傷吐き   作:めもちょう

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十五話

『最終種目発表の前に予選落ちのみんなへ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』

 

 昼休憩が終わったから、グラウンドに戻ってきた。そこで参加しないレクリエーションの説明を受けようとしていたんだけど……ある人達が目に止まった。

 え、何、あの人たち。ねぇ、たしかあの子達……。

 

『本場アメリカからチアリーダーも呼んで、一層盛り上げ……ん? アリャ? どーしたA組!!?』

 

 やっぱりそうだよな!? A組の女子たちだよな!? なんでチアの人と同じ格好してんの!? いや、可愛いけど。

 なんか大声で「騙しましたわね!?」とか言ってるし、本意じゃないんだろうな。

 

『さァさァみんな楽しく競えよ、レクリエーション!』

 

 ま、気にしないようにしよう。可愛い格好の彼女らから目を剃らした。これも彼女らの精神攻撃かもしれないから。あと記見さんの視線も痛かった。俺なんかした?

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きをしちゃうわよ」

 

 説明はやっぱり主審のミッドナイト先生。

 

「組が決まったらレクリエーション挟んで開始になります! レクに関して進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も、温存したい人もいるしね。んじゃ、一位チームから順に……」

「あの……! すみません。俺、辞退します」

 

 ミッドナイト先生の説明を遮って手を挙げ、そう宣言したのは、シンソー君が洗脳した内の一人だった。

 

「尾白くん! なんで……!?」

「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

 

 ざわつくA組。そんな彼らに対し尾白くんは、「騎馬戦の記憶が終盤ギリギリまでほぼぼんやりとしかない」と、「多分、奴の“個性”で……」と告白した。なんだよ勿体ないなー。君、いつも貧乏くじ引かされてそーだね。

 ……有名人の緑谷出久。何こっち見てんだ? あ゛? まるで犯人探しをするような目で俺の友達見てんじゃねーぞ。分かってんのか? 体育祭は戦場。“個性”の使用が許されている以上、非難される覚えはない。

 

「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて、愚かなことだってのも……! でもさ! 皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな……こんな、訳分かんないままそこに並ぶことなんて……俺は出来ない」

 

 ふーん? まぁ、その主張は分からないでもないよ尾白くん。でも、プライドなんてあっても食ってけない。せいぜい後生大事に抱えてなよ。

 もう一人の方も「()()()()()()者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」なんて、男らしく辞退の申し入れをしていた。あーあ、勿体無い。せっかくシンソー君が恵んでくれた棚ぼたチャンスなのに。チャンスは掴むもんだぜ?

 ヒーローって、そこまでキレイじゃないといけないの? それが心の底から出てくる思いってなら、散々汚されてきた俺って一生なれねーじゃん。一度汚れたらなかなか綺麗にはならないんだぜ? はー、理想高過ぎ。やんなっちゃう。

 

「かっこいいねぇ。さすがヒーロー科」

「お前も辞退するか?」

「まさか! 俺は訳分からなかったわけでも、何もしてないワケでもない。どうしてやめる必要があるんだよ」

「そうだよな」

 

 悪役っぽい顔でそんな会話をしていたら、二人の棄権が認められた。代わりに入ったのは、鉄哲チームから鉄哲くん、塩崎さん。普通なら5位の拳藤チーム(俺たちからハチマキを奪った)が繰り上げだけど、こちらも暑苦しく、より活躍していた鉄哲チームにそれを譲っていた。なんの因果か。彼らから俺たちはハチマキを()()()から、ちょっと気まずいな。

 

「少しだけ、当たりたくないって思っちゃったなー」

「……そういえば、吐移って、誰なら相性いいの」

「身体固くなくて肉弾戦に持ち込める人」

「あまりいないぞ」

「うーん……」

 

 勝てる見込み、無くなってきた。

 

 一人一人クジを引いて、トーナメントの組みが決まった。一回戦の対戦カードは、第一試合からこんな感じだ。

 

