でろでろの体育着を新しいものに着替えた後、次の試合を見る為に急いで生徒席に戻った俺。C組の皆からは「ヒーローらしくなかったぞ!」とか、「ヒデェ勝ち方」、「カッコ悪かった!」なんて、言われたい放題だった。笑いながら言われるそれらをこちらも笑って受け流しながら、シンソー君の隣を目指した。
「おかえり、吐移」
「ただいま」
「あれ、ジャージ……」
「うん、もらった。エロ同人みたいになってたからねー」
「自分で言うのか」
ニヤニヤ笑いながら言いやがって! 揶揄かってんの、バレバレだよ! ったく!
自分で言って笑い話にしないと、やってけないの!
シンソー君が教えてくれたプロヒーローの講評は、「自己回復出来る強個性」「普通科だし、戦闘センスはこれから磨けばいい」「本人も“個性”も、これからが楽しみだ」等だったらしい。へへへ、やっべぇ。プロから俺、認められたの? めちゃめちゃ嬉しいじゃん!! どうかあの姿は忘れてください。
「お、次の試合始まるね!」
第六試合は常闇 踏影 VS 八百万 百。
八百万さんも体からなんでも創り出せて強すぎるし、常闇くんの動く、なにあれ、もうひとりの常闇くん? が攻撃のチャンスをくれない。結局常闇くんが攻守万能な“個性”で場外にして勝った。そんな彼が次の対戦相手です。勝てる気がしません。
第七試合は鉄哲 徹鐵 VS 切島 鋭児郎。
“個性”だだ被りの二人はひたすら殴り合い。タフさも硬さも体力も同じだったのか、最終的には両者ダウン。ただの殴り合いなら俺でも出来そうだ。勝てるとは言ってません。
「さあ、来るぞ……なかなかアブない組み合わせが……!」
第八試合、麗日 お茶子 VS 爆豪 勝己。
『一回戦最後の試合……いくぞォ……レディィィィ』
「ついに始まるね」
「ああ」
バクゴー君は一位になると宣言した。だから、手加減なんてしないぞ。
『START!!』
合図と同時にバクゴー君に向かって動き出した麗日さん。
「彼女は浮かす“個性”だったな。短期決戦で勝ちに行くつもりだ」
「バクゴー君はきっとスロースターター。エンジンが温まれば最強に近いけれど、それまでに叩くことが出来れば……」
それをさせてくれるバクゴー君ではないけれど。仮に触れられたとして、空中移動が出来るほどバランス感覚や戦闘センスのいいバクゴー君。弱点になるのか? ……いや、場外に出る可能性があるのか。無重力は感覚が狂うだろうし。なら触れられない方がよっぽどいい。そう考えていたら、なんか麗日さんがトリッキーなことしてた! 上着を浮かせて影分身!?
『上着を浮かせて這わせたのかぁ。よー咄嗟に出来たな! NINJA!』
「あぶない!」
君はここで負けていい人じゃないぞ! バクゴー君!!
爆煙の視界の悪さを利用して囮を置いた麗日さんはバクゴー君の右側から現れ、浮かそうと手を伸ばした。だがバクゴー君は反応し、ステージの地面を削りながら、彼女を爆破で吹き飛ばした。
「……見てから動けるほどの反応速度」
「麗日さんの“個性”は触れなきゃダメなんでしょ? あの反射神経には、かなり分が悪いよ……」
俺と彼女の違いは、“個性”の使用の有無だ。近づけなければ相手に一撃を加えることが出来ない。それなのに、あんなトリッキーなことをしてもダメだなんて……彼には初見殺しすら効かないのか? 俺はバクゴー君に勝てるのか?
手加減する気も負ける気もないバクゴー君。自分で起こした煙幕を払って、彼は麗日さんを鋭い目つきで捉えている。
『麗日、間髪入れず再突進!!』
「でも、それじゃあな……」
麗日さんの低姿勢での突進に、バクゴー君はやっぱりステージを削りながら爆破し、撃退する。……どうして、破片が自分に当たるような方法を採るんだ。その破片をむしろ、攪乱の為に使うことだって……。
何度も何度も麗日さんは煙幕の中から突撃し、バクゴー君は容赦なくそれを爆破する。回を増すごとにその大きさも増していく。麗日さんが分からなかった。何が狙いなのか。俺でも思いつくことをしないことが。
バクゴー君との対戦を意識したシュミレーションでヒートアップしてきた思考。一旦落ち着こうと息をつく。そして、会場全体を見て、気がついた。
「まだまだぁ!!」
『休むことなく突撃を続けるが……これは……』
実況も観客もドン引きしてる。皆が麗日さんに注目しているからだ。すごい。すごいよ麗日さん! これが作戦なら、俺の思いつきなんて、する方が愚策だ。
「麗日さん……かっこいい!」
熱い、熱いよ!!
