒーロー科の奴らと交流のあるお前の話、聞いてみたくってよ」

「昨日も爆豪とトレーニングしてたんだろ? 少しでも情報が欲しいんだよ」

「なるほどなぁ」

「久しぶりにうちのアイドルとお食事できる!」

「記見は黙ってろ」

 

 シンソー君の言い分で何が目的か分かった。なら、もうちょっと話しときゃよかったなぁ。

 

「それじゃあ、大食堂に行こっか」

 

 いつも通り弁当を持って、久しぶり、4日ぶりにC組の友達と食べるな。ところで記見さん。アイドルって何?

 

 バクゴー君に「放課後の稽古の場所、どこ?」とメールを送ってから、3人に話を始めた。

 

「残念だけど、俺が知っているのは3人だけ。

 “爆破”のバクゴー君

 “硬化”の切島くん

 “帯電”の上鳴くん

 この三人しか今のところ知らないよ。見たことあるのは入試会場が一緒だったバクゴー君。彼は両手のひらから爆破を繰り出せる。大規模のものから小規模まで、それを推進力として飛行も出来る。かなり使い込まれた“個性”で、彼自身も戦闘センス高いよ。俺も1体、3Pヴィラン取られたしね。……それから、彼の近くにいると、いい香りがする。きっと、爆発性の高いニトログリセリンが手のひらから分泌されているんだ。最後の最後まで爆破音が聞こえていたから、体力も多いよ。頭も良いだろうしね」

「爆豪のことばっか知ってんな」

「他の人とはまだ話したことないしね。てか、まだ二日しか会ってないんだから、仕方ないでしょ」

 

 まぁ、自ら他クラスの人に仲良くなろうと近づいてるし、多少は知ってること多くなるかもだけどさ。なんで記見さんは不機嫌なの。

 

「他二人で知ってることは……、切島くんは漢! って感じの人で、上鳴くんはチャラ男かな。でも侮っちゃいけないよ。この三人含めて、A組は皆、一昨日のヴィラン襲撃を経験して生き残った、ただの生徒じゃないんだから」

 

 そこまで言い切って、シンソー君の目線が気になった。俺を向いてない。その視線の先に何があるのか気になったけど、記見さんに続きを急かされて、俺は昨日バクゴー君から聞いた事件のあらましを話した。なんか機密情報っぽい気がするから、個人が特定出来そうな情報は話さないようにフェイクを交えることを意識しながら。嘘吐くのが得意だとホントこういう時役立つねぇ。

 ……シンソー君は何を見てたんだろ。結局分からなかったな。

 

 あっという間に時間は過ぎて、放課後。C組の皆はA組の教室前に行く計画を実行しようとしていた。

 皆、A組の人たちの情報が欲しいんだろうな。情報収集するのも立派な戦略だ。でも俺としてはおバカと思う。友達でもないのに情報は売らないでしょ。見た目じゃ分からない“個性”の人も居るし、自分を磨いてた方が勝てると思うよ。

 

 帰り支度をしていると、シンソー君に呼ばれた。

 

「吐移、今日も爆豪と稽古か?」

「そのはず。まだメール帰ってきてなくて、場所分かんないけれど」

「そうか」

 

 シンソー君は何か企んでいるようだ。そんな感じの笑みをしている。

 

「吐移。お前に、スパイになってもらいたい」

「……スパイ」

 

 何? 何? 面白いじゃん。内通者と疑われている俺に、そんなこと要求しちゃう?? ……違うな、C組の皆は知らないし。流石に今のは心汚すぎた。落ち着こうぜ、俺。

 

「いいよ。出来たらね」

「やらない常套句じゃないか」

「相手はバクゴー君だよ? あれ以上、俺に情報をバラまくような男じゃないと思う。やれるだけやってみるよ」

「頼んだ」

 

 

 

 頼まれたからには、出来る限りの努力はしないとかな。

 

「今頃皆、A組の教室前で、たむろってんのかなぁ……」

 

 そんなことを呟く俺は一人、下駄箱前でバクゴー君を待ち伏せしてた。というか、俺のメールにまだ返信してくれないんだけど。一体どういうことなんですかねバクゴー君! 稽古を辞めるにしても、せめて一言ちょうだいよ!

 なんて考えてたら、教室の方が騒がしくなって、一瞬静まり返って、またざわめきだした。……バクゴー君って、ヘイト稼ぎ上手そうだよね。もしかして、この騒ぎも彼が関係してたりして。声の大きい彼のことだ。ありそう。

 

 あ、バクゴー君来た! なんだか考え事でもしてそーな顔してんね!

 やっほー! って心の中で呼んで手を振ったら、何か睨まれた。なんで!?

