傷吐き   作:めもちょう

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十六話

 『IYAHA! 初戦にしちゃ地味な戦いだったが!! とりあえず両者の健闘をたたえて、クラップ ユア ハンズ!!』

 

 涙が止まらない。悲しいからじゃない。勝った緑谷くんより、シンソー君の方がずっと、俺にはかっこよく見えたから。

 

 そうだよな。俺たちは今、ようやくスタートラインに立てたんだよな。ヒーロー科の奴らより数歩遅れて、他人の印象で邪魔されて。でも、でも。それを全部ぶっ飛ばして、今、君は! 憧れから視線を集めている!! もしかしたら“個性”をほとんど見せていない緑谷くんより、ずっと!!

 

「うおっ、吐移めっちゃ泣いてんじゃん! どうした?」

「ジンゾーぐんが……ジンゾーぐんがぁ!」

「うん、負けちゃったな」

「がっごよがっだぁあ!」

「そっちかぁ」

 

 秋野くんが「鼻水出てる」と言いながらポケットティッシュをくれた。ありがとう。

 

 シンソー君がステージを降りてくる。俺も他のクラスメイトと一緒に、応援席の前で迎え入れよう。

 負けたことがショックだったんだろう。シンソー君は俯いている。やだなぁ。上を向いてよ。

 

「かっこよかったぞ、心操!」

 

 畳くんがシンソー君にそう声を描けた。上がった顔は、ふふっ、悔しかったね。

 

「正直ビビったよ!」

「俺ら普通科の星だな!」

「障害物競争一位の奴といい勝負してんじゃねーよ!!」

「吐移なんて感動して泣いてるぞ!」

「どちゃくそかっこよかったぁあああ!!!!」

 

 さあ聞けシンソー君。君を正しく評価するプロヒーローの声を!

 

「この“個性”、対ヴィランに関しちゃかなり有用だぜ、欲しいな……!」

「雄英もバカだなー。あれ普通科か」

「まァ受験人数ハンパないから、仕方ない部分はあるけどな」

「戦闘経験の差はなー……どうしても出ちまうもんなぁ……もったいねぇ」

 

 だろ!? うちの子すごいでしょ!?

 

「聞こえるか。心操、おまえ、すげェぞ」

「…………」

 

 だから、自信を持って、シンソー君。

 

「結果に寄っちゃ、ヒーロー科編入も検討してもらえる。覚えとけよ?」

 

 シンソー君はまだステージ上にいる緑谷くんに話しかけた。あれは、宣言といってもいいだろう。

 

「今回は駄目だったとしても……。絶対あきらめない。ヒーロー科入って、資格取得して……絶対お前らより立派にヒーローやってやる」

 

 かっこいいなぁ……って、シンソー君、“個性”使ってない? お戯れやがって。まあ、本人たちが楽しいなら、絆を深めてんなら、それでいいさ。

 

 俺らの星が戻ってきた。皆拍手して労って、彼を受け入れた。そして彼は俺の隣に座った。俺の目がまだ濡れているからだろう、シンソー君が輝いて見えた。

 

「お疲れ様、シンソー君。おかえり」

「ただいま」

「凄かったよ、あの先制攻撃。うん。惜しかった!」

「そうだな」

「……ねえ、実感できたでしょ?」

「何の?」

「君の力は、ヒーローに認められたでしょ?」

「……そうだね」

 

 さすが俺が認めた男だ。お昼の自分が言った通りにしたよ。負け方、確かに大切だった。そんなことより、言ってやろう!

 

「シンソー君。君は、ヒーローになれる!!」

 

 既に俺の心のヒーローだ!!

 

 

 

 第二試合 瀬呂範太 VS 轟焦 凍。

 A組同士の戦いは、轟くんが大氷結で瀬呂くんを氷漬けにして勝利。ちべたい。勝てる気がしません。

 

 第三試合 塩崎 茨 VS 上鳴電気。

 塩崎さんの「ツル」の“個性”で、上鳴くんを拘束して行動不能にして瞬殺。ぐるぐる巻じゃ抜けらんない。勝てる気がしません。

 

 第四試合 飯田天哉 VS 発目 明。

 次が俺の試合だから見てないけれど、なんか長かったな。発明さんってサポート科の人だったはず。自分の発明でそれだけ戦えるのか……。勝てる気がしません。あ、飯田くんが勝ったらしい。

 

 さあ、俺の番だ。なるべく肉弾戦が出来る人であってくれよなァ! 

 

 

 

 四隅に火柱が立つステージに立つ。俺の目の前に立つのは、ピンクの肌色をした角の生えた女の子。確かバクゴー君と騎馬を組んでいた、手から溶解液を出す人。拘束力も遠距離性能もそこまで無い。靴、脱いでて正解だった。

 この人となら、戦える。

 

『はつらつ笑顔だが“個性”は凶悪!? ヒーロー科 芦戸 三奈!! VS まだまだ笑顔練習中! 普通科 吐移 正!!』

 

 コンプレックス刺激しないでください、マイク先生。無理して笑わないといけなくなるじゃないですか。

 

『それじゃあやっていこうか! レディィィィイ! START!!』

「先手必勝!」

 

 芦戸さんは俺を行動不能にする為か、それとも俺が避けることを前提にか、まっすぐ俺に向かって溶解液を飛ばしてきた。なら、受け止めてやる。

 

「ぐっ」

 

 頭を庇った両腕が溶けた。

 

「な、なんで!?」

 

 よし、動揺させられた! 息をして治した腕を見せないようにしながら彼女に向かって走り出し、狼狽える彼女に殴りかかる。でもさすがヒーロー科。すぐに立ち直って、俺の拳を避けた。

 

「なーる! あんた回復系の“個性”なんだ!」

「もうバレちゃったか!」

「分かりやすいよ!」

 

 よく見てるな。なら、油断を誘ってみるか? 芦戸さんは足場を溶かして俺を滑らせようとしてくる。溶けた足場に誘導しようと、逃げる俺に溶解液をかけることも忘れずに。だがそれは俺にチャンスを与えることになるぜェ?

