傷吐き   作:めもちょう

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十二話

 体育祭までの2週間。とにかく俺は済ませたかった事を済ませた。役所に“個性”の確認に行ったり、バイトをもう少し減らしたり。筋トレしたり、マイク先生との笑顔、発声練習だったり、中間テストの勉強だったり。テスト本番はかなりの手応えを感じた。邪魔されないって、それだけで最高なんだな。

 

 “個性”の練習もした。黒いキューブは俺の傷の結晶と言い換えられる。こいつを人に向けたことは無いが、物を壊せることは分かっている。だから安いぬいぐるみを10体ほど買ってきた。

 実験内容は

 

①俺が傷を受けた箇所と同じ場所に傷つくのか。

②人型では無い場合も壊せるかの再確認。

 

 の2つだ。だから買ってきたぬいぐるみは5体が人型、5体がそうでない型。一体一体に謝りながら、“個性”の実験をした。正直、病みそうだった。

 心の傷を負いながらも分かったことは、

 

①人型には俺と同じ場所に傷がついた。

②人型では無い型には触れた箇所に傷がついた。

③打撃系はつぶれたりするのみで、ぬいぐるみにはあまり効果が無い。

 

 ③に関しては相手によってはちゃんと効果がありそうだ。

 犠牲になったぬいぐるみたちはちゃんと縫い合わせて、ちゃんと謝って、部屋の賑やかし要因になってもらった。変な魂が入り込んでないといいけど……。毎日チュッチュしよー! きっしょ。

 

 

 

 さて、ついに始まる体育祭。ここからはクラスメイトであろうともライバルだ。バクゴー君にも宣言したからね。他を蹴落として、一位になるって。

 

「吐移くん! 円陣組も!」

 

 でも、空気を悪くしてもいけない。クラスの輪に合流した俺は、皆に呷られて音頭をとる。

 

「今日の主役はー、俺たちだー!!」

「「「オーー!!!」」」

 

 俺、大声出るようになったくね!! 皆めっちゃノリいいから、思ったより声出た! やだもう、大好き! 皆、頑張ろうね!

 

 時間になった。気を引き締めよう。

 さぁて、入場の時間だ。

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る、年に一度の大バトル!!』

 

 一番注目は、1年A組だ。実況のプレゼント・マイク先生の紹介も力が入っている。

 

『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!! ヒーロー科1年!!! A組だろぉぉ!!?』

 

 マイク先生の盛り上げに応じて、観客席も歓声をあげる。

 

『B組に続いて普通科C・D・E組……!! サポート科F・G・H組も来たぞー! そして 経営科……』

 

 俺らに対する熱量、低くない? ヒーロー科ばっか持ち上げてない? 贔屓は良くないぞマイクせんせー!

 

「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」

「たるいよねー……」

 

 だからって、さっき言ったこと忘れないでよ。俺泣いちゃう。だからこそ目立ってやるんだ、成り上がるんだ、この場の主役に。ついてこれないなら友達でも置いてくよ。畳くん、記見さん。

 

「選手宣誓!!」

 

 主審のミッドナイト先生がざわめく選手や観客をムチを鳴らして静まらせながら、バクゴー君を呼んだ。そうだったんだ。A組の方からも、驚く声が聞こえる。

 

「あいつ一応、入試一位通過だったからな」

 

 A組の人の言葉に、記見さんが不機嫌に文句たれる。

 

()()()()()()()()()

 

 記見さんって、案外口悪い時あるよね。

 朝礼台に登ったバクゴー君は気だるげに、でも決意した目で、自分に注目が集まっていることを自覚しながら宣言した。

 

「俺が一位になる」

「絶対やると思った!!」

 

 正直笑いそうだった。バクゴー君らしくて。あの日と同じこと言ってて。

 だけど皆は違うらしい。ヘイトがすごくて、いろんなところからバクゴー君に対して罵詈雑言が飛んで、会場は酷いことになっている。「調子に乗んなよA組オラァ!」「ヘドロヤロー!」とか。こんな空気の中、さすがに笑えない。だからって。悪口も言えない。

 

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 ああ、なーんでそんなヘイトを集めちゃうかな。それが目的なら、邪魔してやろ。

 

「かっけぇけどダサいぞバクゴー君!! かっけぇけど!!」

 

 徹底的に自分を追い詰めようったって、そうはいかないよ。ちょっとくらい、気ぃ逸れたかな。まあ、9割本心だけど。あんな度胸、俺にはないからさ。

 

 俺の“個性”は、自分の体の回復が出来ても、物に対しては全くそうではない。入学祝いで貰ったお金で買った靴を脱いで、会場の端に置く。このサバイバルレースでせっかくの靴が傷んじゃ嫌だから。