1 緑谷 VS 心操

2 轟  VS 瀬呂

3 塩崎 VS 上鳴

4 飯田 VS 発目

5 芦戸 VS 吐移

6 常闇 VS 八百万

7 鉄哲 VS 切島

8 麗日 VS 爆豪

 

 俺は第五試合、シンソー君は第一試合。バクゴー君は第八試合か。あ、シンソー君が対戦相手の緑谷くんにちょっかいかけてる。でも尾白くんに遮られて、どうやら失敗したっぽい。まぁ、自分から秘密を晒す必要はないよ。中途半端に知ってる奴から不十分なアドバイスでも貰ってろ。俺もそうだからよ。

 戻ってきたシンソー君に、下手な笑顔で話しかける。

 

「尾白くんに守られちゃったね。どんまいシンソー君」

「吐移……」

「俺の相手は芦戸さん。五試合目だから、応援出来るね」

「いらないよ、応援なんて」

「あー、知らないなー? 応援って本当に力になるんだぞー!?」

「そ。なら、お願いするわ」

「任せろ!」

 

 俺がこの精神でいられたのは、学校以外の環境が悪くなかったからだ。これで施設もクソだったら、俺は犯罪者になってたと思う。だから、応援ってすごく大切なんだ。だから、全力でシンソー君を応援するぜ! その前に、レクリエーションに参加するC組の皆のことも応援しないとな。

 

 応援するってことは、参加しないってこと。俺とシンソー君は皆が頑張っている姿を見てくつろいでいた。応援は心の中でしてる。大玉転がしに借り物競走。……正直、まともに運動会に参加出来なかった俺としては、参加してみたかった気もする。でも、ただでさえ無い体力を無くすマネは出来ない。だから、皆頑張って!! 

 それにしても、A組女子はチアの格好ではっちゃけてるなぁ。涼さんによれば俺ってメイクしたらそこそこ可愛いらしいし、もしかしたら似合うかも知れないよな。

 

「俺もチアしたーい」

「……止めてくれ」

 

 えー。明らかに気分悪くしないでよ。シンソー君。

 

「笑えそうじゃん?」

「笑えない人間もいるから、少なくともこの会場では絶対に止めてくれ」

「はー、分かったよ」

 

 ま、どうせ出来ないけどね。チアの服ないし。

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎ、最終種目が始まる。

 

『ヘイガイズ アァユゥ レディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

 生徒席に座る俺の隣に居るはずのシンソー君は、今頃入場口か。

 

「頑張れ」

 

『頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ! わかるよな!! 心・技・体に知恵知識!! 総動員して駆け上がれ!!』

 

 見せつけてやれ、シンソー君。君の強さを、可能性を!

 

『一回戦!! 成績の割になんだその顔! ヒーロー科 緑谷出久!! (バーサス) ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科 心操人使!!』

 

「シンソーくーん! やってやれー!」

「やれよ! 心操!」

「負けんじゃないわよー!!」

「がんばれー!」

 

 普通科からの数少ない通過者に対して、C組の皆の応援が熱い。

 届いてるか、シンソー君。

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする。または「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!! ケガ上等!! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!! 道徳・倫理は一旦捨ておけ!! だかまぁもちろん命に関わるようなのはクソだぜ!! アウト! ヒーローはヴィランを()()()()()()拳を振るうのだ!』

 

 勝て、シンソー君。バレてるならバレてるなりの立ち回りを求められるぞ。

 

『そんじゃ早速始めよか!!』

 

 煽り力が試される。

 

『レディィィィィイ』

 

 俺たちに、プライドはない。あるのは、将来を思う、強い意志。

 

『START!!』

 

 動き出したはずの緑谷が、ピタッと動きを止めた。

 

『オイオイどうした、大事な初戦だ、盛り上げてくれよ!?』

 

 これは……!!