 演技でなくても鈍い動き。ところどころで受け損ねて、まともにくらったりして、脇腹と右太ももには大きく溶けた痕が出来ている。スースーするし、ちょっと恥ずかしい。芦戸さんも困っている。

 

「避けるならちゃんと避けてー!」

「それについてはごめーん!」

 

 狙い通りだけどな。

 芦戸さんは器用に、溶けたステージを滑り回る。もう硬い足場はない。足の裏は常に溶けている。ヒリヒリする。次だ。次、俺に撃とうとした時が、仕掛け時だ。

 

「滑って溶けろぉ!」

 

 なかなか怖いことを言いながら、芦戸さんは俺の足元に溶解液を飛ばす。それを食らうことを受け入れながら、彼女に殴りかかろうと走り出した。

 

「うわっ!?」

 

 な、なんで、今まで大丈夫だったのに!?

 足を滑らせた俺は、背中からステージに倒れこんだ。

 まずい! 足を取られたらそのまま場外に連れ出される! 急いで立て、俺!

 

「あ!」

 

 芦戸さんの焦る声が聞こえたと同時に、視界が溶けた。

 

「あ゛、あ」

 

 あつい、いたい、きもちわるい、いたい、いたい、いたい!!

 

「あ゛あ゛あああああああああああっ!!!??」

 

 溶解液が目にっ!? いだいっ!! いくらなんでも痛すぎる!! やめときゃよかった、こんな計画!! いたい、いたい!!

 

『いくら不甲斐ねぇ戦いだからって、こんな不運があっていいのか神様ぁ!!』

 

 ……許さねぇ。

 

「ねぇ、大丈夫!?」

 

 ここまでしたんだ。道化を演じたんだ。負けるのなんて、許してたまるか!!

 

 自分が勝ったとでも思い込んでいるのか、俺に近寄りしゃがみ込み、手を差し伸べる芦戸さん。その彼女の手、ではなく。頭の角を捕まえる。

 

「えっ」

 

 起き上がる勢いと腕を引く勢いで、彼女の鼻に頭突きを食らわせた。

 

「まだ、試合中だ」

 

 治りかけの瞳は、恐怖する彼女の表情をしっかりと捉えた。

 

『ウソだろっ!? 目をつぶされた吐移、まだ戦う気だァーー!!?』

 

 うろたえる芦戸さんの顔を殴りつけて、角を手放して立ち上がり、尻餅をつく彼女が立ち上がれないよう、鳩尾めがけて思いっきり蹴りを入れる。

 

「うぅっ!!」

『女の子に容赦が無いぞ吐移ーっ! それでも漢かー!?』

 

 ここで負けたら、ただのみっともない奴なんだよ。俺には勝つしかないんだよ!

 彼女の両足を捕まえて、場外へ連れて行く。それを止めようと彼女も溶解液を飛ばしてくる。でも、威力不足だね。痛みを覚悟した俺になら、骨が見えるくらいの威力がなきゃ。

 滑りが良いから、運びやすかった。

 

『二回戦進出! 吐移 正ーっ!!』

 

 最後の最後で喰らった酸で溶けた左目。それもすぐに治った。……体の中に黒いキューブ、大量生産されたな。

 試合は終わった。だから芦戸さんに手を差し出した。

 

「ごめんね、顔を傷つけちゃって」

「ん~、別にいいよ。これが勝負だもんね。終わってないのに油断した私が悪いよ」

「あはは……。それにしても、強い“個性”だ。俺みたいな性悪を近づけないよう、もっと濃度上げられるといいね」

「そうだね! ……あ!」

「あっはは!」

 

『アンチヒーローな暴力の数々だったが、そこはちょーっと甘く見て! 吐移は普通科だし、系統は似てるけどヒーローじゃなくて救急救命士とか、あまりヴィランと戦うことを想定してない職を目指してるからさ! 吐移は本当は非暴力主義者なの! じゃ、フォローも終わったし、二人の健闘を讃えて!!』

 

 俺らが会話している間にも、マイク先生がフォローしてくれていた。だからか、俺に向けられていたブーイングも収まって、代わりにバラバラと拍手が鳴りだした。

 

「対戦、ありがとうございました」

「私に勝ったんだから、次も勝ってよね!」

「勿論!」

 

 負けてもはつらつな芦戸さんを見送り、見送られ、控え室に戻った。そこで俺は机の上に新しい体育着が用意されているのを見て、自分の惨状にようやく気が付いた。

 着ている体育着が自分の想定以上に溶かされていることに。

 

「う、うわ……」

 

 思わず声が震える。だって、袖や肩、脇腹、太もものあたりの服の溶けて無くなった部分から、なまっ白い肌が見えて……まるでエロ同人の服だけ溶かすスライムにやられた後のようだった。

 

「うそだぁぁあああ……」

 

 こんな格好を全国に放送されてしまったと考えると、もう、恥ずかしくて表に出れない……! よくヘアバンが生きてるよこれ! それだけ彼女が顔には当てないようにって配慮してくれたってことだけど!

 誰かが見ているわけでもないのに、腕で身体を隠しながら、机の上に用意されていた体育着をビニールから取り出す。

 

「精神面で攻撃してくるなんて……恐ろしい子!!」

 

 いや、そんなつもりなさそうだけどさァ!!

 

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