『さァ上げてけ
あのあと、俺が提案した人をチームに迎え入れて、無事4人チームになった。騎手のシンソー君、前騎馬の俺、左右の騎馬は物言わぬヒーロー科2人。
『よぉーし組み終わったな!!? 準備はいいかなんて訊かねぇぞ!! いくぜ!! 残虐バトルロイヤル、カウントダウン!!』
会場の選手たちの殺気が高まる。
『3!!!』
そんな中、うちの騎手様は余裕そうだ。
『2!!』
だから、騎馬の顔の俺だって、余裕ぶっこかなきゃ。
『1……!』
シンソー君の“個性”が他にバレないように、表情作んないとな。
『START!』
一斉に動き出した選手たちは、近くの選手か1000万の緑谷くんを狙って動き出す。俺も、シンソー君に目的を再確認して、動こうか。
「俺たちはまず、着実に
「ああ。俺たちは一位を取るんじゃない。勝ちを取るんだ」
「……カッコいー」
俺に負けず劣らずヴィラン顔のシンソー君。きっと手頃なチームを見つけてくれるだろう。
「頼りにしてるよ、俺らの騎手様」
シンソー君は意味ありげに笑うだけだった。なにそれ、悪役っぽい。
目をつけられない程度に動き回る俺たち。ど派手に戦闘が行われている場所に目を向ければ、大体緑谷くんが中心だった。
「やっぱり皆、緑谷くんのところに行ってるね」
「1位のPは魅力的だけど、難易度も上がる。俺たちは最後に中堅を攻めるぞ」
「了解!」
それなら、やっぱりド派手なバクゴー君に見つからないように逃げ回らないとなぁ。シンソー君、あんまり戦闘能力高くなさそうだし。
氷に爆破、巨大化した手。見渡してみて、やっぱり思う。
「いいね。ヒーロー科の“個性”。やっぱり華がある人が多いよ」
「お前の個性も、華はなくとも強力だろ」
「華がなくていいなら、シンソー君の個性も超強力じゃん。俺のことも操ってくれたら俺もっと楽なのに」
「ちょっとそこでケガしてくれ」
「やだやだやだやだ!」
まあ、せっかく同じブレインとして認めてくれたんだ。俺だけが楽するなんて、絶対しないから安心してよ、シンソー君。
「手頃そうなチーム見っけ!」
「え?」
嬉しそうな声色で宣戦布告してきたのは、巨大な手の“個性”の女子が騎手をやっているチーム。どうやらB組みたいだ。相手は俺たちに考えたり逃げる暇を与える気はないらしく、彼女は舌なめずりしながら俺たちに襲いかかってきた。美人は舌なめずりしてても可愛いんだな! 羨まし! 俺がやったら悲鳴もんだよ、勿論恐怖のな!!
「リーチが厳しい! 逃げるよシンソー君!」
「ああ」
でも、無駄だった。俺の言った通り、巨大な手はあっさりと、遠ざかったはずの俺たちの
「あー!! 返せ!!」
「ごめんね! でもあたしらも勝ちたいんだよね!」
それは俺も同じだっての!
地団駄を踏む。これで周りには俺が焦っているように見えるだろう。笑みを抑えなきゃな。
彼女たちが遠ざかったのを見計らって、俺の上に居るシンソー君に視線を送った。
「これでゆっくり、品定めができるね」
シンソー君もほくそ笑んでいる。楽しそうで何よりだよ。
ハチマキを失って0Pになった俺たちに注目する奴らはいない。それにB組も物間チームが荒稼ぎしてて、半分が0Pで目立たないな。シンソー君はこのままカウントダウンが始まるまで待機しろって支持してきて、正直不安だけど信じることにした。だから周りを見渡すけれど、別の不安に駆られていく。
毎年、最終種目はタイマンだ。形式は違えどそこは変わらない。だからこそ不安だ。勝ち上がりそうな人の“個性”は、「遠距離」か「触れれば終わり」の人ばかり。特にあの物間って人の、“物まねする個性”に俺の“個性”を真似されたら、たまったもんじゃない。
「ねえシンソー君。カウントダウン始まったらさ、物間チームからハチマキ取らない?」
「考えとく。……第一候補として」
「ありがとう」
優しいなぁ、シンソー君は。まぁ、物間チームはバクゴー君に喧嘩売ってて、見事返り討ちに遭っていて俺たちのポイントになることはなかったけれど。
「そろそろ動くぞ」
「了解」
残り17秒と実況が告げる。シンソー君が第二候補として目をつけていたチームは、鉄哲チーム。今3位のチームからか!
「おい、鉄哲チーム」
「あ、何……」
「えっ!?」
「お前いったい……」
「なに……」
よぉし。全員かかったな。そのポイント、いただきます。
『TIME UP!』
これで、ポイントを奪われることもなくなった。
『早速上位4チーム見てみよか! 1位轟チーム!! 2位爆豪チーム!! 3位鉄て……アレェ!? オイ!!! 心操チーム!!?』
なんでそんな驚いて言うんですか、マイク先生。嫌なんですか?