 

「いい趣味してんな、ストーカー」

「何ひっど!? 昨日、放課後稽古付けてくれるって言ってくれたのに、集合場所教えてくれなかったからだろ?」

「昼休みに俺んとこ来ねぇからだろ」

「それについては、ごめん。別の友達に誘われちゃって……。でも、メール入れたよ?」

「メール?」

 

 やっぱり! メール見てくれてなかったんだ! ひっどぉい!

 自分でも吐き気がするような、可愛子ぶってプリプリしてたら、バクゴー君にフンッて、鼻で一蹴された。

 

「てめェへの稽古は中止だ」

 

 ちぇっ。やっぱりそうなっちゃうか。

 

「残念。君のトレーニングを真似すれば、少しは君対策が出来ると思ったのに」

 

 君との訓練の成果として笑ってみる。ちょっとは成長したとは思わない? ねぇ、バクゴー君?

 バクゴー君の返してくれた笑顔は、なんとも凶悪だった。わーこわーい!

 

「てめェ、最初からスパイ目的で……」

「ちょちょ、それはさすがに違うって! 襲撃に遭う前だっただろ、稽古お願いしたのは! だから、最初はほんと純粋に……」

「最初は、な」

「……へへ」

 

 あーあ。揚げ足取られちゃった。焦った演技も考えものだなぁ。でも、暴かれんのもなんだか、楽しいな!

 

「やっぱり甘くはないな、バクゴー君は。今日も稽古をつけてくれるかもって期待してたんだよ」

「るせぇよあまちゃんが。誰が敵に情報やるんだよ」

「敵……?」

「とぼけんじゃねえよ。本気で来るんだろ、お前も」

 

 あーもー楽し~!! 打てば返ってくるって、こういう時の表現だっけ? バクゴー君とお喋りするのは楽しいなぁ!

 

「やっぱ分かっちゃったか」

 

 警戒するバクゴー君が面白い。明らかに俺の方が君より格下だっていうのに。出来ないじゃんか。君の足元掬っちゃうのがさぁ!

 警戒されてるのなら、しょうがない。嘘まみれの俺だろうと、ここは正々堂々と、君に立ち向かおうじゃないか!

 

「バクゴー君の言うとおり。俺も真剣に出場するよ。ヒーロー科編入への最大のチャンスだからね。例え、君を蹴落としてでも一位を取るよ、バクゴー君」

「ハンッ!」

 

 バクゴー君が、俺に向けて立てた親指を地面に向けた。あ? 嘗めてんじゃねーぞ!

 

「蹴落とし()()()? 俺はてめェを完膚なきまでに蹴落し()、一位獲ったるわ!」

「……上昇志向の塊め!」

 

 ああ! そういうことかよ! 俺は君に嘗められてたわけじゃない。違うんだ。抱える熱量が違うんだ。あぁ、俺は自分が恥ずかしいよ!

 

「テメェもそうだろが」

「フフッ、ありがとう」

 

 買いかぶり過ぎだよ、バクゴー君。でも、君に失望されたくない。だから、息を大きく吸って、胸を張ろう!

 

「言い直すよ。出場選手全員蹴落として、一位になってやるよ!!」

「ハンッ! 一位は俺だ、ヘアバン野郎!」

 

 やれるもんならやってみろ! 君の対戦相手は、俺だけじゃねーぞ! ま、叶うなら、君をぶっ飛ばすのは僕でありたいけどね!

 

 シンソー君に頼まれたスパイにもなれなかったし、情報はこれ以上明け渡せない。そろそろ退散するとしますか。

 

「じゃ、俺、マイク先生のとこ行かなきゃ!」

「あ? ヒーローに稽古つけてもらうのかよ!」

「発声だけ ! これなら卑怯じゃないでしょ? じゃあね!」

 

 なんか、これ以上話してたら今度はこっちが色々引き出されそうだからね。引き際ってのは大事よ。さー、いくぞー!

 

「ヘアバン!」

「吐移だよ!」

 

 あーあ。呼び止められちゃった。足を止めるしか出来ないじゃんか。

 

「あの青髪で死んだ目のやつは、誰だ」

 

 昼休みのが見られてたかな? それとも、シンソー君何かA組に啖呵切ったのかな? まぁでも、こう訊かれる覚悟はしてた。だから簡単にアホ面は作れた。いかにもポカンって感じの顔、今俺してるっしょ? ねぇ?

 

「さぁ? あー、多分、クラスメイトだね。あんまり知らないよー。じゃ!」

 

 質問には答えた。だから職員室に向かって歩き出す。気持ち、早足でね。

 まだ玄関辺りは静かだった。だから、普段から声の大きい彼の言葉は、簡単に俺の耳に入った。

 

「嘘をつくのが、大の得意かよ」

 

 体育祭はもう既に始まってるんだよ。なんちゃって!

 

 

 

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