傷吐き   作:めもちょう

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十八話

『そろそろ始めようかぁ!』

「来るぞ、トップ同士の戦い!」

 

 二回戦第一試合は、轟 VS 緑谷。轟くんはNo.2ヒーロー エンデヴァーの息子として、そして彼自身も強いってことで有名だ。“個性”は『半冷半燃』、凍らすことも燃やすこともできる化け物“個性”だ。対して緑谷くんは、恐らく単純な増強型の個性。あまり使い慣れていないってのと、無茶するタイプっていう印象だな。

 

『今回の体育祭、両者トップレベルの成績!! まさしく両雄並び立ち今!! 緑谷 対 轟!!』

 

 両者、気迫が違う。

 

『START!!』

 

 開始瞬間に、氷結と衝撃波が観客席を襲ってきた。巻き起こった風は氷結の冷たさを受けて、とても寒かった。一回戦で轟くんは瀬呂くんを一瞬で氷漬けにして勝利したことを考えれば、衝撃波でそれを防いだ緑谷くんがすごいのか。あれが、あの超パワーが、緑谷くんの“個性”。

 もう一度同じ衝撃に襲われる。気づいたことは二つ。一つは、緑谷くんの指が変色していること。あれは折れてる。砕けて内出血でひどい有様だ。あのパワーの代償か。

 もう一つ気付いたのは、どっちにも勝てる気がしないってことだ。轟くんには氷漬けにされて、緑谷くんには吹っ飛ばされて。……ああ、怖い。

 

「近寄れないのは、もう、どうしたら……」

「常闇って奴も、なかなか近寄れないぞ」

「彼の間合いは中距離。その中に入ればなんとかなるけど、そうさせてくれるか……。影を消すには光を! だけど太陽光しかない!!」

「……あれ、影なんだ」

「ダークシャドウって言ってたし。でも俺ライトなんて持ってない! 暴力しかない……!」

 

 だって、だって! 黒いキューブは使っちゃダメなんだよ! さっきの戦いで体の中の黒いキューブの余白は結構埋まってしまった。あんまり強すぎるものは家においてけなかったのが痛い。ああ、こんなんで勝てるのかよ!!

 

「……もう、終わりか」

 

 シンソー君の独り言で、意識を試合に戻せた。

 

「みっともない負け方すんなって、言っただろ……」

 

 緑谷くんの左腕が、変色していた。

 

『圧倒的に攻め続けた轟!! トドメの氷結を――』

 

 でもその氷結は、壊れた指で起こされた爆風と衝撃波で壊された。

 壊されたあと、戦局が動かなくなってしまった。煙の中のステージをよく覗き込んでみれば、両者の口が動いている。

 

「何か、喋ってるね」

「……轟のやつ、震えてないか?」

「寒いんじゃない? いくら“個性”だからって、緑谷くんの指が壊れてるみたいに、轟くんにだって体に限界あるでしょ」

「……」

 

 息を呑む観客たち。静まる会場のせいか、緑谷くんの張り上げている声が聞こえる。

 

「皆、本気でやってる。勝って……目標に近付く為に……っ一番になる為に! ()()の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つ傷つけられちゃいないぞ! 全力でかかって来い!!」

 

 やめて。やめて。俺は人殺しになりたくない。黒いキューブは人を殺せる。だから、そんな熱い言葉で、心を揺さぶって、使わせようとしないで。

 

「かっこいいな」

 

 シンソー君は素直に感心していた。それが普通の反応か。狼狽えたのを誤魔化さないと。

 

「……ヒーローだね」

「?」

 

 轟くんに一発入れていた緑谷くん。衝撃波で氷を吹き飛ばしていた。

 

「期待に応えたいんだ! 笑って応えられるような……かっこいい人(ヒーロー)に……なりたいんだ!!」

 

 体が冷えて動きが鈍い轟くん。また緑谷くんの攻撃を、頭突きを腹に喰らった。

 

「だから全力で! やってんだ皆!」

 

 轟くんが炎を使わないことが、緑谷くんに無茶をさせているのか。

 

「相手が何かの理由で弱体化してくれてるのに、それを乗り越えさせようと言葉をかけている。只敵を捕まえる職業ヒーローなんて、目じゃない」

 

 轟くんにも何かあるんだろう。公開してるのにも関わらず、使いたくない、自分の“個性”を否定する理由が。

 

「だから……僕が勝つ!!」

 

「煽って、煽って……。相手の力を引き出そうとする」

 

 なーんで、緑谷くんは自分が負けるかも知れないのに、そんなことが出来るのかな。

 

「君を超えてっ!!」

 

「只勝つことを目標にしてちゃ、そんなこと、出来やしない」

 

「君の! 力じゃないか!!」

 

 余計なお世話だ!!!