『4位緑谷チーム!! 以上4組が最終種目へ……進出だあぁー!!』
「お疲れ様」
シンソー君は“個性”を解いたらしい。A組の尾白くんとB組の庄田くんは何が起こっていたのか分かっていないらしい。それもそうか。だから教えてあげよう。
「お二人さん、ご協力ありがとう。これで君らも決勝へ行ける。プロヒーローにいっぱいアピール、頑張ろうね」
シンソー君の足になれた、運のいい二人に。
『一時間程昼休憩を挟んでから午後の部だ! じゃあな!!!』
一時間もあるんだ。食堂が混むのは嫌だし、さっさと行こう。
「シンソー君、お昼食べよ!」
「いいよ。……今日は弁当じゃないんだ?」
「どこに置いていいか分からなかったから。だから今日は奮発します!」
隠し持っていた500円玉を取り出す。これは非常時のお金だから、今から本当ならロッカーに行って財布取らなきゃならないんだけどね。
お金を払って、カツ丼を受け取る。シンソー君は牛丼みたいだ。C組の皆は俺たちを気遣ってか、話しかけも、近寄りもしなかった。ちょっと寂しい。
「一人暮らしだと揚げ物なかなか作んないんだよねー。量作んないのに、油が勿体無くて。スーパーでバイトしててめっちゃ割安でお惣菜買えるから、食べてないわけじゃないけどさ」
「俺もバイトしようかな……」
「いけるいける! 人相悪い俺でも出来るから!」
「ありがとう。めちゃめちゃ自信ついた」
「あれ、なんかムカついた」
甘くないぞ、スーパーのバイトは! 厳しくもないけど!
端の方に席を見つけて、座った俺たちは受け取った学食に手をつけ始めた。あ、割り箸割るの失敗した。
「くだらない話をするのもいいけどさ。君、次からどうするの」
リラックスも大事だけど、考えなきゃいけないこともある。同じクラスだから知ってる。シンソー君、ヒーロー志望としては体力が少ない方だ。
「……というと?」
「君が確実に勝ち上がれるのは一回戦だけ。そこで“個性”を見せたら次から対策される。どうすんの」
シンソー君の“個性”は強力な初見殺しだけど、その分対策されやすい。今頃二人から情報が広まっていると考えていいだろう。だけどシンソー君はそれを楽観視してる。
「大丈夫だろ。その一回で、強烈に印象を残せば」
「負ければ見てもらえるのは一回だけ。本当に大丈夫?」
「負け方にも良い悪いがあるんだよ。それに、この体育祭で優勝しなくても、ヒーローになれる。ここまで勝ち上がった普通科ってだけで、俺たち二人とも注目されるはずだ。それに」
「それに?」
「お前によれば、俺の個性は“めちゃくちゃヒーロー向き”、なんだろ?」
あの時の、柄にもなく大興奮してしまった時の発言を蒸し返された。ちょっとだけ恥ずかしくて、でも、俺の言葉で自信を持ってもらえたことが嬉しかった。
「まあ、勝手に自慢に思ってるくらいには、ヒーロー向きだと思ってるけどさ」
今もその思いは変わっていない。アングラ系ヒーローとして活躍したら、めちゃめちゃかっこいいと思ってる。……ヒーロー以外で、発動型の“個性”の使用が許されている職があればいいのにな。
俺が照れている間に、話題は俺に移る。
「俺の心配をするのもいいけど、自分の心配はいいのか。肉弾戦じゃなきゃ一瞬で負けるでしょ。特にあの轟ってやつ。遠距離から攻撃されれば、いくらお前でも近づけない」
「いやいや! 痛覚殺せば相手の懐まで行けるでしょ! あの轟くんの氷、予選で最初食らったけど、足裏の皮犠牲にしたら越えられたよ」
「……靴は?」
「実は最初から裸足でした!! 頭洗いに行ったときについでに履いたんだよね」
「…………」
「あ、最終種目でもそうするか。ちょっとグロいことになりそうだけど!」
「……危ない戦い方はヒーローから好まれないよ」
「緑谷くんじゃないんだから。というか、怪我しないけど強いワケじゃない俺が勝ち上がるには、狂人の皮を被るしかなくない?」
「剥がれやすいよう何枚も被んないとね」
「在庫はいくらでもありまーす!」
割とずっと狂人の皮を被ってる。このキャラだって、ずっと燻る復讐心を隠す狂人の皮だ。……うーん、シンソー君、引いてるなぁ。言ったこと、ちょっと後悔だな。
「お互い、身体は大切にしよう」
えー。俺の戦闘スタイル的に、体は犠牲になると思う。
「そうだね」
いやなんで、不安そうなの。大丈夫だよ、俺の皮は分厚いからさ。