恩返しするんだ。見返してやるんだ。
長年積み重ねてきたこの気持ちと鬱憤を晴らすかのように打ち込み、磨き上げてきたこの頭と身体。全てはヒーロー科っていう、世間一般的にはスタートと捉えられる場所に立つ為に。
俺の自己回復するだけの“個性”は職業ヒーローとして活躍するには確かに力不足だ。“無個性”って言っても過言じゃないくらいには。それでも俺は目指すことを諦めない。だって今ここで折れたら、俺は何になればいい? 何者になればいい? 復讐を果たす為に。
だから、蓄えたこの力を今この瞬間。ここの教師に見せつけてやるんだ。
肌に突き刺さるような冷たい風を受けながら、威厳とブランドを両立した巨大な校舎を見上げる。拳を握って「絶対にここの生徒になってやるんだ」と新たに誓った。
雄英高校入試。筆記の時点でアウトだった。俺はヒーローに歓迎されていない。
試験内容のことじゃない。試験問題は普通に解けてる。アウトってのは、不正が無いか見ている先生の俺を見る目が他と違っていたこと。
……だからなんだってんだ。別に俺自身は悪いことしてねぇ。試験の3ヶ月前に加害者の一部を少年院にぶち込んだだけ。それも理由は俺がナイフで刺されたから。それだけだ。俺は、堂々としてていいはずなんだ。
被害者が後ろ指さされる社会なんて、クソくらえだ。
そして始まった実技試験。の説明をするのは、ラジオDJも務めるヒーロー、プレゼント・マイクだ。
配られた資料に拠れば、俺はA会場で、10分間の「模擬市街地演習」を受ける。“仮想ヴィラン”三種を多数配置しているから、
真面目そうな眼鏡男子が仮想ヴィランは四種では、とか、縮れ毛の男子にボソボソ喋るなと注意したりしてた。確かに黙れよとは思ってたけど。
説明するプレゼント・マイクの話では、他三種類と比べて心なしかデカいシルエットの四種類目は、絶対に倒せないギミックらしい。それを倒すからヒーローなんだろう、とは思わないことはないが、俺の“個性”で倒せるとは思えない。だって『黒キューブ』は生涯封印だし。あれを使っちゃ誰かが怪我した時、俺が妨害したんじゃないかって疑われる。ここでもヴィラン扱いなんてごめんだね。
説明役のヒーロー、プレゼント・マイク先生が腕を広げ、俺らに激励の言葉を投げてくれた。
『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校の“校訓”をプレゼントしよう!
かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!
“Plus Ultra”!! それでは皆、良い受難を!!』
痺れるな!
やってやろうじゃねーか。超えてやろうじゃねーか!!
会場に着いた。持ち込み自由だから、俺はナックルダスターと肘当て、膝当てを着けている。しっかり鉄製のナックルダスター以外の二つは軽い金属製。ミリタリーショップは何でも売っている。どれも俺にとっては攻撃補助。ヒットアンドアウェイしていくつもりだ。
『ハイ、スタートー!』
あっ始まった!!
一瞬反応が遅れたが、この会場の人間の中ではいち早く飛び出した俺。俺の先を行くのは手のひらから爆破を繰り出して低空バースト飛行をする男子。奴は奥から倒していくつもりらしい。手前の仮想ヴィランには目もくれない。俺もそうしよう。手前のヴィランは手前の受験者に任せよう。道はまだヴィランで溢れていない。今なら行ける。
目の前に飛び出してきた1Pヴィランの首に走った勢いそのまま、飛び膝蹴りを入れる。脆いロボの脆そうなところを攻めれば、簡単に壊れた。
「まず1点!」
弱気になるなよ。俺は、出来るんだ。
殴られつつ殴って、現在13ポイント。3Pヴィランは一度戦って、もう勘弁だと思った。ミサイル出すとか敵うかよ! 一応ポイントとったけど、疲れた。倒すのに時間を食えば他に取られちまうし。
「死ねぇっ!!」
物騒な声と共に爆破の音が響く。これは、俺より先に行ったあいつのものか。3Pヴィランも楽々倒しやがって……。さっきも二体目の3Pヴィラン、こいつに取られたし。これもあって3Pは諦めた。すれ違いざまに「ポイントありがとよ、モブ野郎!」とか貶していって、あいつは別のヴィランを倒しに行った。助かったけど、関わらんとこ。
俺は俺が出来ることを。出来ることの、一歩先を!