 そんな体育祭の初めの種目は「障害物競走」。

 計11クラスでの総当たりだという人数に対して、狭いスタート位置。ミッドナイト先生の、「我が校は自由さが売り文句」「コースさえ守れば()()()()()()構わないわ!」という言葉。やる奴はやってくるぞ。スタートと同時に、他者を妨害する奴が。

 

 ゲートの上の信号がひとつ、青になる。緊張が高まる。

 また一つ、青になる。焦るな。だが急げ。

 最後が、色づいた。

 

『スターート!!』

 

 全員が走り出す!! 当然俺もだ! 人数からか、狭さからか。ゲートはギチギチに詰まっている。それに文句垂れている奴は、ここで落ちるぞ。

 途端、地面が凍りついた。この“個性”はA組の轟のか!

 

「ってぇー!! 何だ凍った!! 動けん!」

「寒みー!!」

「んのヤロォオオ!!」

 

 いってぇえ!! 足凍った!! でも良かった、靴脱いでて!! 冷たすぎて痛覚殺せるから、足裏置いてける!

 

「甘いわ轟さん!」

 

 近くで爆破音が鳴り響く。

 

「そう上手くいかせねぇよ半分野郎!!」

 

 この派手さは、バクゴー君か! 黒いキューブで傷つけて、血の滑りもあって外れやすくした足裏を置いてった俺は、すぐに息を吐いて傷を黒キューブに変換した俺より前を走っているA組の人たちを見る。シンソー君は他のクラスの人を洗脳して、神輿みたいに担がせてるな。

 轟の氷結に捕まった奴らを尻目に、俺は間を縫って駆け抜ける。冷たすぎて、足の感覚がない。

 

『さあいきなり障害物だ!! まずは手始め、第一関門、ロボ・インフェルノ!』

 

 ゲートを越えた先にいたのは大量の入試の時の0Pヴィランと、先頭を走っていたA組とその他。0Pヴィランは、前は怪我人を運んでて、それどころじゃなかったな。

 

「今度はこれに、逃げずに立ち向かう、のか」

 

 俺に出来るのは、黒いキューブを使うことだ。……無意識に、バクゴー君の隣に来ていたらしい。絶対に、今の一人言聞かれてた。恥ずかしい。

 黒いキューブを、傷の結晶化を使っていいか役所に聞きに行った結果、「人に向けてでないのなら使っても構わない。自己防衛ならヴィランに向けても大丈夫」との回答をもらった。ついでに個性届を本来のものに戻すか、人に向けても大丈夫なようにするか聞かれたが、今回は見送った。

 だから、バレずに使う必要がある。使っているところを見られてはいけない。黒いキューブを見せてはいけない。それが出来るのは、砂煙とかで視界が悪くなった瞬間しかない。

 0Pヴィランに最初に立ち向かったのは、やっぱりA組の轟。得意の氷結で襲い来るヴィランを不安定な姿勢の時に凍らせ、それを自然と倒させて後続を妨害した。倒れた衝撃で砂煙と舞い上がる冷気が、コースに漂う。

 

「来た!」

 

 今しかない! 俺の理想の視界の悪さは! 

 大量の0Pヴィランは、センサーで俺を認識し、襲いかかってくる。殴られることは想定済み。だから黒いキューブを肌が出ているところから出現させる。傷の種類は足元。崩れ落ちろ! 俺を殴ると同時に足元が崩れる0Pヴィラン。奴の拳はでかい。俺も吹っ飛ぶが、動けなくなるのと引き換えなら悪くない。別に妨害する役割が果たせなくなるわけじゃないから、後続への妨害も出来る。さあ、抜けるぞ! 

 

「がっ!!?」

 

  頭に部品が落ちてきた! ノーマークだったせいで、思ったよりダメージが来た。回避しよう。

 

『おぉー! 1-C 吐移!! この関門を2位通過ァー!! やるな普通科、番狂わせかァー!? ……え、ちょ、C組吐移、頭から血ぃ出てる!!? あれ大丈夫!? 大丈夫なの!!?』

 

 ヘアバン付けててよかった。目に血ぃ入らずに済んだわ。

 問題なのは第二関門だ。落ちれば奈落の綱渡りゾーン。道を選ばなくてはならない。何度も渡らなければならない。俺みたいに地道に這いずるしかない奴は、手も皮膚も死ぬぞ、これ。俺は治すからいいけど。

 地道に這いずってたらあっという間に追いつかれて、せっかくの二位の位置も体力も死んだ。……気持ちでスピードアップだ。Plus Ultra!!

 

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