 

 轟くんから、炎が立ち上がった。

 

『これは――……!?』

「ヒーローにしか、出来やしない」

 

 俺と違って、彼に必要だったのは、自分の“個性”を受け入れるきっかけを与える言葉だったのか。

 本当に違うな。俺には緑谷くんの言葉は、本当に、うるさい。

 

「焦凍ォォオオ!!!」

 

 No.2ヒーロー、エンデヴァーが突然、彼の名を呼んだ。なんだか嬉しそうだな。

 

「やっと己を受け入れたか!! そうだ!! いいぞ!! ここからがお前の始まり!! 俺の血を持って俺を超えて行き……俺の野望をお前が果たせ!!」

「……」

 

 轟くんは返事しない。なるほど、父親が嫌いなんだな。受け継いだ“個性”の使用を拒絶するほどに。観客がエンデヴァーの気迫に押されてなのか、轟くんが返事をしないからか、会場が静まり返っている。

 

『エンデヴァーさん、急に“激励”……か? 親バカなのね』

 

 言ってることヤバかったし、教育課程でやりやがったな。つまりクソ親ってことか。その親から受け継がれた炎の力を拒絶してんだ。

 つまり、それを引き出した緑谷くんの言葉が、それだけ轟くんの心を震わせたのか。

 

「霜は溶けた! 早いぞ!」

 

 事情はそれぞれ。体も心も氷が溶け、燃え上がる轟。次で勝負が着くかも知れない!

 轟くんが放った氷結をジャンプで正面から突っ込む緑谷くん。壊れたはずの右腕が光を放つ。緑谷くんが力を放つと同時に、轟くんも左の炎で迎撃する。バクゴー君以上の爆風、爆音、閃光が観客席を襲った。すっげぇ……!

 

『何今の……お前のクラス何なの……』

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され、膨張したんだ』

『それでこの爆風て、どんだけ高熱だよ! ったく、なんも見えねー。オイこれ試合はどうなって……』

 

 煙が晴れて見えたのは、緑谷くん。

 会場の壁に体を打ち付け、崩れ落ちた緑谷くんの姿だ。

 

「緑谷くん……場外」

 

 歓声が上がる。

 

「轟くん――……三回戦進出!!」

 

 

 

 さて、さらに場堅めをしなくちゃな。監視の目を少しでも欺きつつ、俺のキャラの方向性を決める大切なことだ。俺自身が思い込まないと、この先騙せていけない。

 

「すごかったね、この試合」

「……ああ」

「俺、緑谷くんのファンになりそ! あんなに焚きつけて……すごいよなぁ。あんなの、その人の“心”を救いたいと思わなきゃ、出来ないことだ。ふたりはクラスメイトだし、何かしらあって、事情を知ってたんだろうねー」

「そうなんだろうな」

 

 これでこそ、俺のキャラだ。この軽い感じで行かないとな。

 とっくの昔に、口と心が違う主張することには慣れてるんだから。大丈夫。

 俺は軽いノリの子! おバカな子! 腹黒いのが見え透いてる子!

 

 さっきの戦いでステージは大崩壊。しばらく補修タイムに入るらしい。俺の試合は一つ挟んだ次、第三試合だ。

 

「俺みたいに瞬時に自己回復できれば、もっといいのに」

「……なんか、ゲームの中ボスみたいだな」

「なにそれ、俺が噛ませ犬って言いたいのそれ!」

「そう」

「ひどい!」

 

 よしよし、俺の重さはシンソー君に伝わってないな。

 

「吐移。リラックスもいいが、そろそろ集中してこい。勝ち目が限りなく0に近くても、一発くらい入れてこい」

「なんで負けること前提かなぁー? 勝ちを狙うのが男の子だぜ!」

「ならさっさと控え室行けよ」

「じゃあそうするか」

 

 相手は常闇くん。もうひとりの自分みたいな影の“個性”。影なら、光があれば弱くなりそうだけど……。いや、濃くなって、強くなる? 分からない。

 

「吐移」

「何?」

「全力でやって来い」

 

 やめてシンソー君。焚き付けないで! 俺を人殺しにしないでってば!!