「ぎゃあっ!! ぐうっ……!」
「!」
受験者の一人が倒れた。2Pヴィランの首を殴りつけて行動不能にしてから、倒れたそいつに駆け寄る。男子は「何でもない!」とか言っているが右足のすねを抱えて立ち上がれていない。顔色は青い。脂汗、歪んだ表情。骨が折れたか、ヒビが入ったかもしれない。
「ここにいると他の受験者の邪魔だ。逃げよう、掴まって」
「ひ、一人で……」
「引き際を間違えられるのは迷惑だ。他の受験者の邪魔はアンチヒーロー行為。そうなりたくないなら、俺におぶられて」
「……分かった」
綺麗事なんて1ミリも無いことを言って避難を促せば、すんなり、ただし悔しそうに俺に従ってくれた。こいつが重くなくてよかった。俺でも運べる。
おぶったままヴィランの残骸でいっぱいの場所へ向かう。活動してるヴィランは戦闘の中心地に集まっていて、ここは逆に安全のはずだ。
「ここからは一人でいい。お前もポイント取ってこい」
「バカだな。お前を運ぶこともポイントだよ」
「は?」
「俺たちが試されているのはヒーローとしての素質だぜ? 倒すのもそりゃポイントだけど、何で人助けしてんのにヒーローじゃないって言われなきゃなんねーんだよ。そこが真骨頂だろうが。……ごめん、途中で足痛くなかったか?」
「だ、大丈夫……。そうか……ヒーローとしての素質……」
悪いけど、こいつは落ちるだろうな。もう戦えないから。
「! 右から来るぞ!」
「何!?」
右側はずっと建物で、ヴィランの姿は見えない。それでも見えるってことは、コイツの“個性”か!?
「下ろせ! お前のポイントだ!」
「そりゃ、ありがとう!」
しゃがんでそいつを下ろした途端、ヴィランが上から、建物の窓を突き破って現れた! Pは、1か! 破壊された建物から出てきた鉄筋を構えて、対峙する。首をひねって終わりだ!
「14P!」
俺が取ったポイントの合計値を叫んだその時。俺たちが向かっていた方向と逆から、地響きと轟音と共に巨大なロボが現れた。
「な、何だあれ!」
「あれが四種類目か!?」
あれが、絶対に倒せないって言ってた、ギミックヴィラン……!
「……遠すぎる! あいつは諦めて、俺たちは安全地帯に行こう!」
「遠いってお前、倒す気だったのかよ!」
「現実であんなの放っておいたら建物は勿論人にも被害が行くのは明らかだろ。立ち向かう姿勢くらい、ヒーローなんだし見せときたかったね! まぁ、状況判断的に、逃げるのも手だとは思うよ」
「……悪い、俺のせいで」
「……いや、無茶して倒れて見られたら、それこそ人の希望を奪うよ。無茶せず済んだから、こっちこそありがとう」
「こちらこそ」
時間いっぱいまで、俺たちは協力してヴィランを狩った。言うて稼げたのは2P。時間は無かったんだ、あの時点で。……16ポイントか。あいつを助けたこと、本当にポイントにならないかなぁ。
数日後、施設に雄英から紙の通知が届いた。内容はヒーロー科不合格通知であり、普通科合格通知。ああ、なんとか、雄英に入れた……。
通知にはヒーローからのフランクな言葉が添えられていた。俺のを書いてくれたのは、プレゼント・マイク先生みたいだ。
曰く、もう少しだった。曰く、
俺を支えてくれた人達に恩返しするんだ。
俺を散々蔑んだあいつらを見返してやるんだ。
復讐してやるんだ。