 

『緑谷開始早々――完全停止!?』

「よっしゃ決まったぁあ!!」

 

 これは勝ったでしょ!! どんな“個性”だって、シンソー君の術中にハマれば抜け出せない! かかったことないから分かんないけど! 

 

『全っっっっっっ然、目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべぇ奴なのか!!!』

 

 正直言って、シンソー君はその“個性”以外は強いわけじゃない。ロボに洗脳が効くわけないし、だから俺と同じように実技で落ちた。

 シンソー君を正しく評価してくれるヒーロー科は他にもあったと思う。でも、それでも彼は雄英に来た。分かるよ、シンソー君。だから君も、困難に立ち向かうんだろう。

 憧れの為に!!

 

 シンソー君が命令したんだろう。緑谷くんはくるっと振り向いて、場外へと向かって行く。ああ、ああ! 笑顔になるのを止められない! やっぱりだ、シンソー君の“個性”は、手っ取り早い避難誘導としても活用出来る。問題は、それがスピーカーなんかの機械を通しても通じるのか、だけど……。そこまで強いと流石に俺以上に監視されてそうだし、そんな素振り無いってことは、そうではないかも知れない。だけど今は関係ない。

 場外まで後一歩。一対一の、外部要因のない戦いなら、洗脳が決まった今、シンソー君が勝つ!!

 

「大金星だ!」

 

 

 

 その時、緑谷くんの体から強い風と衝撃波が巻き起こった。その風はシンソー君に身を守らせるほど強かったらしい。そして、緑谷くんの足が止まる。その位置は。

 

『――これは……緑谷!! とどまったああ!!?』

 

 白線の、内側。

 

 俺はシンソー君の洗脳にかかったことが無いからどんな突破方法があるのか知らないけれど、普通、洗脳を自分で切り抜けることなんて出来るのか!? それが洗脳だと分かっていない限り……あ、そうだった! 尾白くんから聞いてるんだ!! だから、自分の状態を客観的に……だからって……い、いや、今はそんなのいい。だって、現に緑谷くんは切り抜けたんだから!

 流石は予選一位通過者。簡単には負けてくれねーや!

 どうするシンソー君。ネタは割れてる。ここからどう攻略する!?

 

「指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!」

 

 マジか、そんな“個性”なのか、超パワーか! とても増強系の“個性”を持っているようには見えないひょろい緑谷くんはシンソー君に再び向き直ると、一歩、確かに、彼の意思で歩を進めた。

 

「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ」

 

 それに合わせてシンソー君も彼に立ち向かう。

 

「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」

 

 ……それが、君の本音か。

 

 二人はついに取っ組み合う。シンソー君が緑谷くんの顔を殴るが、彼は一切怯まずシンソー君を押し出そうとしている。まだ洗脳は決まらないか!

 身体を捩って、緑谷くんの拘束から逃れたシンソー君はバランスを崩した緑谷くんの顔を押した。でも、その腕と胸ぐらを掴まれて……背負投げを、くらった。

 

 シンソー君の足は、場外に出ていた。

 

「心操くん、場外!! 緑谷くん、二回戦進出!!」

 

 

 

 洗脳と聞いて、良い印象を抱ける人は、どれだけしかいないだろう。俺? 俺はシンソー君が雄英(ここ)にいるから良い印象しかなかったんだよ。

 

 つまり、そうではなかった中学以前の頃は? 彼がヒーロー志望と知らなかった人々は、彼にどんな言葉を送っていた? 知らないけれど簡単に想像出来る。彼も、ヴィラン扱いを受けていたかも知れない。心無い言葉を投げられてたかもしれない。

 そんなシンソー君が、正しく評価してくれない雄英(ここ)に来て、多くのヒーローが注目するこの舞台に立って、全力で戦った。

 

 どれだけの壁がシンソー君の前に立ちはだかっていただろう。それを超えて、彼は今、戦った!

 

「シンソー君!」

『二回戦進出! 緑谷出久――!!』

 

 君は今、誰よりも、かっこいいよ!!

 

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