 

「うん!」

 

 今、俺、自然に笑えただろうか。まだ不完全だとはいえ、ね。

 生徒席を抜けていく途中、「頑張ってね!」とか、「一発入れるんだそ!」とか、激励が送られる。嬉しいのに、心が痛い。心臓が周りを強く叩いているのを、心が痛いと勘違いしてんのか? ああ、笑えよ、俺。なんでステージ外で戦ってんの、俺。

 

 

 

 戦いはステージ上でも続いた。いや、普通ならここから始まるはずなんだけど。

 

「お前……全力では無いな?」

「……なに?」

 

 はぁ? 何知ったふうな口きいてくんの? 強いからって調子乗んなよ。

 目の前に立つのは俺の対戦相手、常闇 踏影くん。彼の“個性”は全方位中距離防御、攻撃が出来る影。一回戦での勝ち方は、対戦相手のA組、八百万 百さんに反撃の隙を与えず、場外へ押し出し。つまり、あの影には実体がある。ならあの影と本体の体力が、いや、いらん期待はしないでおこう。

 

『START!』

 

 始まりのコールが聞こえたと思ったら、常闇くんはいきなり影を俺に向けてきた。肉体同士でぶつかりあおうぜぇ!?

 そんな気持ち虚しく、俺は影をいなすことしか出来ない。本体は高みの見物ってか!?

 

「予選。お前は第一関門を二位で通過したな。爆豪に続いてロボの上を飛んで超えたが、その時、上空から足を崩されていたロボを何体か見かけた。あれは、お前がやったんだろう?」

「……知りませんけど?」

「とぼけるか」

「知らないもんは知らないし、悲しいことに、これが俺の全力だっての!」

 

 暴いた気になって余裕ぶっこきやがって! そのツラに拳を食らわせてやる!

 

「!」

 

 躱した影がまた俺に襲いかかってくるのを、またいなす。

 

「躱すか」

 

 ったりめーだ! 皆と約束してんだよ! 絶対に一発食らわせるってな!

 今度こそ常闇くんに飛びかかる。

 

「くっ!」

「ライトが欲しいよ、まったく!」

「何っ!?」

 

 怯んだな!? 顎にアッパーをくらえ! で、膝も腹にくらえ!!

 

「ぐうっ!」

「影なら光をぶち込めばいいのに! 持ってない!!」

 

 対応策を思いついてるのに実行出来ない、俺の悔しさをくらえ!!

 もう一撃入れようとした拳は、しかしよけられ、ついでと言わんばかりに黒影に足元を掬われた。

 

「のぉっ!?」

「俺の弱点に気づいたようだが、残念だったな」

 

 あっ! 足掴まれた! これじゃ一回戦で俺が芦戸さんにしたのと同じじゃないか!

 

「いぃぃぃやぁああっ!」

「全力を出さない者が立てるほど、この大会は甘くない」

 

 そうだろうね!!

 

「吐移くん、場外! 常闇くん、三回戦進出!!」

 

 放り出された先からステージに戻った俺は、常闇くんと握手した。思わず溜め息が漏れる。

 

「全力を出すって、君言ったけどさ。君はそれが別に、全力だった訳じゃないでしょ」

「何を言っている? 単なる卑下は受け付けない」

「そうじゃないよ。確かに俺が弱すぎたかもしんないけど、そうじゃなくって……。君の“個性”、黒影(ダークシャドウ)って呼んでたから、きっと影でしょう? なら、影が大きければ大きいほど、力も増すんじゃない? だから日が高い今は、ベストじゃないんじゃないか……って」

「よく見ているな」

 

 常闇くんは間を置くと、「勘違いしているのか」と、俺を呆れた目で見てきた。

 

「勘違い?」

「全力というのは、ベストコンディションで出す力のことを言うんじゃない。今、出せる力を全て繰り出すことを言うんだ。……お前は出していないだろう?」

 

 腹に六発、穴、開けたいか。

 さっきから何なんだよ、その上から目線。割と気に入らない。

 

「あれが全力だって言っただろ。仮にあったとして、俺はそれを見つけていないだけ。……三回戦、進出おめでとう。これからは応援を全力でするよ。頑張ってね」

 

 全力で笑顔を作って、心にもないことを言う。さっさと手を離して、俺たちは退場した。

 

 選手が入退場する為の通路。足が完全に影に入ってから、明るい外に振り返って、対面の通路の影に消えていく常闇くんの後ろ姿を、睨みつける。

 

「……負けちゃえ」

 

 お前の言葉は、熱くなかった。

 

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