「おい!! それでもヒーロー志望かよ! それだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!」
ああ゛っ!? 誰が言ってんだァ!? バカかよ!!
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」
「そーだそーだ!」
せっかく俺の中で盛り上がってたのに、ヒーロー達が多く座ってる方の観客席から上がった声で、一気に醒めた。コイツら本当に大人? 一歩引いて見てみろよ。
『一部から……ブーイングが! しかし正直俺もそう思……わあ肘っ』
『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ?』
……マイク先生のこと、ちょっと失望したかもしれん。今はヒーローじゃなくDJとしてそこにいるのかもしれないけど、それでもだ。逆にあの身だしなみのなってない先生、イレイザーヘッド。A組の担任はやっぱりプロヒーローだ。俺の中で好感度だだ上がりだ。
『シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』
イレイザーヘッドも言っている。本気と本気のぶつかり合いだから、面白い心理戦なんだよ。これが分からないなんて、もったいない人たちだ。
「お前なら、爆豪と戦えるか?」
「やってみないと分かんない! 耐えられる爆破なのか分からないし。まあ、肉弾戦でも勝てないから、今は無理!」
「そ」
「麗日さんのような手、俺は使えないからな!」
「……?」
ステージ上の麗日さんはバクゴー君に何か話してから、両手のひらを合わせた。ひらというか、指と指をか? それが、あなたの“個性”解除の方法か!?
「バクゴー君の近さを利用した作戦だよ。低姿勢の突進でバクゴー君の打点を下に集中させ続けて、武器を蓄えてた。そして絶え間ない突進と爆煙で視野を狭めて……悟らせなかった!」
「勝あアアァつ!!」
『流星群ーー!!!』
バクゴー君に降り注ぐは、無数の瓦礫。避けることは不可能。何か対策しようものなら、麗日さんの浮かせる“個性”が襲いかかる!!
「油断を誘えた俺と違って、警戒されているからこそ出来た作戦!! なんてかっこいいんだ麗日さん!!!」
優勝候補からの大金星だ!!!
BOOM!!!
今日一番の爆発が、会場の中央で起こった。
息が、できなかった。
『会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々――正面突破!!』
バクゴー君は麗日さんの降らせた星を、希望を、全て爆破させてみせた。
「あんなの……あんなの俺だって木っ端微塵だ!」
勝ち取る為の体も、勝つ為の作戦も、勝利を誓った心も、全部!!!
そして、あれでもう限界だったんだろう。麗日さんは戦う意志を見せながら、それに体が応えてくれなくて、膝から崩れ落ちた。駆け寄ったミッドナイト先生が告げる。
「麗日さん、行動不能、二回戦進出、爆豪くんー!」
「ひ、ひえ~~~~……」
「女子に容赦ないのは良いとして……まだまだ余裕そうなのが恐ろしいな」
「流石、選手宣誓で大口叩いただけのことはあるね」
あの爆破への対応はどうしたらいいんだろう。常闇くんを倒すことが出来たなら、その次はもしかしたらバクゴー君だから。……爆破をさせたくないなら、そのもとを潰せばいいんじゃ? 手を、壊せばいい。ぐちゃぐちゃにすれば……。
「!!」
記憶から引き起こされた、自分の両手の骨がグチャグチャになった幻覚を見て、正気になった。バカ野郎。黒いキューブが使えるのは、ロボに対して。それも、バレないように視界の悪い場所でじゃないと……。ロボに使ったのがバレてたとしても、人に使わなければ、警戒レベルは上がらないはず。それに、人に使うのは、まだ犯罪だ。それを忘れるなよ、俺。
自分を落ち着けている間に、少し前に保留になっていた“個性”ダダ被り組の決着がついた。腕相撲を制したのはA組、切島くんだ。おめでとう!
「次は轟くんと緑谷くんか。どっち応援する?」
「さあ?」
「さあって」
もっと興味持ちなよ。君だって緑谷くんに何か託したんじゃないの?